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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第一章
21/117

第二十一話

本日二本投稿予定

一話目

「くそっ!」


 俺は思わずその生徒に向かって手を伸ばしたが、当然その手は生徒に届くことは無く、


「いただきま~す」


 その先にいたソウルイーターの爪によって胸を貫かれて絶命した。

 さらにソウルイーターはその生徒の首に牙を突き立てて、


「少し臭みがあるが、これはこれでなかなか……」


 生徒の血を喉を鳴らしながら飲みだした。


「この野郎っ!」


「はっ! 遅い!」


 怒りに任せてアルゴノーツを振るった俺だったが、ソウルイーターはそれまでよりも素早い動きで攻撃を躱し、持っていた生徒の死体を投げつけてきた。


「くそっ!」


 俺は一瞬、投げつけられた生徒の死体を切り飛ばしてやり過ごそうかと思ったが、死体とは言え同じ学園の生徒に向けて剣を振るうことを躊躇してしまったせいで直撃を食らい、死体と共に校舎まで飛ばされてしまった。


「きゃぁあああーーー!」


 そして運悪く、俺と生徒の死体が飛ばされた先には女子生徒がおり、突然のことに混乱してしまったのかよりにもよってソウルイーターのいる方へと逃げ出してしまった。そのせいで、


「おかわりがきたぁ……」


 この場における、ソウルイーターの第二の犠牲者になってしまった。


「ダインスレイヴ」


 俺は最初の()を蹴り飛ばしてどけて、二つ目の()に夢中になっているソウルイーターに照準を合わせて、


「喰らえ……」


 ダインスレイヴの引き金を引いた。

 

「ぐぁっ!」


 その一撃はソウルイーターの頭を狙ったものだったが、当たる直前で気付かれて回避行動を取られてしまったせいで、肩の肉を少し抉ることしか出来なかった。

 ソウルイーターは攻撃が当たっても餌を離さず、体力回復の為か最後まで血を吸うと、残りかすとなった死体を放り投げて俺に向かって突進してきた。

 だが、流石に俺も攻撃が外れたのにそのままの状態で留まることなどせず、校舎の中を走って移動しながらダインスレイヴでソウルイーターを攻撃した。


「ここならもう一人から攻撃される心配は少ないけど、俺の動きも制限されるか……」

 

 ソウルイーターは、校舎の中を逃げる俺を外から追いかけて来ていたので、壁や窓などお構いなしにダインスレイヴの引き金を引いたが、やはり警戒されている状態だと命中率は格段に落ちてしまい、かすり傷を負わせることは出来ても直撃させることは出来なかった。


「くそっ! 効率が悪すぎる!」


 一発でも当たればソウルイーターから生命力を奪うことが出来るのだが、よくて掠る程度では俺の消耗の方が大きすぎる。


「やはり、接近戦を仕掛けないと駄目か!」


 そう思い、ダインスレイヴを銃から剣へと変化させると、


「体力が回復していく……しまった!」


 ソウルイーターに集中しすぎたせいで、俺は気が付かないうちに人の多い方へと向かってしまっていたのだった。しかも、俺とソウルイーターの戦闘音のせいで野次馬がどんどんと集まってきているらしい。


「体力の回復はありがたいが、このままだとソウルイーターも回復手段を得ることになってしまう……なら!」


 俺は野次馬の姿が見える前に窓を突き破って外へと飛び出し、ソウルイーターに攻撃を仕掛けた。


「ちっ! 予想以上に硬くなったな!」


「餌を二つも食べたからなぁ」


 ソウルイーターの大きさは生徒を食べる前と変わっていないが、硬さは段違いだった。最初はアルゴノーツなら比較的簡単に指を切り落とすことが出来たのに、今は指の三分の一程度の傷がやっとだった。しかし、


「ぐぅ……力が抜ける」


 ダインスレイヴの能力は変わらずに通用するようで、続けて振るったダインスレイヴで出来た傷から、ソウルイーターの生命力を奪うことは出来ていた。

 これなら持久戦に持ち込めばソウルイーターを倒すのは難しくないのだが……


「何だあいつは!」

「化け物だーーー!」

「誰か先生を呼んで来い!」


 その前に野次馬たちがやってきてしまった。

 それでも、ソウルイーターを野次馬たちと接触させなければ、俺だけがダインスレイヴの能力で体力を回復させることが出来るのだが、ここで姿を現さなかったもう一人が動いた。


「くそったれが!」


 何と奴は俺ではなく生徒に攻撃を仕掛け、弱った奴をソウルイーターに向かって投げたのだ。

 餌として投げられた生徒が、ソウルイーターの元に届くのを何とか阻止しようとしたが、投げられたのが一人ならともかく二人三人となると俺の手が足りず、シャドウ・ストリングを使っても強度の関係で生徒を助けることが出来なかった。その結果、


「お弁当がふたぁつぅ……」


 ソウルイーターのダメージが回復し、さらに強化されてしまったのだった。


「元気……いっぱぁい……」


 新たに二人の生徒の血を吸ったソウルイーターは、戦い始めた時よりも明らかにおかしく、それが犠牲になった四人の生徒が関係しているのか、それとも薬のせいなのかは分からないが、見た目通り中身も化け物になりかけているのだろう。


「おい、動けるのならさっさとここから離れろ」

「でも、あいつらが!」


「すでに死んでいる! さっさと行け!」


 未だに状況の分かっていない生徒に怒鳴ったが、一向に動こうとしなかったのでこのまま見捨てようかと思った瞬間、


「邪魔だ! 死にたいのか!」


 俺たちのところにソウルイーターが突っ込んできたので、邪魔な生徒を蹴り飛ばしてこの場から強制的にどけて、アルゴノーツで切り付けたのだが……ソウルイーターの突進に負けて、大きく吹き飛ばされてしまった。そして、


「おやつぅ~」


 残りの一人もソウルイーターの犠牲となってしまった。

 新たに三人分の血を吸ったソウルイーターの体は最初に変化した時よりも大きくなり、俺より少し高い程度だった身長は、離れていても明らかに大きいと分かる程になっている。そして、その分体も大きくなっていて、腕と脚は太く、大きかった手はさらにごつく変化していた。


「食えば食うだけ強くなる……のか?」


 外見上は強くなっていそうだが、知能は明らかに低下している。

 姿を見せないもう一人が渡した薬が原因でああなっているとしたら、もしかすると元に戻す薬も存在するのかもしれないが、そうでないのならこれ以上ソウルイーターが暗躍することは難しいはずだ。もしも、ソウルイーターを捨て駒にしたとするなら隠れているもう一人、もしくはその組織には別の手駒があるのかもしれない。


(最悪、このまま戦いが長引いたとしても、ヴァレンシュタイン騎士団が来てくれたら、確実にあいつを殺すことが出来るはずだ)


 知能の低下したソウルイーターだけどその分以上に強化されている為、今の俺には少し荷が重い相手かもしれない。しかも、もう一人隠れているのだ。死なない為には、周囲に気を配りつつ守りを重視する方がいいかもしれない。

 そう考えていると、


「ジーク!」


 エリカがこの場に姿を現した。その後ろには、エレイン先輩もいる。


「今行くわ!」


 しかも二人は、それぞれの愛用の武器を持って戦う意志を見せていた。そして、二人のかなり後ろの方には多数の生徒がいて、その中には武器を持っている奴もいたが、化け物と化したソウルイーターの姿を見たからか足を止めていた。


「来るな! 死ぬぞ!」


 二人は気負っているのか、一直線に俺のところへと向かって来るが、俺からは離れているがあまり変わらない距離にソウルイーターもいた為、


「ふがっ、がふっ!」


 ソウルイーターが二人目掛けて突進を始めた。

 ソウルイーターは知性のかけらも感じさせない声を出しており、完全に人とは違う生き物になってしまったようだ。

 こうなってしまうと、生半可なことでは二人に向いた意識を俺へ変えさせるのは難しい。なので、


「がぁあああ!」


 二人とソウルイーターの間に割り込み、二人の代わりに攻撃を防いだまではいいが、その代わり左腕に直撃を食らってしまい使い物にならなくなってしまった上に、ダインスレイヴも消えた。そして、


「ぐっ!」


 ソウルイーターに捕まり、肩に噛みつかれてしまった。


(力が……抜ける……)


 噛まれた方から血と共に力が抜けていく感覚があり、視界がぼやけ始めたその時、


(腹が……減った……)


 何故かそんなことを考えてしまった。そして、


「ぐぎゃっ!」


 自分でも驚くほど滑らかにアルゴノーツを逆手に持ち替えて、ソウルイーターの鎖骨辺りに突き刺した。かなり根元まで刺したので心臓に届いているかもしれないが、ソウルイーターはそれでも俺の方から口を放さなかった。


「ダインスレイヴ……吸え……」


 アルゴノーツに重ねるイメージでダインスレイヴをもう一度出して、俺からもソウルイーターの生命力を奪い取ることにした。


「寄越せ……もっと寄越せ……全部寄越せ!」


 俺とソウルイーターの生命力の奪い合いとなったが、ダインスレイヴの方がソウルイーターよりも性能がはるかに上のようで、ソウルイーターに吸われる倍以上の量の力が俺の体に流れ込んできていた。

 そしてその差はソウルイーターも理解したようで、俺から距離を取ろうと方から口を放したが、


「逃げるなよ」


 回復した左手をソウルイーターの目に突き刺して眼球を潰し、そのまま指を骨に引っかけて逃がさないように捕まえた。


「ギャギャーーー!」

「うるさい……騒ぐ暇があったら、さっさと死ねよ!」


 ソウルイーターが大きな悲鳴を上げたせいで耳がおかしくなったがすぐに回復した。何せ、ソウルイーターが口を放したおかげで俺だけが一方的に回復しているのだ。それくらいの怪我ならすぐに治る。


「アッアッアッアッーーー!」


 ソウルイーターは慌てふためき、地面に転がって俺を引きはがそうとするがそれでも俺は離れずに、


「ア……ア……」


 ソウルイーターが動かなくなるまでアルゴノーツとダインスレイヴを突き刺した。


「これで終わりだ、消えろ……」


「ア……」


 ダインスレイヴを銃形態に変えて、近距離からソウルイーターの胸に向けて引き金を引いた。

 ダインスレイヴから放たれた黒い弾は、ソウルイーターの胸と頭部を消し去りながら地面に大きな穴を作った。

 これでソウルイーターの事件は終わったはずだ。

 そう思った瞬間、俺は意識を失った。


 そして次に目が覚めた時、俺は腕と脚に枷を嵌められた状態で、どこか牢屋のようなところに入れられていたのだった。

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