第十五話
無事に親衛隊と合流することができた俺たちは……その場で休憩すると同時に、親衛隊長に怒られている親衛隊の連中を眺めながら食事をしていた。
流石にあれは怒られて当然だろう。何せ、ここら辺に手強い魔物が確認されていないとはいえ、俺とクレアが罠にかかったことを考えれば、いつどこから敵が現れてもおかしくはないのだ。休憩するにしても、最低限の見張りを立てるべきであり、間違っても全員がだらけていい状況ではない。
俺たち冒険者組(+何故かクレア)は、全員食事休憩しているとはいえ、実際に座っているのは走り続けていたおっさんと部外者のクレアの二人で、俺とチーは立って周囲に気を配っている。クレアは俺たちと一緒にいるが、部外者扱いということで数に入れていないだけだ。
「おい、そろそろ出発したいんだが、いつまで休憩するつもりだ?」
親衛隊長が騎士たちを叱り飛ばしてからしばらくして、おっさんがしびれを切らしたといった感じで声をかけた。
「ああ、すまん。こちらはいつでも出発できる……そうだな?」
親衛隊長がそう騎士たちに問うと、騎士たちは同時に背筋をただした。親衛隊長に反抗的だった騎士も動きを揃えていたので、余程親衛隊長の説教が凄まじかったのだろう。
ここからなら三時間もあれば地上に戻れるということで、精神的に楽になった騎士たちが多かったのか、疲れていたにもかかわらず行きよりも足取りは軽かったように思えた。
そのおかげで、予定よりも早く入り口付近まで戻って来ることが出来たのだが……入り口まであと少しというところでおっさんの歩みが止まり、何かを警戒するかのように背後に向かって指示を出した。
そして、
「おい、そこに隠れているのは分かっている! 出て来い!」
剣を抜いて数十m先にある岩の方に向かって声を荒げた。
「バルトロさん、俺です……カロンです……」
すると、岩陰から血まみれのカロンが壁に手をつきながら現れた。すぐにおっさんとチーが駆け寄りカロンに手を貸すと、カロンは二人に支えられながら岩に腰かけた。
一応俺もチーの後に続いたが、カロンを支えるのに三人も必要ないので、少し下がって周囲の警戒をすることにした。
おっさんとチーはカロンが座ってから、何があったのか話を聞こうとしたが、
「怪我が酷そうなので、先に回復魔法を使いますね」
その前にクレアが、カロンに回復魔法で治療を行った。
いつもののんびりした様子とは違い、今のクレアの動きはかなり機敏だったので、親衛隊長はクレアを止めることが出来ず、おっさんたちもクレアが近づいたことに気が付いていなかったみたいで驚いていた。
「ん~……これで大丈夫だとは思いますけど……」
回復魔法を使い終えたクレアは、何か気になることでもあったのか首をひねっていたが、カロンはかなり回復したようで自力で立ち上がり、体を動かして調子を確かめていた。
「ありがとうございます。まだ辛いですが、先程よりはかなり良くなりました」
「あの~……」
「クレア様、勝手に動かれては困ります。皆のところまでお戻りください」
カロンに礼を言われたクレアは何か話そうとしていたが、その前に親衛隊長に引っ張られて親衛隊のところへ戻されていた。
「それで、一体何があった? 何故こんなところに血まみれの状態でいたんだ?」
「それが……フリックが裏切りました。近くにいた俺に奇襲を仕掛け、その後で油断していた親衛隊の騎士たちを襲い始めて……俺は最初の一撃で軽く意識を飛ばされたみたいで倒れてしまい、それを見たフリックは俺が死んだと勘違いしたみたいです。俺は、その……フリックが騎士たちを襲っている間にダンジョンに逃げ込んでここまで来たんですが、あの辺りで動けなくなってしまって……」
カロンが悔しそうに話すとおっさんとチーだけでなく、聞き耳を立てていた親衛隊長まで驚いていた。
「それはいったいどういうことだ? まさかとは思うが、冒険者ギルドはそんな問題のある冒険者をわざと組み込んだと言うのか?」
「そんなわけがあるか! 俺の方が何故フリックがそんなことをしたのか知りたいくらいだ!」
親衛隊長がおっさんにきつい口調で問うが、おっさんも訳が分からないという感じで怒鳴り返していた。
「と、とにかくバルトロさん、急いで外に出た方がいいんじゃないか?」
「確かにチーの言う通り、ここで言い争っていてもどうなるというわけではないし、外から入り口を塞がれる可能性もあるしな」
それだけならいいが、もしかすると塞がれる時に毒を巻かれる可能性があるし、肝心のフリックを逃がしてしまうかもしれない。親衛隊にも犠牲が出ているという以上、何としてもフリックを捕らえなければ、スタッツ側は一方的に不利な状況に追い込まれてしまうだろう。
「いくぞ! この先、フリックが罠を張っている可能性もある! 例え罠にかかったとしても、各自でどうにかしろ! 最優先は、フリックを生きて捕らえることだ!」
そう言うとおっさんは走り出し、その後にチーとカロンも続いた。
俺は一瞬、親衛隊はどうするのかと思い視線を向けたせいで少しで遅れたが、親衛隊も……と言うか、親衛隊長はおっさんよりも先にフリックを捕縛するつもりのようで、親衛隊を置き去りにするように走り出し、それにクレアが続き、クレアに少し遅れて他の騎士たちも反応したという感じだった。
結果的に俺が走り出すのが一番遅くなってしまったが、親衛隊長以外の騎士よりも前にいたので追い抜かれることは無く、すぐに先に走り出したクレアを追い抜かしそうになった。
クレアを横から追い抜かそうと並んだ際、クレアは何か俺に伝えようとしていたが、話を聞くよりもおっさんに追いつく方が先だと思いそのまま無視しようとした。しかし、
「ちょっと待ってください!」
「うおっ! 危ないだろうが!」
強引にクレアに腕を掴まれてしまい、あと少しで二人同時に転びそうになってしまった。
「さっきのことで、少しおかしいなって思ったところがあって……」
クレアは走りながら、気になったことを俺に話し始めた。それを聞いた俺は、
「分かった。ただ、それは誰にも言うな。それと、このまま走り続けてもし前に追いついたとしても、親衛隊長よりも前に出るな。それと、騎士たちともなるべく距離を取れ。その方が、万が一の時に動きやすいはずだ」
そう伝えて、今度こそ速度を上げてクレアを置き去りにした。
「バルトロさん、ジークがいない!」
「何? ジークが?」
「途中までは後ろにいたけれど、どこかで付いてこれなくなったみたいです」
チーとカロンの報告で、初めてジークが後ろについてきていないことに気が付いた俺だったが、
「あいつも訳の分からんゴーレムと戦った後で、聖女を連れて崖を登ったそうだからな。体力が持たなかったんだろう。あいつなら例え罠にかかったとしても、一人で何とかなるはずだ。今は忘れろ!」
そう考えて、ひとまずジークのことは放っておくことにした。あいつなら一人でも大丈夫なはずだ。
「それよりも、大分明るくなってきた。これなら数分で入り口が見えてくるはずだ。気を抜くなよ! まず俺が飛び出す。二人はそれに続け!」
「「はい!」」
続けて指示を出して二人の返事を確認すると、間もなくして光が差し込んできているのが見えた。
「先に行くぞ。後に続け! 出た直後が一番危険だ! 油断するな!」
そう言って外へ飛び出ると……
「ぐあっ!」
という苦悶の声の直後に、背後から殺気を感じた。
「させるかよ!」
クレアと話した後で親衛隊長も追い抜いた俺は、おっさんたちのすぐ後ろまで近づいたが、途中から陰に潜ったりしながら隠れて移動したので、チーとカロンは俺が追いつけなくなって離脱したと思ったようだった。まあ、おっさんは姿は見えないが俺がちゃんと付いて来ていることに気が付いていたみたいだったけど。
二人に気が付かれないようにしていたせいで多少苦労したが、そのかいあっておっさんに向けられた犯人の一撃を防ぐことが出来た。
「やっぱり、犯人はフリックじゃなくてお前だったか、カロン」
おっさんも犯人の正体に気が付いていたみたいだし、俺のしたことは余計なお世話だったかもしれないが、少なくとも付いてこられなくなったと思われていた俺が攻撃を防いだことは、カロンを驚かせる効果くらいは十分あったようだ。
「おっさん、カロンをこのまま殺すのはまずいんだよな?」
「ああ、こいつには何故このようなことをしたのか、話してもらわないといけないからな。少なくとも、親衛隊長には聞かせた方がいいだろう」
それに、俺とおっさんでカロンを挟んでいる今の状況では、カロンはこの場から逃げ出すことは出来ないだろう。
「それでジーク、チーは無事か?」
「絶対にとは言えないが、背後から強く押されて陰にぶつかっただけみたいだったから、当たり所が悪くなければ大した怪我にはならないはずだ」
状況的に、チーは殺されてもおかしくは無かったと思う。しかし、カロンがおっさんに集中していたせいでチーへの攻撃が甘くなったのか、それとも単に居た位置が悪かったから命は狙わずに、ひとまず怪我だけさせて後から始末するつもりだったからかは分からないが、とにかく即死してもおかしくない状況だったにもかかわらず怪我で済んだチーは、運が良かったということだろう。
(まあ、フリックはどうだか分からないが)
カロンはフリックが裏切ったといって罠を仕掛けてきたので、その肝心なフリックがもしもカロンを追ってダンジョン内に入ってきたら一発で計画が破綻する可能性が高い。なので普通に考えたら、フリックはカロンがダンジョンに入る前に排除されている可能性が高い。それと、他に残っていた騎士たちも。
「くそっ! あと少しでバルトロを殺せたのに!」
「それが本来の口調か? 似合わんぞ」
「うるさい!」
カロンの普段の様子は全て演技だったようで、ここに来て化けの皮がはがれたというところだろう。まあ、俺は数日の付き合いだったので化けの皮と言っても大して違和感は無いが、それなりに付き合いが長そうなおっさんはそうではないようで、挑発気味に言ってはいるがかなり本心からの言葉にも聞こえた。
「それでおっさん、こいつまだ抵抗するつもりみたいだから、脚の一本くらい切り落とした方がいいんじゃないか?」
俺がそう提案すると、おっさんが口を開くよりも先に、
「新人風情が、調子に乗るな!」
と、俺に攻撃を仕掛けてきたので、
「ほいっと!」
さくっとカロンの腕を切り飛ばした。
「ぐっ!」
右肘から先を無くしたカロンは、大して声を上げることなく俺から距離を取った。正直、痛みでのたうち回るのではないかと予想していたのだが、思ったよりもカロンは我慢強いのかもしれない。
「アホか、チラッとだが、ジークは訳の分からんゴーレムを倒したと言っただろうが。そんな奴が弱いわけあるか」
おっさんが呆れたように言いながらカロンに近づこうとすると、
「いつから俺が裏切ったと気が付いていた?」
カロンは時間稼ぎのつもりなのか、少しづつ下がりながらおっさんに質問をしていた。
「まあ、最初は気が付かずに、お前の言う通りフリックが裏切ったと思っていたが……あれだけ血を流していたはずのお前が移動したというのに、地面にはほとんど血が落ちていなかったからな。普通に考えたら、入り口に近づくほど血の跡があるはずなのに見当たらなかったし、何より怪しんでいたところにジークが消えたからな。それに……いくら聖女の回復魔法でも血が元に戻るはずがないのに、直後にあれだけの速度で長く走れるわけがないだろ」
「ついでに言うと、クレアも怪しんでいたぞ。服に着いた血の量の割に、見た目ほど傷は深くなさそうだった……てな」
俺はその話を聞いたこともあり、背後からカロンや周辺に注意していたので、おっさんと同じような結論に至ったのだった。
「それと、いつになったら隠れている騎士に俺たちを襲わせるつもりだ? すでにタイミングを逃していると思うぞ?」
カロンがどれほどの強さを持っているのかは分からないが、大した傷を負わずにフリックや残っていた騎士たちを相手に出来る程とは思えない。それに、こんなことを事前に計画していたとすれば、正面から襲うということはしないはずだ。
つまり、罠を張った上で襲ったという可能性が一番高く、そこまでして二人だけ見逃すということは考えられない。なので、隠れているのはカロンと利害関係が一致している奴らで、二人ということは上に残されていた親衛隊長に反抗的だった騎士だろう。
「おっさん、隠れている奴らの相手を頼む。俺はカロンを無力化する」
「おお、分かった。なるべくなら殺すなよ? 聖国の関係者にも、うちの裏切者とあちらの裏切者が手を組んでいたというところを実際に見せないといけないからな」
親衛隊長とクレアが後どのくらいで戻って来るか分からないが、もしかすると向こうも裏切者に襲われているかもしれないので、もう少し時間を稼がないといけない。
「さてと……大人しくしていれば、痛い目にあわないで済む……かもしれないぞ?」
「ふざけるな! ちょっとくらい手柄を上げたからと言って、新人風情が調子に乗るな!」
どれくらいの強さを持っているか分からない以上、抵抗されると手加減出来ないかもしれないので一応忠告してみたが……俺の優しさはカロンに伝わることは無かったらしく、逆に怒らせてしまうという結果になってしまった。
「残念だな……死ぬなよ?」
「お前がな!」
俺がカロンに向かって一歩踏み出した時、背後で何かが動く音がした。そして、
「終わりだ!」
カロンが右腕を横に振るうと、切り落とされたはずの腕が俺目掛けて飛んできた。しかし、
「初めて見る魔法だな。あれは切り落とされたんじゃなくて、自分から切り離したみたいだな。それを糸のように細く伸ばした魔力でつないでおいて、今みたいに奇襲に使う時に一気に魔力を流すのか……なかなかよく出来てる。もしかして、トカゲの自切からヒントでも得たのか?」
ナイフを握った状態で向かってきたカロンの腕を振り向くことなく掴むと、驚いたことに切り離されたその状態でも俺を切りつけようと手首を動かしてナイフを振っていた。
自分の体の一部を切り離して、使い捨ての道具として使う魔法や戦い方なら見たこともあるが、こういう風に切り離した後も自分の意志で動かせる魔法があるのは知らなかった。しかも、よく見れば血は流れておらず、掴んだ手からは脈打つ鼓動まで伝わってくる。
「切り離した後でも、元通りにくっつけることも出来るのか……トカゲよりも上だな。でも……せっかくだから、ちゃんと処分しておくな」
カロンの腕に剣を突き刺してから、火魔法で焼却処分することにした。ただ、俺の火魔法では一瞬で灰にする程の威力は出せないので完全に消し去ることは出来なかったが、表面は真っ黒こげになったのでクレアくらいの回復魔法が使えない限りは完全に元に戻ることは無いだろう。少なくとも、この戦いの中では。
カロンは腕を切り離した後も痛覚などは繋がっているようで痛みや熱を感じるらしく、悲鳴を上げながら地面をのたうち回っていた。
流石に腕だけとは言え串刺しにされた上に生きながら燃やされれば、その痛みや苦しみは想像を絶するものだろう。まあ、裏切者の犯罪者なので、多少の同情はしてもやったことに対して罪悪感や後悔はしていない。
「今ので気絶してくれたら、余計な体力を使わずに済んで楽できたのにな」
地面に転がるカロンを挑発しながら黒焦げになった腕を放り投げると、カロンは腕に隠し持っていた薬を大量にふりかけ、慌てながら押し付けるようにしてつなげていた。
薬とはいっても、瞬時に火傷を完全回復させるような貴重品をカロンが手に入れることなど出来るとは思えないので、使用したのは効果の落ちる市販品か裏で手に入れた非合法のものだろうが、それでも痛みを軽減させることは出来たようだ。もしかすると、回復薬ではなく感覚をマヒさせる類のものだったのかもしれない。
「さて、大人しく捕まってもらおうか?」
「誰が……捕まるか! 『テラー』! 『バレット』!」
カロンは、続けざまに二種類の魔法を使ったが……俺には効果が無かった。正確には、一つ目の魔法『テラー』は、相手の精神に不安感を与えて動きを制限するものなのだが、自分より魔力が多い者や魔法への抵抗力が高いものには通用しないことが多く、俺はそのどちらにも当てはまっているようで、『テラー』を使われても「何かされたかも?」程度にしか感じなかった。
続いて使われた『バレット』だが、これは魔力を弾丸のように飛ばす魔法で発動が早く速度もあり、込めた魔力によってはかなりの威力が期待できるのだが……カロンは『テラー』で動きを止めて速度の速い『バレット』で仕留めるつもりだった為、最初の『テラー』が全く通用しなかったので『バレット』を単独で使用したようなものだった。
しかも、『バレット』の前に全く意味をなさなかった『テラー』を使用したせいで、その分『バレット』を避ける時間を作ってしまったのだ。
その為、
「よっと!」
「ぐひっ!」
簡単に接近されて、俺の飛び膝蹴りをほぼ無防備な状態で顔面に受けることになってしまった。
「あら? 殺さないように手加減したのがまずかったか……」
飛び膝蹴りで数m転がったカロンだったが、力を抑えた結果意識を飛ばすことが出来ず、鼻血を引き出しながらも立ち上がっていた。
「これなら蹴りじゃなくて、地面に投げつけた方がよかったな」
そっちの方が高い確率で意識を飛ばせただろうし、その後の捕縛も容易だったはずだ。
カロンはふらふらになりながらも、簡単な回復魔法で鼻血を止めていた。思ったよりも、魔法の引き出しは多いようで、ギルドでも実力を隠していなければフリックよりも上の立場になれていただろう。
「ふざけるなよ! 何でお前なんかにやられなければならない! 俺は今代の黒になる男だぞ!」
「今代の黒?」
「ああそうだ! 今一番今代の黒に近いのはサマンサと言うL9の女と言われているが、そいつは十年以上もL9どまりだ! つまり、選ばれた存在ではない! それに対して俺は、今はまだL7ではあるが、同い年の頃のサマンサよりも一つ上のレベルで、レベルの上がり方も速い! だからこそ、俺の方が選ばれた存在なんだ!」
「……馬鹿か? いや、馬鹿だな。それも、救いようがないくらいの」
カロンの言い分に、俺は笑うよりも呆れの方が先に来た。
「いいか? 世の中には、『十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人』という言葉がある。才能の有無に関しては置いておくとして、同い年の頃よりもレベルが上だから自分の方が上だというのはおかしいし、今代の緑は十八、青は二十と若い頃にL10になったらしいが、土は四十くらいの頃だったはずだ。だから、十年以上足踏みしているからと言って、選ばれていないということにはならない。そもそも……まあ、それはいいか」
そう、カロンに教えてやると、カロンは驚いたような顔をしたまま少し動きを止めて、
「黙れ! それこそ、俺が選ばれていないという証拠にはならない!」
と、大声を上げた。まあ、確かにその通りではあるものの……黒に関しては俺がすでにL10となっているので、L10はその世代に一人しかいないという前提条件が間違っていない限り、カロンが今代の黒になることはありえないのだ。まあ、今ここで教えてやる義理は無いので黙っておくけれど。
「とにかく、お前が選ばれていようがいまいが俺には興味がないし、今のところ分かっているのは、未来のL10になる予定のカロンが、俺に手も足も出ていないということだけだ……いい加減、大人しく捕まれ。お前のお仲間も、すでにおっさんにやられたみたいだしな」
俺がカロンと遊んでいる間に、おっさんは隠れて様子を窺っていた騎士二人を気絶させていたようで、丁度手足を縛られた状態で運ばれているところだった。
早く捕縛しないとおっさんに文句を言われそうなので、遊ぶのは止めて本気で捕まえようと身構えた時、
「地震? かなり大きいぞ!」
突然、立っているのがやっとというくらいの大きな地震が起こった。そして地震に合わせるように、
「『ダーク・ミスト』!」
カロンが魔法を使い、周囲が黒い靄に包まれたのだった。