第十八話
「さておっさん……そんな恰好で俺に何の用だ?」
俺がナイフを突きつけた人物……それは神具を纏ったおっさんだった。
「だんまりか……おっさん、そんな恰好で後を付けていたんだから、覚悟はしているんだよな?」
黙ったままのおっさんに対し、俺はシャドウ・ストリングの締めつける力を少しずつ強くしていったが、
「ぬんっ!」
おっさんは腕を振るって無理やり糸を引き千切り、俺に向かって手を伸ばしてきた。だが、
「甘い!」
俺はおっさんの脚に絡んでいたシャドウ・ストリングを引っ張って逆さ吊りにし、さらに先程よりも丈夫な糸でもう一度縛り上げた。
「甘いとか言ってみたけど、普通の人間にはあの糸を引き千切るのは無理なんだけどな……まあ、今度のはさっきの糸の数倍の強度があるから、流石のおっさんでも無理だと思うぞ」
先程の糸は、素の状態でも二十kg程度の重さのものなら持ち上げることが出来るもので、シャドウ・ストリングで使えば強度は倍くらいまで上がるのだ。下手に無理やり引き千切ろうとしたら、糸が自分の体に食い込み刃物で切られたような傷が出来るし、糸が絡んだ場所によっては切断されてもおかしくはない。
そんな糸を簡単に引き千切ったおっさんはすごいが、今度の糸は数本のアラクネの糸を編んで作ったもので、太くなったせいで切断力は落ちるもののその分強度は上がっており、例えおっさんでも先程のように簡単に引き千切ることが出来るとは思えない。出来るとすれば……俺の知る限りだと馬鹿力代表のガウェインか、ガウェインに匹敵するかそれ以上の力を持っていそうなクレアくらいだろう。
「降参だ、ジーク。俺が悪かったから、糸を解いてくれないか?」
「なら先にその神具を解いたらどうだ? 今のおっさんはカロンと同じように、俺に対して偉そうに出来る立場じゃないだろ?」
「解いた瞬間に首ちょんぱ! ……とかしないよな?」
「おっさんこそ、俺が糸を解いた瞬間に襲い掛かってくるとか考えているのか?」
俺が逆に問うと、おっさんは黙って神具を解いた。そしてその瞬間、
「うえおうっ!」
糸が中途半端に緩んでしまい、おっさんの頭が地面すれすれのところまで一気に下がってしまった。
「何変な声出してんだ、おっさん……」
「ぬおっ!」
おっさんの体が完全に止まったところで絡めていた糸を解くと、おっさんはどさっという音を立てて地面に落ちた。
「あ~……驚いた。気が付かれていないと思っていたのに、ジークが木の陰に一瞬隠れたと思ったら、後ろから声がして身動きできなくなるんだからな……流石、今代の黒なだけあるな」
「やっぱりおっさんの神具には、感覚を強化する効果もあったのか」
思った通り、俺がカロンと戦っていた時におっさんが神具を纏っていたのは、俺とカロンの会話を盗み聞きする為だったようだ。もちろん、周囲への警戒という意味もあっただろうが、それだけの為にわざわざ親衛隊長の前で自分の切り札を出す必要はなかったはずだ。
つまりあの時のおっさんは、親衛隊長よりも俺を警戒していたということにもなる。
(何のつもりか知らないけれど、ここでおっさんを始末した方がいいかもしれないな……幸い、依頼中に冒険者が命を落とすことは珍しいことではないし)
「ジーク、大体お前が何を考えているのか分かっているぞ。だから聞くけど……そう簡単に俺を倒せると思うか?」
と、俺の考えを読んだおっさんが臨戦態勢を取ろうとするが、
「殺せるぞ。カロンとの会話を盗み聞きしていたなら聞いたと思うが、黒の魔法は暗闇で真価を発揮する魔法も多い。実際に、おっさんは俺を見失っただろ? 次に同じ状況になったら、質問の前にナイフが突き刺さることになるだろうな」
それに俺は、もしここでおっさんを殺せなかったとしても逃げだすことは簡単にできるし、俺が得意な魔法には暗殺向きのものも多い。つまりおっさんは、俺をここで殺すことが出来なければ、常に俺に狙われる心配をしなければならないのだ。それこそ、カロンの言葉ではないが、飯を食っていようが仲間といようが、女と寝ていようが……だ。
言葉には出さなかったが、もし戦う気なら、俺はおっさんを殺すまで狙い続けてやるという思いを込めてナイフを握り直すと……
「すまん! 調子に乗った! この状況でジークに敵うとは思ってないし、そもそも敵対するつもりは無かった! ただ、少し魔が差しただけだ!」
などと言って、地面に頭をめり込ませる勢いで土下座した。
前々から思っていたが、土下座が謝罪の意味を持つ行為だと広げたのは、絶対に異界人の仕業だろう。それも、恐らくは日本人の。
「世の中、ちょっと魔が差しただけのつもりが、本人が思いもよらない結果になることはよくある話だよな?」
「いや、本当にすまん! 最初はジークが今代の黒であると言うのを確かめようと……」
「思って俺を襲おうとした……と?」
「ちがっ! ……いや、結果的にそうなってしまったのは確かだが……最初はジークに話を聞こうと思っただけだったんだ! ただ、後を付けているうちに、こう……俺の力が今代の黒に通用するのか気になって……な? 分かるだろ、男なら……な?」
分かるか! ……と言いたいところだが、悔しいけれどおっさんの言いたいことも少し分かる。まあ、口には出さないけれど。
「それで試した結果、どういった結論になったんだ?」
「そうだな……まず、こういった状況では、俺の勝ち目は限りなくゼロに近い。やるなら昼間、それも罠を張ってジークを誘い込む形でないと、かなり難しい」
夜で障害物が多いところでは、おっさんの神具がいかに優れていようとも、俺の有利な状況は覆らないだろう。しかし、俺にとって完全に有利な状況でなければ、やり方次第では勝つことも可能だとおっさんは考えたようだ。確かに、黒のL10といっても完全無欠というわけではなく、心臓に刃物を突き立てられれば簡単に死ぬし、血管を切られれば失血死することもある。もちろんそれ以外にも、転んだだけでも頭の打ちどころが悪ければ死ぬし、毒でも病気でも死ぬ。まあ、毒や病気に関しては俺は抵抗力が強い方ではあるけれど、絶対に効かないというわけではない。
「おっさんの強みを活かせば、やり方次第でどうにでも出来る……と」
「いや、そこまでは言わないが……まあ、どうにか出来るかもしれないとは考えたけどな」
明言こそ避けたものの、おっさんは俺を絶対に敵わない相手ではないと認識していると見て間違いないようだ。まあ、俺も同じ考えだけど。
大分いつもの調子に戻って来たおっさんを見て、俺も警戒度を少し下げることにした。まあ、ここで争っても互いにいいこと一つないのは確かで、むしろおっさんの方がリスクがデカい以上、今の状況なら俺から手を出さなければおっさんと戦うことは無いはずだ。ただ、
「それでおっさん……見逃す代わりに、ある程度の条件は飲んでもらうぞ」
「うぇ……まあ、俺から仕掛けたようなもんだから仕方がないが……あまり無茶は言わないでくれよ」
おっさんも薄々、俺が誘い込んだことに気が付いているようだが、誘いに乗って負けたのはおっさんなので仕方がないと思っているようだ。
「簡単なことだ。俺の正体を言いふらさないことと、俺を利用しないこととさせないこと……これだけだ」
「まあ、確かにそれなら簡単だが……ジークの正体に関しては、ジュノーだけには話しても構わないか? 一応、ジークの正体を探るように言われているし、分からなかったと報告すれば、もっと強引に探ろうとするかもしれないからな……例えば、どこからきてどんな過去を持っているのか、とかな」
確かにギルド長からすれば、俺の正体や過去は最も知りたい情報の一つだろう。それが分かれば何かしらの対策が取れるかもしれないし、俺と交渉することも出来るかもしれない。それなら逆に、ギルド長には俺が今代の黒だと教えた上で、手を出すのは色々と危険だと思わせた方が俺にとっても得になるだろう。
「分かった。ただ、あくまでもギルド長にのみだ」
「了解。それと、利用しないさせないと言うのは、一冒険者のジークも含まれるのか?」
「二つ星の冒険者として範囲内でなら協力してもいいが、今代の黒として利用するつもりなら、俺は敵に回ると思ってくれればいい」
「それも分かった。このことはジュノーにもしっかりと言い聞かせよう。それを理解し条件を飲んだ上で守らないとジュノーが決めた時は……まずは俺が対処しよう」
おっさんがそこまで言うのならと、今回の件でギルド長に意趣返しすることは止めると言うと、
「……何をするつもりだったんだ?」
と聞いてきたので、ダンジョン核の半分を他の街のギルドで売るつもりだったと言うと、
「それは絶対に止めてくれ! 今度は聖国ではなく、この国を相手にしないといけなくなる!」
と真剣な顔で言われた。
まあ、ダンジョン核を半分でも他の街のギルドで売れば、何故半分なんだと絶対に効かれるだろうし、聞かれれば売り手としては訳を話す必要があるだろう。そうすればこの国はスタッツのギルドに調査員を派遣するなずなので、ギルド長は色々と苦労することになるだろう。
「だから、そう言う意味でもギルド長の手綱はしっかりと握っておいてくれよ」
俺個人としては、スタッツの街に国が介入してきたとしても関係はないし、何かあればよその国に移ればいい。ばあさんにしても、ああいった商売は法さえ守っていれば特に問題は無いだろう。もっとも、ある程度利益は減るだろうし、利権も持っていかれると思うので、ばあさんとモニカさんに相談してということにはなるとは思うが……あの二人なら、ギルド長を排除する為に賛成することも考えられるのだ。
「くそ……今からでも、ダンジョン核の半分を返した方がいいのか?」
おっさんはそんなことを呟いていたが、
「その場合、返されたダンジョン核の半分は聖国に渡るかもな」
一応、クレアもあのゴーレムと戦っているので、分け前を貰う権利がある……はずだ。なので、俺がクレアにダンジョン核を渡したとしてもおかしな話ではない。
そう説明するとおっさんは頭を抱えてその場にしゃがみこんでしまった。そして、
「ジーク……お前、裏からスタッツの街を支配しようとか考えてないよな?」
「そんなことは考えてないぞ。まあ、火の粉が降りかかりそうになったら、出来る限り払おうとは思っているけどな」
と答えると、おっさんは「それは支配しているのと大して変わらん気がする……」などと呟いていたが、俺は聞こえないふりをした。そして、
「クレア、そこで何をしているんだ?」
陰に潜って、離れたところでこちらを窺っていたクレアの背後に回って捕まえた。
「うえっ! ジークさん、いつの間に!」
多分ここまで離れていたら、俺とおっさんの会話は聞かれていないと思うが、念の為確かめてみると、
「いえ、全然聞こえなかったから、もっと近づこうとしていたところです!」
などと悪びれもなく言っていたので、本当に聞こえていなかったのだろう。
まあ隠れていたとはいえ、クレアが俺の前方から近づいてきたから気が付けたのだけど……おっさんも気が付いていなかったみたいだし、もしかするとクレアは、聖女よりも諜報員や暗殺者の方が向いているのかもしれない。
「えっ? おっ? ジーク……って、なんで聖女もいるんだ!?」
おっさんは、少し目を離した隙に居なくなった俺に驚き、周囲を見回してから俺とクレアが一緒にいるのを見てさらに驚いていた。
「新しいストーカーを捕まえた。保護者に返してくる」
「なら、俺もそろそろ戻るか。チーにはちょっとお花摘みに……とか言って離れてきたから、あまり長いと怒られちまうしな」
などと言って、おっさんも戻ることにしたようだ。それは女性用の言葉ではなかったかと思ったが、確信が無かったの聞き流していたところ、
「あ~! それ、女性用の言葉ですよ! 教会で習いました! 確か男性は、雉を撃つとか自然が呼んでるとか言うんですよ! ……ところで、何で雉なんですかね?」
とおっさんはクレアに指摘されていた。まあ、自然が~は知らないが、雉に関しては日本からの言葉だろう。この世界では鉄砲が存在しないみたいなので、意味が分からないまま慣用句として残ったのかもしれない。
「なあ、ジーク……こいつって、実は性格が悪いのか?」
おっさんは、俺に首根っこを掴まれながらドヤ顔をしているクレアを指差してそんなことを言っているが……
「確かにクレアは性格の悪いところがあるが、基本的に天然だから本人からしたら悪気はないと思うぞ。少なくともおっさんやギルド長よりは、マシなんじゃないか?」
よく悪気がない方がたちが悪いなどと言うが、おっさんやギルド長、それにばあさんやモニカさんと比べれば、クレアはまだかわいい方だろう。
おっさんは俺の言葉を聞いて嫌そうな顔をしていたが、俺はそれを無視してドヤ顔を続けているクレアを保護者である親衛隊長のところに運ぶことにした。しかし、
「なあ、おっさん……こいつら馬鹿じゃないか?」
「まあ、馬鹿だな。少なくとも、野営の見張りが二人共寝るとか、俺ならぶん殴るな。まあ、うたたねしていても周囲のちょっとした変化にすぐ気が付けるならまだ何も言わないが、目の前まで他人が来ているのに気が付かないのは、自殺願望があるのと違わないな」
近くに俺たちが居るとはいえ、非協力的だった親衛隊の手伝いをしてやるほどの聖人は居ないし、何ならいざという時は囮に使うくらいは即座に判断するので、おっさんの言う通り、魔物のうろつく森の中で見張りまでがっつり寝るのは自殺願望があると思われてもおかしくはない。
「こんな状況なら、クレアが抜け出しても気が付くはずないな……ふんっ!」
呆れながらも、親衛隊に向けて殺気を飛ばすと、
「何があった!」
男用のテントから親衛隊長が飛び出して来た。
それに続いて、女性騎士や休憩中の騎士もテントから飛び出してきて、居眠りしていた騎士も起きたが……殺気を飛ばした俺がクレアを猫のように持ち上げている状況を見て、軽く混乱していた。
「おい、見張りが寝ているのをいいことにクレアがテントを抜け出して、人のトイレをのぞき見しようとしていたぞ」
「はあっ!? 私、そんな変態じゃありませんよ! そもそもジークさん、そのおじさんと森の中で話していただけじゃないですか!」
クレアは俺の言葉に抗議していたが、実際に抜け出してのぞき見していたということは自白したので、親衛隊長は頭を抱えていた。
「まことに申し訳ない。それと、クレア様を連れて来てくれたこと感謝する……フレイヤ、クレア様をテントに」
親衛隊長が女性騎士を呼ぶと、すぐにクレアの傍に駆け寄ろうとした。なのでクレアを放すと、
「ほいっ! 着地成功!」
クレアは大げさに着地を決めて、女性騎士の方へと自分から向かっていた。その際、女性騎士に睨まれたが、完全に無視することにした。
「それじゃあおっさん、さっさと戻るぞ。このままだと誰かと誰かのせいで、俺の寝る時間が無くなりそうだからな」
「そうだな……と言うか、元はジークがこっそり抜け出したのが原因じゃないのか?」
などと言われたが、それも無視した。
二人で俺たちの野営場所に戻ると、
「バルトロさん、何があった……て、ジーク! いつの間に抜け出したんだい!?」
チーが待っていた。テントではフリックが入り口のところで様子を窺っていたので、二人はちゃんと周囲の変化に気が付いていたようだ。
「まあ、流石にうちの連中は問題ないようだな……ちょっとジークが抜け出したんで様子を見に行ったら、ただの小……自然に呼ばれただけだったようでな。俺もついでにと思ったんだが、聖女様がのぞき見してやがってな。それを捕まえて返しに行ってただけだ。その時に、ちょっとな」
とおっさんが説明すると、フリックはそのままテントの中に戻って行ったが、チーはよく分かっていないようだった……と言うかおっさん、何気にクレアに指摘されたことを気にしていたんだな。
「それにしてもジーク、よく片手で聖女を持ち運べたな」
「魔法を使えば、片手で百kgくらいは持ち上げることが出来るしな。それに、クレアもクレアで、運ばれやすいように体を丸めていたし」
テントに入ろうとした時、おっさんが感心したように話しかけてきたので足を止めて種明かしをすると、
「それでもすごいと思うけどな。普通はあれだけ多彩な魔法を使えるもんじゃないからな。それにしても、ジークは聖女に懐かれたようだな」
などと褒めつつもからかってきたのだが……
「……その様子だと、嬉しくはないようだな? 聖女は性格はともかくとして、かなり可愛い顔をしていると思うんだが……何かあるのか?」
顔に出ていたのか、おっさんが不思議そうに聞いてきた。
「いや、何て言うか……苦手なんだよな。自分でも分からないけど、クレアといると何かこう……気持ちが落ち着かないと言うか……少しでも離れておきたい……みたいな?」
面倒くさいが悪い子ではないとは思っているが、それはそれとして、何故か近くに居たくないと思う時があるのだ。
しかも、その感覚はかなりムラがあるし、緊急時やさっきのように自分が有利な状況にある時はほとんど感じない。だから自分でも分からないと言うしかないのだった。
「ほ~ん……そんなもんか? 変わってるな。単にジークが男の方が好き……という感じでもないしな。まあ、自分のことだからと言ってその全てを知っている奴は居ないだろうし、そう言うこともあるんだろうな」
そんな話をしてからテントに入ると……暗い中でフリックが座ってこちらを見ていた。
「おい、ジーク……何があったか知らないが、いきなり殺気を出すな。おかげで目が完全に覚めた」
フリックは俺が殺気を出したせいで疲れていたのに目が覚めた上、気が高ぶってしまい眠れなくなってしまったらしい。
「薬があるけど……使ってみるか?」
「副作用は?」
「人によっては眠りが深くなりすぎて、数時間は何をされても起きなくなる」
「起きれなくなるのはそれはそれで困る……遠慮しておこう。それはそうと、犯罪に使えそうな薬を何に使う気だ?」
この薬はフリックの言う通り、良からぬことにも使われる非合法のものであり、流石の俺も普段から持ち歩いているものではないのだが……今回はもし依頼が失敗に終わった時に逃走する可能性があった為、実はおっさんや親衛隊に使うつもりで持っていたのだ。
「かなり怪しんでいるようだが、これはばあさん……ベラドンナさんとモニカさんに持たされたものだ。信用できない奴らが同行する時は、持っていて損は無いとか言ってな。今回実際に使ったのは、カロンに対してだけどな」
二人には申し訳ないが、あの二人なら持たせてもおかしくはないと思ったのか、フリックは疑いの目を止めて、テントの入り口を開けて外で縛られているカロンを見て納得していた。
「まあ、確かにそう言うことも有り得るか……だが、やはり今回は遠慮する。色々とリスクが高いみたいだからな」
フリックの言う通り、眠りが深すぎるといざという時に起きられなくて命を落とすということも考えられるし、何よりもこの薬は使い過ぎたり量を誤ると中毒症状を起こすこともある。
中毒症状と言っても、大抵の場合は吐き気や頭痛と言ったものが数日続くくらいだが、ひどい時は昏睡状態に陥り、そのまま目覚めることなく死に至ることもある。
勧めといてなんだが、使わないに越したことは無いのだ。まあ、俺は何度か使ったことがあるけど。
そういった騒ぎは合ったものの、その後は問題なく(ただし、薬で眠らせたカロンがなかなか目覚めず、荷物のように運ぶといった手間はあった)森の中を進むことができ、おまけに行きとは違い親衛隊も協力的だったので、荷物は多かったものの予定よりも少し早くスタッツの街に帰り着くことができたのだった。