第九話
「色々作ってきましたね……」
ざっと見ただけでもジュースが二種類に、切った数種類の柑橘類とリンゴの盛り合わせにすりおろしたリンゴ、後はジャムと焼いたパンとサンドウィッチがある。
他にもいくつか煮て作ったと思われる料理があるが、甘いにおいがする以外はよく分からなかった。
「ええ、どういった物が口に合うか分からなかったし、口に合っても胃が受け付けるとは限らないからね。残ったとしてもジークがいれば保存は出来るから、つい張り切ってしまったわ。あっ! 他にもまだ焼き菓子が残っているけど、そちらは元気になってからの分よ」
まだあるのか! と思ったが、サマンサさんの言う今のエリカの体が受け付けられるのものが分からない以上、多くの種類を用意するというのは理にかなっていると思うし、残った分は俺が保管しておけば無駄にならないのは確かだ。
ただまあ、それでも作り過ぎた感は否めないけど。
「エリカさん、まずはリンゴのジュースを飲んでみて。それでなんともないようなら、他のも試してみましょう」
「ありがとうございます。いただきます」
流石にエリカに直接食べさせるようなことはしなかったけれど、サマンサさんは自分でコップにジュースを注いでエリカに渡していた。
他家のメイドの仕事を奪うようなことにならないかと思ったが、そのメイドたちはサマンサさんにコップを渡すなど手伝いに専念しているので、一応その辺りの話はついているのかもしれない。
その後、エリカはリンゴジュースを飲んで食欲が出たのか、すりおろしたリンゴや切り分けた柑橘類に手を伸ばしていたがパンはまだ体が受け付けなかったらしく、一口食べただけで皿に戻していた。
「やっぱりパンはまだきついみたいね。リンゴも柑橘類もまだ残っているから、お腹がすいたらジークに出してもらうといいわ」
そう言うとサマンサさんは、残った果物やパンを俺に渡してきたのだが……それらをマジックボックスに入れている間、ディンドランさんの視線が俺とサマンサさんの手元に向けられているのを俺は見逃さなかった。
流石に病人用に作ったものを食べさせろとは言わなかったが、今のエリカなら残すかもしれないから、食べることが出来るだろうくらいは考えているはずだ。
「エリカ、入るぞ」
あと少しで全て入れ終わるというところで、ドアがノックされてフランベルジュ伯爵が部屋に入って来た。その後ろにはカラードさんもいる。
「サマンサ夫人、エリカの為に料理をしてくれたと聞きました。感謝します」
伯爵がサマンサさんに頭を下げると、サマンサさんもすぐに頭を下げていたが、その間にカラードさんは俺とディンドランさんに視線を向けて……ディンドランさんの態度に何か不審なところがあるのを感じたのか、何か言いたそうな目で俺を見ていたが、割といつものことだったので、何もないという意味を込めて首を横に振ると、カラードさんは納得したみたいでそれ以上は追及する様子を見せなかった。
「ジーク、ヴァレンシュタイン伯爵にもお願いしたのだが、今日は我が家に泊まって言ってくれ。見たところ大分エリカの顔色はよくなっているようだが、ジークの助けが無くなるとまた悪くなって火事が起きてしまうかもしれないからな」
「ええ、それは構いませんが……流石にこの部屋に俺とエリカだけというわけにはいきませんので、そちらからも人を出してください」
いくら婚約者とはいえ、有事でもないのに結婚前に同じ部屋で寝泊まりしたとなれば騒ぐ馬鹿が出てくる可能性があるので、あくまでも今回は治療目的であり、俺は複数いた内の一人と言うことにした方がいいと思ったのだ。
「それは当然だ。手伝いとして数名メイドを待機させるし、俺も何度か顔を出すつもりだ。後で騎士たちに、ベッドを二つ持ってこさせよう」
伯爵が直接確認したとなれば、変な勘繰りを表立ってする奴はいなくなるだろう。
ただ、いくらこの部屋が広いと言っても、流石にベッドを三つ入れて、おまけに俺の用の簡易トイレまであるとなると少し狭くなるので、休憩はソファーと椅子を利用することにしてベッドは遠慮した。
と言ったところで、
「カラード様、私も数に入っているのでしょうか?」
ディンドランさんが伯爵を気にしながらカラードさんに質問した。
「当然だ。もしジークが何かの間違いを起こそうとした時に、我が家から体を張って止める者を出さないといけないからな」
そんな質問にカラードさんは、何を言っているんだと言った表情でディンドランさんに答えた。
「確かに、ジークが間違いを起こさないように見張る者は必要ですね。了解しました」
ディンドランさんはエリカを気に入っているから、別に残るのが嫌だと言ったわけではなかったのだろうが、いきなり言われて驚いたのは確かだろう。
ただ、二人して俺で遊ぶ……いや、サマンサさんと伯爵も笑っているので、俺で遊んでいるのは四人だな。この後エリカと気まずくなりそうなので、マジでやめてもらいたい。
「いや、まあ、ふざけるのはここまでにして、ジークもディンドランがいた方が何かと便利だろうしな。流石にジークの婚約者とはいえ、ガウェインのような他家の男性騎士を同じ部屋に置いておくことはできないから、何かあれば遠慮なくディンドランを使うといい」
笑う四人を見ていると、何となくシャドウ・ストリングをいじってしまっていたのだが、俺の手の動きに気が付いたカラードさんが慌てて笑うのを止めてちゃんとした理由を話した。
その反応で気が付いたが、今の俺はダインスレイヴを出したままなので、いつでも意趣返しが出来る状態だったのだ。
しかもエリカの為に考案した新技は、ピンポイントでダインスレイヴの能力を使うことが出来るので、お仕置きにもってこいの技でもある。
「そうね、ちょっとからかい過ぎたわ。ディンドラン、私たちはそろそろ帰るけど、ジークだけでなくエリカさんの手伝いもちゃんとするのよ」
「え? は……えっ⁉ ちょっとサマンサ様、カラード様!?」
俺の手元とカラードさんの反応に気が付いたサマンサさんも、慌てて笑うのを止めて俺から距離を取り、仕返しをされない内にディンドランさんを囮にするかのようにフランベルジュ家から帰ろうとしていた。
そして切り捨てられたディンドランさんは、自分がいかに危うい状況に追い込まれているのか気が付き慌てていたが、二人はそんなディンドランさんを無視し、不思議そうな顔をしているフランベルジュ伯爵と共に部屋を出て行った。
まあ、確かにイラっとしたし、新技を使えば気が晴れるだろうと考えはしたが……あの二人に対して、その程度で危険な仕返しは出来ない。
そしてそれは、ディンドランさんにも当てはめたいところだが……ディンドランさんに対してはあの二人に対する程の心のブレーキは働かないので、時と場合と俺の気分次第だ。
一応、本人は俺の手伝いをしてくれる気はあるみたいなので、俺は一人残されたディンドランさんに、
「今日はよろしくお願いしますね」
と、自分なりの笑顔を向けたら、思いっきり目を逸らされた。
それから帰るカラードさんたちを部屋で見送り、エリカが体を拭くというのでディンドランさんとメイドに部屋を追い出され、トイレに行きたいと言えば部屋に閉じこもっているように言われ、俺がトイレに行きたいと言えば部屋の隅の仮設トイレを指さされ……と言った感じで、なかなか扱いがひどかった。主にディンドランさんからの扱いが。
まあ、ひどいところはあったが理不尽とまではいかなかったので我慢できたし、ディンドランさんがいたから俺も仮眠をする時間が取れたのだが……ふと、朝方に仮眠から目を覚ました時に気が付いてしまった。
それは、
「もしかしなくても、エリカがトイレに行っている間俺が部屋で待っていても問題が起きていないということは、逆に俺も仮設トイレを使わなくていいのではないか?」
という、よく考えたら当たり前で簡単なことだった。
「そう言えば……そうね? 逆になんで気が付かなかったのかしら?」
俺の代わりにエリカを見ていたディンドランさんは、最初起きたばかりで何を言っているのかという視線を向けてきたものの、すぐに言われてみればと言った感じで首をひねっていた。
多分、エリカに部屋の中の仮設トイレを使わせるわけにはいかないが、男の俺なら大丈夫だろうとか、緊急時だからそう言うものだとか、せっかく仮設トイレを作ったのだから利用するのが当然とかいう考えが重なった結果なのかもしれないが……あまりにも間抜け過ぎて逆に笑いそうになってしまい、エリカを起こしそうになり慌てて口を塞いだ俺とディンドランさんだった。
なお、日が上がってから様子を見に来た伯爵とメイドにそのことを話したところ、全員がそのことに気が付いていなかったというのが分かり、今度こそ笑いが堪えられずにエリカを起こしてしまったのだった。
「昨日よりは魔力が安定してきているようね。どう思いますか、師匠?」
「そうね……昨日の状態を知らないから確実なことは言えないけれど、今すぐに危険という感じはしないわね。ジークはどうなの?」
「昨日と比べると、今日はダインスレイヴで吸い取る魔力の量を少なくしていますけど、今のところ問題は無いので早ければ今日の夜か明日には落ち着くと思いますが、初めてのことなので油断はできないと言った感じですかね」
昼前にサマンサさんがエリカの様子を見に来たのだが、昨日の内に連絡が行っていたのかエンドラさんも一緒だった。
まあ、エンドラさんも同じような症状が出たことがあるというし、何よりもこの国で一番魔法に詳しいと言って間違いない人物なので、状態を見てもらえるのは俺としてもありがたいことだ。
ただ、流石に昨日の状態を知らないことにははっきりとしたことは言えないらしく、あくまでも今の状態を見た上での感想と言うことにはなるが、それでも心強いことには違いない。
「それにしても赤の属性が得意な人はこういった感じの症状が出るのかしらね? 緑の私の時は風のようになりたい、風と一体になりたいという欲求が頭の中を支配していたし、黒のサマンサの時は……とても積極的になったそうだし、ジークは?」
サマンサさんが教えてくれたこととは少し違う話だったが、言い方の違いと言う範囲だろう。まあ、少し引っかかりはしたが。
「俺の時は多分ですけど、森をさまよっている時に感じた……まあ、殺戮衝動とまでは言いませんけど、ダインスレイヴを使って敵を倒したいという感じの戦闘衝動と言う感じですね」
あまり大っぴらに言うことは出来ないが、あの時の俺はダインスレイヴで相手から魔力を奪うことに酔っていたところはあったと思う。
それがエンドラさんのいう症状なのか、ダインスレイヴによる反動なのか、はたまた俺の奥底に潜んでいた欲望から起因するものなのか分からないのが怖いところではあるが、あれ以来あそこまで感情がすさむことは無かったので、今後もなければいいが……もしあれがエンドラさんのいう症状であったならもう発症しないはずとのことなので、多少は安心できるというところだ。
「しばらく見ていた感じだと、これなら問題なさそうね。ただ、念の為ジークは最低でも今日明日くらいは残った方がいいと思うわ」
夕方までフランベルジュ家にいたエンドラさんは、その間ずっとエリカの体調が安定しているのを見て、後は収まるだけだろうと判断してエリカたちを安心させた。
ちなみにエンドラさんとサマンサさんは、フランベルジュ家にいる間は基本的にエリカのいる部屋に滞在し、本を読んだりお茶したりとのんびりしていたので、もしかすると暇つぶしや休養を兼ねていた可能性がある。
特にエンドラさんは、近いうちにファブールが交渉に来るということで参加させられることが決定しており、その関係で少し忙しいそうだからなおさらその可能性が高い。
なお、二人が来た時のエリカは寝ており、起きたのは少し時間が経ってからだったのだが、目の前にエンドラさんがいることに気が付くとかなり驚いていた。
「それじゃあ、そろそろお暇しましょうかね?」
「そうですね。もうすぐ夕食時ですし、あまり長居しては迷惑になりますね」
すでに何時間も滞在しているはずなのですが……とは言えなかったので、聞かなかったふりをして二人を見送ったのだが、丁度二人が部屋を出たところでメイドがやって来て、食事を一緒にと言う話になった。
流石にサマンサさんはカラードさんが待っているので断りを入れたが、エンドラさんはせっかくだからと食べていくことになったのだった。
その際、俺も一緒にどうかと伯爵が言ったそうだが、エリカのそばをあまり離れるのはよくないので断ろうとしたら、
「せっかくだから、私も同席するわ。あまり食べられはしないでしょうけど、ずっと横になり続けていたせいで体が少し硬くなっているし、同じ景色ばかりだと気が滅入ってくるから、元気がある時に少し歩いておきたいしね。それに、ジークがいればまた体調が崩れてきても大丈夫でしょ?」
と、明らかに俺とディンドランさんに気を使っているように感じたが、多少は本音も混じっているようだったので、その言葉に甘えることにした。
その日の夕食はエリカが参加するということで割と質素なものが多かったが、実際にはかなり手の込んだ料理ばかりだったおかげでエンドラさんも大満足して賞賛し、エリカの体調が回復してきているのを間近で見た伯爵がは大喜びしたせいで、かなり賑やかな食事だったのだが……その中で、不気味なほどに静かな人物がいた。それは、
「なあ、エリカ……エイジの奴も調子が悪いのか?」
エリカの弟のエイジだ。
エイジはかなりのシスコンなので、今のエリカを見れば伯爵と同じかそれ以上に騒ぎそうなはずなのに、今のエイジはその存在を忘れてしまうくらい影が薄かった。
「ん~……ああ、エイジね。エイジは、私がボヤ騒ぎを起こして寝込んだ後、私の部屋に来て大騒ぎしたのよ……それで、ちょっと叱ったら……」
その説明だけで大体のことが分かった気がする。
要は体調を崩したエリカを心配したエイジがあれこれ騒ぎ、恐らくは体調が悪くて余裕のなかったエリカに辛辣な言葉でも浴びせられたのだろう。
それよりも、
「伯爵、エリカがそろそろ限界のようです」
「ん? お、おお、そうか……悪いがジーク、エリカを運んでくれるか?」
「分かりました」
エリカが戻るということは俺も戻るということで、ついでに見張り役を自任しているディンドランさんも食事はここで終了ということだ。
まあ、それを見越していたであろうディンドランさんは、十分過ぎるほど食事を楽しんでいたので問題は無いだろう。
「それじゃあ、私もそろそろお暇しましょうかね。フランベルジュ伯爵、今日はごちそうになりました」
エンドラさんもここで切り上げるようで、伯爵に礼を言って席を立った。
「エリカ、背中に乗るか?」
「そうね……お願い……」
エリカはかなり眠いようで、今にも意識を手放してしまいそうな状態で、俺の背中に乗ってきた。
「そこはお姫様抱っこじゃないのかしら?」
「普通はそうですよね?」
そんな俺たちを、背後で見ていたエンドラさんとディンドランさんが呆れたような声で話していたが……なぜそれが普通なのか俺の方が知りたい。
何を期待していたのかは知らないが、ここからエリカが使っている部屋までそれなりの距離があるのに、その距離を横抱きの状態で運ぶのは危険だし、仮に運んだとしたらその最中にエリカは首を痛めてしまうだろう。
そもそも、あれは意識のない人間を運ぶのには向いておらず、やるとしても子供相手か体格さのある相手か、もしくはごく短距離のみに限った方がいい方法であり、それ以外でやって問題が起きないのは創作物の中ぐらいなものだ。
というわけで、俺は後ろでがっかりしている二人……いや三人を無視してエリカを部屋へと連れ行きベッドに寝かせた。
もちろん、おんぶで静かに丁寧に運んだので、途中でエリカが起きることは無かった。
そして次の日、
「エリカさん、ジーク、失礼するわね」
「お邪魔するわよ」
またしても朝早くからサマンサさんとエンドラさんがやってきた。
「暇なんですか?」
「そうね、最近では使える教師が増えてきたから、遠慮なく仕事を回せるのよね」
「私は仕事が少ない方だけど、師匠と違ってちゃんと終わらせてきたわよ……というか、今日来たのはエリカさんの様子を見る目的もあるけれど、仕事の一部でもあるのよ」
思わず口から出た言葉に、エンドラさんは悪びれる様子もなく答え、サマンサさんはそんなエンドラさんとは違うと言い切った。
そんなことよりも、ここに来たのが仕事の一部というのが気になる。
まさかその仕事がエリカに関係するものではないだろうし……などと考えていると、
「ジーク、ファブールの使者が来る大体の日取りが決まったわ。今日からおよそ三十日後ね」
思っていたよりもちゃんとした仕事だった。
まあ、仕事と言ってもヴァレンシュタイン伯爵家内の連絡事項のようなものであり、何ならサマンサさんが直接伝えに来なくてもいいようなことなので、どちらかというとその仕事の方がエリカの様子見のついでだろう。
「まあ、確かに仕事と言えば仕事ですね……だとすると、エンドラさんも何かあるんですか?」
一応、王国にとってファブール関係の話は現時点では最重要と言っていい話なので、ついでだとしてもサマンサさんが来た意味は理解できた。
そうすると、同じようにエンドラさんも何かあるのかと思ったが、
「私はジークの言う通り暇だからよ。これっぽっちも仕事とは関係がないわ」
こちらは完全なサボりだった。
「それで、およそ三十日後と言うのはどういう意味でしょうか? 普通はちゃんと日にちを決めるものではないですか?」
今回の会談は、向こうが王国の領土を侵略し占領していたことに関するものだ。
普通に考えれば、大体とかいう言葉が使われることはおかしく、王国側がいつ何時に来いと命令し、ファブール側がそれに合わせるのが両国の力関係的にも正しい形のはずだ。
「つまり、相手は普通ではないということでしょうね。勝手に第三国である聖国を間に入れて話を進めていることからも分かることだわ」
確かにファブールはバルムンク王国の属国ではないから、第三国に助けを求めるのはおかしな話ではない。
だが、あくまでもそれは、王国側がファブールの領土に攻め込んだか、ファブールが戦争に勝っている場合の話だ。
今回は開戦理由にあやふやなところがあるものの、戦場になったのは王国の領土内であり占領されたのも王国の街だし、戦争に負けたのはファブールの方だ。
こんな条件を出されたら、それを理由に王国がファブールに攻め込むということもあり得る。
「ジークが何を考えているか当ててあげましょうか? 多分こうね。使者が来るよりも前に攻め入って、旧ファブールのよさそうな場所を褒美としてもらってやろう! ってところよね?」
「いや、勝手な妄想を俺に押し付けないでください!」
エンドラさんは完全に遊んでいる……と言うか、俺で暇潰しをしているが、そんなことを言い出したらますます周りから危ない奴だと思われてしまう。まあ、このまま使者を待たずに攻め入るのもある種の手だとは思ったけれど。
「俺としては、攻め入るにしてももう少しファブールがやらかしてからの方が、周辺国を納得させやすいとは思いますけど、そう考えない奴もいますよね? 特に、今回の戦争に参加できなかった派閥の貴族とか?」
元々ファブールはバルムンク王国と比べると国力が低く、長年王国の風下にいたこともあり、ファブールを甘く見ている者は貴族だけでなく平民の中にも多数いる。
だが、今回ファブールが今代の雷を出してきたせいで、その認識は大幅に修正されたはずなのだが……それでも数を揃えて当たれば、例えレベル10と言えども負かすことが出来ると連合軍が証明してしまった。
まあ、実際には今代の黒と今代の雷がぶつかり合った結果、紙一重で王国側が勝利したというものなのだが、俺が今代の黒であると公表していないせいで、今代の雷は大したことがないと大勢に認識させてしまった。
「ジークの言うとおりね。小競り合いだけじゃ、敵国を亡ぼす理由としては弱いわ。むしろそれを逆手に取られて、王国が周辺国から攻められる事態になりかねない。それが分かっていない馬鹿が多いのは、ファブール並みの問題ね」
「嫌ですけど、いっそのこと俺が今代の黒であると公表しますか? マジで嫌ですけど」
そうすれば、ファブールだけでなく王国側の馬鹿どもへの手っ取り早いけん制になるのではないかと思ったのだが、
「それも一つの手でしょうけど、ファブール程度で切るにはもったいない手札よ。今公表したとしても、ファブールが大人しくなるだけよ。むしろ王国側の貴族は、最強の手札が二枚に増えたから、攻めと守りに使える余裕が出来たくらいにしか思わないはずだわ。それに、ジークの秘密はファブールとの全面戦争が決まってからの方が相手に与える精神的ダメージは大きいし、馬鹿の頭を抑えるのに効率的だと私は思うわ」
サマンサさんがそう反対すると、エンドラさんもそれに同調した。そして、
「あの~……私も公表するのには反対です」
いつの間にか起きていたエリカも、遠慮がちに手を上げた。




