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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第七章
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第四話

「当たり前のことだから言っても仕方がないんだけど……簡単な報告をするだけなのに、なんでこうも待たされないといけないのかしらね?」

「まあ、ウーゼルさんは国王陛下ですからね。例え今代の緑が来たとしても、おいそれと簡単に会うわけにはいかないんでしょう」


 俺とエンドラさんは、訓練で地形を大きく変えてしまった場所から逃亡した後で、そのまま王城へとやってきてウーゼルさんへ報告に来たのだが……流石に誰かに報告を預けるには()()が大きく、かと言ってウーゼルさんに直接報告するには手続きに時間がかかる。

 ただまあ、だからと言って帰るわけにはいかなかったので、大人しく手続きが終わるのを待っているわけなのだが、待っている時間特にすることがなく暇である。

 それに、やはりと言うか、毎度のごとく暗部が俺たちを監視している。なので、こちらもいつもいつも通り、隠れている暗部に向かって手を振ってやった。


「それにしても暇ね……隠れている()()()たちも、何か面白いことをしてくれたらいいのに……とりあえずジーク、お茶とお茶菓子を出してちょうだい。あなたのことだから、どうせいつものように隠し持っているんでしょ?」

「隠し持っているって人聞きの悪い……常備していると言ってください」


 言い方はあれだが、エンドラさんの言う通り訓練の後なのもあってお腹もすいているので、マジックボックスからいつものお茶菓子と自前のお茶会セット一式を取り出した。

 一応、この部屋に案内された時にお茶とお茶菓子を持ってきてもらったが、正直言って自分で用意する方が口に合うし、いちいちメイドを呼ぶのも面倒なので、ここからは全て自分で用意することにしたのだ。

 そうしてお茶を用意する俺を見てエンドラさんが、


「それにしても、やっぱりジークは器用ね。普通は水を出してから火の魔法で温めるものだけど、二つの魔法を同時に使用してお湯を直接出すのだから……それだけなら私にも出来るけれど、お茶に丁度いい温度は難しいわ」

「そこまでこらなくても、沸騰する温度を目安にしたらいいと思いますけどね」


 紅茶を入れるには沸騰直前がいいらしいけど、別にプロが入れるわけではないから、沸騰させた状態で入れるか少し冷ませばいいだけの話だ。


「お茶の技術ではなく、魔法の技術の話よ。私が言いたいのは、沸騰した状態に持っていくのは簡単でも、その直前の温度を見極めて、それ以上熱くならないように魔力を調整するのは難しいということよ」


 ああ、そう言うことか。エンドラさんがそう言ってくれるのは嬉しいが、それはエンドラさんがそんな練習をやらなかっただけの話のような気がする。何せ、こんな技術は普通の魔法使いはやらないし、何なら魔法でお湯を出すよりも、非を使って水を温めた方が簡単で確実なのだ。

 もし温度の調整の練習したとしても、攻撃や料理に使う目的で沸騰させるか、風呂替わりや体を温めるのに使うのを目的とするだろう。

 つまり、


「そこまで細かに調整できるように訓練するのは、余程の天才かあるいは暇人、もしくは変態ね」


 なんか酷い言われようだが、暇人はまだいいとしても変態は止めてほしい。


「そんなことを言うエンドラさんには、特別に苦いお茶でも入れましょうか?」


 と、少し反撃してみたものの、


「そうしたらメイドを呼んで美味しいお茶を入れてもらうだけよ」


 と返されてしまい、敗北感を味わうことになってしまった。

 そんな中、


「ジーク、今度は何をやらかしたんだ⁉」


 アーサーがひょっこりと顔を出した。

 ノックもせずに入ってくるのはアーサーにしては珍しいが、多分エンドラさんがいるのを知らなかったのだろう。現に、


「エンドラ殿、失礼しました!」


 お茶菓子に手を伸ばしているエンドラさんを見て、アーサーは慌てて頭を下げていた……と言うか、今代の緑とはいえ、エンドラさんは伯爵相当とのことだから、アーサーがそこまで頭を下げるのはおかしい気がするが……まあ、伯爵相当とはいえ、エンドラさんは土地や権力と言ったしがらみがないので、王家としては国を見限られないように配慮する必要があるのかもしれない。


「それで、アーサーはそんなに慌てて何しに来たんだ?」

「いや、ジークが一人で来て父上に面会を求めているという話を聞いて、なにかまずいことでも起こったのかと心配になってな。まあ、エンドラ殿がいるところを見ると、私の聞き間違いか報告に不備があったのだろうけど……それでも、ヴァレンシュタイン子爵や婦人ではなくエンドラ殿が一緒ということは、何かあったのは事実なんだな?」


 アーサーは自分の方に間違いがあって慌てていたのは肯定しつつも、俺が何かやらかしたのは確信しているようだ。まあ正確には、()()()()だけど。


「まあ、そんなところだ。俺も色々とそのことで言いたいことはあるが、おおむね間違っていない。ところで、アーサーはここに来るのに護衛は付けなかったのか?」


「いや、付けていないぞ。王城は自宅のようなものだからな。それに、この部屋に近づく程に守りて(みはり)が増えるから安全だし。逆につけていない方が動きやすい。それがどうかしたか?」


 例え王城が自宅だったとしても、侵入者などがいないとは限らないのでなるべく護衛を付けて移動した方がいいとは思うが……各所に暗部や騎士が配置されているだろうから、アーサーの言う通りそこまで心配しなくてもいいのかもしれないし、確かに四六時中護衛が付いて回っていたら精神的に参ってしまうのも分かる。

 ただ、そうだとしたら、


「この部屋に数人が近づいてきているみたいだけど、アーサーの護衛じゃないとしたら誰だ?」


 特に急いだり慎重になっている様子は無いので、最初はアーサーの護衛かもしれないと思ったのだが、この様子だと違うようだ。そうなると、ウーゼルさんか? ……とも思ったが、今回はエンドラさんがいるのでウーゼルさんの場合は先ぶれが来るような気がする。


 などと思っていると、


「アーサー、すぐそこまで来たぞ。そこにいると邪魔になる」


 そう伝えると、アーサーはすぐに俺の近くまで移動した。

 その際、さりげなく俺よりも後ろの位置まで下がったので、何かあった場合は俺を盾にする気だろう。


「失礼します。王妃殿下が参られました」

「どうぞ」


 アーサーがいたので一応警戒したものの、来訪者はアナ様とのことだったので、すぐにアナ様のメイドに返事をした。

 もしこれが俺一人だったりサマンサさんたちと一緒だったりしたら、返事をする前にそのまま入ってくるだろうが、流石に今代の緑は特別待遇ということのようだ。


「エンドラ様、失礼します」

「王妃殿下もお久しぶりでございます。お元気そうで何よりです」


 アナ様はエンドラさんに丁寧に頭を下げると、エンドラさんもしっかりと頭を下げて迎えた。


「ジークも久しぶりね」

「お久しぶりです、王妃殿下」


 俺もエンドラさんに倣って頭を下げたのだが……何故かアナ様は不満そうな顔をしていた。そして、


「ジーク、あなたは書類上の話とはいえ、私の親戚になるのよ。そして、サマンサの息子よ。公の場ならともかく、こういった私的の場ではアナ()()と呼びなさい」


 と言ってきた。

 何故に? と思い、アーサーを見ると……アーサーは行くりと首を横に振っていた。

 その反応を見て、何かしらの事情があるのだろうと理解できたので、


「ええっと……サマンサさんたちがアナ様と呼んでいるので、俺だけさん付けにするわけにはいきませんので、アナ様でお願いします」


 とりあえずアナ様の希望……と言うか、命令に添える形に持っていくことにした。ただまあ、流石に若干の条件を出させてもらったが、それもアナ様は気に食わないようで、


「陛下はさん付けで呼ぶのに、私には出来ないのね?」


 と言われてしまった。

 確かに王妃には様付けで、国王にはさん付けと言うのはおかしいかもしれないが……これには一応理由がある。それを説明しようか迷っていると、


「母上、あまり無茶を言うのはよしてください。ジークが困っています。ジークが父上に対して気安いところがあるのは仕方のないことです。何せ、この国に来る時に初めて会った人物の一人なのですから。それに、度々ジークが心配だから様子を見る為と言って遊びに行き、その度にだらしのないところを見せていたのです。そのせいでジークは学園に入るまで父上を国王ではなく、ただの子爵の知り合いのおじさんと思っていたくらいなのですから」


 アーサーが俺の代わりに説明してくれた。ただ、ウーゼルさんのことを国王とは思っていなかったのは事実だが、ただのおじさんでは無くそれなりに偉い人だとは思っていたけどな。


「確かに、それなら陛下をさん付けで呼ぶのは仕方がないことでしょうけど……」

「アナ様、少しよろしいでしょうか?」


 まだ納得のいっていないアナ様に対し、それまで静かに様子を見ていたエンドラさんが声を掛けた。


「アナ様はジークがさん付けをしないことに対し不満があるようですが、逆に考えればそれだけアナ様を敬っていると考えられるのです。アナ様の言う通り、ジークは血こそ繋がっていませんが、ご実家の侯爵家の家系に連なっている()()()()()()()()()います。そのことを考えれば、ジークがアナ様に対し失礼な態度が取れないのは仕方のないことです」


「成程、確かにそう言う考え方も出来ますね。分かりました、エンドラ様がそう言うのならさん付けは諦めましょう。ただし、今後王城に来ることがあれば、サマンサがいなくとも私のところに顔を出しなさい」


「承知いたしました」


 俺がそう言って頭を下げると、


「エンドラ様、お騒がせしました。これで失礼させていただきます……ジーク、今後は忘れずに顔を出すのよ?」


 そう言ってアナ様は部屋を出て行った。

 俺はアナ様が部屋から完全に離れたのを確認してから、


「アーサー、アナ様の様子が少しおかしいように思ったが、何があった?」


 アーサーに理由を尋ねた……が、


「ジーク、少しお待ちなさい……これでネズミたちに話を聞かれることは無いわ」


 エンドラさんが止めに入り、俺たちの周りに風魔法で結界を作ってから話す許可を出した。


「エンドラ殿、ありがとうございます。ジーク、少し前に街でエルハルトを保護しただろ? そのことを知った一部の貴族……反王族派で、特に母上の実家である侯爵家と敵対しているところが、ジークが母上を裏切ろうとしているという噂を流そうとしていたらしくてな。それを阻止する為に、手っ取り早く仲のいいところをアピールしようとしたわけだ」


 アーサーの話を聞いて、そう言った事情があったのかと思ったが、アナ様が動いたのはどちらかというとヴァレンシュタイン子爵家との関係の為だろう。

 いくら俺が若手の注目株だと言われていても、俺だけならアナ様と反目しているという噂が出てもそれがどうした? となるだろう。まあ、多少は騒がれるだろうが、噂が信じられたとしてもそのほとんどは俺の不義理として批判はこちらに向けられるだろう。

 だがその噂の中身が、俺からウーゼルさんの親友でアナ様の従姉であるサマンサさんが嫁いでいる子爵家に変えられた時、下手をすると無視できない混乱につながる恐れがある。


 それを前もって潰しておこうと動いたとすれば、アナ様の行動は納得がいく。後、俺個人とも親しいアピールをしておくことで、将来的に俺が今代の黒だと公表した時にもたらされる影響力も考えてのことかもしれない。


「それなら、俺からも多少は動いた方がいいのか?」


 どうせ今回のことは敵対派閥やその他の派閥にも見られているだろうから、俺からも動いた方が効果が上がるかもしれない。

 そう思い提案してみると、


「確かにそうかもしれないが、動くと言ってもどうする? いつものように母上に土産を渡すだけだと、あまり効果は無いかもしれないぞ?」


 アーサーは頷きながらも、いつもと同じでは大した意味がないと首をひねっていた。そこに、


「アーサー殿下、確かアナ様のご実家である侯爵家の孫が、今年学園に入学しますよね?」


 エンドラさんが加わってきた。


「ええ、私の従弟に当たる者が、今年入学を予定しています」


「それでしたら、この子に何か送るというのはどうでしょうか? ジーク、あなたが私に()()()ダガーと同じ素材で作った剣は残っているかしら?」


 エンドラさんはそう言うが、俺の記憶が確かなら、あれはあげたというよりは強引に持って行ったと表現した方が正しいような気がするが……今更言っても仕方がないことなので頷くと、


「それを入学祝という形で、ジークからアナ様を通じて侯爵家に渡すのはいかがでしょうか? そうすれば、ジークはアナ様とそのご実家の侯爵家と懇意にしていると証明できると思うのですが?」


 エンドラさんは俺の思いなど無視して話を続けた。


「確かにそうかもしれませんが……いいのか、ジーク? あのショートソードは、かなり高価で貴重な者だと思うのだが?」


「まあ、正直顔も名前も知らない相手に送るのはもったいないという思いがないと言えばうそになるが、ここは損して得取れと言ったところだろうな。それに、侯爵家には俺の後ろ盾の一つとして、今後も世話になりたいからな。ただまあ、前に作った奴でいいのか? 試し切りくらいしかしていないから新品同様だけど、中古品と言われれば否定はできないぞ?」


「それは大丈夫だ。例え実戦で使われていたとしても、あの剣なら価値が落ちることは無い。むしろ、言い方次第では実戦で活躍した剣だとも言い張れる。それに、前に作ったと言っても、贈り物にする為にあらかじめ準備しておくことは何らおかしいことではない。むしろ、入学の贈答用に作っておいたと、堂々と言えばいい」


 まあ、それならいいか……と思い、マジックボックスから剣を取り出すと、天井裏から様子を見ていた者たちが動いた気配がしたが、俺は気にせずにアーサーの前に置いた。


「……相変わらず、いい剣だな。汚れもないし、これならこのまま渡しても問題は無いだろう」


 アーサーは剣を鞘から抜いて刀身を確かめると、すぐに鞘に納めて俺に渡してきた。


「それじゃあ、後でアーサーからアナ様に話をしてくれないか? その方が早いと思うんだが?」

「まあ、確かにそうだろうな。母上に渡す役も、私が行おう。その方が穿った見方をしている者たちへのけん制になるだろうな。恐らく母上は父上への報告の場に同席するだろうから、その場に持ち込むと言い。ただ、剣自体は布か何かで巻いてくれるといいのだが……」


 アーサーはそう言うと、部屋の中を見回して何か剣を巻くのにちょうどいい布がないか探していたが、


「それならこれでよくないか?」


 と言って、俺は竜の飛膜を取り出した。


「これはちょっと……布代わりにするのはもったいない気がするわね。ただまあ、私がそう思うくらいだから、贈り物に使うには十分すぎる品物ではあるけど」


 竜の被膜を使うと言うと、アーサーよりも先にエンドラさんが驚きの声を上げた。


「確かにもったいないくらいだが……本当にいいのか?」

「ああ、俺ももったいない気はするが、ここまで来たらこだわった方がいい気がするしな。それに、飛膜は皮よりも重要度は低いし、無いなら無いでも構わないからな」


 正直、今のところ飛膜に関しては持て余し気味なのだ。

 飛膜は皮より薄く伸縮性に優れているので、下着や肌着に最適なのではと考えていたが、実際に触って確かめたところ通気性も吸水性も悪かったので、ゴム紐の代わりか手袋くらいしか使い道が思いついていないのである。


「そんな風に言うのなら、私にもちょうだいね。ドラゴンの飛膜って、マントにするのに適しているのよね。軽くて薄いわりに、それなりに頑丈だし……訓練に付き合ってあげたんだから、嫌とは言わないわよね?」


 ちゃっかりエンドラさんが欲しがっていたが、聞こえないふりをして無視をしたところ、がっしりと肩を掴まれて念を押されてしまった。人によっては脅迫とも取れそうな感じだが、わざわざ手を貸してもらったのは事実なので、俺は頷くことしかできなかった。


 切り分けていた飛膜で剣を包み、マントに使えそうなくらいの量をエンドラさんに渡すと、丁度ウーゼルさんの準備が出来たとの知らせが来たのでおれたちは移動することになった。

 ただ、流石にアーサーと一緒に行くわけにはいかなかったので、アーサーには一人だけ先向かってもらい、剣の方はウーゼルさんに報告する前に()()()()()()に預け、報告が終わったタイミングでアーサーが剣の話をするという流れになっている。

 ちなみに、俺が剣を預けた人はカレトヴルッフ公爵だ。

 何故公爵本人がこんな仕事をしているかというと、エンドラさんが今回の報告に関わっているからだ。後、俺を警戒しているというのも関係しているだろう。


 そんな警戒心をあらわにしている公爵に案内されて、剣を預けたらさらに警戒されて、報告中も睨まれて……と言った感じの中、ウーゼルさんへの報告(主にエンドラさんがした)が終わったタイミングで、


「陛下、失礼します」


 アナ様がやってきた。

 一応、アナ様はアーサーに呼ばれたから来たという形にはなっているが、実際は隣の部屋で終わるのを待っていたのだ。


「母上、ヴァレンシュタイン男爵から献上したいものがあるそうです」


 アーサーがそう言うとアナ様は少し驚いた表情を見せ、それを見ていた他の貴族は興味深そうにしていたが、献上品を運んできたのが公爵だと知って、次の瞬間には驚愕の表情に変わる者が続出した。


「これは剣ね。陛下でなく、私にという理由は?」

「以前より男爵から、母上の実家であるスノールソン侯爵家に日頃の感謝を込めて何か贈り物がしたいと相談されていまして、話し合いの中でスノールソン侯爵の孫が今年学園に入学すると知った男爵が、それなら剣を贈るのはどうだろうかということで、貴重な金属を用いて特別に用意したものなのですが、親族であるとはいえ、男爵は自身が直接持っていくのは失礼にあたるのではないかと心配していましたので、それなら母上に一度お預けしてから侯爵家に渡すのはどうかと私が提案したのです」


 アーサーがそう説明すると、周りで聞いていた貴族から驚きの声が聞こえてきた。

 まあ、貴族の中には俺とアナ様の噂が出るのを()()()()()、もしくは()()()()()()()者もいるだろうし、さりげなくアーサーが、俺とはそんな相談をされる仲だと公言したのもあるのだろう。


「まあ、それはありがたいことね! 父も兄も喜ぶに違いないわ。公爵も、わざわざこんな真似をさせて申し訳ありませんでした」


 アナ様は、少し大げさに喜んだ後で、剣を運んできた公爵に頭を下げた。


「いえ、たまたま手が空いていただけであります。それに、王妃様に献上される()()()()を運べたのは私にとっても名誉なことですので、お気になさらずに」


 公爵も公爵で、アナ様……というより、王家とスノールソン侯爵家との仲は良好であるとアピールしているようだ。

 まあ、一応公爵はアナ様の義弟にあたるし、スノールソン侯爵家とは同じ王家の派閥仲間だ。敵対派閥に対してけん制する意味も込めて、普段なら絶対にしない仕事をしたのだろう。


「ごほん! ……何やら私がのけ者にされている気もするが……男爵、私からも礼を言おう。侯爵家には私の名も添えて、男爵から贈られたものだと伝えよう」


 仲間外れにされたとでも思ったのか、ウーゼルさんが少々強引に話に入ってきてこの場を閉めた。

 ただ、


「エレイン殿とヴァレンシュタイン男爵には少し話したいことがある」


 とウーゼルさんに言われ、残されることになってしまった。

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― 新着の感想 ―
貴族ってめんどくさいと心から思ってしまうなと。 外国の貴族や大使などにジークさんと王妃様が不仲どころか、貴重品の贈呈の仲介役として動く親しさがあると示すのならばともかく。何で同じ国の貴族にわざわざそん…
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