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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第二章
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第十二話

「ジーク! おい、ジーク! 聞こえないのか!?」


 入り口の隙間から声をかけてみたが、隙間のように見えるだけで完全に入り口が塞がっているのか、もしくはジークが近くにいないからかは分からないが、岩の向こうからの返事は無かった。

 ジークのことだから落ちて来た岩に巻き込まれたということは考えにくいが、万が一のこともあるので一刻も早く入り口を塞いでいる岩をどうにかしてどけなければならない。

 そう考えた俺は、剣を抜いて岩を切りつけた……が、


「ぐっ! つぅ……」


 岩は思ったよりも硬く、切りつけた箇所に一cm程の深さの傷をつけることが出来たものの、代わりに剣先が大きく欠けて、刀身も歪んでしまった。

 流石に一度で両断できるとは思ってはいないが、何十回も切りつけたら隙間を作る突っかかりくらい出来るだろうと考えてはいた。しかしこれでは、時間がかかり過ぎるだろう。


(だが、どうする? そうやったらこの岩を破壊できる?)


 それでも、武器を全て使えば隙間を作ることは出来るだろうが、


(その為には、()()を犠牲にしないといけないかもしれない……)


 俺の相棒とは、龍を狩る時にも使ったミスリルで出来た剣だ。あれなら、俺が持ってきている武器の中で一番頑丈なので、隙間をつくれる可能性は一番高いが、その代わりこの依頼の最中は使い物にならなくなるだろう。

 これが普通の依頼の時だったなら試すのだが、親衛隊(あいつら)が裏切る可能性がある以上、切り札は残しておかなければならない。


「おい! 誰かこの岩を壊せるだけの魔法を使える奴はいないのか!?」


「無理だ。壊せるかもしれない威力の魔法は俺も使えるが、あくまでもかもしれないだけで保証はないし、こんな場所で使うには危なすぎる」


 俺の問いかけに、代表する形で親衛隊長がそう応えた。

 確かに、こんな場所でこの岩を壊すことの出来るだけの魔法を使えば、俺たちのいる通路の壁や天井まで壊れてしまう可能性が高い。

 そうなると、一点に威力を集中させた魔法か威力を押さえた魔法でということになるが、集中させた魔法と言うのはかなり難しく、親衛隊の連中はどうか知らんが俺もチーもそんな技量は持ち合わせていない。まあ、聖女が巻き込まれているのに親衛隊長が即座に出来ないと答えたということは、いないということなのだろう。そして、威力を押さえた方は……武器でチマチマやるのと変わらないだろう。


(確か、石を火で熱してから水をかけると、たまに砕けることがあると聞いたことがあるが……この岩を熱するのにどれだけの時間がかかるか分からないし、狭い空間で火を使い過ぎると、知らないうちに肺が焼けて死んでしまうことがある……くそっ!)


 やはり、相棒を使うしかないのか……と考えていると、


「少しどいてくれ……ぬんっ!」


 親衛隊長が俺を押しのけて、自分の剣で岩を切りつけた。


「くっ……硬い。しかし、これなら……」


 俺と同じことをしてどうするのかと思いながら親衛隊長を見ると、親衛隊長は岩を見つめながら何かを考えている様子だった。

 何を考えているのかと思い、岩の方を見ると、


(俺が切りつけたところを、寸分の違いなく切り付けている!? 確かに、傷は深くなっているが、あれじゃあ大して変わらないだろ!)


 何で意味のないことをするのかと思い親衛隊長に文句を言おうとしたら、親衛隊長は剣を岩の傷に突き立てるようにして押し込み、剣が固定されたところで、


「くっ! ……重いが、振れないことも無いな……」


 マジックバッグから太い棍棒のようなものを取り出した。そして、


「……ふっ!」


 突き刺した剣の尻目掛けて、棍棒をゆっくりと振った。しかし、


「外れたか……難しいな。なら、もう一度」


 棍棒はわずかに剣の尻からずれてしまい、その衝撃で剣が岩から抜けてしまった。

 親衛隊長は落ちた剣を拾ってまた同じように岩に突き刺し、もう一度棍棒を振ろうとしていたが、


「ちょっと待った! その剣じゃ、長すぎる! そのままだと、刺したところが折れた状態で岩の中に残って、もう一度最初からやり直しになる可能性が高い!」


 チーが止めた。


()()()の代わりに使うなら、斧の方がいい……はず」


 チーは少し自信なさげだったが、確かに剣よりも斧の方が厚みがあるので、くさびとして使うならその方がいいだろう。


「斧でも厚みが足りないかもしれないから、同時に二本くらい差し込んで打ち込めば、壊せないことも無いとは思うけど……」


 チーの提案通りに、親衛隊長は隊員に斧を二本持って来させて岩に食い込ませた。


「おい、その棍棒は一本しかないのか? あるなら貸せ」


 斧を二本使っているのだから、交互に叩いて均等に食い込ませていった方が効果は高いだろう。

 親衛隊長は少し迷っていたようだが、すぐにもう一本の棍棒を俺に渡してきた。見た目の通りかなりの重量だが、振れないことはないというくらいの重さだ。


「俺から打つ。確実に当てろよ!」


 焦りはあるが、失敗して時間を食うよりも確実に当てて行った方が早いと自分に言い聞かせ、親衛隊長と交互に棍棒を斧に打ち付けていった。

 最初の数回はかなり硬く、本当にこの方法で割ることが出来るのかという疑問があったが、


「何だ!? 手ごたえが!」


 それまで、一度で一cmも進まなかったというのに、急に十cm近く斧が食い込み、その変化に驚きながらも止まれなかった親衛隊長の一撃で、縦に大きくひびが入った。そして、


「ジーク!」

「クレア様!」


「ちょっと落ち着いて!」


 入り口を塞いでいた岩は二つに割れ、転がった反動でさらに小さくなり人が通れるくらいの隙間が出来た。ただ、俺と親衛隊長が同時に入ろうとしたせいで突っかかって動けなくなり、チーに引っ張り出されるという失態を犯してしまった。


 心を落ち着けて、今度は俺から入り周囲を警戒し、それから親衛隊長が入ってきたが……


「ジークがいない……どこに行った?」


 入り口付近には、ジークどころか人の気配を感じなかった。

 念の為岩の周辺も確認したが、人が潰されたと思うような形跡は見当たらなかった。それなら、奥の方にいるのかと思いそちらを調べようとしたところで、


「フレイヤ!」


 親衛隊長が、聖女を追いかけて入って行った女性騎士が倒れているのを見つけて叫んだ。


「待て! 少し待て! 罠の可能性もある!」


 フレイヤという名前らしい騎士に駆け寄ろうとしていた親衛隊長だったが、その周辺にもジークと聖女の気配が無いのと、奥の方には明らかに戦闘の跡と思われるものが残っていたので、腕を掴んで強引に親衛隊長を止め、外に待機していたチーたちに声をかけてから武器を構えて慎重に近づいた。


「罠……ではないようだな」


 騎士の近くまで寄っても、特に異変は感じられなかったので警戒を緩めると、親衛隊長はすぐに騎士の傍に駆け寄り、膝をついて声をかけていた。

 どうやら死体というわけではないようで、騎士は親衛隊長の声に反応して意識を取り戻し、二人が何かを話しているのが確認できた。


「しかし、これは……ゴーレムと戦った跡か?」


 不自然に荒れていたのは思った通り戦闘の跡だった。しかも、複数体のゴーレムと戦ったらしく、その破片と思われるものがこの周囲には散乱していたのだ。それこそ、かなり粉砕されていて、ぱっと見ではゴーレムではなくただの石や岩ではないかと思うくらいまで破壊されていたので、少し離れたところに綺麗なままの形で倒れているゴーレムが無ければ、何と戦った跡なのかはもう少し詳しく調べてみなければ分からなかっただろう。まあ、その形を保っているゴーレムも、不自然なくらいに綺麗な状態で動かなかいので、ジークたちの時に罠が発動せずに戦うことが無かっただけではないかと思っていたりもする。そのせいで、そのゴーレムに背中を向けるのは少し怖いのだが……


「クレア様は、この場所でゴーレムに襲われたがそれらを撃退し、その後突然出来た穴に落ちていったそうだ。あそこにあるゴーレムは、クレア様を追って入って行った……ジークだったか? その冒険者に倒されたらしい」


 騎士の証言で、あのゴーレムは倒された後だというのが分かりホッとした。しかし、


「ジークもその突然できたという穴に落ちたということだな?」


「ああ、そうらしい……しかも、その……何と言うか……どうもそのジークは、穴が出来た瞬間に脱出を試みたようだが……クレア様が反射的に掴んでしまったらしくてな……」


「つまりジークは、聖女様のせいでゴーレムの罠にはまり、さらには落ちる聖女様に巻き込まれる形で穴に落ちていったということだな?」


「そう言うことになる……そうだ」


 正直に言うとその話を聞いた瞬間に、俺はこいつと横たわっているフレイヤという騎士を叩き切ってやろうかと思ったが……それをするのは全ての情報を引き出してからだと決め、少しの間見逃すことにした。それに、フレイヤという騎士は万全の状態であったとしても殺すのは難しくないだろうが、親衛隊長はそうはいかない。殺すだけなら出来るだろうが、かなり手痛い反撃を食らうだろうし、もしかすると逆にやられてしまうかもしれない。そう言った理由から、行動に移すのはもう少し俺に有利な状況になるまで待った方がいい。


「それで、ジークが落ちたという穴はどこだ?」


「あそこの壁の辺りからかなりの大きさのものだったそうだが……」


 親衛隊長がそう言って突き当りの壁を指差すが、その辺りには穴らしきものは無い。少なくとも、フレイヤが言ったという大きさが誇張されたものだったとしても、二人がまとめて落ちるような穴の跡すら見当たらなかった。


「二人が落ちたというところを調べるしかないか……」


「いや、落ちたのは三人だそうだ」


「ああ、そう言えば、聖女が穴に入っていったのは、どこかの馬鹿が忠告を完全に無視してはしゃいだからだったな。まあ、俺としては、聖女共々どうなっていようが興味は無いけどな……チー! ちょっと来い!」


 俺は穴の外に待機させていたチーを呼び、親衛隊長たちから離れた場所で合流すると、他の誰かに聞かれないように小声で、


「俺は今からちょっと危険な場所……ジークが落ちたという穴があったところを調べるが、もしも俺に何かあったらこいつらを置いて外に向かえ。そしてフリックたちと合流して、すぐに街に戻ってジュノーに報告しろ。こいつらは聖女と親衛隊を名乗っているが、実際は侵略者と変わらない存在だったと。そして俺とジークは、罠に嵌められて生死不明だとも……分かったな」


 そう言うとチーは、こわばった表情になったもののしっかりと頷き、また穴の入り口の方へと戻って行った。ただ先程とは違い、俺の状況をしっかりと確認する為、背後を警戒しながらも穴からは出ずにいた。


 親衛隊長は俺がチーに何を言ったのか察しがついているみたいだったが、何も言わずに俺と一緒にジークたちが落ちた穴があったという場所に向かった。だた、穴のあったという場所を調べている間、基本的に俺とまだ横になっているフレイヤという騎士の間に入るように動いていたので、向こうは向こうで俺を警戒しているということだろう。



「おかしい……この場所に穴があったというのなら、少しくらいはそれらしい形跡があってもいいはずなのに……」


 いくら探しても、ジークたちが落ちたという穴の形跡は見つからず、俺は騎士が嘘を言っているか夢でも見ていたんじゃないかと思ったほどだった。

 親衛隊長も、多少は俺と同じことを考えているようだが、同時に騎士を信じているようにも見えた。


「このままここを調べていてもらちが明かない。こうなると、ジークたちは穴から下の階へと落ちたと信じ、別の道を進んで合流するしかないだろう……」


 だがそれは、ジークが落ちても無事であり、その穴が本当に下の階に繋がっているということが前提の話だ。もしも穴が下にあるどの階ともつながってなかったり、繋がっていてもジークが途中で引っ掛かって動けなかったりしていれば無理だ。それに……考えたくはないが、一番高い可能性として、すでに死んでいた場合も……だ。


(ジークのことだから、多少強いくらいの魔物なら、その場から動けない状態でもなんとかしそうではあるが……この罠の先にいる奴が、多少で済まされるとは思えないしな)


 とにかく、


「急ぐぞ! 少しでも早く移動すれば、それだけジークと合流できる可能性が上がる!」


「確かにそれしかないか……フレイヤ、もう動けるな? クレア様の元に急ぐぞ。クレア様なら、多少の怪我は大丈夫だろうが、このダンジョンでは何が起こるか分からないからな」


 少し親衛隊長の言葉が気になったが、聖女が生きていようが死んでいようが俺には関係のないことだ。

 そう思った時、


「地震!? こんな時に!」


 わずかではあるが、地面が揺れた。

 普通に考えるなら、洞窟内では生き埋めになる可能性がある為、すぐに外へ逃げる必要があるが、俺たちが居るところは洞窟の入口からかなり進んだところだ。その為、全力で走って外に避難したとしても、次の地震までに逃げることが出来るとは限らない。むしろ、暗い洞窟の中を走ることの方が危険かもしれない。

 なので俺は、この場に留まって様子を見ることに決めた。しかし、万が一の時の為に、一人でいるよりは二人の方がいいだろうと思ってチーを呼び寄せたのだが……俺のところにやって来たチーは、地面が揺れたことに気が付かなかったようで不思議そうな顔をしていた。


「小さかったとはいえ、あれだけはっきりと揺れたのに、本当に気が付かなかったのか?」

「ええ、全く……と言うか、むしろそっちの勘違いじゃないかと思っているわよ。だって……本当に揺れたのなら、親衛隊の何人かは確実に逃げ出しているはずでしょ?」


 チーは声を小さくしながら、穴の外からこちらを覗き込んでいる連中の方を顎でしゃくって見せた。

 穴の方に目をやると、確かにチーの言う通り、外にいる親衛隊の連中は誰一人として逃げ出した様子が無かった。


「話の途中済まないが、君が揺れを感じなかったというのは本当なのか?」


 チーとの話が聞こえていたのか、親衛隊長は驚いた様子で話しに割り込んできた。と言うか、


「あんたも揺れを感じたんだな?」


 そんなことを聞くということは、親衛隊長も俺と同じように揺れを感じていたということだ。

 親衛隊長は俺の言葉にはっきりと頷いて、


「揺れを感じたが、聖女様のこともあるのでどうするのか迷っていたのだ。そこで済まないとは思ったが判断の参考にする為に、二人の会話に聞き耳を立てさせてもらっていた」


 俺一人なら勘違いということもありえただろうが、二人……いや、親衛隊長が肩を貸している女騎士も頷いていたので、三人が揃って勘違いした可能性は、無いとは言えないがあるとも言いにくい。


「つまりさっきの揺れは地震ではなく、別の要因で揺れた可能性もあるということか……そうなると、ジークたちが落ちたという穴が関係しているかもしれないな」


 ジークたちが落ちたという穴の先で何かが起こり、それが俺と親衛隊長がいる空間の地面のみを揺らしたということも考えられる。


「もし、さっきの揺れはジークたちが何かの原因だったとすると、最低でも落ちた三人の内生き残っている者がいるということか……」


 それがジークなのか聖女なのか、それとも一緒に落ちたという役立たずなのかは知らないが……その三人の中なら、一番ジークが生き残っている可能性が高そうだ。何せあいつは、得体のしれないところがあるし、いくつもの隠し玉を持っていそうだからな。


「おい……ここは俺たちではどうやっても閉じた穴を開くことが出来そうにないから、このまま先を進んでジークたちとの合流を目指した方がいいと思うが……どうする?」


「俺も同じ意見だ。何がどうなっているかは知らんがフレイヤの見たという穴は、もしかすると再度開くには何かしらの条件があるのかもしれない。その条件が分からずこちらから開く手段がないのならば、クレア様たちが下に落ちても生きていると信じて進んだ方がいいはずだ」


 こいつを含めて親衛隊は気に食わない奴ばかりだが、今は意見が一致したのは喜ばしいことだと思うしかない。


「そうと決まったら、ここからは陣形は無視して速度優先で進むぞ。いいな?」


「ああ、分かっている」


 親衛隊長としては俺とチーを分断させておきたいのは変わらないようだが、それにこだわっていては合流するまでにどれだけの時間がかかるか分からないので諦めたのだろう。まあ、合流するまでは俺たちが親衛隊に危害を加える可能性が低いと判断したのも理由の一つのはずだし、俺としても背後を気にしなくて済むのはありがたい。もっとも、親衛隊長に対する警戒をしなくていいというだけで、他の奴らに関してはこれまで通り気を付けなければならないのだが……他の奴らは親衛隊長のおまけみたいなものなので、これまでと大して変わりはない。


「チー、俺は全力で行くが、遅れても置いて行くからそのつもりでついてこい。もしも途中で危険だと感じたら、自己判断で外に戻りフリックたちと合流しろ」


 そう言うとチーは頷いたが……多分、途中で遅れるだろう。まあ、チーなら帰り道は記憶しているだろうから無事に外に出ることが出来るだろうし、後ろから追いかけてくるであろう親衛隊の連中から身を隠すことは造作もないだろう。

 だが、それでも見つかる可能性が無いわけではないが……あいつらよりはチーの方が強いだろうし、親衛隊長派の騎士は襲ってくることは無いだろう。それに、仮にそいつらも襲ってきたとしても、洞窟での戦闘経験はチーに勝るものではないだろうから何とかなるはずだ。


 ジークたちとの合流を目指して走り出した俺たちは、外で待機していた親衛隊の連中を置いてけぼりにして(親衛隊の連中は、まだ全力で走ることの出来そうにないフレイヤという騎士が説明することになっている)暗い洞窟を進んだが、すぐにチーが徐々に遅れ出し、一kmも進まないうちに見えなくなってしまった。

 予想よりも早い脱落だったが、チーも暗い洞窟を全力で走るなどと言う経験はないだろうから仕方がないのだろう。だがそのせいで、この先何かあったとしても、その対処は俺と親衛隊長の二人でしなければならないことになってしまった。

 比較的洞窟の中を移動することに慣れているチーですらおいて行かれたというのに、そんな経験など無いに等しいはずのこいつが遅れずについてきているのは流石に驚いた。やはり親衛隊の中で、こいつに対してだけは気を抜いてはいけないようだ。




「うぅ……痛い……ジークさん! こいつ、見た目以上に硬いです!」


 あのデカいゴーレムは、上に居たゴーレムを粉々にしたクレアの一撃をまともに食らったというのに、バランスを崩して膝をついただけで……いや、よく見るとひびが入っているので無傷というわけではないが、それでも大きなダメージにはなっていないようだった。


「クレア、すぐに離れろ! 思っていたよりもダメージを与えることが出来ていないみたいだが、それでも何度もやれば倒せるはずだ。一度距離を取って、再度隙を狙え!」


「りょ~かいで~す!」


 クレアは俺の指示に従い、すぐにゴーレムから離れていった。

 ゴーレムは自分にダメージを与えたが離れた所にいるクレアと、ダメージは与えていないが近くにいる俺のどちらを優先するか迷ったようで、わずかな時間動きを止めていたが、攻撃の届かないクレアよりも届きそうな俺を優先することにしたらしく、膝をついたままの状態で俺に向かって拳を振り上げてきた。


「遅い」


 しかし、ゴーレムの拳が振り下ろされる前に、俺は安全なところまで避難している。あの様子なら、紙一重で回避することも可能だろうが、掠っただけでも洒落にならないダメージを受けそうだし、何よりもあのゴーレムの周りには小さなタイプのゴーレムが多数いるので、回避中にからまれでもしたら致命傷を受けかねない。

 そんなことになる可能性があるなら、余裕を持って回避するのがいいだろう。幸いなことに、クレアの攻撃でダメージを与えることは出来ているので、今の形で攻撃し続ければ倒せるだろう。まあ、


「何!? 何だ、何が起こっている!?」


 一緒に落ちて来た馬鹿がやらかさなければの話だが。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは。 最新話まで一気に読みましたが。 (多分)転生する前から不幸に巻き込まれる人生だったみたいですが、ジークとしての人生でも巻き込まれ体質は変わってないんですね(笑) [一言] …
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