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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第七章
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第一話

「初めまして、カルナディオ伯爵家嫡男のフドウ・カルナディオです」

「初めまして、ジーク・ヴァレンシュタインです」


 伯爵がうちに来た翌々日の昼過ぎ、俺はランスローさんを伴ってフランベルジュ伯爵家へとやってきた。

 カルナディオ伯爵家はフランベルジュ伯爵がヴァレンシュタイン家に来たその日の内に、面会の条件を全て飲むと返事をしたそうだ。つまり、俺が面会を拒絶しなければすぐに会えるように予定を立てていたということなのだろう。


「ジーク、危険はないと思いますが、基本的に私はジークの後ろに控えています。もし何か相手の話に怪しい点があれば、ハンドサインでもいいので何かしらの合図を出しなさい。まあ、その前にフランベルジュ伯爵が動くでしょうが、その時に自分だけで手一杯で余裕がないということも考えられますからね」


 今回、ガウェインやディンドランさんでなく、ランスローさんに付き添いを頼んだのはこれが理由だ。

 カラードさんがついて来ないと決まった時点で、俺はあの二人を無視してランスローさんを指名したところ、あの二人は当然のように抗議をしてきたが、あの二人では本当に不測の事態が起こった時に、今のランスローさんのようなフランベルジュ伯爵家にも気を遣うような言葉は出てこないだろう。

 何せあの二人は、何かあれば自分たちが暴れればいいかくらいにしか考えないだろうし、その時はフランベルジュ伯爵のことを考えずに暴れる可能性もある。

 もっとも、自分たちの安全を第一に考えるとなれば、それはそれである意味正しい選択ではあるが、暴れるだけなら俺でもできるので、それ以外のフォローも出来る人物となればランスローさんしかいなかったという事情もある。


 俺たちはフランベルジュ家に着く直前で簡単な打ち合わせをして門をくぐったのだが、案内してくれたた騎士が言うにはカルナディオ家はすでに来ているそうで、俺を待っている状態とのことだった。

 ただ、約束の時間よりも俺は早く来ているので、向こうの到着が早かったというだけの話らしい。


 そんな中で面会する部屋に入ったところで、カルナディオ家の男性から挨拶されたわけだ。

 本当なら、家格が下の俺から挨拶するべきなはずだが、向こうは伯爵ではなく嫡男ということで気を利かせてくれたのかもしれない。


 あいさつの後で軽く自己紹介をしたが、その話によるとフドウは王都の学園卒なので俺の先輩にあたるものの、六つ年上なので俺の入学と入れ替わりに卒業したそうだから会う機会がなかったとのことだった。

 今のところは険悪な雰囲気になりそうな気配はないものの、向こうは初対面ということでどのように話を切り出そうか迷っている感じがした。

 そこに、


「フドウ殿、まずは今回我々の連合軍に参加したいという理由を話してもらえないか? それと……ヴァレンシュタイン男爵について、どう思っているかもな」


 伯爵が助け舟を出してくれた。もっとも、助け舟というよりはさっさと本題に入れと言った感じだったので、フドウは少々気圧されたようで表情に緊張の色が走ったがすぐに持ち直したみたいだ。


「そうですね。まずは男爵に謝罪と感謝をさせてください」


 フドウはそう言って居住まいを正すと、


「シドウ……弟の敵を取っていただき、誠にありがとうございました。それと男爵の帰還後、すぐに会うことが出来ず感謝の言葉が今になったことをお詫びします」


 俺に向かって頭を下げてきた。

 フドウのこの行動には俺どころかランスローさんと伯爵も驚いたようで、少しの間言葉を発することが出来ずに固まってしまった。


「敵討ちという認識はなかったのですが……」


 俺が何とか口に出せたのはそんな言葉だったが、フドウは気にせずに、


「そうだとしても、結果的に男爵は弟の敵を取ってくれました。感謝するのは当たり前のことです。それと、一部では我々が男爵を恨んでいるという噂があるようですが、それは全くの嘘です。確かに、状況だけ見れば、男爵に恨みを持ったアコニタムが男爵の代わりにシドウを狙ったという見方も出来るでしょうが、元々我が家の所属する派閥はアコニタムの派閥と対立する関係にありました。それとあの頃のシドウは、カレトヴルッフ公爵家のエレイン嬢の婚約者候補に名前が挙がっていました。狙われたのは、そう言った理由からでしょう」


 カルナディオ家が恨みを持っていないどころか感謝しているというのは驚きだったが、それ以上にシドウ先輩がエレイン先輩の婚約者候補だったことに驚いた。

 この話は伯爵も知らなかったようで、俺と同様に驚いた表情をしていたが、確かにそんな事情があったのならアコニタムがシドウ先輩をソウルイーターに襲わせたのも納得が出来る。


「なので、カルナディオ家は男爵に対して恨みは持っていいないのです。正直に言えば、その当時は恨みに近い感情や複雑な思いがなかったと言えばうそになりますが……ただ、それは男爵に対してというよりは、その当時にシドウ以外にも目立っていた生徒は居たのに、何故弟が犠牲にならなければならなかったのか? 犠牲になるのは他の生徒でもよかったのではないか? などという、身勝手な考えからでした」


 フドウはそう言うと、申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。


「フドウ殿、それは被害者の身内からすれば、持っても仕方のない感情だと私は思う」

「俺もそう思います」


 頭を下げるフドウに対し、伯爵がそう言って慰めの言葉をかけたので俺も同意した。それは嘘ではない。

 俺が学園長室に呼び出されてシドウ先輩がソウルイーターに殺されたと聞かされた時、俺はソウルイーターに対する強い殺意を覚えると同時に、フドウと同じように何故先輩以外が標的にされなかったのかと考えたからだ。

 もしもあの時にシドウ先輩以外が標的にされていれば、最低な考えかもしれないが俺やフドウが

悲しい思いをすることは無く、今この場でシドウ先輩と笑い合っていたかもしれないのだ。

 だから、俺にフドウを最低な奴だと責める資格は無い。

 伯爵も俺よりも長く生きている分、同じように考えた場面がこれまでにあったのだろう。


「カルナディオ家が男爵に対して恨みがないことは分かった。だが、何故このタイミングで連合軍に参加したいと言い出したのだ。正直言って、この段階でカルナディオ伯爵家と他数家が合流すれば、他の派閥に要らぬ刺激を与えることになってしまう。俺としては断りたいのが本音だ」


 俺に対してのわだかまりについて一段落ついたところで、伯爵は次の問題について歓迎していないという本音をちらつかせた上でシドウに質問した。


「それについては申し訳ないとしか言いようがありませんが、我が派閥としても少々思うところがありまして……はっきりと申し上げると、男爵たちだけに目立たれるのは避けたいというのが、我が派閥の()()であります」


 伯爵の質問に対し、シドウは先程の態度とは打って変わって、はっきりと自分たちの都合だと言い切った。

 まあ、カレトヴルッフ公爵の推薦と言うことなので、カルナディオ家の言葉というよりは公爵家の言葉なのだろうが、俺はあまりの変わりように少し驚いてしまった。もっとも、公私を分けるという意味では、貴族として学ぶべきところなのだろうけど。


「詳しく聞かせてもらいたいのだが?」


「もちろんです」


 そう答えるとフドウはお茶を一口飲み、


「まず、我が派閥が連合軍を一方的に利用しようとは考えておりません。双方共に、()()()()()利益のある話だと思っております」

「その言い方だと、不利益もあるように聞こえるが?」


 伯爵が詰めると、フドウは苦笑いをしたが否定せずに、


「我々の標的は、ファブールと最初に交戦した派閥の者たちです。あそこにはこれまで何度も苦い思いをさせられてきましたし、何よりもあの派閥には、少数ではありますが旧アコニタム派の者たちが合流しております」


 確かにカレトヴルッフ公爵家と因縁があり、カルナディオ家とも因縁のある旧アコニタム派の奴らが所属しているとなれば、公爵の派閥……特にカルナディオ伯爵家にとっては宿敵ともいえる相手だろう。ただ、


「それなら、公爵の派閥で群を組んで参戦すればいいのではないですか?」


 わざわざ俺たちの連合軍に参加して、しかもフランベルジュ伯爵の下に付くよりも、胆道で群を成した方が一泡吹かせる可能性が高いはずだ。


「それも考えましたが、我々よりも先に連合軍の話が通りましたので、それを中止させてまでというわけにはいかなかったのです。それに、相手はかなり慎重……いえ、ずるがしこい奴らです。連合軍だけでも、公爵軍だけでも動くことは無いでしょう。なので、公爵家派の一部が連合軍に参加することで、奴らを戦場に引きずり出したいのです」


 フドウの話に、俺はいまいちついていけなかったのだが、伯爵とランスローさんは納得fが言ったのか何度か頷いていた。


「成程な。戦場に出てきたからと言って、公爵軍が王国側(みかた)の貴族を直接叩くわけにはいかない。それ以外で被害を与えようとするのなら、戦場に参加させて敵にぶつけるしかない。とは言え、俺たちを差し置いて公爵家が戦場に出れば、相手は逆に殻に閉じこもってしまう。だが、公爵軍ではなく連合軍が出るのなら、俺たちを先に敵にぶつけて、敵が弱ったところで美味しいところをかっさらっていこうとするだろう。しかし、その連合軍に公爵家が参加するとなれば、例え連合軍が不利な状況になったとしても、連合軍の後ろから公爵家の本隊が参加する可能性を想定しなければならない。そうなれば後から美味しいところをかっさらうつもりが、逆に自分たちの敗戦が目立つ結果となってしまう……というわけか」


 伯爵がそう説明したことで、何となく俺にも公爵家の思惑が分かってきた。つまり、


「奴らは公爵家の参加する連合軍よりも、先に戦場に出ようとするでしょう。そうしなければ、自分たちの汚名を返上する可能性が低くなりますから。しかし、公爵軍の本隊ならいざ知らず、陛下のお認めになった連合軍を押しのけてまでという度胸はありません。ですので、自分たちも別に軍を出すことで、王国を有利に導くためという建前の元戦場に出てくるはずです。ただ、流石に連合軍よりもはるかに多くの人数で参加することは避けるでしょう。でなければ、後からしゃしゃり出てきて公爵家と陛下の顔に泥を塗ったと言われかねませんから」


 確かにウーゼルさんが結成を認め、公爵も表向きには同じ派閥の一員として力を貸すとしているのに、そんな連合軍を押しのけてしまえば、相手は罰は公爵どころか国王すらも信用していないと周りから見られてしまうはずだ。

 なので、俺たちに仕事をさせたくはないが、かといって連合軍よりも目立つわけにはいかないので、参加させる人数はせいぜい連合軍と同じかそれよりも少し多いくらいにするだろう。


「そして、ここが一番重要なことなのですが、相手側には飛びぬけて指揮の上手いと言われる者はいません。むしろ、下手と言われる者の方が多いくらいです」


 確かにそれなら、こちらが漁夫の利を得られる可能性が高くなるが……式が下手というのは、俺にとっても耳の痛い話だ。


「確かにそれならこちらとしても利のある話だが……それだけなら、公爵軍の手助けは無くとも構わない。むしろ、連合軍の戦力は十分揃っていると俺は確信しているし、下手に参加を許せば相手側に睨まれる可能性もあるのだが?」


 伯爵はちらりと俺を見てから、公爵軍が参加するデメリットの方が大きいのではないかと聞いた。

 まあ、ファブールがどれくらいの戦力を投入してくるかは分からないが、向こうは今代の雷も出てくるだろうし、敵の領地内で腰を据えて戦うよりも撤退を優先する可能性が高いというのが伯爵の見立てなので、今の連合軍の戦力でも勝ち目はかなり高いはずだ。


「確かにその懸念はごもっともですが、我々はその可能性は低いと見ています。何故ならあいつらは、公爵家に対して嫌がらせをすることは出来ても、陛下を敵に回す程の度胸は持ち合わせておりません。我々が無理やり連合軍に加わったという風にすれば、奴らの敵意は我々に向けられるはずです」


 確かに、そういったデメリットが抑えられるのなら戦力が増えるのは歓迎したいところだが、それでも可能性があるのなら排除したい。何せ、仮に敵対派閥から標的にされた場合、王家に近い立ち位置にいるヴァレンシュタイン家と伯爵家としてある程度の戦力を保有しているフランベルジュ家はともかくとして、他に参加している子爵家や男爵家ではかなりの被害を被ることになるだろう。

 そんな俺たちの考えは事前に想定していたのか、フドウは一枚の紙を差し出してきて、


「こちらに書かれている通り、もしも今後敵対派閥によって何らかの不利益を被った場合、我が派閥は責任をもってその不利益分を補填いたします」


 と言った。ただ、それだとこちらの貴族を公爵家の派閥に取られてしまうことになるのではないか……と思ったところで、その紙を伯爵が俺に回してきて、


「男爵、最後の方を読んでみろ」


 そう言うので、その紙に最後の方を読んでみると、


「確かに、これなら問題は無いでしょうね」


 そこには、不利益分は公爵からウーゼルさんに渡し、ウーゼルさんから分配してもらうようにすると書かれていた。

 しかも、公爵の直筆のサインと公爵家の印章も押されているので、これは正式な誓約書として通用するだろう。


「男爵、これなら公爵家が連合軍に合流しても問題ないと思うが、どうだろうか?」

「そうですね。これなら大丈夫だと思いますが……念の為、もう一枚同じものを用意してもらって、陛下に保管をお願いするのはどうでしょうか? ここには書かれていませんが、カレトヴルッフ公爵としてはこの問題が根本的になくなるとすれば、この誓約書は回収したいでしょうから、こちらからもその旨を記した誓約書を作成して渡し、最終的にはこれらを交換という形で処分することにするのがいいと思います」


 もしも公爵が敵対派閥の解散か壊滅に成功した場合、この誓約書は公爵にとって邪魔なものになってしまう。そうなれば敵対派閥に向けられていた敵意は、下手をすると俺たちに向けられるかもしれないのだ。

 それを防ぐ為にも、こちらも問題が無くなれば誓約書を返すという誓いをしておいた方が無難だろう。


「確かに男爵の言うことも一理あるが……陛下を利用すると知られれば、それこそ関係のない派閥からも責められることになりはしないか?」


「大丈夫だと思います。この件は誓約ではありますが、同時に密約です。不必要に……それこそ、連合軍に参加する貴族にすら知らせる必要はありません。知らなければ、悪用は出来ないですしね。それに、陛下としても、言い方は悪いですが利益のある話だと思います。何せ、公爵家と伯爵家の弱みを一時的にとはいえ握れるのですから」


 いわばこれは、公爵家が同じ王国の貴族をハメる際に、協力した俺たちの安全を保障するという、後ろめたい謀の()()()でもあるのだ。

 俺たちがウーゼルさんの味方でいる間は大して役に立たないものだろうが、裏切るようなそぶりを見せたり王家に不利益なことをした場合、使いようによっては強力な武器になる。

 もっとも、それを武器として使うようなときは、ウーゼルさんの派閥はボロボロの状態か、王国が滅亡寸前までいっている可能性があるけどな。


「確かにそう考えると、陛下に間に入ってもらうのが一番かもしれないが……男爵、さりげなく伯爵家と公爵家のみが弱みを掴まれるように話を持って行ったな?」


 伯爵は少し険しい顔をしながら俺を責めるような口調で話しかけてきたが……それは仕方のないことだ。だって、


「いや、俺……男爵家には、掴まれて困るような弱みがないですからね。何せヴァレンシュタイン男爵家は、全てひっくるめても俺一人しかいませんから。強いて言えば、陛下に不利益をもたらした場合、俺がヴァレンシュタイン子爵家から縁を切られた上で、カラードさんたちが死に物狂いで俺を始末しに来るくらいですかね? ですよね?」


「そうですね。確かに男爵のことは子爵家の後継として尊重していますが、我が主が切れと命令するのなら、()()その命令を実行するのみです」


 急に振られたというのに、ランスローさんは迷いなく肯定した。ただその言い方だと、カラードさんの命令でも素直に聞かない者がいると言っているようなものなのだが……伯爵たちはそれに気が付かなかったのか気にしなかったのかは知らないが、なるほどと言った具合に頷いていた。


「しかしそうなると、男爵には早く大事な者を作ってもらわないといけないな……ランスロー殿も、そう思わないか?」


 伯爵のさっきの険しい顔は演技だったようで、今度は一転して意地が悪そうな顔をしながらランスローさんに話しかけていた。


「確かに伯爵の言う通りですね。私としても、男爵にはなるべく早く身を固めてもらい、カラード様たちを安心させてもらいたいものです。その方が仕え甲斐があるというものです」


 ランスローさんもランスローさんで、伯爵の話に合わせて俺をいじってくるし……この場で俺の味方になりそうなのはフドウくらいだが、フドウはフドウで俺たちを見ながら何故か納得顔で頷いていた。


「え~っと……そう言えば、公爵家は何人ぐらい連合軍に参加させるつもりですか?」


「ん? ……あ、ああ、今のところ公爵様は、千人前後を送り込むつもりでいるとのことだ。内訳は、カルナディオ伯爵家が五百、他に男爵家が二つ参加して、それぞれが二百五十ずつ連れてきます。その他に予備戦力兼補給隊として、近くの街に五百用意するとのことです」


 数については伯爵の言う通りだったと思いながら、ある考えが思い浮かんだ。それは、


「伯爵、その数での参加がるのなら、カルナディオ家に連合軍の副官を任せてはどうですか? その方が()()()()()()と思うのですが?」


 公爵軍にも囮をしてもらうというものだ。

 まあ、囮と言っても敵を誘い出すためのものでは無く、俺の存在を目立たなくするためのものだが、伯爵はすぐに俺の言葉の意味に気が付いたようで、


「確かにその方がいいかもしれないな。それに、うちと同じ伯爵家が参加するのに、カルナディオ家を他の貴族の下に置くのも問題があると言えるしな。どうだろうかフドウ殿? 引き受けてもらえるか?」


 すぐにフドウに要請した。


「確かにその方が我々が無理に連合軍に参加したと思われやすいでしょうが……男爵はそれでいいのですか? 聞くところによると、男爵はヴァレンシュタイン子爵の名代という形で参加すると聞いています。ヴァレンシュタイン子爵の代理なら、伯爵家の上の役に付いてもおかしくは無いように思いますが?」


 と、カルナディオ家の者が副官に付く理由を察しながらも、俺に対して遠慮があるようなそぶりを見せていた。そこに、


「フドウ殿、そのことなら心配はない。実は俺からも男爵に副官への就任を要請していたのだが、年齢と経験不足を理由に断られていてな。それに、ヴァレンシュタイン騎士団の戦力を考えた場合、本陣に縛るよりも自由に動かせるようにしておいた方がいいとの判断で、他の者に副官を頼むことになっていたのだ。ただ、どの家に頼むか迷っている状況だったのでな。引き受けてもらえると、こちらとしても助かる」


 伯爵がそう要請したので、フドウも素直に引き受ける気になったようだ。



「それでは、誓約書と副官を公爵様に報告します。大丈夫だとは思いますが、もしこの話をお引き受けできない場合は、すぐに連絡を入れるのでまた話し合いの場を設けさせてください」


 伯爵家での話し合いが終わった後で、フドウは見送りに出た俺たちにそう言って馬車に乗り込んだ。


「計画に多少の変更が出るが、全体的にみればいい方向に向かいそうだな」

「そうですね。公爵軍が参加することで公爵家の敵対派閥が戦場に出てくることになれば、俺としても動きやすくなります」


 フドウの乗った馬車を見送りながら、俺と伯爵はそう言って笑い合った。


「思ったよりも終わるのが早かったが、どうせ来たのだ。ついでに明日の訓練の話でもしておこうか? 何なら、今からジークとランスロー殿だけで参加しても構わんぞ?」


「訓練の話は構いませんけど、参加は勘弁してください。そこは明日のお楽しみということで」


 動けないというわけではないが、流石に今日は精神的に疲れてしまった。フドウと話している時はあまり感じなかったが、見送ってから一気に疲労が来たようだ。


「ふむ、まあ仕方がないか。とにかく、明日のことだ。ところで、今回はランスロー殿()参加するんだったな?」


「はい。これまでは私とガウェイン、そしてディンドランの内の二人が参加しておりましたが、今回はサマンサ様も見学に来るということで、これまでなら居残り組だった私も参加できることになりました」


「うむ、ヴァレンシュタイン騎士団の三枚看板が揃って参加するのはありがたい、いつも以上に濃密な訓練が出来るだろう。俺も参加するしな! 明日はぜひとも手合わせを頼む」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 今回は、サマンサさんもカラードさんと共に訓練を見学することになっている。どうやら、エリカのお母さんが今回の訓練に合わせて王都に来るらしく、それならこの機会に女性同士で親交を深めようという話になったらしい。

 まあ、ファブールとのいざこざが終わった後も、この様子では定期的に合同訓練をするだろうから、顔を合わせておいた方が何かと都合がいいということだろう。


 その後、先程の部屋に戻った俺たちだったが、今回の合同訓練の変更点はサマンサさんたちも見学するということだけなので、いつも訓練後に行っている食事会の話くらいしかすることがなかった。


 ただその話の最中に、これまで料理のメイン的な扱いで出されることの多かった熊の肉やワイバーンの肉が残り少なくなっているということで、今後は訓練と称して王都の外に食肉になる魔物でも狩りに行くか? みたいな話が伯爵から出て、そのまま強引に約束を取り付けられそうになった。

 だが、そこでランスローさんが間に割って入り、流石にカラードさんに確認を取り、外での合同訓練となればウーゼルさんの許可が必要になるかもしれないと伯爵を説得してくれたことで、何とか確約は免れたのだった。

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「シドウは、カレトヴルッフ公爵家のエレイン嬢の婚約者候補に名前が挙がっていました」←それもあってソウルイーターに狙われた?と。となるとあのアコニタムの盗っ人兄妹の兄の方が依頼した可能性もあったりするの…
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