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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第七章
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第三話

「流石にジークも一緒だと安定しないわね」

「安定も何も、あれだけ速度を出せば揺れるのは当然ですよ。しかも、途中からわざとやっていたでしょ?」


 俺たちは今、王都から十数km離れた草原に来ている……王都を出てから数分で。

 その速さの理由は、全力で走ったからではない。全力で空を飛んできたからだ。俺はエンドラさんに首根っこを掴まれて運ばれてここまで来たので体力や魔力的な疲れは無いが、ここに来るまでにエンドラさんがわざと揺らしたり地面すれすれを飛んだりしたせいで、気疲れはしている。


「だってねぇ……昔サマンサを連れて空を飛んだ時、あの子ったら本気で泣いたのよ。だからジークも、サマンサ程でなくとも涙位見せると思ったのに全然だったから……ついね」


 サマンサさんが泣く程の昔って、いったい何十年のことだ? ……と思った瞬間、エンドラさんが背後から手を伸ばしてきたので、急いで影に潜ってその場を離れた。


「あら? これくらいの影でも潜れるのね? ……ちっ」


 俺は、()()()()()()()サマンサさんの舌打ちで、即座に逃げたのは大正解だったと確信した。

 多分あの時逃げ遅れていたら、もう一度空の無軌道ジェットコースターを味わうことになっていただろう。そして最後に、紐無しバンジーも追加された特別バージョンが。


「まあいいわ。このまま始めましょうか? ルールは、相手を殺すような攻撃はなしよ」


 そう言うなりエンドラさんは、空中から空気を固めたような魔法を連続で放ってきた。

 一般的にこういった力試しのが目的の手合わせの場合、初手は様子見の為に(ボール)と呼ばれる初級に近い魔法や、その少し上の難度の(バレット)と呼ばれる魔法が使われることが多いと思うのだが……この魔法はそんな()()()()ものでは無い。

 一応俺でも使えるくらいの魔法で、難易度的には中級くらいだろうが、エンドラさんが使うと上級難易度並みの威力が出ている。

 つまり、直撃すれば簡単に死ねるし、かすっただけでも場合によっては死ぬ。死ななくても、骨折は免れない。


「『エアハンマー』!」

「はい、お返し」


 一応、訓練目的でもあるので、同じ魔法を空中のエンドラさんに向けてはなってみたものの、打ち上げるのと打ち下ろすのでは勢いに差が出る上に、元々の風魔法の力量差のせいで、俺の魔法はエンドラさんの魔法とかち合った瞬間に打ち消されてしまい、結果として多少威力を弱めただけに終わった。


「『ダークミスト』」


 上空を支配されている以上、このままでは後手に回り続けると思った俺は、俺の周囲だけでも有利な状況を作ることにした。ただ、エンドラさんの周辺までは完全に闇で覆うことは出来ないし、覆えたとしても範囲外まで移動されると意味が無くなるので、あくまでエンドラさんから俺自身を隠しつつ、魔法攻撃による直撃の可能性を減らす為のものだ。


「まあ、狙いをつけさせないように対策するのは定石だけど、風で散らせば……って、(ミスト)とか言う癖に風で消えないのね。それなら……もっと()()()()()で行きましょうか」


 そう言うとエンドラさんは、ダークミストが広がっている範囲全てを風の魔法で()()()()()


「さて、ジークはどこかしら……ね!」

「流石にあれは死ぬでしょ、普通!」


 せっかくエンドラさんの背後を取ったというのに、この人は俺の一撃を杖で軽々と受け止めてしまった。まあ、確かにこれくらいの奇襲は読まれて当然だとは思っていたが、流石に剣での一撃はもう少し押し込めると思っていたのだが……流石にこれまでの長い経験の中で、エンドラさんは同じような近接戦を仕掛けられたことなど星の数ほど経験しているのだろう。


「ダークミストの範囲にいると見せかけて、即座に離脱して背後を狙ったのは褒めてあげるけど……失礼な妄想は減点ね。それとジークだと、最初の一撃以上の攻撃は難しいわよね。減点二」


 そう言うとエンドラさんは、足場のない俺を打ち落とすかのように杖に力を込めて地面に叩きつけようとしたが、


「これで減点は回避ですかね?」


 俺はその勢いを利用した上で、更に自分でも地面に向かって()()()()

 それと同時に、アラクネの糸を芯にしたシャドウ・ストリングをエンドラさんの脚に巻き付けたので、エンドラさんも俺と同じ勢いで地面に落下していった。

 そして地面にぶつかる瞬間、


「『シャドウ・ダイブ』」


 俺は影に潜って衝撃を回避した。しかし、


「手ごたえがないな……糸も切られたし、逃げられたか」


 シャドウ・ストリングが途中で切れている上に、何かが地面にぶつかるような衝撃も音もしなかった。


「アラクネの糸は貴重なんだけどな……」


 エンドラさんに逃げられたことよりも、数mとはいえ貴重なアラクネの糸が短くなってしまったことの方が、正直ショックだったが……まあ、仕方がない。

 エンドラさんクラスの人物を相手にするには、これくらいの小細工は通用しないということが分かっただけでも収穫だろう。ただまあ、


「酷いことするわね! あのまま気が付くのが数秒遅れていたら、今頃私はぺちゃんこになっていたわよ! 肝が冷えたわ!」

 

 それなりに驚かせることは出来たようだ。つまり、ダメージは与えられないが、嫌がらせとしては十分通用するということだ。


「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。ダークミストの対策でエンドラさんが()()()ところなんて、雨でも降ったら池が出来そうですよ」


 俺が元居た場所は、エンドラさんの魔法によって広い範囲で陥没しており、多少整備すれば溜池として使えそうなくらいの穴が出来ていた。

 もしもあのままダークミストの中にとどまっていたら、俺は圧死していたに違いない。


 相変わらず上空を取られているので不利な状況が続いているが、先程の攻撃が利いているのかエンドラさんはより慎重に俺を見ていた。

 ただ、このままお見合いしていても仕方がないので、もう一度ダークミストを放って様子を見ようと動こうとした時、


「今度は連射か!」


 エンドラさんの方が先に動いた。

 しかも先程と違い、今度は威力は小さいが速度があり、魔力の消費も少ないような魔法の連射だった。そんな魔法を、特に狙いをつけず大雑把に俺の周辺にばらまくようなやり方だ。


「威力が低いと言っても、まともに食らえば体に穴が開くぞ! エンドラさん、訓練というのを忘れてないか⁉」

 

 明らかに最初の魔法よりも殺意の高いやり方に、俺は必死になって逃げ回るものの、エンドラさんは一定の距離を保ちながら上空から魔法を打ち続けていた。


「くそ! ダインスレイヴ!」


 訓練であまり使いたくはなかったが、エンドラさん相手ではそうもいっていられないのでダインスレイヴの銃形態を出して、振り向きざまに一瞬見えたエンドラさんに向かって引き金を引いた……が、


「え?」


 放たれたダインスレイヴは、エンドラさんのいるところから大きく外れて空へと消えて行った。


「躱された? ……いや、違う!」


 明後日の方向へと飛んでいったダインスレイヴを見て、最初は一瞬でエンドラさんが移動して躱したのかと思ったが、外した俺の隙をつくかのように放たれたエンドラさんの魔法を見て、エンドラさんが避けたのではなく、俺がエンドラさんの()()()()()()ダインスレイヴを放ったのだと気が付いた。


「避けることに気を取られて築けなかったけど、エンドラさんは何かしらの魔法で自分の周囲に細工をしているな」


 よく注意してエンドラさんの手元を見ていると、エンドラさんから放たれる魔法の角度や位置がおかしいことに気が付いた。

 恐らくだがその原因は、俺の見ているのが偽物……とは少し違うが、俺が認識している位置とは違う場所にエンドラさんがいるからだと思われる。


「エンドラさんが白魔法を使えると聞いたことは無いから、光を直接操作してとかではなく、他の魔法であの現象を起こしているということか?」


 エンドラさんは風の他に火と水の魔法が使えたはずだから、それらを組み合わせて蜃気楼のようなものを生み出したのかもしれない。

 そうだとすると、ダインスレイヴのような点で狙う攻撃では、エンドラさんに有効打を与えるのは難しいかもしれない。


(こういう時に、強力な範囲攻撃を使えないのは痛いな……)


 範囲攻撃というだけなら、俺でも風や水などの魔法で放つことは出来るが、それだとエンドラさんに通用するような攻撃にはならない。

 せめて銃形態のダインスレイヴの半分くらいの威力が出せれば、まだやりようはあるかもしれないが、俺が得意にしている黒魔法でも、効果的な攻撃魔法は無いというのが現状だ……と言うか、今の状況は完全に今代の黒という肩書に甘えていた俺の失態だ。

 もしかすると俺が知らないだけで、高威力の範囲攻撃が黒魔法にもあるかもしれないし、無ければこういった時を想定して対策を考えていればよかったのだ。


 後悔しても遅いが、逆に考えれば今気づけたのは僥倖と言える。今なら本番までに何かしらの対策が出来るかもしれないからだ。

 まあ、それはそれとして……だからと言って、このままエンドラさんに負けるのは癪に障る。

 などと思っていたら、


「う、あ……」


 エンドラさんの攻撃が俺の胸を貫いた。


「え?」


 流石にこれは想定外だったらしく、エンドラさんは分かりやすく動揺していたが、


「って、驚かせないで! とと……」


 すぐに俺の魔法だと気が付いて、背後の俺を杖で殴り飛ばそうとしたが……それも俺の魔法だった為、空ぶったエンドラさんは、勢い余って空中でバランスを崩していた。


「ようやく届いた!」

「きゃっ!」


 そんなエンドラさんの背後をまたも取った俺は、空中で遠慮なくエンドラさんの背中を蹴って地面に叩きつけようとしたが、


「ジーク! 師匠で年上の女性の背中を蹴りつけるなんて、()()()がなってないわよ!」


 流石に空中を飛び回れるエンドラさんを地面に落とすことは出来ず、地面まであと数mというところで体勢を立て直されてしまった。

 もっとも、それは想定内だったので、


「また偽物? でも、本物はこっちね!」


 偽物をさらに数体追加したのだが、エンドラさんは即座に自分の正面にいる()に照準を合わせて魔法を放った……が、


「これも偽物⁉ それじゃあ、どこ……下!」


 本物の()はすでに真下の地上に先回りしていて、エンドラさんが俺に気が付いた時には、俺は水と火の球を同時にエンドラさんに向かって放つところだった。


「決め手不足を数で補う気? まあ、それも正解の一つかもしれないけれど……え?」


 エンドラさんは、すぐに俺の魔法を迎撃しようと杖を向けていたが、魔法を放つ寸前で俺の魔法が互いにぶつかったのを見て一瞬驚いた表情を見せた。

 エンドラさんからすれば、自分を攻撃する為に複数の魔法を放ったのに、その魔法が互いに邪魔をしてしまったように見えたかもしれないが、それは失敗ではなく俺の狙い通りだ。


「熱っ! くっ!」


 何せ、エンドラさんのことだから、不意打ちでも水や火の魔法への対応はすぐに出来るくらい慣れているだろう。

 それなら、普段あまり使われない方法で攻撃すれば、少しくらいはダメージを与えることが出来る可能性が高い。そしてその作戦は上手くいき、あの様子では思ったよりも効果があったようだ。まあ、すぐに風の魔法で熱が遮断されたみたいだが、一瞬とはいえ百度を超える熱にさらされたのだ。軽いやけどくらいは負わせることが出来ただろう。

 だが、


「決定打には足りなさすぎるな……むしろ、逆に怒らせたみたいだ……」


 一泡吹かせるつもりが、虎の尾を踏んでしまったようだ。

 先程までとは違い、エンドラさんの目が本気になっている。考えようによっては、最強と名高い今代の緑を本気にさせることが出来たと喜ぶべきかもしれないが……このままでは喜ぶ前に死が訪れることになりかねない。


「いいわ、ジーク……とってもいいわよ……久々に本気で行こうかしらね。ジーク……死なないでね?」


 その言葉とほぼ同時に、エンドラさんからこれまで経験したことがないくらいの魔力の高まりを感じた。

 何をする気か知らないが、あれが全て俺に向けられたとしたら、俺の体は塵も残さずに消滅してしまうかもしれない。

 しかし、仮に影に潜って躱そうとしたとして、あれだけの魔力が込められた攻撃にさらされて無事で済むものなのか? もしかしたら、影に潜った状態のまま消し飛ばされるかもしれない。

 そう思ってしまうくらいのけた外れな魔力だし、先程から死ぬ未来しか頭に浮かんでこない。


(どうする? 今から逃げるのは無理だ。かといって、命乞いをしてもエンドラさんが攻撃を止めるとは限らない)


 エンドラさんのあの目は、俺を仕留めることしか見えていないように見える。逃げるのも無理、エンドラさんを止めるのも無理……それなら、


「エンドラさんを()()()()()()()!」


 やられる前にヤってやる! それくらいの覚悟がないと、生き残ることは出来ない!


「ダインスレイヴ!」


 俺は銃形態のダインスレイヴを出してエンドラさんに照準を合わせ、腹の底……いや、全身の細胞から絞り出すつもりで魔力を込めて、


「『ブラストインパクト』」

「喰らえ、『ダインスレイヴ』」


 エンドラさんの魔法に、正面から俺の全てをぶつけた。




「ジーク! 生きてる、ジーク⁉」

「う……うぇい? ……あれ? 俺、生きてる?」

 

 エンドラさんの声が聞こえて返事が出来ているということは、一応俺は生きているということだろう。

 ただ、どれくらいかは知らないが気を失い、エンドラさんに起こされたということは、あれだけの魔力を込めたというのに負けてしまったということなのだろう。もっとも、あの状態でよく死ななかったという一点だけで、その手の歴史書に名を残してもいいような気もするが。


「よ、良かったわ、無事みた……ジーク、これ何本に見える? それと自分の名前と私の名前は言える? あと、私の年齢は?」


 エンドラさんが親指を曲げた手のひらを俺の前に突き出しながら質問をしてくるので、最後の質問の答えを思い出しながら、


「え~っと……指は三本で、俺の名はジーク・ヴァレンシュタイン、あなたはエンドラさんで、歳は確か六十……」


 と答えようとしたところ、


「失礼ね! まだ五十五よ!」


 頭をかなり強い力で叩かれた。

 いや、叩くくらいならそんな質問するなと叫びたいところだが、それをするとまた叩かれそうなので黙ることにしたが……これだけははっきり言いたい。


「それは俺が学園に入学した時の年齢では無かったですか?」


 サマンサさんから聞いた話では、エンドラさんはサマンサさんの二十……とちょっと上とのことで、その話を聞いた時に、俺の感覚だとエンドラさんはサマンサさんの母親で、俺からすると少し若いおばあさんくらいの年齢だと思ったのでよく覚えている。


「私の時間は大分前から止まっているのよ! まあ、私の質問も()()正解したし、それくらい口が回るということは、特に問題は無いようね」


 いや、俺のことよりも質問の正解が改ざんされていることの方が問題だろ! と思ったが、それを言うとまたげんこつが落ちてくるので黙って聞き流すことにした。


「それで、魔法を放った後の記憶がはっきりしないんですけど、どうなったんですか?」


「そうね……まずは、この光景をごらんなさい」


 あのエンドラさんの魔法に対し、全力で魔力を振り絞ったところまでは覚えているが、それ以降が全く分からなかったので聞くと、エンドラさんは説明しにくそうに指を差した。

 その方向には、


「……なんですか、これ?」


 エンドラさんが作った()()よりも、はるかに大きく深い穴が出来ていた。

 ギリギリまで近寄って中を覗いてみると、一番深いところで十m、幅は恐らく百mを越えると言った感じだ。


「エンドラさん、あなたこんな威力の魔法を俺に向かって放ったんですか?」


 流石にこれは死ぬ死なないのレベルを超える魔法だ……と思い、若干引きながら問いただすと。


「いや、確かに私の魔法も含まれているけど、半分はジークの仕業だからね。ジークが最後に放った魔法と私の魔法がぶつかり合い、その過程で出来たのがこの穴よ。ただまあ……これだけの穴が出来たのは完全に予想外だったわ……陛下に怒られるわね」


 などと言いながら、エンドラさんは笑っているが……エンドラさんの場合、ウーゼルさんに怒られてもけろりとしているだろうし、他の貴族から嫌味を言われたとしても気にしないだろうから、そのしわ寄せは俺に来ることになりそうだ。ただ、


「これ、俺も一緒になって作ったとか知られれば、下手をすると今代の黒のことがバレませんかね?」


 今代の黒に関しては出来る限り秘密にしておきたいことなので、それに近づけるような情報はなるべくなら洩れないようにしたい。だが、ここまで派手なことになるとそうも言っていられないので、どうしたらいいのかと悩んでいると、


「それなら、私の魔法をジークに見せる過程でできたと言えばいいわよ。実際に昔……ちょっと前に大勢の前で使ったことのある魔法だったから、そこまで怪しまれることは無いはずよ。まあ、多少はジークの強さを上方修正するのが増えるでしょうけど。バレるよりはましでしょ? それに、ジークが私の弟子で中等部のころにソウルイーターを倒していることは皆知っていることだから、何か聞かれたらその時から鍛錬を重ねて成長したと言えば大丈夫よ」


 とのことだったので、その案で通すことにした。

 それにしても……この威力の魔法を大勢の前で使ったなんて言ったが、どういった経緯で使用されたのかが気になる。多分、他の貴族に馬鹿にされて、頭に来たから使った……とかではないと思いたいけど、俺に向けて使った時のエンドラさんのことを考えたら、その線も捨てきれないというのが正直な感想だ。


「……何か疑っているような目で私を見ているけど、別に変な目的で使ったわけではないわよ。ただ、帝国との戦争の時に、ちょっと相手の軍勢を蹴散らすのに使っただけよ」


「相手にしたのは何万の軍勢で、その内の何万を()()()んですか?」


「え~っと……大体五万くらいいたかしらね? その内、あの魔法で消えたのは二万くらいじゃないかしら? まあ、合計で三発放ったから、最終的に四万以上はいけたと思うわ」


 今の言い方だと、五万の軍勢相手にエンドラさん単騎で完勝したということになるのだが……確かに、密集しているところを狙えば、いくら相手が軍満を越える軍勢であっても、魔法に優れた者を集めるなどして対策をしていなければ、それは象に踏みつけられるアリの群れと変わらないだろう。というか、


「そんな魔法、よくも俺に向けて放とうと思いましたね?」


 いくら興が乗ったからと言って、あれは訓練の範疇を越えるものだ。そう思い、軽蔑の眼差しを向けると、


「いやまあ、ああでもしないとジークの訓練にならなかったし、そもそもちゃんと力は押さえて放ったのよ。ただ、ジークの放った魔法とぶつかり合った時に想定外の反応が起こって、込めた魔力以上の被害が出ただけよ」


「それだとしても、エンドラさんがあんな魔法を放たなければ、こんなことにはなりませんでしたよね?」


「それはまあ……反省しているわ。ごめんなさい」


 まあ、エンドラさんにしてみても、この国に自分と同格かそれに近い魔法を使える者がいないので、肩書だけなら同格の俺との魔法合戦ともいえる訓練で、少しばかり暴走してしまったということだろう。


「それはそうと、もう動けるわね? それなら、早くここを離れるわよ。でないと、この騒動に気が付いた騎士たちが、何事かと押し寄せて来るはずよ」


 そう言うなりエンドラさんは、俺の腰のベルトを後ろから掴み、急いで空を飛んでこの場を離れた。

 その途中、エンドラさんの言う通りあの場所に向かっている騎馬の集団が見えたので、あのままとどまっていると面倒なことになっただろう。もっとも、この後でウーゼルさんに報告に行かないといけないので、面倒になるのは間違いないのだが……それでも、多少口裏合わせをしてもらえるだけでも、面倒ごとは減るはずだ。


「エンドラさん、俺にあんな魔法を向けた罰として、ウーゼルさんとの交渉は任せますからね」

「まだ根に持っているのね……まあ、いいわ。引き受けましょう」


 根に持つも何も、事件発生から一時間も経っていないのだから、忘れる方が難しいと思うのだが……まあ、ここであまり突っ込んで変にへそを曲げられるとそれはそれで面倒なので、黙って聞き流すことにしておこう。

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ブラストインパクトとダインスレイヴからの攻撃がぶつかった結果クレーターみたいな地形が出来てしまったとか。 いったいどんな理屈なのでしょう?と。これ、自分の意思で望んだ地点やタイミングで発動させる事が出…
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