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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第一章
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第十三話

「よっと!」


「くっ……降参よ……」


 時は流れて二年の冬、俺は無事にAクラスを維持しただけでなく、一年の総合成績でも一位を取ることが出来た。エリカは二位だ。

 そしてこの調子だと、二年でも首席を取ることが出来そうである。なお、この調子だと、エリカはまたも学年二位になりそうだ。


「今度こそジークから一本取れると思ったのに……」

「まあ、一年そこらで地獄の訓練をやらされていた俺に追いつかれても困るけどな。でもまあ、一年前よりは武器に慣れてきているようだし力も付いてきているようだから、かなり良くなっていると思うぞ」


 エリカは一年の時の最初の授業で俺から言われたのをきっかけに、自分に合う武器を探して色々と試行錯誤をしたのだ。そして槍や片手剣、棍や斧と色々試していき、半年程かけてハルバードを主武器に選んだのだった。

 これなら柄の持つ位置を変えればある程度間合いの調整が出来るので、それがエリカが主武器に選んだ大きな理由の一つだった。他にも人伝に聞いた話ではあるが、ハルバードなら両手剣よりも威力を出せるので、俺を一撃で粉砕できるかもしれないと言う理由もあるそうだ。

 とにかくそう言ったこともあり、今では同級生はおろか、上級生でもエリカの相手をまともに出来る人がほとんどおらず、毎回のように俺が相手をすることになったのだ。ちなみに、今はハルバードでの戦術を覚えつつ、同時に自分に合った(お気に入りの)形を探っているところらしい。


「ああそれと、今更だけどあの子を紹介してくれたお礼を言っていなかったわね。ありがとう、かなり助かっているわ」


 エリカは課外授業でのパーティーをクラスメイトの女子(前に走ったことのある三人)と作っているのだが、全員が前衛か中衛も出来る前衛だった為、満足な結果を得ることが出来ないことも多々あったのだ。そこに、そんな話を聞いた後で俺がたまたま組んだ寄せ集めのパーティーの中に、後衛しか出来ないけれど多彩な魔法を使う女子を見つけたので、エリカに紹介してみたのだった。

 普通なら様々な魔法を使うことが出来ると、引く手あまたで寄せ集めではなく固定されたパーティーを組んでいる場合がほとんどなのだが、その子は引っ込み思案で焦るとパニックを起こしやすい性格をしていたので、俺とは別の意味でソロでの活動をしていたのだ。

 紹介してみたものの、エリカと反対の性格なのでどうなるかと思ったが、逆にそこが面倒見のいいエリカとは相性が良かったみたいで、すでに半年近く同じパーティーを組んでいるのだ。ちなみに、エリカのおかげでネックだった性格も大分改善してきているそうだ。


「それなら良かった。半年も経つのに何も言わないから、内心不満があるのかと思っていたぞ」

「そんなわけないでしょ。ジークと違ってあの子は性格もいいんだし、そもそも不満があるのなら、半年持たずに別れているわよ」


 などと軽口を言えるくらいには、俺とエリカとの仲も改善されていた。まあ、知り合って一年以上も同じ教室で過ごしているのに、未だに仲が悪いままだったら救いようがないというところだけどな。


「それにしても、今年は結構嫌がらせを受けていたのに、よく去年以上の成果を出せたわね」


 実を言うと今年の俺は、ある生徒……と言うかある学園の派閥から、嫌がらせのようなものをよく受けていたのだ。主犯格はあの入学式の時に絡んできた『高貴な少年』だった。

 去年平和だったのは、授業開始早々に魔法での事故を起こしたのが『高貴な少年』だった為、怪我の影響や謹慎などでまともに授業に参加しておらず顔を合わせる機会が無かったからだ。


 だが、今年に入ってBクラスに上がった『高貴な少年』……ムスカ・アコニタムに妨害されることが増えたのだ。

 ムスカは侯爵家の次男で、同学年では最上位の貴族の家系なので結構な数の取り巻きがいる為、そいつらからも妨害を受けることがあり、それなりに苦労したが……取り巻きはCクラス以下の生徒が多い上に、ムスカは基本的にAクラスとBクラスの生徒から嫌われているので、成績に関係のある授業では顔を合わせる機会が少なく、取り巻きたちの妨害はあまり意味がなかったのだ。

 ちなみに、何故AクラスとBクラスの生徒から嫌われているのかと言うと、Aクラスはエリカの影響が強く、また下手にムスカとかかわってしまうと巻き込まれて自分の成績を落としかねない為、よく騒動を起こすムスカを嫌う傾向にあり、Bクラスからは本来ならムスカの成績ではBクラスに上がることは出来ないはずなのに(進級試験前のムスカの成績は、Cクラスの真ん中から下)、いきなりBクラスでも上位に来る成績を取ったので不正を疑われているのと、一年共に頑張ってきた仲間の一人がムスカの不正によりCクラス落ちをしたと思われている為だ。ちなみに、ムスカの不正を裏付けるように進級後のテストでは、Bクラス上位の成績を取ったはずのムスカが断トツでBクラス最下位だったそうだ。

 まあ、それでも腐っても侯爵家の次男なので影響力はそれなりにあり、全クラス合同の授業ではCクラス以下の生徒はあまり俺と組んでくれないのだ。もっとも、その代わりAクラスとBクラスの生徒は、俺がソロでもパーティーを組んで行動する生徒以上の成績を上げていることを知っているし実際に見ているので、ムスカへの反発もあってか声をかけてくれることが多くなったのだ。それが俺の成績アップの要因の一つになっている。


「つまり、ムスカはジークを妨害しようとして、逆にジークの手助けをしていたわけね。まあ、確かにジークがパーティーに入ると、安定感と効率が跳ね上がるのは確かだからね」


 なお、俺を最初にパーティーに誘ってくれたのはエリカで、その時のテストで学年別の歴代最高点をたたき出し、その後も何度か組むたびに更新してしまった為、学園長(エンドラさん)直々にエリカとパーティーを組むのを禁止されてしまうという、ある意味伝説になりそうなことが起こってしまったのだった。


「終了時間までもう少しあるけど、後一戦やるとなると不完全燃焼になりそうね」

「そうだな。早めに後片付けに入るか」


 終わるには少し早いが、他のクラスメイトたちよりも模擬戦の回数は上だったのでブラントン先生に怒られることは無いだろうと判断し、片付けと道具の手入れを行っていると、


「そう言えば聞いた、ジーク? また『ソウルイーター』による犠牲者が出たらしいわ」

「またか、確かこれで十人目だったか?」

「いえ、今回は三人同時だったそうよ」


 つまり、合計で十二人と言うことか……しかもはエリカの話によると、ソウルイーターに()()()()のは一人で、他の二人は見回り中だった騎士が、ソウルイーターの姿を見てしまった為に襲われたのだろうとのことだ。


 ソウルイーターとは、五年ほど前に突如として王都に現れ、たった一年で百人近い犠牲者を出して姿を晦ませた殺人鬼のことだ。一応、わずかではあるがその姿を見た者がいることにはいるが、姿を見たとは言ってもフードで全身を隠していた為、その正体が男なのか女なのか……いや、そもそも()()()()()()()()()すら分かっていない正体不明の化け物だ。

 そのほとんどが分かっていない化け物であり、その名前も便宜上つけられたものではあるが、その名前の由来になったのは、犠牲者の多くが血と魔力を失った状態の死体で発見されたことからだ。

 最初こそ、殺害方法が黒魔法の『ドレイン』に似ているということで、サマンサさんを始めとした高レベルの黒魔法の使い手が疑われたそうだが、ドレインでは魔力を抜き取ることは出来ても血が無くなることはありえず、さらに数少ない目撃情報からソウルイーターが同時に複数の魔法を使っていたと言うものは無く、血と魔力を失っていた死体からは噛まれた痕が一つ見つかっただけなので、犯行に使われたのはドレインではないと判断されたそうだ。


(聞いた話だと、俺のダインスレイヴの効果に似ているな。もっとも、ダインスレイヴだと噛み跡じゃなくて刺し跡になるけどな)


 どちらにしろ、ダインスレイヴのことが公になると俺が疑われるので、最低でも犯人が捕まるか正体がはっきりするまでは、これまで通り秘密にしたままの方がいいだろう。


「そう言えば、エレイン先輩から聞いたのだけど、学園でもソウルイーター対策の為に、しばらくは日没から日の出までの間、常に街灯を点けっぱなしにして、学園内の警備の数を増やすそうよ。だから経費が掛かるって、先生からよくぼやかれているらしいわ」


「そう言えば、エンドラさんも同じようなことを言っていたな。警備はそれなりの強さを持っていないと意味が無いから、王国騎士団に依頼するって。それでも足りない分は、傭兵を雇わないといけないともな」


 この世界には、電気は無いがその代わりに魔力を溜める技術があり、それを街の明かりなどに利用しているのだ。しかし、魔力を溜める装置はかなり高額で、維持と設置には高い技術力が必要とされる為、王都でも個人で所有しているところは少なく、王家を除けば一部の上位貴族のタウンハウスに置いてあるくらいだ。

 他にもいくつかの公的機関に設置しており、その中で一番大きなものが王城に、二番目に大きなものがこの学園にあるのだ。ただ、二番目に大きいとは言え、半日近く使い続ければ魔力の消費は大きくなり、それに比例して魔力の補充と整備にかかる費用も多くなる。

 学園は王立なので増えた費用は王家から補充されるが、実際に手配するのは学園の関係者なので、仕事が増えた分だけ学園関係者の負担も増えたということだ。


「エレイン先輩は、高等部でも信頼されているんだな」

「それはそうよ。中等部と高等部を合わせても、エレイン先輩のご実家である公爵家より上はアーサー王太子様だけで、その王太子様は今隣国に留学なされているのだから、自然と中心になるのは当然よ」


「その考え方だと、エレイン先輩が卒業すればアコニタム侯爵家の()()が幅を利かせることにならないか?」


「まあ、影響力は強まるかもしれないけれど、エレイン先輩が卒業すると別の公爵家の嫡男が入学する予定だから、学園の中心にはなれないでしょうね」


 それならいいが、中等部の一年では高等部のムスカたちを止めることは難しいだろうな。まあ、けん制になれば儲けものくらいに思っておくか。


「はぁ……学園内の面倒事はまだ仕方がないけど、外からは来てほしく無いな」


 そんな思いとは裏腹に、ソウルイーターの被害は俺たちの近くまで忍び寄っていたのだった。

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