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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第二章
34/117

第十一話

(これが罠だとしたら……逃げ道を塞いだ次は獲物の駆除だよな……)


 そう思いながら後ろを振り向くと、そこにはクレアたちを取り囲むようにして落ちた、三つの大岩があった。

 一瞬、中に入った獲物を生き埋めにする罠なのかと思い、上を警戒したが……それは違っていた。何故なら、それ以上岩が落ちてくることが無かったし、何よりも落ちてきた岩が三つとも()()()()()からだ。


(ゴーレムか……実際に見るのは初めてだな)


 この世界にはゴーレムというものが存在する。そいつらは自然に発生し、人々を脅かすような魔物にもなるが、逆に人工的に作り出されて人の役に立つものもいる。もっとも、人工的に作り出すことはかなり難しいとされているので、街中で見かけることはほとんどないのだ。

 その為、俺のように王都に住んでいたことのある者でも、死ぬまで一度も街中でゴーレムを見たことがないと言う者もいるくらいだ。

 なのでゴーレムを見たいのなら、魔物のゴーレムの目撃情報があったところをうろつくのが一番可能性が高いとされていて、その次が人工的に作られたゴーレムを所有している者を訪ねるかと言われている。

 もっとも、前者は見る為には命をかけなければならず、後者は所有者が近くに居れば見れる可能性は高くなるが、貴重なゴーレムを見せびらかす奴はゴーレム以上に珍しい存在だし、所有者の多くは貴族と言われているので、場合によってはそちらも命がけとなってしまうだろう。


(ゴーレムの中でも厄介だと言われる鉱石で出来たのが三体もか……二mは確実に超えているみたいだけど、見た感じ普通の岩と変わらなさそうだからましな部類だろうな。ただ、クレアたちだと厳しいかもな)


 戦ってみないと分からない部分も多いだろうが、俺に向かってきているゴーレムからはさほどの脅威を感じなかった。まあ、岩で出来ているだけに、体は硬く重量もあるので、防御力と攻撃力はこれまで戦ってきた魔物の中でも上位に来るかもしれない。もっとも、その分動きが遅いので隙が大きく、陰に潜れば簡単に背後を取ることの出来る俺とは、これまで戦ったことのある敵の中で一番相性がいいと言えそうだ。


「ダインスレイヴ」


 実際に、背後に回ってダインスレイヴで魔力を吸い取れば、ものの数秒でゴーレムはただの岩となり、形を保てなくなって崩れ落ちた。


(さて、クレアたちはまだ生きているか……)

「はぁ!?」


 俺がゴーレムと戦い始めてから一~二分程しか経っていないが、クレアたちはどうなっているのだろうと振り向いてみてみると……ちょうど二体いたうちの一体が倒されるところだった。それも、一撃で体の上半身を破壊されるという形で。

 しかもそれをやったのは、俺が親衛隊の中で一番戦闘力が低いと思っていたクレアだった。


「よい……しょっと!」


 クレアは俺が驚いている間に、もう一体のゴーレムの脚と腕を一撃で破壊していた。二体目は一体目と違い少し離れていたせいか一撃で沈黙させることは出来なかったようだが、それでも片脚と片腕を失い、その衝撃で胴体にまでひびが入って倒れたゴーレムは、クレアの前ではほぼ無力化されたと言っても過言ではないだろう。


「はい、おしまい!」


 そう言ってクレアは、ゴーレムの胴体目掛けて武器を振り下ろし、笑顔で止めを刺していた。


(あれは……メイスと言っていいのか?)


 一発目と二発目は離れているのと振るのが速すぎて見えなかったが、止めの三発目はクレアが頭上に掲げたので武器の全体像を見ることが出来たのだが、それは俺がこれまでに見たことの無いものだった。正確に言えば、同じような形のものはこれまでに何度も見たことはあるが、クレアの持っているものはそれらとは大きさが段違いだったのだ。

 その武器の半分から下は比較的細いみたいだが、恐らくは俺の手首よりも一回り以上太いらしく、先端近くの一番太いところに至っては、手首どころか俺の胴体よりも絶対に太い。

 もしあれが中身がスカスカのおもちゃなら、女性が振り回していたとしても大して驚きはしないが、あの粉砕されたゴーレムの飛び散り方と、止めを刺した時の地響きからすれば、確実におもちゃという可能性は無く、間違いなく常人が扱える重量をはるかに超えた破壊兵器だろう。

 そんな武器をクレアは難なく片手で振り回しているのだ。驚くなという方が無理である。


 そんなクレアは、ゴーレムに止めを刺した後で俺の方を見て少し驚いたような表情をしたが、こちらに声をかける前に倒れている親衛隊の二人に駆け寄った……と言うか、クレア以外の二人を見ないと思ったら、ゴーレムに一瞬でやられていたようだ。やはり、親衛隊などというたいそうな呼び名があるからと言って、全員の力量がその名にふさわしいものであるいうわけではないらしい。


 クレアは、始めに近くにいた女性の隊員に近づき、その傍に片膝をついて両手を隊員の体に添えると、


「『ヒール』」


 と、回復魔法を覚える際に最初に練習すると言われている、効果が一番少ない魔法を使った。

 俺の位置からだとクレアに隠れて隊員の様子がよく分からないが、近くに転がっていた剣が粉砕されているので、その威力の攻撃を受けたのだとしたらかなりの怪我を負っているはずで、クレアの使った魔法だと回復が間に合わないはずなのだが……


「う……」


 女性の隊員はクレアが魔法を使ってからすぐに意識を取り戻し、その数秒後には体を起こすことが出来るまでに回復していた。


「まだ完全に治っていないから、もうちょっと横になって待っていてくださいね~」


 クレアは女性の隊員にそう言うと、今度はさらに奥の方に吹き飛ばされていた、元凶とも言える男の方へと走って行った。

 先程のクレアの魔法に興味を持った俺は、駆け足でクレアの後を追いかけて魔法を使うところを見ることにしたが、


「ヒール」


 今回もクレアは、一般的に効果が低いと言われている魔法だけで男の方の怪我も治していた。女性の時と同じように怪我を治すのが早かったせいで、俺がそばに行く前に終わったように見えたのだが、女性と比べて男の方が怪我の度合いはひどかったらしく、念の為なのかもう一度魔法を使ったので、今度は近くで見ることが出来た。ただ、それでもクレアが『ヒール』と言いながら他の魔法を使ったようには見えなかったので、クレアの使う回復魔法の威力が俺の知っているものとは桁違いということだと結論付けることになった。


「ふ~……これで大丈夫なはずですけど、このまま寝かせておいた方がいいかもしれませんね……あら?」


 クレアはそんなことを言いながら、かいていないであろう額の汗を拭うふりをして立ち上がると、男の倒れている少し先に何かを見つけたらしく、奥の方へ歩き始めた。

 俺もクレアの向かう先を見ながら近づいてみたが、どうやら先にあるのは鎧と剣のようだ。


「ジークさん、何でこんなところにこんなものがあるんでしょう?」


 クレアが持ち上げた剣はかなり汚れていて、おまけに大きく欠けていた。

 見たところも素材もただの鉄で出来たもののようで、見た感じでは素材以上の価値のあるようには思えず、明らかにここにあるのは不自然な代物だった。


(俺が見た時はこんなものは無かったように思ったけど……見落としていた可能性もあるしな。ただ、俺とおっさんが見落としたものを、あいつが遠くから発見できたというのもおかしな話だし……)


 そんなことを考えながら、クレアから剣を受け取って調べていると、


「こっちの鎧は……へっ?」


 クレアが鎧を持ち上げた瞬間、俺たちの足元に大きな穴が出来た。

 正確に言うと滑り台のような坂になったのだが、結構な角度があったので穴と言っても差支えがないようなものだ。


「くそっ! ……うおっ!」


 坂を滑り落ちそうになった瞬間、俺はシャドウ・ストリングを近くの岩に巻きつけて回避しようとしたのだが、クレアがそばにいた俺の服を掴んだせいで外の岩に糸を引っかけることが出来ず、一緒に坂を滑り落ちることになってしまった。ついでに、近くで横になっていた男も一緒になって落ちていたが途中でクレアが掴んだので、俺たちは出口まで一塊のような状態で落ちることになってしまうのだった。


「ぐっ……骨が折れたか……まあ、死ななかっただけマシか……」


 落ちている途中、半ば頃で坂の傾斜が緩やかになってきたので、最初の方で腕と脚の骨が折れた以外に大きな怪我はしなかったが、このままではまともに動くことが出来そうになかった。

 こんなことなら、もっと真剣に回復魔法を練習しておくんだったと思っていると、


「ジークさん、先に()()()を治しますから、もう少し我慢していてくださいね」


 落ちてすぐに回復魔法でも使ったのか、破れた服以外は落ちる前と変化が無いように見えるクレアが一緒に落ちた男(生きているのが奇跡と思えるくらいの状態だった)の治療をし、その後で俺の怪我も治してくれた。


(すごい威力だな……これは実際に使われてみないと、どれほどのものなのか理解できなかっただろうな。だけど……)


「感謝はするが……そもそもの話、お前が服を掴まなければ俺は落ちなかったし、落ちている時も掴んだままじゃなければ、こんな怪我を負うことは無かったんだけどな」


 腕と脚が動かせるようになったのはありがたかったが、それだけはどうしても言っておかなければ気が済まなかった。


「うっ! た、確かにそれはそうかもしれませんけど……ちゃんと治したんだから、許してくださいよ」


 クレアにも、しっかりと俺を巻き込んだという自覚はあったようだ。


「まあ、色々と想定外のことが続いたから仕方がないのかもしれないが……もし次があった時は、俺を巻き込むなよ」


「次?」


 クレアは俺の言葉を聞いて、そう何度もそういったことは起こらないだろうとでも言いたそうな顔をしていたが……俺の嫌な予感はまだ続いていた。


(あれが単なる罠で、ここは殺した獲物を捨てる場所だったらいいけれど……先に餌食になったと思われる剣と鎧の持ち主の残骸が見当たらないということは、それを()()()()()が存在する可能性があるわけだ。ゴブリン程度ならいいけれど……)


 処理しているのがゴブリンのような魔物なら問題は無いと思うけど、あの罠を作った奴が処理しているのだとすると、罠に設置したゴーレムよりも弱いということは考えにくい。


「クレア、何が起こるか分からないから警戒……」

「ジークさん! あそこの岩、なんだか人の顔みたいに見えませんか!?」


 何が起こっても対処できるように、クレアにも警戒させておこうと声をかけようとしたが、クレアは俺が言い切る前に、楽しそうな様子で離れたところにある岩を指差していた。


 こんな状況で何故そこまでお気楽な様子でいられるのかと頭を抱えたくなったが、とりあえず言われた通りの場所に目をやってみると、


「クレア、これ以上声を出すな。静かにしていろ……」


 そこには異様な気配を放つ岩……と言うか、明らかにゴーレムと思われるものがあった。

 その場でじっとしているので正確な大きさまでは分からないが、見えている部分だけでも上で戦ったゴーレムの倍近い大きさがありそうだ。


 普段は空気の読めていないところのあるクレアも、俺の様子からただごとではないと感じたらしく、両手で口を押さえてから首を縦に振って大人しくしていた。


「ここがどこか分からないし、あれがどれほどの強さを持っているのか分からない以上、まずは上に続く道を探した方がいい。流石に落ちてきたところから出るのは難しいし、登っている最中に襲われたらひとたまりもないからな。あそこから出るのは最後の手段だ」


 俺の話を聞いたクレアは、先程と同じように両手で口をふさいだまま頷いた。


「静かにしているのなら、そんなことしなくていいぞ」


 流石に毎回そんなことをやられるのは気が抜けるのでそう言うと、クレアは手こそ離したものの、いかにも「静かにしています!」とでもアピールするかのように口元に力を入れていた。


「……息だけはちゃんとしろよ」


 そんなことは無いだろうと思いながらも、静かにするのに集中しすぎて息をするのを忘れている可能性もありそうなので注意しておくと、クレアは俺の話を聞くなり大きく息を吸い始めた。


「本当に忘れていたのかよ……」


 クレアの天然っぷりに呆れながらも、この様子なら俺の言うことを聞くだろうと思うことにして、脱出できそうな場所を探す前に、まずはあのゴーレムから見つかりにくいところに移動しようとしたのだが、


「ど、どこだ! どこだここはっ!」


 俺たちと一緒に落ちてきて、今の今まで気を失っていた親衛隊の男が意識を取り戻して大声を出してしまった。ちなみに男は、クレアの小脇に抱えられている状態だ。


「少し静かにしてくださいっ!」

「ぐえっ!」


 すぐにクレアが男の首に手刀を打ち込んで気絶させたが……ゴーレムは男の声に反応して動き出していた後だった。


「倍どころの大きさじゃないな……クレア、()()をあいつ目掛けて投げつけろ」

「そうしたいですけど……一応持っていかないと、後々怒られそうなので……」


 誰に怒られるのかは知らないが、クレアは男を囮にすることを拒んだ。しかし、


「誰が見ているわけでもないから、俺とお前が黙っていたら問題は無い。そもそも、そいつが勝手なことをしなかったらこんなことにはならなかったんだからな」


「それもそうですね。えいっ!」


 あっさりと俺の意見に従って男をゴーレムのいる方向に投げた。

 確かに上のゴーレムに襲われることになったのはあの男のせいで間違いはないのだが、ここに落ちてきたのはクレアにも原因があるのだから、もう少し躊躇してもいいような気がしたが……まあ、これも親衛隊としてクレアを守る為に必要なことなので、囮にされるのは仕事の内ということになるだろう。

 しかし、そんな大切な仕事を押し付けられた男は、クレアがノーコンなせいでゴーレムからかなり離れた場所に転がった上に、ゴーレムは投げられた男を完全に無視して、俺たちから一度も視線を外さなかった。


「……ごめんなさい」


「まあ、邪魔な荷物がなくなったと思うしかないな。逃げるぞ!」


 落ちてきた空間はかなり広く、ゴーレムは動きが遅いので近づかれる前に出口を探せると思っていたのだが……


「何か、小さいのが沢山出てきましたね……」


 一m程の大きさのゴーレムが、どこからか現れて俺たちを追いかけて来た。

 岩でできているゴーレムのようだが、それほど大きくないので少数ならさほど脅威ではないが、上に居たゴーレムよりも動きが速く、何よりも数が多い。ざっと見た限りでは、四~五十体はいるだろう。しかも、


「前からも来たか」


 同じくらいの数のゴーレムが、俺たちの前方からも姿を現した。


「明らかに組織的な動きをしているな」

「ゴブリンよりも賢そうですね」


 確かに、よく見かけるゴブリンよりも先を見据えた動きをしているが、だからと言ってこのゴーレムたちの知力が高いというわけではないだろう。


「……こいつらの司令塔が動き出したな」


 ゴーレムたちによって俺たちの動きが止まったところで、それまで動く気配を見せなかった大きなゴーレムが移動を始めた。


「歩くだけで音がすごいですね。上のゴーレムとは桁違いです……崩れませんよね? ここ?」


 クレアが心配する通り、あのデカいゴーレムが一歩踏み出すたびに大きな音が聞こえてくる。時折、石が転がる音も聞こえるので、ゴーレムの近くだと振動もかなりのものなのだろう。


(俺だけなら落ちて来たところから逃げられないことも無いが……クレアと一緒だと無理だろうな)


 俺一人なら、陰に潜りながら移動すれば穴を登って行くことも可能だろうが、他人と一緒だと同時に陰に潜ることが出来なくなるので、クレアを連れて行くことは出来ない。

 正確に言うと、時間に余裕があるのなら俺が足場を作りつつクレアを引き上げて……ということが可能だろうが、今回のような緊急事態だとそんなことをする暇はないだろう。やっている最中にあのゴーレムに襲われるのがオチだ。


(だからと言って、クレアを見捨てるのはまずい気がする)


 別にクレアに対して情が湧いたから……いや、正直に言うとそれなりに可哀そうだと思うし、出来るなら助けてやってもいいとさえ思ってはいるが、見捨てなければならない状況になったら見殺しにすることはまだ出来ると思うし、見殺しにしたからと言って俺が故意に殺したということが他の誰かにバレる可能性は低いはずなので、選択肢としてはかなりいいもののはずだ。

 では、何がまずい気がするのかと言うと、


(クレアの魔力は、あの回復魔法からも分かる通り以上だ。それこそ、()で言えば俺やエンドラさんに近いものがあるだろう)


 つまりクレアは、当代の黒や緑に匹敵する可能性を持つ存在だということだ。


(そしてあのゴーレムは、まず間違いなくこのダンジョンのボスのような存在だろう。あんな奴を生んだダンジョンがクレアの魔力を取り込みでもしたら……さらに厄介な魔物が生まれてもおかしくは無いな)


 ダンジョンの魔物はダンジョンに入り込んだ生き物を殺し、ダンジョンの栄養とする。その栄養が溜まれば、ダンジョンは新たな魔物を生むのだが……一度に大量の栄養が手に入れば、それだけ強力な魔物が生まれる可能性も高くなる。

 その魔物がダンジョンから出てこないのであれば、そのダンジョンに近寄らなければいいだけの話で終わるのだが、もしもその魔物が外に出てくることが可能だった場合、間違いなく一番近い餌場……俺が拠点にしているスタッツの街にやってくるだろう。


(仮に俺が倒せる程度の強さで、俺のいる時に襲って来るのなら対処は可能だけど、俺よりも強いか俺がいない時に来られると街が壊滅する可能性があるな)


 その危険性を考えると、クレアを見捨てて逃げるのは後々面倒なことになりかねないのだ。それなら、クレアという戦力が居る内に、あのゴーレムと戦った方がいい気がする。


(まあ、クレアを見捨てて逃げるのは、あのゴーレムに敵わないと分かった時でもいいか)

 

「クレア、これ以上逃げ回るのは難しいから、あのゴーレムを倒すぞ。あのゴーレムさえ倒せば、周りの小さい奴は敵じゃないはずだ」


「そうですか……分かりました。頑張ります!」


 クレアは、少し考えるそぶりを見せてから戦うことに同意した。


「俺があのデカいゴーレムの注意を引くから、クレアは隙を見て攻撃を仕掛けてくれ」


「分かりました!」


 一応、クレアが攻撃を仕掛ける前にダインスレイヴを使ってみるつもりだが……あれだけの大きさになると、活動を停止させるまで魔力を吸うには時間がかかるだろう。

 もしダインスレイヴが上にいたゴーレムと同じようにあのゴーレムにも効果的なら、俺一人でも倒せないことも無いだろうが、敵の情報が少ない以上はクレアと協力して内部と外部から攻撃を加えた方が危険は少なくなる……単純に、的が二つに増えるという意味でも。


 俺は小さいゴーレムたちを踏み台にして、クレアよりも先にデカいゴーレムに接近し、ダインスレイヴを背中の中心部に叩き込んだが……


(効果は薄いな……吸えないことは無いけど、何かこう……ゴーレムの中心部が、二重三重に守られているような……)


 上に居たゴーレムはダインスレイヴを使えば直接魔力を吸えたのに対し、このデカいゴーレムは手ごたえが少なすぎた。大きさの違いもあるだろうが、ドレインのような魔法に対する対策も十分と見て間違いないだろう。


(それにしても……デカい。遠目からでもデカいとは思っていたけど、実際に近づいてみると想像の倍以上はありそうだな)


 最初に見えた部分だけで上のゴーレムの倍はあると思っていたが、動き出してみると見えなかった部分も上のゴーレムの倍以上あった。


(つまり、見た目だけで四倍以上……実際の重量は何倍か、なっと!)


 踏まれているのが気に食わなかったのか、ゴーレムはゴミでも掴もうとするかのような動きで俺に迫って来た。


(腕とか肩とか人間に近い形をしているくせに、可動域がめちゃくちゃだな。おもちゃみたいに一回転したぞ)


 ゴーレムの腕は上から俺に接近して空振りした後、そのまま一回転して元の位置に戻っている。これが人間だったら、肩の部分が捻じれて大怪我をすることになるだろう。


「首も回るのか!」


 腕を跳んでやり過ごし、再度背中に着地した俺を、ゴーレムは首を真後ろに回して確認し、もう一度腕を振り上げたが、


「えいっ!」


 クレアの緊張感に欠ける声と共に放たれた一撃を脚に食らって、ゴーレムは大きくバランスを崩したのだった。

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