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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第一章
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第十四話

「え~……三年Aクラスへの進級おめでとう……といっても、一年の時のメンツに戻っただけだな」


 無事に新学年となった俺たちだが、クラスメイトの入れ替わりは少なく……と言うか、二年の進級の時にAからBクラスに落ちた二人が戻ってきただけだった。なお、二年への進学でクラス落ちしたのが二人だけというのは学園の歴史上最も少なく、さらに一年の時に落ちた生徒が戻ってきて、一年時と三年時の生徒が全て同じと言うのは初だそうだ。ただし、二年時から三年時で同じ生徒というのはあったそうで、それがエレイン先輩のクラスだったらしい。


「中等部最後の一年だ。この一年の成績次第では、高等部への進学試験でAクラスに入ることが出来るのはすでに知っていると思うが、高等部のAクラスに在籍していたというのは学園を卒業後に大きな意味を持つことになる。それこそ、中等部のAクラスとは別次元と言っていいくらいだ。だからこそこの一年は、それぞれ後悔の無いように過ごすように。それと、ここからが本題だ。この一年が大事と言ったばかりだが、しばらくの間、授業は午前中のみとし、学外での授業は行わないことが決まった」


 やる気が上がったところでいきなり水を差された形になり、クラスメイトたちから不満の声が上がったが、


「まだ公表されていないが、ソウルイーターと思われる者に高等部の生徒が襲われ、それを重く見た国の上層部により、しばらくの間は授業に制限をかけることが急遽決まった。それに伴い、当面の間は学園外への移動制限と日暮れ後の寮からの外出も禁止となる」


 続く先生の言葉で静かになった。俺も驚いたが、いつかは出るかもしれないと思っていたので、驚きよりもついに出てしまったかという感想の方が強かった。あと、先生は『襲われた』と言っているが、これまでソウルイーターに襲われて生き残った者はいないので、かわいそうだがその先輩はすでに亡くなっているのだろう。


「先生、授業は午前のみとのことですが、午後はどう過ごせばいいのでしょうか?」


「基本的には自由に過ごしてかまわないが、何をしていたのかの報告はしてもらう。それと、午前中の授業で足りない分は各々が自習という形で補うということになっているので、何に重きを置くのかは自由となっているが、それを確かめる為にテストの回数が増える」


「午後の自習では、先生に直接教えを乞うことは可能でしょうか?」


「時間が空いている教師は、学年やクラスが違う生徒でも教えるようにと学園長から言われているが……今回の事件で大多数の教師が忙しくなっており、希望する教科に強い教師がいるとは限らないなど、場合によっては自分で勉強した方がいいこともある」


 つまり、しばらくの間は教師はあてにならないということだ。あと、先生は言葉を濁していたが、カースホアのようにAクラスに敵愾心を持っている教師も少なからずいるので、そいつらを頼るくらいなら自力で勉強した方が百倍マシという感じだろう。


「つまり、午後はルールさえ守っていれば何をしても自由で、その結果は全て自分で責任を持て……ということですね?」


「そうだ。だからジーク、間違ってもソウルイーターのことを調べようと、時間外に動き回るんじゃないぞ」


「了解で~す」


 俺としては巻き込まれない限りソウルイーターは放っておいてもいいと思っているのだが、先生は俺の返事が信用できなかったようで、


「フランベルジュ、悪いがジークの見張りを頼むな」

「分かりました」


 エリカに俺の見張るように指示を出していた。


「それじゃあ、今日はこれで終わりだ。明日から変則授業になることを忘れるんじゃないぞ」


 そう言って先生は教室を出て行った。

 それに続くように、気の早いクラスメイトも教室から続々と出て行ったので、ホームルームの終了から数分で教室から半数以上が居なくなった。



「それでジーク、本当にソウルイーターのことを調べに行くつもりなの?」


 この後どうしようかと考えながらゆっくりと帰り支度をしていると、エリカが呆れ気味に聞いてきた。


「いや、確かにある程度の情報は欲しいけど、自分で探しに行くようなことは流石にしないぞ。面倒だしな」


「そうかもしれないけど……普段のふざけた言動もあるし、いまいち信用できないのよね」


 それは残念だと首を振りながら席を立つと、


「それで、この後はどうする気なの?」


 もう一度エリカから質問が来たので、


「軽く運動して昼食、そして午後はまた運動の予定だ」


 簡単にこの後の予定を教えると、エリカは少し考えた後で、


「私はこの後少し予定があるから、午後の運動には付き合うわ。また走るの?」


 と言ってきた。俺は了承していないのだが、エリカにとってそれはすでに決定事項のようだ。まあ、いつものことだな。


「その予定だったけど……エリカが参加するのなら、午後は運動じゃなくて組手でもいいな」

「そうね、私もそっちの方がいいわ。それと、組手をするのなら私のパーティーメンバーも参加させていいかしら?」


「そうだな。組手をするのなら数がいた方がいいか。ただそうなると、誰か監督できそうな先生が必要になるかもしれないな……探してみるか」

「ええ、お願い」


 そう言う感じに決まったので、俺とエリカは一旦教室で分かれてそれぞれの用事を済ませ、昼食後に第一訓練場に集まったのだが……


「確かに監督できそうな先生のことはジークにお願いしたけれど……流石に学園長が来るなんて予想できないわよ!」


 エリカが俺に向かって叫び、エリカのパーティーメンバーたちは予想外の人物の登場に固まっていた。

 そうなのだ。俺が監督に頼んだのはエンドラさんで、この学園のトップ……どころか、普通ならエリカたちが直接教えを乞う機会は無いと思われるほどの、この王国でもトップクラスの重要人物なのだ。


「いや、仕方がないだろ? ブラントン先生に頼もうと思ったら先生はいなかったし、他に監督できそうな人と言ったらエンドラさんしか思いつかなかったんだから」


 エリカたちには雲の上の人であっても、俺にとっては先生の師匠……つまり、孫弟子の俺からすれば、エンドラさんはバ……


「ジーク?」


 大師匠なのだ。俺が監督を頼むと言った場合、真っ先に思い浮かんでもおかしくない人物なはずである。

 そして、エリカたちにはまだ言っていないが、他にもゲストがいるのだ。それは、


「遅れたかしら?」


 エレインさんとそのお仲間(高等部二年Aクラスの先輩)たちだ。俺がエンドラさんに監督を頼みに向かっている途中で、同じくエンドラさんに訓練場の許可を取りに学園長室に向かっているエレイン先輩と鉢合わせ、そこから合同での訓練が決定したのだ。


「エレイン先輩の連れてきた先輩たちの中に、回復魔法の得意な人が何人かいるみたいだから、これで気兼ねなく訓練が出来るな!」


「出来るな! ……じゃないわよ! この学園の有名人ばかりきたせいで、うちの娘たちが驚きすぎて気絶しそうになっているじゃないの!」


 確かに格上だらけの先輩たちの登場で、エリカのパーティーメンバーはガチガチに緊張しているが……まあ、じきに慣れるだろう。


「先輩たちの訓練を間近で見るチャンスなのにな」


「確かにそうだけど、大事なことは事前に報告してと言っているの!」


 エリカは俺を少しでも先輩たちのところから引き離すように引っ張って行き、先輩たちに聞こえないくらいの声で怒っていた。


「ジーク、エリカ? 揃っているのなら、早く始めましょう。いつもの授業より時間があるとはいえ、こちらはあなたたちと戦ってみたいという人ばかりなのよ。時間がもったいないわ」


「聞いたかエリカ、エレイン先輩の言う通りだとすると、先輩たちが参加したのは俺だけの責任じゃないみたいだぞ」


 と、エリカにも半分くらいは原因があるというと、


「そうじゃなくて、私が言っているのは事前に報告しなさいってことよ! 先輩たちが集まった原因の半分が私にもあったとしても、事前に知っていたらあの娘たちがあそこまで驚くことは無かったと言っているのよ!」


 論点が違うと怒られてしまった。


「皆、カレトヴルッフさんの言う通り、時間は有限です。各自、準備運動をしてから()()()()()()()


 そうエンドラさんが言うので、このままエリカと軽く準備運動をすることにした。エリカのパーティーメンバーも始めは仲間内で準備運動と、エンドラさんの言うところの好きにするみたいだ。



「ジーク、そろそろ先輩たちとやりなさい」


 大分体がほぐれてきたタイミングで、エンドラさんが相手を代えるように指示を出してきた。まあ、このままエリカと続けていたら、何のために先輩たちが参加したのか分からないので、相手をしてもらうのは当然なのだが……


「ジーク、彼らは進級試験の次席と三席と四席よ」


 いきなりエレイン先輩を除いたトップクラスが複数で相手になるのは想定外だった。しかし、エレイン先輩や指名された先輩たちは当然と言った感じで準備を始めていて、


「ジーク、彼らはいつでもいいそうよ。エリカ、あなたは私とやりましょうか? それと、残ったメンバーもそれぞれいつもとは違う組み合わせでやってみましょうか? 二つ下の後輩だけど素質は十分にあるから、遅れは取らないように気を付けましょう」


 エレイン先輩は『いつもとは違う組み合わせ』と言ったが、続けて自分のクラスメイトたちに後輩エリカのパーティーメンバーとやるように言っているので、エリカの仲間に逃げ道はないようだ。まあ、残った先輩のうち三人は戦闘が得意というわけではないようなので、経験の差は大きいけれど頑張れば一本取れるかもしれない。


 そして始まった先輩たちとの模擬戦だが……俺以外は惨敗という結果に終わった。

 エリカは一時的にエレイン先輩を押しているような場面も見られたが、それは先輩の罠だったようで、エリカが勢い付いて前に出た瞬間に脚を狙われて転ばされて負けていた。エリカのパーティーメンバーたちは、俺が推薦した女子はなすすべなく簡単に負け、元から組んでいた三人は割と持った方だが、相手をした先輩たちが補助を得意とする後衛だということが油断に繋がったのか、全てが後手後手に回ってしまい、いいところなしだった。

 俺が推薦した女子は後衛だし近接戦闘はかなり苦手なので仕方がないが、他の三人は前衛や中衛が得意だと言っていたのに油断して負けるというのは、一番やってはいけない負け方だと思う。正直言って、エリカよりもあの三人の方が勝つ可能性は高かったので、期待外れと言われたとしても仕方がないだろう。その証拠に、エレイン先輩たちやエンドラさんは三人を厳しい目で見ている。


 そんな中、俺の方は先程から同じ先輩たちを相手に四戦目に突入していた。

 先輩たちは一人一人がエリカと同じかそれ以上に強いのだが、俺にとっては誤差の範囲内と言った感じで、チームワークに関しても中等部では比べ物にならないくらい精度が高いが、ヴァレンシュタイン騎士団を見てきた俺からするとまだ拙いところが目立つ。

 その為、無理せずに各個撃破という形で無力化することが簡単で、先輩たちも特に疲れた様子もなく四戦目に突入ということになったのだが、後輩にここまで手加減された状態で負け続けると、普通は機嫌が悪くなりそうなものだが、先輩たちからはそう言った気配を感じることは出来なかった。どうやら、負けても仕方がないか当然と言ったくらいの差があると、元から理解しているようだ。もしかすると、事前にエレイン先輩から話を聞いていたのかもしれない。


「皆、一度休憩を挟みなさい。水分を補給しつつ、先程までの訓練の反省点を見直し、次に活かしなさい。分ったわね!」


 その後も続けて五戦目に入ったが、終わったところでエンドラさんの指示が出た。少し最後の言葉が鋭かったが、それは油断していた三人に向けられたものだろう。


「ジーク、先輩たちはどうだった?」

「身体的な能力ではエリカの方がやや上だと思う。だけど、細かい技術や身のこなしはかなり上手い。総合的に見たら、エリカより上だ。まあ、エリカの得意な状況に持ち込めたら勝てるとは思うけど」

「私の得意な状況?」

「先手を取ってからの力押しだ。ただ、勢いを止められたら、今のエリカだと逆転が厳しくなるかもしれない」


 エリカは力押しが得意と言われて不満そうな顔をしたがそれも立派な戦術の一つだし、今のエリカは学生としてはかなりの実力者ではあるがまだ未熟なので、今後の成長次第では戦術の幅が広がることは間違いないだろう。


「それで、エレイン先輩はどうだった?」

「ジークも見ていたでしょう? 近接戦闘なら勝てると思ったのに、先の先を読まれて完敗よ。確かに一度目は私が有利なはずという慢心があったのは確かだけど、二度目も三度目も結果は変わらなかったわ」


 結果が変わらなかったというが、その過程は大分違っていたので経験の差を考えれば仕方がないと思うのだが、確かに近接戦闘ではエリカの方に分があるように思えるので、落ち込んでしまうのも分かる気がする。


「まあ、エレイン先輩は入学してから学年の主席を守っている人だから、読み合いで負けるのは仕方がないと思うが……エレイン先輩を相手にするなら、持久戦に持ち込むのも一つの手だと思うぞ」


 エリカとエレイン先輩では、経験から来る戦術に大きな差があるのは確かだが、それと同様に二人の間には、腕力と耐久力に大きな差があると俺は見ている。

 エリカは使っている武器からも分かるように、身体能力を活かした近接戦が得意で、エレイン先輩は見ている限りでは魔法を活かした中衛から後衛が得意と言った感じだろう。それなのに近接戦でエリカが負けているのは、エリカが『読み合い』というエレイン先輩の得意分野で戦っているからだと思う。

 なので、エリカがエレイン先輩よりも勝っていそうな部分で戦った方が、勝率は上がるだろう。


「でも、せっかくエレイン先輩と戦える貴重な訓練を、勝つという目的だけでやるのはもったいない気もするわ」

「確かにエリカの言うことも分かるけど……それは、先輩に一度でも勝ってから言うことだ。エリカは訓練になるからいいだろうけど、それだと先輩はエリカとやる意味が無くなるぞ。まあ、先輩はエリカの為になるならと思うかもしれないけど、与えてもらうだけは悔しくないか?」


 現に俺と連続で戦っている先輩たちは、俺に対して連敗を続けてはいるものの、一回一回戦い方を変えてきている。その中には、俺が経験したことのない戦い方も含まれていたので、俺としてもやりがいがあった。


 そう言うとエリカは少し俯いて、「悔しいに決まっているわ」と呟いた。この様子だと、次は戦法を変えてエレイン先輩と向き合うだろう。そう思っていたのだが、


「ジーク、次はカレトヴルッフさんを加えた四人と戦って見なさい」

 

 エンドラさんにより、エリカとエレイン先輩の再戦が先送りにされてしまった。

 肩透かしを食らった形のエリカは、俺のせいではないというのに俺を睨んでいた。まあ、流石に今のエリカにエンドラさんを睨むほどの度胸は無いのかもしれないが……それでも少しは頑張って欲しいところだった。


「私が加わったところで、ジーク相手だとあまり意味がない気がするけれど……まあ、頑張りましょうね」


 エレイン先輩はそう言って、三人の先輩の後ろに移動した。

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