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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第一章
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第十一話

「着いたぞ。さっきはヴァレンシュタインのせいで参加したくても出来なかった者がいただろうが、今回は大丈夫だから、誘われたら積極的に参加しろ」


 少し落ち込みながら歩いていると、次の目的地である第二訓練場に到着した。


「お待ちしておりました、ブラントン先生。ここからは私が案内します」


 訓練場の前で俺たちを待っていたのはエレイン先輩だった。

 エレイン先輩の案内で建物の中を進むと、中央にある訓練場の中では三年Aクラスの先輩たちが準備運動をしていて、俺たちが入ってくると整列して出迎えてくれた。そう言えば、第一訓練場では誰も出迎えてくれなかったな。多分、あのカースホアがやらせなかったのだろうけど、もしかすると一年二年の差が大きいように、二年三年の差も大きいのかもしれない……内面的な意味も含めて。まあ、その辺りはカースホアの影響もあったのかもしれないけれど、この数分だけで俺の中ではこの先輩たちと二年Bクラスの先輩たちとの間に大きな壁が出来たような気がした。

 ただ、惜しむらくは、


「ヴァレンシュタイン、動くな」


 皆が先輩たちに指導してもらう形で授業に参加している間、俺はブラントン先生の傍で座って待機しなければいけなかったということだ。

 そんな俺の様子を先輩たちが不思議そうに見ていたが、ブラントン先生が常に俺の傍で見張っているので、誰も近づいてこようとはしなかった。

 そんな中、


「ブラントン先生、彼は何をしたのですか?」


 ようやく声をかけて来てくれたのは、エレイン先輩だった。クラスを代表してなのか俺と顔見知りだからなのか、はたまた好奇心に負けてなのかは分からないが、ブラントン先生以外の話し相手が来てくれたのはありがたかった……のだが、


「ヴァレンシュタイン、俺がいいというまで口を開くなよ」


 先輩との会話も、先生の許可制となってしまったのだった。

 大人しく口を閉ざしている俺を他所に、ブラントン先生は先輩の質問に答えていき……


「ジーク……少しは手加減しなさい」


 第一訓練場での出来事を知った先輩は、呆れた顔を俺に向けてきた。

 それに対し、俺は反論しようとしたが、


「ヴァレンシュタイン、許可は出していないぞ」


 口を開きかけた瞬間、先生に咎められてしまった。


(なんか、俺だけ学園ものじゃなくて、軍隊ものみたいになっていないか?)


 一応、先生の方から非は向こうにあると言ってくれたが、あくまでも『一応』と言った感じで、それに続けて俺がもう少し上手くやっていればこんなことにはなっていないと言ったので、先輩は呆れた表情をしたまま離れていってしまった。

 そして、


「そろそろ時間です。皆さん、手を止めてください」


 授業は何事もなく終わったのだった……と言うか、あの女の人は誰だ?


「チューベローズ先生、本日はありがとうございました」


 誰だと思ったら、どうやら三年Aクラスの担任のようだ。かなり影のう……気弱そうな先生だが、あれで大丈夫なのだろうか……と思ったが、あのクラスにはエレイン先輩がいるので、余程問題のある先生でなければやっていけるのかもしれない。


「いえ……私は所用で外していたので、何もしていませんし……」


 どうやら、あの先生の影が薄くて俺が気付けなかったのではなく、単純にさっきまでいなかったからみたいだ。


「ヴァレンシュタイン、整列だ。お前も並ぶんだ」


 俺、何もしていないのに……と思ったが、ちゃんと並ばないと次は教室で床に座らせられそうなので、黙って従うことにした。


「は~……」


 第二訓練場を出て教室に戻っている途中で、いきなりブラントン先生がため息をついた。ため息をつきたいのはこっちの方だ。


「ずっと俺を監視していたんで疲れたんですか?」

「嫌味を言うな。別にお前の監視で疲れたわけではない。褒められたことではないが、俺はあのチューベローズ先生が苦手なんだ。一応後輩で数年の付き合いがあるが、何を考えているのか分からんのでな」


 訓練中ずっと監視していたことよりも、数分顔を合わせただけのあのチューベローズという先生の方が疲れたというのは、余程苦手なんだろうと思った。それと同時に、


「ガウェインと、どっちが疲れますか?」


 という好奇心が生まれた。先生が何と言うのか期待していると、


「チューベローズ先生だな」


 先生はあっさりとチューベローズ先生だと言った。しかし、


「今のガウェインなら、ランスロ―経由でヴァレンシュタイン子爵に苦情を入れれば何とかしてもらえるが、チューベローズ先生は同僚だからな。苦手だからといってぞんざいに扱うわけにはいかないし、本人や他の先生方に苦手だから避けているなどと知られれば、今後の教師生活に色々と支障をきたす恐れがあるからな」


 などという、扱いやすさから出た答えだった。まあ、正直そんなところだろうとは思ってはいたが……俺でも、相手がガウェインならそんな扱いをするだろう。


 そんな話をしながら更衣室で着替えて教室に戻ったが……俺は今回の授業で、クラスメイトとの距離が全く縮まらず、逆にひらいた気さえする。その代わり先生とは仲良くなれた気がするが、その理由がガウェインによるところが大きいというのは複雑だ。それに俺は、先生よりもクラスメイトと仲良くなりたいし……


 そんな願いもむなしく、放課後もクラスメイトと交流することは出来ず、俺は一人寂しく寮へと戻るのだった。



「ヴァレンシュタイン、ちょっといいかしら?」


 授業開始から三日目、ようやく話しかけてくれるクラスメイトが現れたと思ったら、それはエリカだった。ちなみに、昨日は座学だけだったので、授業の合間合間にクラスメイトに話しかけようとしたのだが、少し近づこうとしただけでさり気なく俺から距離を取られてしまったのだ。

 流石に追いかけてまで話しかけることは出来ず、他のクラスメイトに……と思ったのだが、誰もかれも同じことをするので、結局話しかけるどころか近づくことすらできずに一日が終了したのだ。なお、昨日話しかけてくれたのはブラントン先生と寮のおばちゃんだけだった。


 そんな昨日と打って変わって、朝から話しかけてくれるクラスメイトが現れたと思ったら入学日当日に因縁の出来てしまった相手(エリカ)だったので、何を言われるのかと思わず身構えてしまったのだが、


「今日の戦闘術の訓練の相手をしてくれない?」


 というお誘いだった。

 入学式のことがあるので、何か仕返しでもと思っているのかと思ったが、エリカの目は真剣そのもので、変なことを考えているようには思えなかった。


「それは俺からもお願いしたいところだが……いいのか?」


 今の俺の立場はかなり悪いと言っていいだろう。俺が何をしたというわけではないが、昨日のクラスメイトの反応は少し不自然な感じがした。例え俺とエリカの間でトラブルがあったのが事実で、初日の訓練で先輩を返り討ちにしたとしても、それが原因でここまで距離を取られるものなのかと思っていたのだ。まあ、俺とクラスメイトの認識の差が思っている以上に大きいという可能性もあるが、ブラントン先生も間に入ってフォローしてくれたというのにこの状況になっているのは、何か違和感があったのだ。

 そこに、この状況を作った一人であるエリカが声をかけてきたので少し警戒したが、どうもエリカはこの件とは無関係のように思える。むしろ、これで俺の見当違いでエリカが元凶だった場合、もっと不利な状況になってしまうのだが……ここは俺の勘を信じるとしよう。そっちの方がいい方向に転がりそうだ。


「ルールはどうする?」

「それぞれ得意な武器で体術あり、どちらかが降参するまででどう? それと、一切の手加減抜きで……こっちは()()()()よ」


 エリカは俺との力の差は分かっているはずなのに、その条件を出すということは相当な覚悟を決めているということだろう。


「分かった。それでいい。ただし、万が一のこともありえるから、ブラントン先生の許可を取るぞ。これは俺からの()()()()だ」


 俺とエリカが戦うとなれば、回復魔法の使い手である先生がつきっきりになるだろうし、何かあった場合にエリカが助かる可能性がグッと上がる。ちなみに、サマンサさんとエンドラさんによれば、一応俺にも回復魔法が使えてもおかしくないくらいの素質があるそうだが、ダインスレイヴの回復効果に頼っているせいか一向に上達しないのだ。なので、先生が回復魔法を使うところを見て、何かコツみたいなものを掴みたいという思惑もある。まあ、流石にその為のだけに、必要以上にエリカを痛めつけるような真似をするつもりは全くないけどな。


 その条件を受け入れたエリカは、教室に入ってきた先生に許可を取りに行くと、先生は俺の方に視線を向けてきた。なので、俺も同意しているという意味を込めて頷くと、エリカに少し話してから全員にホームルームを始めるので席に着くようにと言った。


 そしてホームルームの後で着替え、訓練場に向かったAクラスは、


「それじゃあ、やるわよ」


 俺とエリカを遠巻きに見ていた。普通なら誰かが模擬戦をやっていても、別の場所でそれぞれ訓練を行うのだが、今回は先生の指示で訓練場の中央を空け、このクラス最初の模擬戦を見取り稽古するということに決まったのだ。


「フランベルジュの武器はそれでいいんだな?」


 エリアの選んだ武器は、男性騎士でも扱いに苦労しそうな両手剣……俺が喉を潰した先輩よりも重量がありそうなものを選んでいた。


「そう言うヴァレンシュタインは、そんな細いのでいいの? そんなので、私の一撃に耐えられるのかしら?」


 俺が選んだのはカラードさんからもらった剣……『アルゴノーツ』に長さと重さが似ている棒だ。欲を言えば、もっと重くて頑丈そうなものがいいのだが、一番近いのがこれなので仕方がない。


「確かに強度に関しては物足りないが……まあ、まともに受けなければいいだけだ。そう言った訓練は、ガウェインとディンドランさんに嫌と言う程つけられているからな」


 挑発に挑発で返したが、この間のようにエリカは激高する様子を見せず、むしろ警戒を高めたように見えた。


「双方、やり過ぎには注意しろ、二人が決めたルールにどちらかが降参するまでとあったが、それに加えて俺がこれ以上は危険だと判断した場合もそこで終了だ。分ったな!」


 先生は直前になってルールの追加を勝手に決めたが、俺としては特に意味が無いので頷いた。ただ、エリカの方は少し不満がるようだったが、先生がそれが駄目なら許可は出さないというと、渋々と言った様子で頷いていた。


「では……始め!」


「いやぁっ!」


 先生の合図と共に、俺の目の前まで一瞬で走り込んで来たエリカだったが、武器が少し重いのか、ほんの少しだけ剣の振りは鈍かった。まあ、それでも俺と戦った二年の先輩よりは鋭いので、エリカにあった武器を使えばもっと強くなれるだろう。


「ふっ!」


 俺はエリカの剣を軽く横に飛んで躱すと、先輩にやったように棒を突き出した。まあ、流石にそれは一度見せていたのでエリカも警戒していたらしく、先輩のように無様なことにはならなかったが、やはり武器の重さが関係しているのか、分かっていながらギリギリ躱せたという感じだった。


 そのまま押し込むように俺はエリカに攻撃を加えていき、


「あっ……」


「それまで! ジーク、それまで!」


 エリカがわずかにバランスを崩した瞬間に、それまで剣のように使っていた棒の半ばを掴み、距離を詰めると同時に棒を足の間に差し込んで体当たりをかました。

 そのせいでエリカは尻餅をつき、その瞬間に先生が止めに入ったが、俺はそこで動きを止めずに棒をエリカの首に突き付けた。一応、先生が止めなければそのまま棒を喉に突き立てられてもおかしくなかったと分かりやすくする為だったが……先生の作ったルールを破る形となってしまったので、多分後で説教を食らうことになるだろう。


 俺を睨む先生を気が付かないふりして元の位置まで戻ると、


「ヴァレンシュタイン、もう一度! もう一度お願い!」


 エリカがすぐに起き上がって再戦を望んできた。


「いいぞ。先生、お願いします」


「全く……ジーク、後で覚えていろよ」


 先生は俺の態度に対して不機嫌そうにしながらも、二回目の合図を出した。


「くっ……」


 今度は最初よりも持ったが、それはエリカが逃げに回ったからというのは本人もよく分かっているようで、先程よりも悔しそうにしていた。


 その後、二回目と同じように再戦を頼まれ続け、終了時間が来るまで戦い続けたが、エリカが俺に勝つどころか善戦したと言える試合は一度もなかった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「初めての戦闘術の訓練だというのに……ヴァレンシュタイン、お前は先に戻って着替えて来い。余裕のある女子生徒は、フランベルジュを手伝ってやってくれ!」


 模擬戦の途中から他のクラスメイトたちもそれぞれ模擬戦を始め、終了時間が近づくにつれて多くのクラスメイトが疲労からまともに動けなくなっていた。俺とエリカの模擬戦に感化されたみたいで、ほとんどが自分の体力を見誤り、ペース配分を間違えたのだろう。今体力に余裕があるのは、これ以上の訓練を日常的にやっていた俺と、体力が少なくて早めにダウンしてしまった(脱落するのが早かった分、体力の回復も早かった)か、初日は様子見と決めていたらしく最初からペースを抑えていた数人しかいなかった。

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