第十六話
「エリカ、この後の先輩たちとの訓練だけど」
「ええ、その話が大切なのは十分理解しているわ。だけどね、その前に一つ聞いていい?」
「ああ、いいぞ」
「あなた、訓練の前にどれだけ食べるつもりなのよ?」
「ん? 一応、この後の訓練のことを考えて、腹八分目の一歩手前くらいのつもりだけど?」
エリカとこの後の訓練について話し合いながら昼食にしようと、いつもより少なめに食事を持ってきたのだが、エリカにとってはかなり多く見えたようだ。もっとも、俺からするとエリカの食事量が少ないのだが……普通の女子の昼食って、あんなものなのだろうか? ディンドランさんや騎士団の女性たちはあの五倍は軽く食べていたと記憶していたのだが……
「流石に訓練前は量を少なくするわよ。お腹いっぱいにするのは訓練の後でもいいんだし、食べ過ぎて万全に動けなくなるくらいなら我慢するわ……と言うか、普通はそう考えるはずよ」
「そんなものか。ヴァレンシュタイン騎士団だと、ちゃんと食って動けなくなるのは本人の力不足だと言われていたからな。多分、有事の際には満足に食べる時間が無いということも珍しくないから、食事の回数を減らした分だけ一回あたりの量を増やして、活動できる時間を増やせとか考えているんだろうな」
特に俺の場合、年齢のせいで体が出来ていなかったから、沢山食わせて吐くほど訓練し、訓練後に吐いた倍の量を食わせて体を作る……などと言う、馬鹿みたいな計画(立案者ガウェイン)のせいで、今でも食べる量が人以上なのだ。まあ、それでもガウェインやディンドランさん程食べられるわけではないのだが……そんなことを知らないエリカからすれば、俺の食事量は訓練前として考えれば常識外れなのだろう。
「話は戻るけど、今回の先輩たちとの訓練だけど……」
「そのことだけど、今回はジークが前に出てちょうだい。そして、私が後ろに回るわ。そうすれば、ジークが先輩たちを倒す時間くらいは稼げるはずよ」
今回の俺の考えを言おうとしたところで、エリカからから提案があったが……
「それだと、もう一度先輩たちとやる意味がないだろ。何せ俺は一度、一人でエレイン先輩たちに勝っているんだし」
「あっ! それもそうよね……じゃあ、何の為にもう一度訓練を頼んだの?」
すぐに却下した。その理由を言うとエリカも納得していたが、それだったらどうするのかと聞いてきた。
「そもそもエンドラさんが俺とエリカを組ませてあんなルールを作ったのは、俺とエリカの為になるからの筈だ。それは、エリカには格上相手に戦う経験を、俺には……言いにくいけど、自分より弱い奴を守りながらどう戦うかと言う経験を積ませる為だと思っている」
だからエンドラさんは、あの時連戦をさせずに切り上げさせたのだろう。あそこですぐに再戦していれば、間違いなく勝つことを目的にしてエリカは後ろに下がっただろうし、俺もエリカの前に出ただろう。
だけど、それだと勝っても意味がない。せいぜい、エリカに先輩たちの倒し方を間近で見せることが出来るくらいだ。それなら、エンドラさんが考えていたのと同じようなことをやって負けた方が、いつもでは選ばないだろうやり方を試した分だけ後々の為になるだろう。
「だからエリカ、次の訓練では俺がエリカの後ろでサポートする。エリカはいつもと同じように戦え。エリカの後ろや左右から攻める先輩は俺がけん制するから、まずはエリカの目の前の先輩をどうにかしよう。ただ、何かあれば声を出すから、集中しすぎるのはよくない。出来るか?」
「一つ聞くけど、私と先輩たちが一対一で戦った場合、勝率はどれくらい?」
「エレイン先輩なら七三でエレイン先輩、他の先輩ならほぼ互角、悪くても六四無いくらいだと思う」
「それなら、エレイン先輩が最初に来ない限り十分勝ち目はあるわね」
「一回目はエレイン先輩が俺に向かってきたから、次はエリカの方に向かうことも考えられるが、その時は俺とエリカの位置を変えればいい。先輩たちが想定以上の連携で来られれば、付け焼刃の俺たちじゃ対応しきれないかもしれないけど、これは訓練なんだから勝ち負けは二の次だ。まずは、最初とは違う方法やり方を試すことに集中するべきだと思う。何せ、訓練は本番の為にやるんだから、失敗してもいいわけだしな」
俺もガウェインから一勝する為に何度……いや、何百回ボコボコにされただろうか? ただ、その経験があるからこそ一対一で先輩たちを圧倒できるわけだし、今回も駄目だったら次は新しい方法を試せばいいのだ。学校の訓練ではよほどのことがない限り死ぬことは無いだろうし、それだけ安全に色々なことを試せる場なのだ。
「ありがたいことだよな……ガウェインとディンドランさんの相手をした時、何度死ぬかと思ったことか……実際に、最低でも三回は心臓が止まっていたとかランスロ―さん言ってたし……」
最低でもと言うのは、ランスロ―さんが実際に蘇生を試みたのが三回と言うだけの話で、それ以外でも怪しい時があったからだそうだ。
「……そう、確かにそれなら、ジークがそこまで強くなった……いえ、強くならざるを得なかったのも当然ね」
流石のエリカも、ガウェインやディンドランさんの蛮行に引いたようだ。まあ、実際には心臓が止まっても、騎士団には治療が得意な騎士もいるし、ヴァレンシュタイン家の使用人の人たちもそう言った心得があるので滅多なことは起こらない。それに何よりこの世界には魔法があるので、頭が吹き飛んだり心臓が完全に破壊されたり、体の大半を吹き飛ばされたりしなければ回復魔法でどうにかなることもあるのだ。すごい話になると、回復の魔法が得意な魔法使いが下半身を吹き飛ばされた仲間の命を救っただけでなく、失った部分を再生させたというものまであるのだ。まあ、流石にそこまで行くと信憑性はほとんどないとのことだが、エンドラさんによれば回復魔法に特化したレベル10であれば、もしかすると可能かもしれないとのことだった。
「どちらにしろ、先輩たちとは今日だけじゃなく今後も戦う機会はあるだろうから、気になったやり方は出来るだけ試した方がお得だろう」
「確かにお得ね」
二人して同時に笑ったせいで周囲からは何事かと驚かれたが、笑っているのが俺とエリカだと分かるとすぐに静かになった。
「それではこの間と同じように体をほぐして、それから訓練に入りましょう。今回はすぐにカレトヴルッフさんたちとジークたちに戦ってもらいますから、双方そのつもりで」
エンドラさんがそう言って俺たちに準備運動をするように指示を出すと、この間と同じようにそれぞれパーティーメンバー(ただしエリカは俺と)と組んで運動を始めた。
「それにしても、今回はかなり他の生徒が見に来ているな」
「これでも人数を制限したそうよ。流石に施設を使うとはいえ、本来なら秘密にしておきたいこともあるからね。まあ、私は無いけど」
俺は秘密にしたいことがあるにはある(今代の黒と言うこととダインスレイヴ)が、基本的に学園で使うつもりがないのでそう言った意味では見物人がいても問題は無い。
「確かに、見られて困ることは無いな。もし対策を採られても、その上をいけばいいだけのことだし」
「言うな、ジーク……つまり、今回は俺たちの上を行くという、宣戦布告のつもりか?」
俺とエリカの話が聞こえたらしい先輩が、わざわざ近寄ってきて茶化してきた。
「馬鹿なことを言ってないで、早く準備運動を終わらせるわよ。それに、元々私たちの方がハンデを貰っている状況なのに、偉そうにしていると恥ずかしい思いをすることになるわよ」
「分かってるって、ちょっとくらい先輩っぽい忠告をしたかっただけだ……冷静になって考えると、先輩というよりは噛ませ犬っぽい気がするな……ジーク、さっきのは無しだ」
などと言い残し、先輩は笑いながらエレイン先輩と元の場所に戻って行った。
「エレイン先輩、さり気なく私のことをハンデって言ったわね……」
エレイン先輩はそう言う意味で言ったつもりは無かったのだろうが、エリカにすれば先輩たちと俺との差を無くす為に入れられたという思いがあるので、静かに切れかけていた。正直、エレイン先輩を尊敬しているエリカにしてみると、かなり珍しい光景だ。
「そろそろ始めましょうか? 今日はギャラリーが来ているけど、気を取られずにいつも通りにね」
エンドラさんとしても、学園の生徒である俺たちを見世物にするようなことは避けたいらしく、見学に来ているのは今年入学した中等部の一年生の中で希望した生徒だけだそうだ。ただ、その中に紛れて、何人か他の学年の生徒も交じっているみたいだが……それはあえて見逃しているようだ。多分、忍び込んでまで見ようとしたその根性を評価したのだろう。まあ、終わった後でどうなるかは分からないが。
「それじゃあ、準備は……ジーク、あなたはそれで戦うのね? まあ、いいでしょう」
今回の訓練では俺だけこの間と装備が違い、同じ長さの木剣を二本持っている。エンドラさんはそこのところが気になったようだが、実際にヴァレンシュタイン騎士団の訓練で何度か使っているところを見ているのを思い出したのだろう。
単純な考えではあるが、これで手数は倍まではいかなくとも増えるし攻撃範囲も広がる。
「準備はいいわね……始め!」
エンドラさんの合図で、エレイン先輩たちはこの間とは違い、エリカにエレイン先輩が、俺に三人の先輩が向かってきた。この間とは逆の人数で攻めるようだ。
しかし俺とエリカもこの間とは違い、合図と共に後ろに下がった。そして、
「作戦変更よ! 二人を包囲するわ!」
俺とエリカを見て、向かってきていたエレイン先輩たちもすぐに動きを変えた。
前回は俺とエリカは横並びで、しかもエリカが自由に武器を振り回せるように間隔をあけていたが、そこに割り込まれたのが敗因の一つだった。
なので今回は、先輩たちに対して縦並び……エリカが前で俺が後ろに立つことにしたのだ。これならエリカは後ろ以外武器を自由に振り回せるし、死角となるところに俺がいることで背後を気にする必要はない。
そして俺は、元々エレイン先輩たちを同時に相手した時に囲まれても勝っているので、後ろを取られても対処は可能だ。
「エリカ、後ろは防ぐから、見える範囲に気を付けろ!」
「分かったわ!」
基本的に、人数で負けている俺とエリカは下手に動いて死角をつくらない為に受け身となるが、逆に先輩たちは体を揺らしながら視線を誘導して死角をつくろうとしている。
その為、互いに大きな動きが無かったのだが……エレイン先輩がエリカの正面に来た時、俺が右手の木剣を地面に叩きつけた音を切っ掛けにして、先輩たちが一斉に動き出した。しかし、
「ぐっ!」
「エリカ、エレイン先輩を正面から叩き潰せ!」
「ええっ!」
俺は音で先輩たちがつられて動くだろうと予想していたので、先輩たちが動き出した瞬間に左の木剣を左から迫って来ていた先輩に投げつけた。木剣を投げつけられた先輩は、木剣が飛んでくるとは考えていなかったようで、木剣は先輩の腹部に思いっきり命中し、先輩は転んでもだえ苦しんでいた。
いきなり仲間の一人が倒れ、標的にしていたであろうエリカが前に飛び出したので、エレイン先輩は思わず足を止めてしまったようだ。それは、エレイン先輩にとってかなりの悪手だろう。
予定が狂ったのは他の先輩も同じようで、特に右から攻めて来ていた先輩はエリカに気を取られて完全に俺から目を離していた。なので俺は、
「しっ!」
「ぐあっ!」
左側の先輩と同じように木剣を投げつけて転がした。
「くそっ!」
そして、俺の背後で攻撃態勢に入っていた先輩の攻撃をかわし、体勢の崩れた先輩の腕を掴んで、
「よっと!」
ひねるようにして投げた。そして、仰向けに倒れた先輩の胸を踏みつける真似をしたので、一応これで戦闘不能の判定になるはずだ。
「エリカ! 左から先輩が向かおうとしている! もう少しエレイン先輩を押し込むんだ!」
「了解!」
右から攻めて来ていた先輩は、倒れはしたが戦闘不能と言えるほどのダメージではなかったようで、すぐに立ち上がろうとしていたが、それよりも先にエリカに指示を出して距離を広げさせることにした。そしてその間に、俺は再びエリカに向かおうとしていた先輩に追いついて体勢を崩し、
「そこまでです」
「参った!」
うつぶせに倒れた先輩の後頭部に拳を添えると、先輩はエンドラさんに聞こえるような声で降参した。
これであとはエレイン先輩を倒せば、俺とエリカの勝ちとなる。なので俺は立ち上がって、
「エリカ! 後はエリカがエレイン先輩を倒せば俺たちの勝ちだぞ! そのまま攻め続けろ!」
と叫んだ。エリカからは返事こそなかったが、先程よりも攻撃が激しくなっているので聞こえてはいるのだろう。
「いいのか、ヴァレンシュタイン? ここでお前も加われば、勝利は確定するだろ?」
「ええ、俺とエリカがこの訓練で勝つのも大事ですけど、それ以上にエリカがエレイン先輩に勝つ方が大事ですから」
この訓練が俺とエリカの成長の為に組まれたのだとすれば、エリカが独力でエレイン先輩に勝つ必要がある。
「それに、流れは完全にエリカにありますから、流石のエレイン先輩もここから逆転するのは難しいでしょう」
「まあ、確かにそうだな。それに、そろそろ限界だろうしな」
先輩が諦め気味にそう言った時、
「あっ……降参! 降参よ!」
エレイン先輩が負けを認めた。流石に武器が壊れた状態では、これ以上エリカを相手にするのは無理だと判断したようだ。しかし、
「ヤバい! エリカの奴、完全にキレてる!」
「興奮しすぎだ! 誰でもいい、フランベルジュを止めろ!」
エリカは興奮しすぎて、エレイン先輩が降参したのに気が付いていないようだ。エレイン先輩はエリカの攻撃を折れた剣で凌いでいるが、あれでは持たない。しかも、審判であるエンドラさんも、二人からは俺よりも離れた位置にいるので間に合いそうにない。
「あの馬鹿が! 間に合え!」
本当は使いたくない技だが、これまで秘密にしていた魔法を二人に向けて放った。
その魔法を発動した瞬間、俺の影から十本の黒い帯が凄まじい速さで二人に向かい、走っていた先輩たちを追い抜かしてエリカとエレイン先輩に絡みつき、
「ぐっ!」
「きゃっ!」
二人を引き離した。ただ、エレイン先輩に空に着いた帯は先輩の体を後ろに引っ張ることが出来たが、エリカに絡みついた帯は一瞬動きを鈍らせただけで、簡単に引き千切られて消えていた。
「何とか間に合った……」
速さにはそれなりに自信のある俺でも、流石に数十m先にいるエリカとエレイン先輩の間に一瞬で割り込むようなことは出来ないので、速くて二人を引き離すことの出来る魔法を使ったのだが、それでもギリギリだったので冷や汗ものだった。しかも、エリカを完全に拘束できないとは思っていたが、動きを止めるどころか一瞬鈍らせるだけしか出来なかったのも想定外だった。もしも魔法を使うのが一瞬でも遅れていたら、エリカの一撃がエレイン先輩に直撃していたかもしれない。
「あっ! エリカの奴、エンドラさんに捕まった。ここから地獄の説教だな……」
勝負の中なので勢いが付き過ぎるのは仕方がないとはいえ、周りが見えなくなるほど集中……いや、暴走するのはいただけないし、おまけに今回はエレイン先輩が降参しているのに、その後でも数回攻撃してしまっているのだ。わざとではないとはいえ、かなりの問題行動だ。それこそ、停学もありえる程の。
「し、死ぬかと思ったわ……ジーク、助けてくれてありがとう」
「いえ、俺もちょっとエリカを煽り過ぎたかもしれませんし……」
エレイン先輩はエンドラさんに無事を確認されたあと、先輩の肩を借りて俺の方へ足を震わせながらやって来た。多分、先輩が言った死ぬは比喩表現ではなく本心からの言葉だろう。それくらいの恐怖と、直撃しなかったとはいえ、エリカの連撃を防いだことによるダメージはかなり大きいものだったらしい。
「ジークのはまだ普通の応援の範囲内だから、煽り過ぎと言うことは無いと思うわ。実戦訓練なのだから、ああいったこともたまにはあるわよ。一応、先程のエリカの行動は訓練の中でのことだからと学園長には言ったし、学園長も頷いてはいたけれど……多分、それはそれこれはこれみたいに思っているわよね。ただでさえ小柄なのに、怒られて一回り小さくなっているように見えるわ」
エリカはその場でエンドラさんに怒られて、体を縮こませている。時おり二人から離れたこの位置までエンドラさんの声が聞こえてくるので、かなり厳しい説教がなされているらしい。
「それにしても、あの魔法は見たことが無いがどういったものなんだ?」
エンドラさんのせいでちょっと悪くなった空気を換えるように(別にエンドラさんが悪いわけではないが、それくらいエンドラさんが怖かった)、エレイン先輩に肩を貸している先輩が話題を変えようと俺にさっきの黒い帯のことを聞いてきたが、
「あれは黒魔法の一つなんですけど……正直言うとあまり表に出したくない隠し玉の一つだったので、詳しく聞かないでもらえると助かります」
エリカの動きを止めることが出来ない程度の強度しかないが、かなり広範囲に広げられる魔法だし、今後の訓練次第ではもっと強度は上がるはずなので、いざという時まで隠しておきたい魔法だったのだ。まあ、先程のはまさにいざという時と言って間違いない状況だったので、使ったことに後悔は無いがあまり詳しく聞かせたくもないのだ。
(しかし、エリカを一瞬しか止められないとなると、まだ実戦で使うには心もとないな。あれだと、ガウェインやディンドランさん相手だと、蜘蛛の糸が絡んだ程度にしか思われないかもしれない……まあ、それでも嫌がらせ程度にはなりそうだけど、逆に俺の方が隙を突かれそうで怖いな)
今のところはどう考えてもリスクの方が上回りそうなので、ガウェインクラスの相手に使うのは止めた方がいいだろう。まあ、実戦での隠し玉がそのレベルに達していなかったと分かっただけでも、使った意味があったと思うことにしよう。
「それにしても、エリカの爆発力はすごいわね。まだ粗削りだけど、物理的な攻撃力だけを見れば、学園でも一番でじゃないのかしら?」
「多分、学園どころか現役の騎士に交じってもいいところに行くと思いますよ。ただまあ、それしかないので、実際に相対したら一流と呼ばれる騎士には通用しないと思いますけど」
「それ、私が一流じゃないように聞こえるんだけど?」
「エレイン先輩は本来近接戦で戦うタイプじゃないでしょ? それがバリバリの前衛タイプに張り合ってどうするんですか? 例え今代の緑であるエンドラさんでも、総合力で劣るガウェインやディンドランさんと魔法なしで近接戦闘を行えば負けちゃいますよ」
格上が格下に負ける場合、終始ペースを握られるか不利な状況で戦ったことが原因だったりすることが多いのだ。
「だから、あまり気にすることは無いと思いますよ。そもそも、あの細い木剣でエリカが思いっきり振るうハルバードと打ち合うこと自体が無理な話ですし」
「打ち合いに持ち込まれた時点で負けということね」
「つまり、そういった状況に持ち込ませたヴァレンシュタインの作戦勝ちということだな」
次に同じ条件で戦えば対策されるだろうが、俺たちも次は違う方法を模索すればいいだけの話だ。それに、俺とエリカにとって慣れない連携でも戦略の幅が広がり、実際に勝つことが出来ると言うのはいい経験になった。
そう言った意味では俺の隠し玉がバレてしまったけれど、それ以上の収穫があったと言えそうだ。
まあ、エリカにとって最後の最後でエンドラさんにお説教を食らってしまったのは想定外のことだっただろうけど。
なお、俺にもエリカの後に連帯責任ということで説教されるという、想定外が待っていたのだった。