第二十話
本日二話投稿
二話目
「ダインスレイヴ……喰らえ!」
回復魔法とも回復薬とも違う回復手段を持っている俺にとって、自ら近づいてくるソウルイーターはダインスレイヴの餌に見えた。
何しろ、ダインスレイヴの近くにいるだけで相手は生命力を吸われていくのだ。つまり、あいつは俺に近づいた分だけ弱体化してしまう。もっとも、ガウェインやディンドランさんのように生命力の強い相手には直接傷をつけるなどをしないと効果はあまりないが、今のソウルイーターのように傷だらけで弱っている相手には効果が高い。まあ、弱っている分だけ俺への回復量は少なくなるが……この場に餌はソウルイーター以外にも存在している。
(死体蹴りになるのは申し訳ないが……あいつを倒す為に有効利用させてもらう!)
ソウルイーター以外の餌とは、ずばり殺された警備員たちだ。
すでに生き物としての生命活動は終えている彼らだが、その肉体の細胞はまだ生きており、ダインスレイヴが奪うことの出来る生命力が残っているのだ。その分を合わせれば、ソウルイーターを上回るくらいには回復できる。
しかし、あと少しで俺の間合いに入るというところで、ソウルイーターは急ブレーキをかけて俺に背中を向けるようにして方向転換をしようとした。恐らく、俺が何らかの方法でソウルイーターを弱体化させていることに気が付いたのだろう。
「逃がすかっ!」
俺はこの場から逃げ出そうとするソウルイーターに自分から接近し、両断しようとダインスレイヴを振るったが、
「外した!? くそ、片手じゃ難しいか! それなら!」
左手一本でダインスレイヴを扱ったせいでいつもの速度が出せず、あと少しというところで外れてしまった。その間にソウルイーターは、懐から赤い液体の入った小瓶を取り出して一気飲みし、訓練場の外へと逃げ出そうとしていた。しかも、あの赤い液体を飲んですぐに動きが良くなったので、あれは回復薬の類だったのだろう。
そんなソウルイーターに向けて俺は、
「消し飛べ!」
ダインスレイヴを銃へと変化させて引き金を引いた。
しかし、反動が少ないとはいえ片手では上手く照準が合わせることが出来ず、一発目はソウルイーターから大きく逸れて訓練場の内壁を破壊し、二発目は一発目より近づいたものの外れて観客席を吹き飛ばし、三発目でようやく命中……したかのように見えたが、
「逃げたか……」
ダインスレイヴは銃の状態でも殺したり傷つけた相手の生命力を奪うことが出来るのだが、今回はその感覚がほとんどなかった。命中したように見えたが実際には掠った程度で、気配を感じないのはソウルイーターがこの場から逃げ失せたからのようだ。
ソウルイーターの気配が消えたのが分かると気が抜けてしまい、俺はその場に立っていられずに座り込んでしまった。もしも今ソウルイーターが引き返して来たら終わりだが、俺だったら想定外の武器を持っている相手が弱っているからと言って、万全とは言えない状況で襲い掛かることはしない。
俺基準の希望的観測ではあるが、ソウルイーターがこれまで捕まるどころかその正体を知られなかったのは、あいつがかなり慎重に行動するタイプだったからだとすると、あながち間違いではないだろう。
しかし、このままの状態でいるのも危険なので、俺の持っている回復薬を出来る限り飲み(飲み過ぎると逆に悪影響が出る為)、その場で大の字になって寝ころんだ。
寝ころんだままで精神を集中させ、少しでも体力の回復に努めていると、
「ジーク!」
エリカが武器も持たずに走ってきた。その後ろからは、エレイン先輩と警備員たち、そして警備員に肩を借りているブラントン先生の姿があった。
「大丈夫、ジーク! あいつはどうしたの!?」
エリカは、周囲を警戒しながら俺を支えて上体を起こさせた。
「あいつはもうここにはいない。逃がしてしまった」
背中を支えてくれているエリカにそう言うと、エリカは驚いた顔をして何か言おうとしていたが、
「エリカ、起こさないでそのまま寝かせていた方がいいわ。この場にあいつがいないのなら、先にジークの治療をしましょう」
エレイン先輩がエリカよりも先に声を出したので、俺はもう一度その場に寝かされた。エリカは先輩の言葉を聞いて、「そ、そうでした!」と慌てていた。
「ジーク、どこかすごく痛いというところはある?」
「すごくというのは無いですけど、多分右腕の骨にいくつかひびが入っていると思います。後は右目の視力が低下していますね。右目だけだと先輩とエリカがぶれて見えていますし、表情までは分かりません」
ダインスレイヴのおかげでかなり回復しているものの、それでもまだ重傷といえる程の怪我だろう。
「他には?」
「かなり体力と魔力を消耗しています。一応薬は飲みましたけど、すぐには戻らないと思います」
そう答えると、それまで心配そうに俺を見ていた顔が驚きのものへと変わった。
「あなた、気が付いてないの? 顔の右側と右腕は、かなり酷いやけどをしているわよ!?」
などと、エレイン先輩に代わってエリカが言ったが俺は内心、
(そんな状態の俺を、お前は起き上がらせようとしたのか?)
などと思ってしまった。
エリカはそんな俺の視線に気が付いたのか、気まずそうにしながら、
「悪かったわよ、さっきはジークの状態を気にするよりも先に、この場を離れた方がいいと思っていたから……」
と、バツの悪そうな顔をしてした。
「先輩、別に痛覚がマヒしているとかじゃありません。まあ、多少はひりひりするような感覚はありますけどね」
「そうは言うけど……」
俺がそう言っても先輩は納得できないようだったが、実際にダインスレイヴのおかげで見た目はひどいやけどに見えるのかもしれないが、痛みとしては軽い火傷をしたような感覚なのだ。
「カレトヴルッフ、そこをどいてくれ。俺が見よう」
先輩に説明していると、警備員に肩を借りて歩いていた先生がそばまでやってきて俺の怪我を見ることになった。
先生は回復魔法が使えるということで、自然と怪我への知識が深まったそうだ。本人曰く、ちゃんとした教育を受けた医者と言う程ではないが、田舎の町医者程度なら今すぐにでも務めることが出来るくらいの腕はあるとのことらしい……どこまで本当なのかは分からないが、よく怪我をした生徒をこの学園の校医の代わりの治療を行っているし回復魔法も使えるので、俺の知る限りではこの場で一番知識と技術を持っていると思う。
「……驚いたな。火傷したところに、新しい皮膚がもう出来始めている。腕の方も、骨にいくつかひびが入っていそうだが、それだけだ……ジーク、何をした?」
先生は怪我の具合から、俺が回復薬以外の方法で回復したことを見抜いたようだ。
「実は、『ドレイン』と似たような魔法を使いました」
ソウルイーターのこともあるので、先生にのみ聞こえる程度の小さな声で言うと、
「例え『ドレイン』でも、ここまでの回復は……いや、聞かなかったことにした方がよさそうだな。ジークもこのことは、誰にも話すな」
不思議そうにしていた先生は、俺がチラリと警備員の死体に目を向けたのに気が付いて、すぐに聞かなかったことにして誰にも話さないようにと指示を出した。
「出来る限りの回復魔法を使う。今の状態では満足に使えないだろうが、それでも骨のひびくらいは治るはずだ。もし誰かに聞かれれば、俺の魔法で回復したと言えばいい」
そう言って先生が腕の痛むところに魔法を使っていくと、だんだんと痛みが無くなってきた。
「これで大丈夫なはずだ。ただ、今の俺では目を完全に回復することが出来ないようだ。万全の状態の時にやってみてもいいが、それよりもちゃんとした医者のところに行った方がいいだろう」
先生の言う通り、目の方は多少ましになったとは言え、右目だけだとまだものがぶれて見えてしまう。まあ、回復の見込みがあるようだから、ひとまずは安心したというところだ。
(先生のおかげで、あと一度くらいは戦えそうだな)
体力と魔量が心もとないが、少し休めばそちらもある程度動けるくらいまで戻るだろう。
「援軍も来たみたいだな。ジーク、少し待っていろ」
ブラントン先生はそう言うと、駆けつけて来た他の先生たちと話し合いを始めた。
その様子を横になって見ていると、
「ジーク……」
エレイン先輩とエリカが俺の横に座った。そして、
「置いて逃げてしまって、ごめんなさい!」
揃って頭を下げてきたのだった。
ただ、エレイン先輩は純粋に俺だけに任せて逃げたのを謝っているのに対し、エリカの方は少し違うようだ。
「いや、あれはそうしないと被害が増えるだけだったし、それに相手に出来そうなのが俺しかいなかったから、足手まといになりそうな二人を追い出しただけのことで……」
「それよ! それが悔しいのよ! 怪我をして戦えなかったんじゃなくて、私は怯えて動けなかっただけなのよ! あいつを見て、自分が敵わないことくらいはすぐに理解できたわ。でも、それでも私たちを助けようとして怪我をした先生を目の前にしても何も出来ず、それどころかジークが助けに来てくれて指示まで出してくれたのに、その通りに動くことすらできなかった!」
二人を逃がしたのは俺の自分勝手な都合だったので気にしないようにと伝えるつもりだったのだが、エリカはそれも分かった上で悔しがっていた。
エリカは出会った時とは違い驕りも無くなり心身ともに成長して実力を伸ばしているので、このままいけばエリカの目標である今代の赤になれるのではないかと周りから言われ始めているのだ。
エリカ自身、そんな周囲の期待に応えるかのように日々努力を重ねているのだが、ソウルイーターという化け物を目の前で見てしまった上に、さらには自分よりも経験豊富な警備員たちがなすすべもなく殺されていくのを見てしまい、それまで積み上げてきた自信が折れてしまたのだろう。
「エリカはあんな化け物を見たのは初めてだったんだろう? なら、動けなくなったのは仕方がない。それは生き物としての本能のようなものだ。今回はいい経験をしたくらいに思っておけばいいさ。実際に、ソウルイーターと相対して生き残った数少ない人物になったんだからな」
今のところ、ソウルイーターに襲われたのに生き残ることが出来たのは、俺にブラントン先生、それにエレイン先輩とエリカくらいなものだ。まあ、間近で顔を合わせて生き残っているとなると、まだ数は増えるだろうが……少なくとも、これ以上増やすつもりはない。
「ジークは……怖くなかったの?」
「うん? ソウルイーターがか?」
「いえ、陛下を助けた時の話……十歳で有名な盗賊を倒したんでしょ? 怖くはなかったの?」
ああ、あいつのことか……エリカには悪いけど、ダインスレイヴのせいで興奮していたせいで、怖いとか感じなかったんだよな……ただ、
「多分、あいつより怖い思いをしたことがあるから……かな?」
あいつよりも何十倍も怖い思いをしたような気がするのだ。それこそ、あの森でダインスレイヴの存在を知らなかった俺を襲い、餌にしようとしたゴリラの時よりも怖い思いをした気がする。まあ、気がするだけで、どんなことを経験したのか思い出せないのだが……確かにしたということだけは、何故か覚えているのだ。
「どれだけ前のことか分からないけど、盗賊が向かってきたことなんか屁でもないくらいに怖い思いをしたはずなんだ。それがどういったものかは思い出せないけど、間違いなく怖い思いはした。それだけは覚えている」
そう言うとエリカは、少し安心したような顔をした。
「ちょっとジーク、もう少し横になっていないと!?」
エリカと話をしていると、大分体の調子が戻ってきた感じがしたので起き上がろうとすると、エレイン先輩が慌てて止めようとしてきた。
「大丈夫です。大分調子が戻ってきましたし、それにこのまま横になっていると、動けなくなりそうですから」
まだやることがあるし……と言うのは口に出さずに、マジックボックスからまた回復薬を取り出して数本飲みほした。
エレイン先輩とエリカからは飲み過ぎだと言われたので、まだあと二~三本くらいは飲めそうな感じだというと怒られてしまった。しかし、これで多少無理しても大丈夫そうだ。
「ジーク、立ち上がって大丈夫なのか!?」
「はい、回復薬も効いてきたみたいで、無茶しなければ大丈夫そうです」
「そうか、まあ、ジークがそう判断したのなら無理に休めとは言わないが……ああ、そうそう、さっき他の先生方と話していたんだが、今回の件はすぐに陛下と学園長に知らせることになった。ジークにも話を聞くことになるが、学園長が戻るまでは待機するように。それと、ジークの謹慎は、今を持って解除されることになった」
教頭などの排斥派がいないところで勝手に決めたようだが、元々俺への罰は反対意見も多かったらしいし、ソウルイーターを追い払った俺を謹慎させておくと、いざという時に動かせなくて被害が広がる可能性があるという考えたのかもしれない。
「分かりました。それじゃあ、失礼します」
「ん? どこに行くんだ?」
話が終わったようなのでこの場から去ろうとすると、まだ用事があったのか先生が声をかけてきた。その後ろには俺の体調が心配なのか、エリカとエレイン先輩も付いてこようとしていた。
「あ~……ちょっとトイレに行こうと思いまして。訓練場のトイレは壊れているみたいですし……」
俺がダインスレイヴで壊した壁は丁度トイレのある場所に近かったので、後者の方のトイレに行こうとしていたと答えた。
「そうか……ついて行かなくても大丈夫か?」
「大丈夫です」
一人で出来ない程動けないわけではないと答えると、先生は笑いエリカとエレイン先輩は顔を赤くしてそっぽを向いていた。
「他に聞くことがあるかもしれないから、謹慎が解けたからと言ってウロチョロせずに、寮で大人しくしていてくれよ」
「了解です」
そう返事をして校舎に入った俺はそのままトイレに向かわずに、目的のものを探して歩き回った。
(いた……それともう一人……あれは確か……)
半分諦めかけていた時にお目当ての気配を感じたので息を殺しながら近づいて、離れたところから隠れて覗いてみると、人気のない校舎の裏で男女の二人組がいるのが見えた。二人は俺に気が付かないまま話しをしている。二人の内一人は俺の探していた人物だったが、もう一人は学園で何度か見かけたことがあると言った程度の人物だった。
二人はしばらくの間話し合いを続け、目当ての人物がもう一人から液体の入った小瓶を渡されたところで互いに別々の方へと歩き出した。
もう一人の方はすぐに姿が見えなくなってしまったが、目当ての方はこちらに近づいてきていたのでそのまま待ち、近くまで来たところで、
「こんなところで何をして居るんですか、チューベローズ先生?」
道を塞ぐように目の前に出て声をかけた。
「あっ、え~っと、ヴァレンシュタイン君……だったわね? 君こそ、こんなところでどうしたの?」
目当ての人物でチューベローズ先生は、いきなり現れた俺に驚いた様子で、一歩後ずさりながら逆に聞き返してきた。
「いえ、ちょっとお目当てのものを探していたら、こんなところまで来てしまいまして……ところで先生……右手の血は止まったようですね?」
そう言うとチューベローズ先生は一瞬で無表情になり、よどみのない動きでナイフを投げてきた。
「やっぱりソウルイーターの正体はお前だったか」
「何故分かった?」
チューベローズ……いや、ソウルイーターはナイフを投げると同時に距離を取ったが、訓練場の時とは違い背中を向けて逃げるようなことはしなかった。多分、銃形態のダインスレイヴを警戒しているのと、俺がどこまで動けるのか分かっていないからだと思う。もっとも、俺もソウルイーターがどれくらい回復しているかは分からないが、背中を向けて俺から逃げ切る自信がないくらいの体力しかないのだろうと予想した。
「鼻がいいからな。お前にこびりついた血の臭いを覚えてここまで追ってきたのさ」
などとソウルイーターの質問に答えたが、実のところほとんど嘘だ。
しかし、訓練場でソウルイーターに接近した時に感じた気配や切りつけた時にわずかに漏らした声、それに体格などからその正体を予測して、一番怪しいと思ったチューベローズを探し、さっき声をかけた時に長袖で隠れていた右腕からわずかに血の臭いがしたので、チューベローズがソウルイーターだという結論に至ったのだ。
ただ、こんなことなら声をかける前に首を刎ねていればよかったとも思ったが、首を刎ねた後で間違いだったとなったら目も当てられないので、絶好の機会を逃してしまったのは仕方がないことだと思うしかない。
「あの時、無理をしてでも殺しておくべきだったか……」
「いや、違う。お前はあのままどこか遠くへ逃げるべきだったんだよ」
ソウルイーターと睨み合いながら、俺はアルゴノーツを右手に持った。左手を空けておけば、勝手にダインスレイヴを警戒するだろうと考えてのことだったが、思った通りソウルイーターは右のアルゴノーツではなく、何も持っていない左手の動きに注意しているようだ。
恐らくだが、ソウルイーターはダインスレイヴが二通りの形態を持っていることに気が付いていないのかもしれない。剣の状態の時は出すところを見ていたはずだが、銃形態に変えた時は背中を向けていたので、俺が剣と銃(高威力の魔法を放てる武器)の二つを持っていると思っているならば、あいつは俺が左手に持つのが剣か銃かで戦い方が変えなければならないはずなので、慎重にならざるを得ないのだろう。
そのまましばらくの間互いに探り合いが続いたが、
「『シャドウ・ストリング』」
俺が左腕をソウルイーターに向けた瞬間、ソウルイーターは左腕に銃形態のダインスレイヴが握られていると思ったのか横に跳んで躱そうとしたので、一気に距離を詰めると同時に奴の動きを鈍らせようと魔法を放った。
どちらに避けるか分からなかったので左右両方に五本ずつ放ったので、奴に絡ませることは出来たが拘束力は半減し、さらに元々シャドウ・ストリングでは一瞬しか動きを止めることが出来ないので、黒い紐は簡単に引き千切られてしまった。だが、少しでも拘束時間を長くする為に上半身ではなく下半身を狙っていたので、エリカの時よりも一拍分程度ではあったが長く動きを鈍らせることが出来た。
そしてその一拍分の時間で、俺はソウルイーターの目の前まで肉薄することが出来た。しかし、
「何!?」
後少しでアルゴノーツをソウルイーターの心臓に突き立てることが出来るというところで、横から俺目掛けて火の玉が飛んできたのだ。
その火の玉は小さかったものの、当たればかなりのダメージを受けてしまうのは間違いない速さがあったので、俺は攻撃を中断して後ろに跳んで回避した。
(威力もかなりある……さっき別れた奴の仕業か!)
見える範囲に人影が無いので違うかもしれないが、状況的にさっきの奴の可能性が一番高いだろう。
思わぬ反撃を食らってしまったせいで、ソウルイーターから距離を取らなければならなくなったが、ソウルイーターは明らかな攻撃の機会が訪れたというのに襲い掛かってはこずに、逆に後ろに跳んで俺から距離を取り、先程渡されていた小瓶の中身を一気飲みしていた。
「お前の方こそ、無理をしてでも剣を俺に突き立てるべきだったな!」
そう言うとソウルイーターは、自分で切り落としたはずの腕を振り上げながら襲い掛かって来た。
(速い! だけど、力なら……いや!)
襲い掛かって来たソウルイーターを迎撃しようとアルゴノーツを構えたが、すぐに嫌な予感がして後ろに大きく跳んで逃げた。
力押しで来るなら負けないと思っていたが、ソウルイーターの目を見た瞬間、何故かガウェインやディンドランさんが突進してくる姿が脳裏によぎったのだ。
そしてその予感は、残念なことに当たってしまった。
(地面が抉れた!? しかも、右手が生えてきた上に大きくなっている!)
ソウルイーターの振り下ろした右腕は、俺が数秒前までたっていた場所の地面を抉り取ったのだ。おまけに地面を抉り取った右手は人と同じような形をしているものの、俺の手よりも二回り……いやそれ以上に大きくなっており、指先はかぎ爪のようになっていた。
そして、すぐに左腕も右腕と同じ形になり体も一回り以上大きくなって、肌は灰色に変色し目は血のような赤へと変わっている。
「何だ、この化け物は……」
目の前に現れた見たことも聞いたことも無かった化け物に驚いていると、
「失礼な奴だな。これでも一応人間だぞ。もっとも、頭に元が付くが……な!」
「ふっ! ……硬くなったみたいだが、攻撃が通らないと言う程でもないか」
ソウルイーターは、一瞬足が止まってしまった俺目掛けて左腕を振るってきたが、躱しながらアルゴノーツで攻撃すると指を切り飛ばすことが出来たので、絶体絶命というわけではないようだ。しかし、もう一人がどこに隠れているのか分からないので、俺が不利な状況が変わったわけではない。
「ちょこまかと……まあ、いい。どうせお前は万全な状態ではないんだ。いずれボロが出る。その時まで、楽しませてもらおうか!」
ソウルイーターの変化は外見だけでなく、チューベローズと名乗っていた時とは違いやけに饒舌になっていた。もっとも、チューベローズの時は演技をしていただろうし、これが素の性格なのかもしれないが訓練場で戦った時は静かだったので、あの液体が何らかの影響を及ぼしていてもおかしくはない。
(身体能力的には、ちょっと不利になったか?)
外見が変わったことで、ソウルイーターの身体能力はかなり上がっている。特に腕力は変化前と比べれば桁違いだろう。
(速度も負けているけど、小回りは俺の方がいいみたいだし、目もついていけている。攻撃もアルゴノーツが通用するし、ダインスレイヴもある。ただ……)
姿の見えないもう一人の横槍が厄介だ。今のところ最初の火の玉以外の攻撃は無いが油断はできないし、そのせいでソウルイーターだけに集中することが出来ない。
(このまま、もう一人の攻撃が限定されるところまで下がれば)
そうすれば、今よりもソウルイーターに集中できる……はずだったが、
「な……えっ?」
背後から俺に向かって何かが飛んできたのだ。
最初は魔法が放たれたのだと思い、大きく横に跳んで躱した時、俺はその正体に気が付いてしまった。飛んできたのが魔法ではなく、この学園の生徒だということに。