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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第八章
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第三話

「ここまで進めておいてなんだが……流石にウーゼルさんには報告しておかないとまずい気がしてきたな」

「勢いに任せてしまったけれど、普通に考えて報告なしはまずいわよね……」


 マリから話を聞いて作戦をたて、冒険者ギルドで人を募集した結果、ギルドにいた冒険者がすぐに依頼を引き受けてくれたので、依頼が告知されてからものの数分で募集が打ち切られたのだった。

 ちなみに、集まったのは三つ星が一人に二つ星が三人、一つ星が一人だ。

 三つ星と一つ星の冒険者は親子で、息子の冒険者デビューの依頼を探している最中に俺たちがギルドに入ってきたのに気が付き、俺の依頼が張り出された瞬間に内容を確認し、とりあえず手に取ったそうだ。

 その為、一つ星の場合は三つ星が保証したり、依頼料も同じ額になると言った細かいところまで読んではいなかったそうだが、結果的に何の問題もなく依頼を受けることが出来ていた。


 そして、二つ星の三人の方は普段からパーティーを組んでいる仲だそうで、丁度金欠で何か割のいい依頼を探している最中に三つ星の冒険者と同じく俺に気が付き、知り合いの受付に賄賂を渡してまで情報を聞き出し、三つ星の冒険者の次に依頼に飛びついてきた。

 それだけ聞くとかなり危なそうな奴らに思えるが、渡した賄賂というのは安物のお菓子だそうで、彼らの非常食だったそうだ。

 それに同情した受付が依頼が張り出される少し前に情報を流したそうだが、三人共お調子者ではあるが仕事自体は真面目にしているということで意外にもギルドの評価は高く、金欠の理由も武器と防具の新調と怪我の治療費が重なった結果だそうで、人柄は問題ないとギルド関係者数人から確認している。


「今更そんなことを言うんですか⁉」


 俺とエリカのつぶやきを聞いたマリは驚き、ディンドランさんはいつものことだと呆れた顔をしていた。


「いや、条件に関しては割といいところを突いたと思っていたけど、下水道の調査だから人はなかなか集まらないだろうなと思っていたんだが……まさか、五人共依頼内容をほとんど見ないで決めるとは思っていなくてな。今日中に集まるとは予想していたが、もう少し時間がかかると思っていた」


 やるまではノリで突っ走っていたものの、ここまで順調だと逆に冷静になってしまったのだろう。

 まあ、それでも今更依頼を取りやめることは出来ないし、やめるつもりもない。それくらいにはマリの上司に対して怒りを覚えている。


「ん~……やっぱり、ウーゼルさんには話を通しておいた方がいいか。流石に今すぐ行ってウーゼルさんに会うことは難しいだろうけど、アーサーなら大丈夫だろう」


 それに、アーサーなら比較的すぐにウーゼルさんに話をすることが出来るだろうし、俺としても頼みやすい。

 そう思ってエリカに王城へ行っても大丈夫か聞こうとしたら、


「ジーク、何度も言っているけど、流石に不敬よ。私はもう慣れた……くは無かったけれど、まあいいわ。だけど、マリはそうじゃないから気を付けなさいね」


 エリカに割と強めに怒られた。

 そして、急に矛先を向けられたマリはというと、


「あ、えっと……大丈夫です! 子爵様はそう言う人だと聞いていますから……大丈夫です!」


 エリカと俺を何度も交互に見ながら、何故か両手で握りこぶしを作りながら力強く頷いた。

 何が大丈夫なのかは分からないが、本人がそう言うなら大丈夫なんだろう。まあ、誰からどういう風に聞いたのかは気になるが……今それを問いただすのは止めておこう。

 俺は隣で視線を逸らしているエリカを見ながら今追及するのは止めて、急遽行き先を王城に変更することにした。



「相変わらず、敵対者には容赦しない男だな……まあ、少し遅くはあったが、実際に行動を起こす前に報告しに来ただけ成長していると見ていいのかな?」

「いや、別に今回は公爵や伯爵と敵対しているわけじゃないんだけど?」


 王城に来た俺たちは、入り口で係にアーサーに会いに来たと伝えただけですぐに控室に通されて、十分程でアーサーの私室に呼ばれた。

 そこで待ち構えていたアーサーに簡単に説明したところ、そんなことを言われたので否定した……のだが、


「今回の場合、その()はジークを直接敵に回したわけではないが、婚約者のエリカ嬢の()()の敵に回った。それをジークは許せなかったというわけだ。その男は公爵の関係者の関係者だし……まあ、婚約者の敵は自分の敵ということだな」

「「成程!」」

 

 さらに反論された上に、それがすっと心に入ってくるような内容だったので素直に納得することが出来た。

 ちなみに、俺と同時に声を出したのはディンドランさんで、エリカは顔を赤くしてうつむいている。


「話がそれたが、そう言うわけだからアーサーの方からウーゼルさんに伝えてもらえないか?」

「確かに私から伝えるのが一番速いな。ただ……同時に、カレトヴルッフ公爵にも伝えたいのだが、構わないだろうか?」

「別に構わないぞ。ただ、公爵が勝手にピール・ジュディッチを裁いたり助けたりしないように説得できるのならな」


 まあ、アーサーにとって公爵は叔父にあたり、将来自分の派閥で重要な人物になるので配慮するのは当然だろう。


「ああ、そのことはしっかりと伝えよう。ただまあ、公爵は食えない人物でもあるからな……保険をかけておこう。誰かいるか?」


 そう言ってアーサーは廊下に向かって声を掛けると、すぐにメイドの格好をした()が扉を開けて部屋の中に入ってきた。


「今日城に()()()()が来ていたはずだ。呼んできてくれ」

「承知いたしました」


 アーサーの指示を受けたメイドが部屋を出て行くと、アーサーはラヴィンが来るまで話でもして待っていようと言って椅子に座り、俺たちにも席を勧めてきたので、


「女装させているのはアーサーの趣味か?」


 椅子に座ってすぐにそんな質問をぶつけてみた。


「「「えっ⁉」」」


 すると、俺の隣に座ったエリカと、座っていいものか悩んでいたマリ、そして何故かアーサーまで声を出して驚いていた。もっとも、同じ驚きでもエリカとマリはあのメイドが男であったことに対して出、アーサーは一目でバレるとは思っていなかったというところだろう。


「いや違う! それは断じて違うぞ! あの者は暗……私の護衛で、敵を油断させる為にああいった格好をしているだけだ!」


 その言い方だと俺がアーサーの敵みたいに聞こえるが……まあ、普段から警戒をしないといけない立場なので、常にあの格好の護衛が控えていると言いたいだけだろう。


「ああ、それなら安心だな。もし俺に女装しろとか言ってきたらどうしようかと心配していたところだ」


 などと、アーサーにふざけて言うと、


「まあ、ジークなら変装用の魔法もあるし、女性としては身長が高い方にはなるけどとび抜けてという程ではないし、声が少し気になるけど見た目は化粧次第でどうとでもなるわね」


 俺と同じく、あれが女装した男だと気付いていたらしいディンドランさんが、俺の方を向きながら新しいおもちゃを見つけたかのような顔で楽しそうに言った。


「ディンドランさん、俺に何かしようとしたら、ガウェインが女装してセクシーなポーズをしている姿絵を量産して、ディンドランさんの部屋の壁に貼り付けてやるからね」

「……おぇ」


 ディンドランさんがガウェインのどういったポーズを想像したのかは分からないが、一瞬間が空いた後で口元を抑えて吐きそうにしていた。

 まあ、俺も自分で言っておきながら多少気持ち悪くなってしまったので、痛み分けと言ったところだろう。

 なお、すぐ近くで聞いていたアーサーとエリカも気持ち悪そうな顔をしていたので、ガウェインの女装姿はガウェインを知る者にとって、ある意味魔法攻撃に匹敵する可能性があるようだ。


「ところで、そのラヴィンって誰だ?」

「ふ~……ああ、ジークは知らなかったのか? ラヴィンはカレトヴルッフ公爵家の嫡男で、私と同い年の従兄弟だ」

「つまり、エレイン先輩のお兄さんというわけか……本当にいたんだな」


 エレイン先輩に兄がいるとどこかで聞いた記憶があったが、先輩や知り合いからどんな人なのか聞いたことは無いし、何度か王城に来ているのに見たこともない。

 それなりにカレトヴルッフ公爵家とは関りがあった筈なのに、不自然な程接触することがなかったので、もしかするとエレイン先輩に兄がいるというのは俺の勘違いだったのではないかと思ったことがあるくらいだ。


「まあ、ジークがそう思うのも仕方がないかもしれないな。あいつは……いや、実際に会った方が、話で聞くよりも理解しやすいかもな」


 アーサーは少し意地悪そうな顔をしながら、そのラヴィンという人の話を中断した。

 流石にそこまで意味深なことを言われると気になるが、それよりも気になったのは、


「エリカ、何か引っかかることがあるのか?」


 先程からエリカが何か考え込んでいたからだ。


「え、ええ……その……恥ずかしい話、エレイン先輩には初等部に入る前からお世話になっていたんだけど……お兄さんの顔が全く思い出せないのよ。それどころか、会ったことがあるのかさえ分からないわ」


 声を掛けられたエリカは、恥ずかしそうにしながらそう言ったのだが……俺にはかなり異常なことなのではないかと、その話を聞いて思い始めた。


 エリカは学園の中等部の入学式の日に、勘違いで先輩と話していた俺に突っかかってくるくらい先輩のことを昔から尊敬しているし、何よりも同じ派閥で先輩と昔から知り合いなのであれば、そのお兄さんとも知り合いだという方が自然だ。

 ただまあ、


「エリカが先輩のお兄さんに全く興味がなかったせいで、存在を思い出せないという可能性もあるな」

「う……否定……出来ないわ」


 エリカの目には先輩しか見えていなかったということも考えられるし、エリカ自身が肯定気味なので、それが真相の可能性が高い。


「うん、まあ、エリカ嬢がそうなるのも仕方がないな」


 ただ、唯一そのラヴィンをよく知るアーサーは、エリカが覚えていないのも当然だといった態度なので、単にエリカが興味なかったからではないのかもしれない。


「その辺りのことはエリカ嬢が気に病むことは無い。ある意味あいつの自業自得……とは少し違うが、原因はラヴィンにあるからな。まあ、会ってみれば分かるだろう」


 そんな会話をしているうちに、


「アーサー殿下、ラヴィン様をお連れしました」


 先程出て行った女装メイドが、エレイン先輩のお兄さんを連れてやってきた。


「ご苦労だった」


 アーサーがそう言うと、女装メイドは頭を下げて部屋を出て……行こうとしたところで俺たちの視線に気が付いたのかわずかに怪訝そうな顔をしていたが、もう一度頭を下げてからそのまま部屋を出て行った。


「ジーク、何しているのよ?」


 俺が天井の隅の方を見ながら部屋を出て行った女装メイドを指さしていると、エリカが不思議そうな顔をしながら聞いてきたが、いつもの恒例行事なので後で話すと言っておいた。


「ラヴィン、ジーク・ヴァレンシュタイン子爵と、その婚約者のエリカ・フランベルジュ名誉男爵、ヴァレンシュタイン子爵の護衛のディンドランに、王都騎士団の騎士見習のマリだ」


 アーサーが部屋に入ってきたエレイン先輩のお兄さんに俺たちを紹介するが、


「ええ、よく存じております。ヴァレンシュタイン子爵とは初めて顔を合わせますが、他のお三方とは挨拶させていただいたことがありますよ」


 向こうは俺たちのことをよく知っていたようだ。

 その言葉に、エリカはやっぱりという感じの表情を浮かべていたが、ディンドランさんとマリはかなり驚いた表情をしていた。

 マリはともかく、ディンドランさんが重要そうな人物の顔を覚えていないのは珍しいなと思い、ラヴィンの顔をしっかりと見てみたが、確かにエレイン先輩のお兄さんだけあって顔は整っているし、先輩程美形というわけではないが兄妹だとすぐに分かるくらいは似ている。特に、どことなく腹黒そうなところとか。


 ただ何と言うか、個人的な感想として、何故か印象に残りにくい感じがする。

 パッと見た感じで言うと、それなりに美形で微笑みを絶やさない男性だ。街中で女性がすれ違えば、何人かは振り向いてもう一度顔を見ようとするかもしれない。

 だが、ものすごい美形と言うわけではないので、振り返った女性に連れがいれば、「さっきの人カッコよくなかった?」と、疑問符がつくだろう。

 それに身近なところで言うと、アーサーやランスローさんの方が美形でモテるだろうし、エイジと並んで歩けば、すれ違った人はエイジの方が印象に残ったという方が多くなるかもしれない。

 自分でも上手くは説明できないが、何故かそんな印象を抱かせる不思議な男だ。


「それで殿下、私に用があるとのことでしたが、子爵たちを紹介するだけではありませんよね?」


「ああ、実はちょっと困ったことになっていてな。それにカレトヴルッフ公爵家も関わっているのもだから、ラヴィンを呼んだというわけだ」


 そう言いながらアーサーがラヴィンに席を勧めると、ラヴィンはわざわざ俺の向かいの席に座った。


「では殿下、本題を。それとも、今回はヴァレンシュタイン子爵に聞いた方が早いのかな?」


 呼ばれた場に俺が居た時点で、ラヴィンは俺が関係することで呼ばれたのだと理解していたようだ。


「そうだな。ジーク、頼む」


 アーサーもラヴィンの言う通り俺から説明した方がいいと思ったのか、俺に丸投げしてきた。



「確かにそれは問題だね……でも、うちの関係者が問題を起こしているのなら、子爵は情報だけを寄越して静観し、あとは口出しせずに私たちに全てを任せるのが筋じゃないのかい?」


 確かにラヴィンの言う通り、同じウーゼルさんの派閥とは言え、系統は違うのだから俺たちが手を出すのは間違っているかもしれない。だが、


「そちらが俺よりも素早く確実に行動してくれていたら手は出さなかったが、そうではなかったからな。それに、俺とエリカの同級生が犠牲になっているし、時間がなかったから仕方がないだろ? それと公爵なら、俺が関わっているという理由だけで、秘密裏に処理しそうだったからな」


 俺にも譲れない理由がある。まあ、その半分くらいは公爵が気に食わないからというものだけど。


「話には聞いていたけど、本当に君は父上のことが嫌いなんだね。まあ、確かに父上にも非があるけれど、仮にも相手は公爵だよ? エレインとは良好な関係のようだから、公爵家自体に遺恨があるわけではないようだけど……何か特別な理由でもあるのかい?」


 ラヴィンは俺の態度に呆れた様子で理由を問いかけてきた。


「ええまあ、公爵閣下は何か重大な勘違いをしていますからね。もしくは、目に重大な病気を患っているのかもしれませんが」


「ほう……息子としては、聞き捨てならない言葉だね」


 ちゃんとした理由を話せとばかりに、ラヴィンは顔の前で手を組み前のめりになった。

 俺とラヴィンのやり取りはアーサーたちも気になっているようで、先程から音をたてずに静かに耳を傾けていた。


「そんなの簡単ですよ。公爵閣下は、どうやら俺とガウェインを混同しているようですからね。そのせいで、俺がやったことは自分の気に入らないガウェインがやったと錯覚しているようです。いい迷惑ですよ、俺とガウェインを間違うなんて」


 俺が一番公爵を気に入らない理由、それは俺にガウェインを重ねて見ているからだ。

 もしこれが俺だけが気に入らないというのなら、先輩の父親だし多少は改善できるように気を付けただろうが、何をしてもガウェインと結びつけるのならその限りではない。

 俺にとって、公爵は地位は上でも赤の他人だ。ガウェインよりも優先して考える相手では決してないし、必要以上に配慮するつもりもない。


「成程、確かにそうだな……これに関しては、父上が一番悪い。まあ、そう言った理由があるのなら仕方がないな。うん、父上以外の公爵家に対して否定的でないのなら、私が口を出す必要はないな」


 そう伝えると、ラヴィンはあっさりと俺の考えを肯定した。


「意外ですね。もっと敬意がどうのこうの言われるかと思っていましたが……」


 俺が驚いていると、


「敬意を持てない相手に対して、無理やり持たせても仕方がないだろ? 表面上は取り繕っているのなら、何も問題は無い。むしろ、敬意を持たれないことをしている方が悪い。それに……」


 ラヴィンは公爵を批判するようなことを言っていたが、最後の方で言葉を濁し、少し考えるそぶりを見せて、


「まあ、君たちなら話してもいいか。知っている者は知っている話だしな。ただし、あまり口外しないでくれよ」


 そう念を押してきた。

 そしてラヴィンの口から出てきたのが、


「父上は昔、ヴァレンシュタイン夫人……当時伯爵令嬢だったサマンサ殿に惚れていたそうだ」


 だった。


「ラヴィン、本当の話か、それ?」


 この話はアーサーも初耳だったようで、信じられないという顔をしていたら、


「多分、陛下と王妃殿下も知っているんじゃないか?」


 とラヴィンが返したので、信ぴょう性の高い話なのだろう。


「当時のサマンサ殿は中等部で、高等部だったヴァレンシュタイン伯爵と恋仲だったから思いを伝えることは無かったようだが……見る人が見ればバレバレだったようだな。ちなみに、この話は父上と同級生だった母上から聞いた話だ」


 それなら信ぴょう性が高いどころではなく、確実な話だろう。

 ただ、その事実を聞いた俺は、何となく複雑な気持ちになってしまった。


「つまり、公爵が俺を気に入らない理由はガウェインだけでなく、カラードさんにも関係しているからなのか……」

「まあ、それはそうだろうが、学生だったとはいえ父上も公爵家の人間なのだ、その辺りの切り替えは出来ていたと思うし、政略結婚だったとはいえ母上との仲も良好だから、今はサマンサ殿とヴァレンシュタイン伯爵はほとんど関係ないと思うが……まあ、自分の誘いに乗らなかったガウェイン卿が、ヴァレンシュタイン伯爵に忠誠を誓っているというのは気に食わないところがあるかもしれないな。あと……」


 ラヴィンはまた言葉を区切って俺の顔をじっと見つめてから、


「やっぱり、子爵とガウェイン卿が似ているというのが一番の理由だとは思うけどな」


 などと言って笑い出した。

 目が腐っているんじゃないかと思い、ラヴィンに抗議しようとしたら、


「「ぷっ!」」


 俺の左右から、二人分の笑いをこらえる声が聞こえた。


「いやまあ、似ていると言えば似ているな」

「いえ、そっくりですね」


 犯人はアーサーとディンドランさんだ。ラヴィンだけでなく、この二人も目が腐っていたらしい。俺との付き合いが長い分、ラヴィンよりも深刻な状態だろう。


「すぐにウーゼルさんとカラードさんに報告しないと……まさか二人の目と頭がおかしくなっているなんて……」


 と言って悲しんでいると、


「ジーク、そう言うところよ」

「そうだな。自分のことは棚に上げるところとかな」


 などと言われてしまった。

 それを聞いた俺は一瞬考えて……ショックを受けてしまった。


「ほら見なさい。自分でも理解できたでしょ? ジーク、あなたは団長と同類なのよ!」


 そんな俺を見て、ディンドランさんが勝ち誇っていたが、


「でも、俺よりもディンドランさんの方がガウェインに似てない? 今の勝ち誇った顔とか?」


 ふと思ったことをそのまま言うと、


「え? 嘘? ……嘘……よね?」


 ディンドランさんは顔を青くしてエリカを見たが……エリカにそっと視線を外され、俺以上にショックを受けていた……と言うか、ガウェインはアーサーにもそんな風に思われていたんだと分かり、ガウェインを騎士団長にしたのはカラードさんの失敗だったのではないかと思ってしまった。


「あ~……お取込みのところ申し訳ないが、行動を起こすのなら少しでも早い方がいい。私から父上に話すことはしないが、王城には様々な者が働いている。その中で異変に気が付いたものが、父上に情報を流す可能性はある。例えば、父上が潜り込ませた諜報員……とかな。そうでなくても、相手は公爵だ。耳は私たちが思っているよりも早いだろう」


 公爵家の諜報員という衝撃的な言葉が出たものの、驚いているのはエリカだけだった。

 まあ、派閥というものがあるくらいだから、自分の派閥を維持しながら強く大きくする為には情報を集める者が必要で、一番情報が集まるところにそう言った者を送り込むの当然だ。

 現に、俺が王城に来た時に公爵家や他の貴族の協力者と思われる者が様子を探ろうとしていたし、アーサーもその辺りことは百も承知で、逆に王家の為に利用すらしていることだろう。


「そう言った裏の話は長くなりそうだし知らない方がいいだろうから聞かないが、確かに早く動くに越したことは無いな。一応、明日から下水道に入って明後日には終了するつもりだが、その間に公爵が動く可能性はどれくらいあると思う?」


「まあ、十中八九動くとは思うけど、すでにヴァレンシュタイン子爵が動いていてアーサー殿下が承認しているのなら、邪魔をすることは無いだろう。ただ、邪魔はしなくとも、そのピール・ジュディッチを処分することは考えられるが……やれば裏で公爵家が関わっていたと言われかねないからな。そんなせこいことに関わっていたと思われるくらいなら、あえて無視するとは思う。やってもジュディッチ伯爵家に警告し、公爵家はこの件とは完全に無関係だと強調するくらいだろう」


 それなら大丈夫だろうな。

 もしそう言った批判を受けたとしても、公爵家に悪影響を及ぼす程にまで行くことは無いだろうが、公爵の場合はせこい犯罪に関係していたと笑われるのは我慢できないという感じかな?


 とにかく、公爵家の嫡男であるラヴィンがそう言うのなら、公爵は表立って邪魔をしないという前提で動いて大丈夫だろう。


「それじゃあ、あまり長い時間集まっているのもよくないだろうし、そろそろ行くか……ディンドランさん、いつまでもショックを受けていないで、現実を見た方がいいよ」


 この後屋敷に戻ったら、ディンドランさんとガウェイン以外に連れて行く騎士を探さないとな……と思いながら立ち上がると、


「マリ……だったね。今日は仕事を上がりなさい。エリカ嬢、申し訳ないがマリを保護してやってくれ。もしも今回の件で動こうとする者がいるとすれば、一番狙いやすいのは騎士見習いで後ろ盾を持たないマリだからね」

「早退届は私の方から出しておこう。下水道の仕事で急遽出なければならなくなったという理由で大丈夫だろう」

「了解しました。マリ、必要最低限の荷物だけ取ってきて、私の家に行くわよ」


 と言った感じで、困惑する本人を他所に、周りが勝手にマリの予定を決めたのだった。

 ただ、ラヴィンが騎士見習の早退届を出すのは逆に怪しまれるのではないかと思ったが……まあ、その辺りは俺が心配しなくても大丈夫なはずだ。

 多分、公爵家かラヴィンの()()()な協力者を使うのだろうから。

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「エリカは顔を赤くしてうつむいている。~」←「エリカは学園の中等部の入学式の日に、勘違いで先輩と話していた俺に突っかかってくるくらい先輩のことを昔から尊敬している~」だった人がデレるとこうなるのだなと…
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