第十三話
「それだったら、いくつか武器を作ってもらっていいですか?」
素材は余っているので、この機会にいくつか作ってもらおうと思い頼むと、
「おう! ただし……それなりのものは貰うぞ?」
「おいくらでしょうか?」
と言って、親指と人差し指で輪っかを作って顔を近づけてきた。
まあ、確かに素材は俺持ちだとしても、特殊な製造方法なのだから仕方がないと思い、値段交渉をしようとすると、
「正直、金よりもドラゴンの素材が欲しい。鱗はジーク用の素材に回すとしても、骨の方はかなりの量が余るだろうから、そっちを俺に回してくれ」
鱗を使うのなら、骨はボルスさんに多く回してもいいだろう。そう思ったが、
「ただ面白いことに、鱗の方が効果が高いからと言って鱗のみを混ぜるより、鱗と一緒に骨も混ぜた方がいいのが出来上がる。まあ、詳しいことは分からんが、鱗にはない骨の成分が影響するんだろうな。鍛冶師の中でも、あまり知られていない話ではあるがな」
とのことで、骨も必要になるとのことだった。
「ついでに言うと、骨の代わりに牙や爪も鱗と一緒に混ぜてもいいが、何故か骨程効果が出ない。だから、骨があるなら爪や牙は混ぜるのに使うよりも、そのまま研いで刃物にする方がいい場合があるな。骨と比べて量が取れないし、骨よりも強度が高いからな」
なるほど……と思いながら、どういった武器をどれくらい作るかを話し合いその結果、刃渡り八十cmのロングソードを三本、五十cmくらいのショートソード五本、二十cmくらいのダガーを十本、百cmと百五十cmの八角棒に決めた。
それだけの量がなぜ必要なのかとボルスさんに聞かれたが、ダガーは投げナイフ替わりにも使うつもりなので数が必要になるし、ロングソードとショートソードは……まあ、見つかると欲しがる人がいるし、連合軍のことを考えると揃いの武器をいくつか持っていた方が格好がつく。
八角棒は、単純に訓練用にもなるし実践にも使える。それと、あれば何かと便利そうだからだ。
そう説明するとボルスさんは納得し、それに必要なだけの素材を計算して顔をしかめていたが……俺が倒したドラゴンの大きさを知らなかったらしく、残っていた鱗を全部出すと余ると言われて半分近く返された。
なお、それだけ残っているのならと、返された鱗の内、半分とさらにその半分程の量の骨で代金はチャラとなった。
その際に、何本か包丁を頼んだのだが……流石に「武器屋に頼むな!」と怒られたものの、ついでだからと引き受けてもらえることになった。
もしも報酬としてドラゴンの鱗と骨を渡していなければ、引き受けてもらえなかったかもしれない。
「これだけの量になるから、最低でも一か月は見てもらうぞ。それと、場合によっては俺の方で助っ人を入れるかもしれないが、大丈夫か? もちろん、信用できる奴にしか頼まないから、品質は心配しなくてもいい」
とのことだったが、俺はボルスさん以外に腕のいい職人を知らないので、その辺りは全て任せることにした。
最低一か月吐かあkるとは言われたものの、場合によってはその前に出来上がるものもあるとのことなので、気になるようだったらちょくちょく様子を見に来いと言われたので、暇があったら寄らせてもらうことにした。
そしてボルスさんの店から出た時、どうせなら街をぶらついてから屋敷に戻ろうと思い街をぶらついていると、
「面倒臭いものを見てしまったな……まあ、助けないわけにはいかないか」
数人の男に囲まれて、裏路地へと連れ込まれる学園生を見つけてしまった。
面倒ごとに首を突っ込むのは嫌だったが、学園生ということは一応俺の後輩になるし、衛兵を呼んで到着するまでに何が起こるか非を見るより明らかだ。下手をしなくても、流血沙汰は避けられない。
そして何よりも、
(気が付かれたか……)
俺の存在に気が付いた奴がいたので、騒ぎを最小限にする為に俺が出ることにした。
「こんなとことに居やがったか! いつまで待たせるつもりだ!」
男たちに続いて路地裏に入った俺は、学園生の顔を確認してから一芝居打つことにした。
「お前に何かあったら、親父に俺がどやされるだろうが! さっさと帰るぞ!」
いきなりの欄入社に驚く男たちを無視し、その間をかき分けながら学園生に近づいた俺は、その腕を取って大通りへと引き返そうとした。だが、
「おい、待てよ! そいつには詫びを入れてもらわないといけねぇんだ! 勝手に連れて行こうとするな!」
案の定、それで誤魔化すことは出来ず、男のうちの一人に行く手を遮られてしまった。
「詫び? ……エル、お前何かしたのか?」
俺がそう男子学生に問いかけると、
「え? いや、その、少し肩がぶつかっただけです……」
と、驚いた表情を見せたがすぐに俺の演技に合わせてきた。
「それで肩の骨が折れてな。誠意を見せろって言ってるんだ!」
男たちの一人が、大げさにぶつかったと思われるところを手で押さえて痛がっているふりをしているが……二流どころか三流芝居とも呼べないものだった。まあ、そんなことでいちゃもんを付けてくるくらいだから、この程度のことしかできないのだろう。
「ほう、そうだったのか、それはすまなかった。どれどれ……」
「ぎゃっ!」
俺の言葉を聞いて騙せたとでも思ったのか、男たちは下卑た笑みを浮かべて互いに顔を見合わせていたが……俺は視線が離れた隙に肩を抑えていた男に近づき、腕を思いっきり捻り上げた。
その瞬間、男はいきなりの痛みに驚いて叫び声をあげ、捻り上げていた俺の腕を振りほどき、その後で何度も腕を振って怪我がないか確かめていた。
「それだけ動くのなら、骨が折れたというのは気のせいだったみたいだな。エル、こいつらの勘違いだったようだ。行くぞ」
男子学生の腕を引いて、男たちの横を通り抜けようとした俺たちだが、
「てめぇ! こんなことして、ただで、がっ!」
当然のことながら男たちは俺たちの逃亡を阻止しようと行く手を遮り腕を伸ばしてきたので、逆に一番近かった男の腕をつかんで壁に叩きつけた。
体格では男たちの方が俺よりも明らかに勝っており、もしも何も知らない第三者が見ていたとしたら見た目だけで俺の方が弱いと判断しそうだ。
そしてそれは男たちそう考えていたらしく、最初の一人がやられたのを見ても何が起こったのか判断できずに呆然と立ち尽くし、二人目がやられたところで残りの二人が反撃に出ようとしていたが、
「向かってくるだけの度胸はあるみたいだな。まあ、状況の判断が出来ていないだけかもしれないけどな」
顎への小堤と腹への蹴りで、前の二人と同様に倒れこんでいた。
「お前ら、こいつが学園生だと知っていて襲おうとしていたな? あの学園には、貴族の子女の方が多いのはこの国で暮らしていれば常識のようなものだ。場合によっては自分の命どころか、最悪家族や親族の命すらいらないという覚悟を持っていたんだよな?」
陰に叩きつけた男と顎に一撃入れた男は意識を失っているようなので、残りの二人を見下ろしながらそう問いかけた。
実際問題、貴族相手に暴行を加えたとなると、加えた本人が死罪になるのは珍しいことではないし、下手をすると加えかけたというだけで殺されることもあり得る。後者に関しては冤罪も含まれることが多いが、本来貴族というものはそれくらい残酷で危険な存在なのだ。
しかも、今回は相手が相手だ。
爵位にもよるが、貴族相手に危害を加えた、もしくは加えようとした程度で死刑になるのなら、その貴族の中でも一番上の部類に入る者……つまり、王族相手への蛮行ともなれば、本人だけでなく、一族郎党が極刑となる可能性も大いにあり得る。
前に顔を合わせた時に感じたことだが、恐らくエルハルト殿下とウーゼルさん、それにアナ様たちとの関係はかなり微妙そうだ。
詳しく聞いたわけではないが、正妃の穴様と、側室であるエルハルト殿下の母親による、王家の派閥争いが関係していると思われる。まあ、あの場ではあまり深く聞くわけにはいかなかったし、あの後もカラードさんたちは何も言わなかったので、今は知らなくてもいいということなのかもしれない。
なので、下手をするとアナ様の派閥に入っていることになった俺が、政敵であるエルハルト殿下に近づくような真似は、本来ならばあまりよろしいものでは無いのだろうが……それはそれとして、王家が舐められるようなことを見過ごすのはもっとよろしくない。
そう思って介入したのだが、途中でもしかするとヴァレンシュタイン家とアナ様の仲に亀裂を入れる為の罠なのかとも思ってしまった。
しかし、もしそうだったとしても今の俺にはそれを確認する方法が思いつかないので、とりあえずこの場からエルハルト殿下を引き離すことにしたのだ。
ついでに襲い掛かってきた男たちを脅しておけば、その後の動きでどうなのか分かるかもしれない。
ただまあ、その確認は俺の役目ではないけれど。
「行くぞ、エル」
「は、はい」
殿下の腕を引っ張ってその場を離れ、周辺に俺たちを窺うような怪しい奴がいないのを確認した上で人気のない路地裏に入り、
「それでエルハルト殿下、何故一人で街をぶらついているのですか?」
少し探りを入れてみることにした。
「え、えっと……やっぱり、ヴァレンシュタイン先輩ですよね? 今のは魔法ですよね!」
一応ついてきたものの、髪と目の色が違うせいで戸惑っていた殿下だが、目の前で元の色に戻すと驚いた表情をした後で、少し興奮しながら今の魔法のことを聞いてこようとしていたが、
「その前に、俺の質問に答えてください。あのままだと殿下は、危険な目にあっていたのかもしれないんですよ」
少しきつい口調で叱った。
あまりやり過ぎると不敬と言われるかもしれないが、この程度なら先輩からの叱責という範囲で済むだろう。
「申し訳ありませんでした。実はその……前々から一人で街をぶらつくのに憧れていまして……ちょうど気配を消す魔法を覚えたので、それを試すついでにやってみようと思って……」
殿下は、俺の質問に対して素直に答えているが……気配を消す魔法ということは、恐らく黒系統の魔法のことを言っているのかもしれない。
「そう言った理由なら理解できないこともないですが……護衛やお付きの者はどうしたんですか?」
いくらアナ様との関係が微妙だからと言っても、王族が護衛なしで出歩くとは思えない。それが例え学園生だとしても、学園内や王城との息帰りで絶対に必要になるはずだ。
その質問に対し殿下からは、
「その……撒いてきました……」
頭の痛くなるような言葉が返ってきた。
「その護衛やお付きはクビになるかもしれませんね」
今頃は血相を変えて殿下を探しているだろうな……と思いながら路地裏の屋根の方へと視線を送ると、二つあった気配の内、一つがその場を離れて行った。
殿下は護衛やお付きがクビになると聞いて少し焦っていたが、いくら殿下が今ここで焦っても事態が好転することは無いので、まずは城まで送り届けることにした。
ただ、このまま変装した状態だと、また変な輩に絡まれないとも限らないので、まずは一目で貴族だと分かる格好に戻り、すぐに身分を証明できるように男爵家の家紋が入ったマントを羽織ることにした。
その状態で大通りまで殿下を連れて行き、馬車でも確保出来たら……と思ったものの、こういう時に限って拾えそうな辻馬車が見当たらなかったので、そのまま城まで歩いて移動することにした。
俺と殿下が移動を開始すると、屋根の上に残っていた気配も同じように移動してきたが……別に今は指摘する必要は無いだろう。殿下も気が付いていないみたいだし。
その後は変な輩に絡まれることもなく、無事に城の門のところまで来たところで、
「ヴァレンシュタイン男爵、エルハルト殿下の護衛、ご苦労様でした」
近衛兵と思われる騎士たちに俺と殿下は出迎えられた。
待ち構えていた様子の騎士たちに殿下は困惑した様子だったが、殿下が護衛やお付きを撒いても暗部はずっと殿下の後をつけていた……などとは本人に伝えず、その場で騎士たちに殿下の護衛を引き継いで俺は城を後にした……が、
「あれ? ジーク、こんなところで何をしているの?」
今度は何故かエリカと鉢合わせてしまった。
エリカは他に四人の女性と一緒にいるのだが……よく見るとその内の一人は卒業パーティーで言葉を交したマリだ。
他の三人も見覚えがあり、何とか記憶を探った結果、学生の時にエリカがパーティーを組んでいたメンバーだと思い出すことが出来た。
「少し城に届け物があってな。それが終わって帰るところだ。エリカたちは?」
「私たちは送別会みたいなものよ。春になると、それぞれ活動拠点がバラバラになるから、集まれるうちになるべく集まろうってね」
とのことだった。ただ、春までとなると後二か月はあるし、帰る場所によってはさらに王都に残る必要があるかもしれない。
いったい、バラバラになるまでの間に、何度送別会をやるのだろうか? まあ、それだけ仲がいいということなのだろうから、野暮なことは言わないけれど。
そのまま途中まで道が同じだった為、何となく別れるところまで同行したのだが……正直、エリカ以外はあまり接点がなかったので、話しかけられてもまともに答えることが出来ず、恐らく変な奴だと思われていたと思う。まあ、今更のことだろうけど。
ちなみに、今度行われるヴァレンシュタイン家とフランベルジュ家の合同訓練で、エリカは弟と一緒に参加することが決まっているらしく、弟の相手を頼まれてしまったのだった。
「ただいま帰りました」
屋敷に戻ると、カラードさんから遅かった理由を聞かれたので正直に答えたところ、
「ああ、まあ何と言うか……変化ことに巻き込まれそうになったんだな」
と同情された。
もっともカラードさんとしては、学生時代にウーゼルさんを間近で見ていた身としてはエルハルト殿下の気持ちも分かるとのと、派閥の違うヴァレンシュタイン家があまりエルハルト殿下に近づくのはよくないとの考えから、一応ウーゼルさんに報告した後はこちらからこの件に関しては関わらないようにするそうだ。
なお、同じことをサマンサさんに報告すると、
「ジーク、無いとは思うけど、もしかするとアナ様がストレス発散で無茶振りしてくるかもしれないから、覚悟だけはしておいた方がいいわよ」
などと脅されてしまった。
何のストレス発散かと思ったが、仕方がないこととはいえ、俺がエルハルト殿下を城まで護衛したことで、もしかすると自分の派閥の一員だと知らしめる為に城に呼ぶかもしれないとのことで、その際に何か言ってくるかもしれないらしい。
それを聞いた俺は思わず、
「なんか、親戚のわがままなおばさんみたいですね」
と、言ってしまい。すぐに失言だったと気が付いたものの、ヤバイことになりそうだ……などと焦っていると、
「確かにそうね……家系図の上での話とはいえ、アナ様はジークの親戚のおばさんみたいなものだしね……あ!」
サマンサさんも、うっかり失言をしていた。
幸いなことにこの時、部屋には俺とサマンサさんしかいなかったので、この話は俺たちだけの秘密ということになった。
「ジーク、昨日はエルハルトが迷惑をかけたな」
殿下を保護した次の日、俺はカラードさんと共にまたもウーゼルさんに呼ばれた。
まあ、これ自体は予想していたのだが、連日俺が呼ばれているところを見た貴族は、何か重大なことが起こったのかもしれないと探りを入れてくるだろう。
もっとも、ファブール関連以外は別に話の内容が漏れても問題のないことなので、特に隠す必要は無いし、何なら昨日殿下を待ち構えていた近衛辺りからすでに話は漏れ始めているはずだ。
「いえ、流石に無視するわけにはいきませんでしたので、学園の先輩として対処したまでです。ただまあ、殿下の正体がバレないように演技したせいで、多少は不敬なことをしてしまったと思いますので、その辺りは目を瞑ってもらえればと思います」
それに、ウーゼルさんにこう返しておけば、俺が別にエルハルト殿下の派閥に近づこうとしていたわけではないと言い張ることが出来るだろう。
「そう言ってもらえると助かる……あいつにも困ったものだ。アーサーも時々やんちゃなことをしていたが、まさかこれまで大人しくしていたエルハルトがやらかすとはな……」
アーサーならやるだろうなと思いつつ、それでもアーサーなら周囲に気を配った上で遊ぶだろうなとも思った。
それを考えると、確かにエルハルト殿下のやらかしは少し酷いかもしれない。
もしこれでエルハルト殿下の身に何かあれば、比喩や物理的な意味を含めて、一体何人のクビが飛んでいただろうか?
「そうは言いますが陛下、あなたが学生時代にやったことを考えれば、エルハルト殿下のやらかしはまだかわいいものでしょう。私など、何度あなたの無茶に付き合わされたことか……」
「お前は、そういうことをこの場で言うか……まあ、それは昔のことだ。それに、お前もそれなりに楽しんでいただろ?」
ウーゼルさんはあまりエルハルト殿下の話題を引っ張りたくないのか、カラードさんの入れた茶々に、ウーゼルさんはめんどくさそうな顔をしながらも、ノリノリで乗っかっていた。
「卒業間際になって、最後に皆で女遊びがしたいなどと言って、私や仲間を無理やり引き連れて街へ繰り出したことは、絶対に忘れることは出来ませよ。あのせいで、私はサマンサにめちゃくちゃ絞られましたからね」
いや、俺のいる前でそんなことまでばらすのか! と驚いたが、よくよく聞いてみると女遊びと言っているものの、そう言った女性とお話しできる夜のお店に行っただけで、肉体的な遊びではなかったとのことだった。
「ジークはこんな派内を聞いても落ち着いているな……さては、経験豊富だな?」
俺の反応が面白くなかったのか、ウーゼルさんがニヤニヤしながらからかってくるが……それは当たり前だ。何せ、
「そう言った店で二年以上寝泊まりしていましたからね。俺自身が経験していなくても、そう言った話は嫌でも耳に入ってきます。でも、女の人とそんな関係になったことなんてありませんよ。まあ、向こうが面白がってからかってくることはありましたけどね」
と返すと、驚いたような顔をしていた。
ま、確かに娼館で寝泊まりしていたと聞けば、余程の好きものなのだろうと思われそうだが、実際のところ、余所者かつ未成年である以上、スタッツの権力者であるばあさんの庇護下に入るのが一番安全だったのは間違いなく、邪推はされても合理的な選択だったことはウーゼルさんは十分に理解しているだろう。
「……ジーク、それで女っ気がなかったとか、絶対に嘘だろ? 逆に毎日女をとっかえひっかえしていたとか言われた方が納得できるんだが? なあ、カラード?」
驚いた表情のウーゼルさんがカラードさんに同意を求めると、
「おかしいように思われますが、確かにジークの言っていることに間違いは無いようです。ディンドランたちにも、一応確認させました」
カラードさんは静かにそう言った。
それでウーゼルさんはさらに驚いた表情をしているのだが……前にそう報告したはずだし、むしろ変な女がわいてくることがないのを褒めてほしいくらいだ。
その後、ウーゼルさんから色々なことを聞かれたものの、俺の返答がそっけない者ばっかりだったせいか、最終的には男の方に興味があるのではないかという疑惑が向けられたが……そこはちゃんと否定しておいた。
貴族として相手を探さなければいけないのは十分理解しているものの、今のところそう言ったことは考えていないと言うと、ウーゼルさんは呆れた顔をしていた。
「カラードさん、やっぱりすぐにでも嫁探しした方がいいんですかね?」
帰りの馬車の中でカラードさんにそう尋ねると、
「う~ん……まあ、いずれは探さなければならないだろうし、俺としても結婚はした方がいいと思う。だが、ジークが今ではないと思っているのなら、まだその時ではないということだろう。それに、結婚したからと言って、子供が出来るというわけではないからな。跡取りのことは深く考えなくていい。俺がそうしたように、いなければ容姿を取るということも、貴族の世界では珍しくない話だからな」
と言って、笑って答えた。
確かにそう言われるとそうなのだが……やはり、考えるだけは考えた方がいいのだろう。
ただそうなると、相手の女性はこれまでに会ったことがある人なのか、これから会う人なのか……
(これからはというのは想像できないし、そうなるとこれまでにということになるが……あれ?)
そう考えたところで、ある重要なことに気が付いてしまった。それは、
(独身の女性で、年齢が近いとなると……俺が名前を知っている人って十人もいなくね?)
自分の交友関係の狭さだった。特に女性となるとこれまでの環境上、年上の方が多いくらいなのだ。まあ、同性でも同じことが言えるのだが……
「ん? どうしたジーク?」
嫌な事実を認識してしまい少しへこんだところにカラードさんが声をかけてきたが、俺はあいまいな返事をするしかできなかったのだった。