第二話
「な~んで俺が~外される~か~な~?」
フランベルジュ家との合同訓練の帰り、三人の中で俺の護衛として先に帰るように言われたガウェインは、ずっと愚痴をこぼしていた。まあ、愚痴りたい気持ちも少しは分かる。
何故なら今回の訓練後に、サマンサさんと伯爵の奥さんが意気投合したとかで食事をすることになったのだが、せっかくなので両家の交流を深める意味も込めてカラードさんと伯爵も一緒にということになり、その護衛としてランスローさんとディンドランさんが選ばれた……つまりガウェインは、ヴァレンシュタイン騎士団の団長の癖に主の護衛から外されてしまったのだ。
「なあ、ジーク? なんでだと思う?」
帰りの道中、ダルがらみをしてくるガウェインを他の騎士たちは見ないふりをして無視をしているので、さっきからずっと俺がこいつの相手をさせられているのだ。
そんな状況にいい加減頭にきて、
「あの二人より……と言うか、ランスローさんと比べると信用が一段階下がると言うだけの話だろう」
と返した。
自分で言っておいてなんだが、俺でも同じ状況になった時、指名できるのならガウェインではなくランスローさんに頼むだろう。
ちなみにこういった場合、ディンドランさんは同じ女性ということでほぼ確定でサマンサさんの護衛を務めることが多い為、比較対象からは外した。
「おまっ! 言ってはならんことを! 何を根拠にそんなことを言うんだ!」
ガウェインも自分で薄々気が付いていたのか、少し慌てた感じで切れ気味に問いただしてきたが、
「ガウェイン、お前俺の卒業パーティーの時に飯に夢中になって、護衛対象の俺をほったらかしにしたのを忘れたのか?」
と聞くと、気まずそうに顔を逸らした。そしてそれを見た騎士たちは笑っていた。
「まあ、夫婦同士で食事ということで俺も外されけど、正直言って家同士の付き合いだと考えたら、俺が外されたのは気になるところではあるな」
伯爵の性格を考えたら、俺を強引にでも誘いそうなものだが……そうしなかったところを見ると、やはり家の付き合いというよりは奥さん同士の交流の側面が強いということだろう。だから、本当にカラードさんたちは、おまけとして誘われたということなのかもしれないが……流石にお財布代わりではないと信じたい。
「愚痴ってたら腹減ってきたな……ジーク、何か食っていこうぜ!」
「愚痴ってたのはお前だけだろ。ただまあ、小腹がすいてきたのは確かだな……少し寄り道して、屋台とか探してみるか? ただし、酒類は無しなで、食べ歩きが出来るか持ち帰れるものだけな」
そうしないと、屋敷に帰る前にべろべろに酔っぱらう奴が現れるので簡単なルールを設けたが……案の定ガウェインを筆頭に、べろべろに酔っぱらいそうな奴らが数人抗議してきた。まあ、完全に無視したけれど。
「ディンドラン! お前、何しれっと混ざって食っているんだよ! それは俺のだぞ!」
「何けち臭いこと言っているんですか! 別にいいでしょ! どうせこのお金を出したのはジークだろうし!」
訓練後の買い食いの途中で商業組合に寄ったところ、そこに販売許可を取りに来ていた商人たちから肉や野菜を大量に仕入れることが出来たので、屋敷に戻ってから料理人たちと相談して庭でバーベキューをしていたのだが……その最中にカラードさんたちが帰ってきて、ディンドランさんがガウェインの育てていた肉をかすめ取ったことで騒動に発展してしまった。
まあ、どう見ても勝手に食べたディンドランさんが悪いのだが……相手がガウェインなので、誰もディンドランさんを咎めようとはしなかった。
「ランスローさんも、どうですか?」
「いただきましょう。実は私たちにも食事は出たのですが、護衛中だったので少量だけで済ませたのですよ。流石にお腹がすきました」
まあ、護衛中だから主をほったらかしにして食事に集中することは出来ないよな……と思いながら、そんな苦労をしてきたディンドランさんと争っているガウェインを見て、ため息が出そうになった……が、
「ちなみにですが、ディンドランは軽く私の倍は食べていましたよ。まあ、それでも普段の彼女が食べる量からすれば少ないでしょうけどね」
ディンドランさんはディンドランさんで、ため息が出そうなことをしていたと知って、同情する気は失せた。まあ、それなりに苦労したのは本当のことだろうけど。
ランスローさんはディンドランさんと違い、自分の分は自分で焼いているので問題ないが……あの二人は自分たちの肉を取り合いした挙句、周りの人たちの分も狙い始めたので最終的に、
「ガウェイン、ディンドラン! お前たちは隅の方で二人だけで勝手にやっていろ!」
騒ぎを聞きつけてやってきたカラードさんに叱られ、二人そろって隅の方へと追いやられていた。
「ジーク、話がある」
屋敷に戻ってきてからすぐに、サマンサさんと話し合うことがあると言って部屋にこもっていたカラードさんだったが、どうやら俺に用事があって呼びに来たようだ。
「ランスロー、食事中に悪いがお前も来てくれ」
「了解しました」
そうして連れていかれた俺たちは、カラードさんの執務室で、
「ファブールが戦力を集め始めたらしい。この調子では、一か月も経たないうちに戦争が始まるだろう」
と告げられた。さらに、
「そう言った事情から、今後の伯爵家との合同訓練の予定は白紙になった。そこで、近々領地の方に、出兵の準備をさせるように命令を出す。それと我が軍の編成についてだが、大将はジーク、副将にディンドランとバンを就けようと思っているが、ランスローはどう思う?」
「妥当かと。ガウェインや私だと少々目立ちすぎるかもしれませんが、ディンドランなら周りが勝手に女避けの意味も込めてのことだと勘違いするでしょうし、父なら前騎士団長ではあるものの、現在は半隠居状態です。復帰したということで多少は目立つでしょうが、経験不足のジークを補うのと、余計な人員を割かないようにする処置だと思われることでしょう」
下手に個人技に優れるガウェインや、そんなガウェインを副団長として支えて個人技にも定評のあるランスローさんが付いてくるとなれば、敵対派閥やファブールの警戒を高めてしまうかもしれないが、ディンドランさんなら二人と同じように評価が高くても、女性騎士たちのまとめ役の意味があると思われるだろうし、バンさんなら人員が足りないから引退している人間を引っ張ってきた程度にしか思われない可能性もある。
ただ、バンさんや領地の騎士の大半は一度しか会っていないので多少連携に不安があるが……その辺りはディンドランさんにフォローして貰えば問題は無いだろう。
「それなら早速領地に手紙を出そう。ただ……ガウェインが不貞腐れないか心配だな」
「確かにそれはあり得るでしょうが……今回に限って言えば、ガウェインや私が行くとジークが自由に動けない可能性がありますからね。ガウェインとて、ジークの邪魔をするのは本意ではないでしょう……と思いたいところです」
ガウェインのことだから、他国と戦う機会は貴重だ! とか言って、強引についてきそうな気がするが……カラードさんとサマンサさんが本気で止めれば、流石に大人しくするだろう。
「ジークも、手紙を送ればすぐにバンが軍を率いてやってくるだろうから、準備は今のうちにしておけ。それと、覚悟もな」
「はい」
多分カラードさんの言っている覚悟とは、もし戦争で負ければ多くの王国民が犠牲になるということだろう。そして逆に俺たちが勝っても、その後の展開次第では俺たちがファブールの国民の命を奪うこともあり得るとも。
これまで、俺は何度も命のやり取りをやってきて、実際にこの手で命を奪っても来たが、それはあくまで個人での話だ。唯一、学園を出る時に、学園の生徒を狙うアコニタムの私兵を全滅させたが、あの時はそんなことを考えて戦ったわけではない。
「それならいいが……まあ、分からないことがあったら、私やランスローにでも聞くといい。魔法関連で言えば、サマンサやエンドラ殿も協力してくれるだろう」
そこでガウェインやディンドランさんの名前を出さないのは、あの二人の前にランスローさんに聞けばすべて事足りるということなのだろうか? まあ、確かにその通りかもしれないけれど。
それにしてもエンドラさんか……ちょうど頼みたいこともあるし、なるべく早く会いに行った方がいいな。
話が終わったということで、三人そろって元の場所に戻ると、
「やはり、ディンドランの代わりにランスローを付けた方がいいかもしれんな」
「私もそうした方がいい気がしてきました」
ディンドランさんがみんなの目のまでサマンサさんに説教されていた。ちなみに、ガウェインもディンドランさんの横に座らされている。
俺たちが離れている間のことなので詳しい経緯は分からないが……あの二人が暴れ過ぎたせいで、サマンサさんの怒りが爆発したということだけは間違いないだろう。
「はぁ……これは俺もあそこに行かないといけないか……」
カラードさんは、ため息をつきながらサマンサさんのところへと歩いて行ったが、ランスローさんは黙って見送るだけだった。
まあ、カラードさんはあの二人の主なので、例え面倒臭くてもあの光景を見て無視をすることは出来ないが、ランスローさんはあくまでも同僚という立場なので、カラードさんに言われない限りはついて行く必要はないということだろう。
「とりあえず、俺たちは先に食事を再開して、合間合間にカラードさんとサマンサさんの分を用意しておきましょうか?」
「そうですね。お二人の分は、出来上がったものからジークのマジックボックスに入れていけば、例え説教が夜中まで続いたとしても暖かいままで保存できますしね」
流石に今から夜中まで説教が続くということは無いだろうが、あの様子では全員の食事が終わっても続くかもしれないので、カラードさんたちの夜食だけでも準備しておいた方がいいかもしれない。
そうして俺たちは食事を再開したのだが……やはりというか、周りどころか俺たちの食事が終わる頃になってもカラードさんたちの説教は終わらなかったので、ランスローさんが一度止めに入り、続きは場所を改めてということになった。
なお、続きはカラードさんの執務室でやることになったのだが、一度中断してしまったせいか説教は再開後割と早く終わることになり、ガウェインたちは解放されたのだった。
だが、カラードさんたちと違い、食事が用意されていなかったガウェインとディンドランさんは、空腹に耐えかねて夜中に台所をあさっているところランスローさんに見つかってしまい、翌朝報告を受けたカラードさんから罰として屋敷全体の掃除をさせられたのだった。主に屋根や外壁と言った、メイドたちでは危険すぎて、普段は手を入れることが出来ない場所を。
「あら? ジークが学園に来るなんて珍しいわね」
カラードさんに戦争の準備をするように言われた翌日、俺は早速エンドラさんに会いに行った。
一応、卒業したとはいえ、新入生が入ってくるまでは学園に籍がある状態であるし、生徒の中には地理的な問題で春にならないと故郷に帰れない、もしくは新生活の準備が整わないなどの事情を抱えていることもあるので、学生寮をまだ利用していることもあるのだ。
その為、俺が学園に勝手に入ってきても問題は無いのだが……俺のように王都に帰る家があると、卒業後は学園に寄り付かなくなる生徒の方が多いのだ。しかも、俺の場合は男爵なのに婚約者や家臣がいないので、一人で出歩いていると、そう言った目的の生徒に囲まれてしまう可能性が高かった。
なので、これまで学園に来ることは無かったのだが……俺が会いたい時に都合よくエンドラさんが屋敷に来る可能性は低いし待っている時間はあまりないので、面倒臭いことになるかもしれないが自分一人なら逃げるのは簡単だと思ったので学園まで来たのだった。
「ええ、少し魔法のことで話があったので」
と言うと、エンドラさんは笑みを浮かべながら仕事の手を止めてお茶の準備を始めた。
「来てくれたのは嬉しいけれど、サマンサが何か言わなかった?」
「言われましたね……」
昨日の内にエンドラさんに会いに行くと伝えると理由を聞かれたので、「魔法のことで……」と言った瞬間、サマンサさんはものすごく不機嫌になったのだった。
ただ、その詳しい理由を話すと納得していたし、俺として魔法に関してサマンサさんにも聞きたいことがあったので、その話をすることで何とか機嫌を直してもらえたという感じだった。
「全く、サマンサにも困ったものね……知識で私に勝てるわけないのに」
エンドラさんはエンドラさんで、今代の緑としてのプライドなのか、自分の方に聞きに来るのが当然と言った感じだが……もし今の言葉をサマンサさんが知ったら、また機嫌が悪くなるのは間違いないのでここだけの秘密にしておかなければならない。
「それで、何が知りたいのかしら?」
「雷系統の魔法と、今代の雷の使った魔法についてです。それと、俺の魔法がエンドラさんに通用するのかが知りたい」
少し話が脱線しかけたが、すぐに元に戻ったのでエンドラさんの質問に答えると、
「それは自分の実力を知りたいということかしら? それとも……今なら私に勝てると思っての発言?」
笑顔で殺気を飛ばされた。
半分本気だが、もう半分はからかってと言ったところだろうが、俺がこれまで感じたどの殺気よりも強くて怖く、何も知らない状態でこれを食らったら逃げ出すこと第一に考えるくらいの迫力だ。
半分でこれなので、もしも全力で放たれていたとしたら……逃げるのは無理そうなので、ほぼ死ぬだろうと覚悟して相対するしかないだろう。
「なんて、冗談よ。ジークのことだから、魔法で満足に戦える相手がいなくて困っていたんでしょ? サマンサだけだと、どうしても経験が不足してしまうからね」
黒の属性の練度を上げるのなら、サマンサさんにアドバイスをもらいながらでも十分なのだが、実戦的な訓練となると話は別だ。
サマンサさんはこの国で一番の黒魔法の使い手と言われているが、黒属性の魔法には攻撃手段が少ない為、実践を想定した訓練というよりも、どちらかというと研究会のような雰囲気になることが多い。まあ、たまにガウェインたちを相手に魔法の訓練をすることもあるが、それだと魔法で攻める練習にはなっても、魔法に対して守る練習にはならない。
それに、俺の場合他の属性の魔法も使えるので、風魔法を始めとした各種属性の知識が豊富なエンドラさんが、相談相手兼訓練相手として最適なのだ。
「それじゃあ、まずは魔法の話の方から始めましょうか? それで、今代の雷が使った魔法はどんなものだったのかしら?」
「はっきりと理解できたのは、『ライトニングボルト』と言う電撃を飛ばす魔法です。癖なのかは分かりませんが、放つ時に指先を向けて叫んでいました。もう一つは……恐らくですが、敵の位置を感知する魔法です。ディンドランさんとベラスの奇襲を察知して回避し、反撃を食らわせていました」
あの時のことを思い出しながら話すと、エンドラさんは頷きながら、
「まず、『ライトニングボルト』だけど、これは他の魔法で言うところの『アロー』に相当するものだと思うわ。相手に対して速度と貫通力を上げた魔法ね」
「俺もそう思います。ただ、速度は風の魔法よりも早かったです。しかしその分、威力は低かったように思いました」
あの時、魔法を食らった二人と一匹は、直撃だったにもかかわらず致命傷と言う程ではなかった。まあ、死ななかったというだけで、威力は十分あったみたいだけど。
「それと、食らった後は体がしびれていたようで、しばらくはまともに動けなかったと、ディンドランさんから聞きました」
「まあ、その辺りは属性による副次的な効果でしょうね。速度と副次的な効果がある代わりに、威力はやや落ちると言ったところね」
これに関しては、俺やサマンサさんと同じ考えだった。属性は違っても基本的な攻撃魔法は似通ったものが多く存在するので、俺やサマンサさんに魔法を教えたエンドラさんの答えが一緒になるのは当然だろう。ただ、
「位置を感知した魔法だけど、それは単に魔力や気配を探ったということじゃないの? よくジークもしているでしょ?」
感知に使った魔法ははっきりと分からないようだ。
確かにそれだけを聞けば、俺が普段から使っている方法と同じに聞こえるが、今代の雷が使ったのは違う方法な気がする。
「確かに、ディンドランさんやベラスの奇襲を察知した時は、俺やエンドラさんが使っているのと同じ方法だと思ったんですけど、俺が奇襲を仕掛けた時は、少し状況が違うんです。ディンドランさんたちは、物陰に隠れながら移動して攻撃しましたけど、俺の場合は今代の雷の周辺を闇で覆ってから影に潜って背後を狙ったんです。俺が攻撃を食らったのは、影から出た瞬間でした」
それはまるで、俺がその場所に現れると分かっていたかのような攻撃だった。
もしもあの時、今代の雷が俺の出現に気が付いてから攻撃をしてきたのだったら、それを食らう前に俺が奴を切り裂いていたはずだ。
「つまり、今代の雷は影の中を移動している最中のジークを捉えていたということ?」
「そんな感じでした」
俺の説明を聞いたエンドラさんは、信じられないと言った顔をした。
これまでに影に潜った俺の位置を特定したのはディンドランさんだけで、しかもその時は逃げ道がそこしかないという状態のところを勘で攻撃したといったものだ。
ただ、いくらディンドランさんの勘が鋭いからと言って、急に視界を奪われた状態で同じことをすれば、間違いなく俺を捉えることは出来ない。俺が影に潜ることが出来るのを知らなければなおさらだ。恐らくは致命傷を避けるので精一杯というところだろう。
「私の魔法でも、出てきた時ならともかく、影に潜っている状態だと無理ね」
「多分ですけど、エンドラさんの魔法は風か空気で相手の位置を特定する感じですよね」
「よくわかったわね……って、今代の緑と知っていれば、そう思うのは当然ね」
エンドラさんの言う通り、風魔法が得意ならそれを探知に使うというのは思いついて当たり前だが、流石にその方法までは分からない。ただ、風か空気が関係しているのなら、平面移動ともいえるシャドウ・ダイブを捉えることは難しいだろう。
「まあ、ジークになら教えても構わないけど、私の探知方法は空気の振動を利用したものよ。ある程度の範囲……そうね、大体この学舎くらいなら、その中にあるものを感じ取ることが出来るわ」
つまり、その範囲内で動くものがあれば、それに合わせて周辺の空気が動くので分かると言ったものだろう。無機物の位置も分かるとすれば、かなり使い勝手のいい魔法だとは思うが……その分、無視できない弱点もありそうだ。
「気が付いたかもしれないけど、これは閉鎖された空間で真価を発揮する魔法よ。逆に開けた場所だと、あまり使えないわね。それと、動くものが多すぎる場合もね。ただまあ、そう言った時は普通に魔力を探ればいいだけの話よ」
俺が弱点に思い当たったのに気が付いたらしいエンドラさんは、あっけらかんと弱みを話したが……エンドラさんみたいな魔法の達人からすれば、空気を利用する方法は数ある魔法の一つに過ぎないと言ったところなのだろう。
「でも、影に潜っているジークを見つける方法は、私でも分からないわね。ただの偶然でしたと言われた方が納得できるくらいよ。まあ、ジーク以外の場合だと、私のやり方と同じで雷の魔法を使って人の動きを探っていたと説明できそうだけどね」
雷の魔法で探知……生き物相手ならサメのように微弱な電流を感知出来るかもしれないが、果たしてそれが影に潜っている相手を探ることが出来るのか疑問が残る。
ただまあ、常識で測れないのがレベル10なので、今のところはそれが最有力と言えるだろう。もしそれが正解だとすれば、
「その魔法を使われた時に、雷の魔法を使えば目くらましにはなりそうですけどね。ただ問題は、雷の魔法を使える奴が、俺の知る限りでは今代の雷以外にはいないということですけど」
海でサメと遭遇した時、電池を握っていれば助かる可能性が上がるとか聞いたことがあるが……その時はそんな都合よく電池を持っているはずがないだろ! と思っていた。そして、その感想は今回も同じだ。
「私も知らないわね……ただ、ジークなら頑張ればできそうな気がするけど……今から練習してみる? やり方は私も知らないけれど」
どうやれば雷属性の魔法を覚えるか分からないと言っているのに笑いながら勧めてくるあたり、エンドラさんも無理だと分かった上で楽しんでいるようだ。
ただまあ、もしかするとの話だが、雷魔法を直接食らえば何かしらのヒントが得られるのではないかとも思っていたので、エンドラさんに雷魔法を使える知り合いがいれば頼んでみようかと思っていたのは秘密だ。
それに、例え覚えることが出来たとしても、使いこなせるようになるまで時間がかかるだろうし、何よりも危険な方法なので万が一のことを考えると時期的に無理だろう。
「それじゃあ、ジークの本命の話に移るとしましょうかね? ただ、流石にレベル10同士が本気でやりあえば、辺り一面がれきの山と化すかもしれないから、十分手加減した上で時間を区切ってやりましょうか?」
「お願いします」
そうして俺とエンドラさんは、訓練場に向かおうとしたのだが……その移動の途中で、流石に訓練場では何かのはずみで生徒に被害が出る可能性に思い当たった為、急遽王都の外まで行くことになった。