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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第六章
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第十二話

「ほんと、予定よりかなり早い帰宅だな」


 エレイン先輩と別れてから、五日で俺たちは無事に王都まで戻ってきたのだが、本当なら後一か月は遅くなる予定だったので、拍子抜けと言うかこれなら春まで待ってからでもよかったのかもしれないと思ってしまった。


「それじゃあ、まずはカラード様たちへの報告ね。陛下への報告は、カラード様と一緒の方がいいでしょう」


 ディンドランさんの先導で街中を進み、ヴァレンシュタイン家の屋敷に到着したところで、


「ジーク、あれはフランベルジュ伯爵家の馬車じゃない? エリカでも来ているのかしら?」


 敷地内に、フランベルジュ伯爵家の家紋が描かれた馬車が停まっているのをディンドランさんが発見した。


「確かにエリカのところの馬車だけど、俺もディンドランさんもいないのにエリカが来るわけないから、来ているとしたら伯爵じゃないかな? まあ、とりあえず行けば分かるだろう」


 伯爵が来ているとは思わなかったが、丁度いいので挨拶しておこうと思い、門のところで待機していた騎士とロッドたちに馬と馬車を頼んで、俺とディンドランさんで先に屋敷の中に入った。


「カラード様、ジークが帰ってまいりました」

「中に入れてくれ」


 すれ違う騎士たちにあいさつしながら応接間に行くと、すぐに扉の近くで待機していた騎士がカラードさんに確認を取って扉を開けた。


「ただいま戻りました。伯爵、お久しぶりです」


「色々あったみたいだが、よく無事に戻ってきた」

「ジーク……いや、ヴァレンシュタイン男爵、久しぶりだ」


 中に入って挨拶すると、カラードさんが隣に座るように言ってきた。


「それで、だが……まずはジーク、いくら男爵という形で半独立状態とはいえ、公爵家相手に強気に出過ぎだ。確かに話を聞いた限りではあちらの失態ではあるが、それをひっくり返す権力を持っている相手だということは忘れるな」


 そして、怒られた。

 向かいに座っている伯爵は、俺の怒られる様子が面白いのか声を殺して笑っている。


「だがまあ、やったこと自体は褒められる行為だ。それに、自分とディンドランたちの報酬を分けたのもよかった。もし一緒にして報酬を交渉していたなら、ジークのことをよく知らない者からは、騎士団の力を自分のものと勘違いしている奴だと言われたかもしれないからな」


「まあ、そんなことを言う奴がいるとしたら、近い将来大恥をかくことになるだろうが、それまでは陰口をたたかれることになるかもしれないからな」


 と、カラードさんから叱られた後で褒められ、伯爵からもフォローされた。


「それでジーク、手紙にもあったが、ジークは今代の雷が戦争を仕掛けてくると思っているのか?」


 褒めた後でカラードさんは、真顔になって俺の送った報告書を取り出して言った。


「確実に……と言いたいところですが、参加しない確率の方が低いと思います。そうでなければ、ファブールからかなり離れたスタッツまで直接戦力を集めには来ないはずです」


「成程な。それでこの手紙が俺のところに来たわけか」


 そう説明すると、今度は伯爵が俺の送った手紙を取り出した。


「一応、言われた通りに協力してくれそうなところには秘密裏に声をかけている。ただ、俺の爵位だと子爵と男爵のところが中心だがな」


 俺が伯爵に手紙を送ったのは、伯爵の名前で()()()を作ってもらう為だ。

 もし今代の雷が戦争を仕掛けてくるとすれば、自分で集めた戦力を持ち出してくるだろう。その為に俺にも声をかけてきたのだからな。


「それで構いません」

「一応聞いておくが……囮や捨て駒にするつもりではないよな?」


 伯爵は一応と言っておきながら、完全に疑っているようだが……まあ、それは仕方がないだろう。

 普通なら伯爵に頼まなくても、カラードさんに頼んでガウェインたちを貸してもらえばいいことなのだ。

 その為にカレトヴルッフ公爵家に貸しを作っているし、公爵が動かなかったとしても最悪俺一人で戦場に忍び込んでもいいのだ。

 それをわざわざ伯爵に連合軍を作ってもらうように頼んだということは、伯爵が集めた貴族や兵たちを目くらましにして、自身の襲撃時の安全と成功率を上げるつもりだと思われても仕方がない。ただ、


「囮と言う意味では間違っていないですけど……いたっ!」


 大きく間違っているわけではなかったので素直に言ったら、隣に座っていたカラードさんに頭を叩かれた。


「わざと悪ぶった言い方をしないで、さっさと説明しろ!」


「ええ、分かってますよ……囮と言うか、こちらの数を増やすことによって俺の存在を隠す、もしくは見失いやすくさせる為です。もしも俺が単独かヴァレンシュタイン子爵軍で参加すれば、味方からも目立ってしまいます。そうなれば俺の家名を知っている今代の雷にバレる可能性が高くなり、もし警戒されてしまうと奇襲を仕掛けにくくなってしまいます」


 と、俺が囮にすると言った意味を説明すると、カラードさんも伯爵も納得していた。


「成程、確かにそう言った理由なら、数を集める理由は分かるな。そうなると、ジークを副隊長に推薦するのは止めておいた方が無難だな」


「え? それはありがたいですけど、なんで俺が副隊長にとか言う話が出ているんですか? 男爵になりたての若造ですよ?」


 一部隊というならともかく、軍全体の副隊長となると流石に経験不足だし、他の参加者は納得しないだろう。そう思っていたが、


「今集めている中で家格や爵位という話で言えば、ジークは俺に次いで二番目だぞ」


 と伯爵に言われた。


「ジークが参加するとなれば、自前で人数を集めるか子爵家(うち)の方から貸し出さなければならない。ただ、自前で集めた兵では練度や情報統制という面で信頼がおけない。そうなると子爵家から貸し出すことになるが、その場合はカラード・ヴァレンシュタイン子爵の代理であるジーク・ヴァレンシュタイン男爵ということになる」


「そうなれば、ジークは他に子爵が参加していたとしても同格扱いにしなければならない。それに、ジークが思っている以上にヴァレンシュタイン子爵家の名は大きいのだ。なにせまあ……カラード殿が、前陛下と現陛下の信頼の厚い方だからな」


 伯爵が少し言いにくそうに理由を話すと、カラードさんは苦笑いを浮かべていた。多分、そう言った理由で他の貴族からやっかみを受けたことがあるのだろう。俺もアーサーと仲がいいせいで、同じような視線を向けられることもあるし。


「だから俺はジークを副将に推薦しようと思っていたのだが……そう言った理由なら、主だった者には話だけ通して、ジーク本人が経験不足と年齢を理由に断ったとすればいいだろう。それと、他の戦場経験者を差し置いて、若輩者の自分がそんな地位に立つのはふさわしくないと付け加えてな。そうすれば悪い印象は抱かれないだろう」


 伯爵がそう言うとカラードさんも頷いていたので、他の参加者にはそう説明してもらうことになった。


「それで、だ。この話は一旦置いておくとして、もう一つの話を進めるとしようか?」

「そうですね。誰か!」


 伯爵がそう言うと、カラードさんが外に待機している騎士を呼んで、伯爵の護衛とガウェイン、もしくはランスローさんを呼んでくるように指示を出した。


「流石にいきなり俺が子爵家と接近し出したら、他の貴族に怪しまれてしまうからな。その為の理由作りと、ちょっと()()()()()()をさせて貰おうと思ってな」


 といって、ニヤリと笑う伯爵だが、美味しい思いとは何だろうかと聞いて皆が揃ってからだとはぐらかされてしまった。



「失礼します」


 しばらくして部屋にやってきたのはランスローさんだった。なんでもガウェインは、そう言った打ち合わせはランスローさんの方が得意だからと言って丸投げしたそうだ。

 フランベルジュ家の護衛は王都の屋敷で部隊長をしている騎士らしく、俺と面識はないが向こうは俺のことを知っているとのことだった。


「ランスロー、話は聞いていると思うが、フランベルジュ伯爵家との合同訓練の事前準備はお前に一任する」

「畏まりました」


「ハンス、こちらはお前が指揮をとれ」

「はっ!」


 どうやら二人の言う理由作りとは、子爵家と伯爵で訓練することだったらしい。

 確かに、これならカラードさんと伯爵が会っても連合軍のことは誤魔化せるし、仮にいきなりの合同訓練を怪しむ奴がいたとしても、子供同士が同級生でわりと仲がいいし、俺が偽名を使っている時に伯爵と直接面識があった縁からこの話が出たとでもいえば筋は通る。

 ただ、それでも伯爵がいう美味しい思いとは繋がらないように思えるが……そんな考えが顔に出ていたのか、伯爵はニヤリと笑って、


「ジークはあまり実感がないようだが、うちとしては王国でも最強とも言われる騎士団と訓練が出来るのだ。得るものは多い。それに、最近ではなかなか他家と訓練する機会がないからな。そして何よりも今一番の注目株であるジークが()()するのだ。それだけで羨むものは多いだろう」


 この話を聞いた時から薄々感付いていたが、やはり俺は強制参加のようだ。まあ、フランベルジュ家とは場所が違うものの前に一度やっているのであまり抵抗はないが……伯爵の言い方だと、伯爵家との訓練をきっかけに、他のところからも申し込まれる可能性があるのではないか? と思っていると、


「ジーク、心配そうな顔をしているが、そこまで気にすることは無いと思うぞ。大方、伯爵家と訓練をしたことが知れれば、引っ張りだこになりそうとでも思っているのだろうが、伯爵はその辺りを考えて、わざわざ陛下に許可を取るという形で話を通してくれたからな。少なくとも、陛下と直接会えるくらいの貴族でないと、うちに合同訓練を申し込むことは出来ないし、そう言ったことのできる高位貴族は、総じてプライドが高いからな」


「つまり、子爵家に訓練で負けたと言われたくないところは、やりたくても高いプライドが邪魔をして躊躇するというわけだ。その点うちは、すでに領地でやられているから今更だし、息子もジーク相手にやらかしているからな。その関係修復の一環で行ったとも言うことが出来る」


 ま、そう言った理由があるのなら、喜んで参加させてもらおう。そもそも、俺が伯爵に頼みごとをしたのだから、それくらいはやって当然だ。それに、俺としても今代の雷とのことを考えたら、色々な人とやりあえるのはありがたい。


「それで早速だが、三日後くらいで予定を組んではどうだろうか? ファブールがいつ動くのか分からない以上、こちらはなるべく早く動き始めた方がいいだろうしな」


「そうですね。ランスロー、行けるな?」

「お任せください」


 こうして、ヴァレンシュタイン家とフランベルジュ家の()()()合同訓練が決定したのだった。

 ちなみに、伯爵が会える際にワイバーンの肉を手土産に渡すと、背中を何度も叩かれるくらいに喜ばれた。

 なお、その後でワイバーンの話を聞きつけたガウェインが肉を寄越せと突撃してきたが……俺はそれを予測していて、事前にカラードさんとランスローさんを味方に引き入れていたので、ガウェインが姿を現す、ランスローさんに捕まり説教が始まる、頃合いを見てカラードさんが説教に参加、更に時間差でサマンサさんが参加という流れが出来上がった。



「ジークが出かけると、どでかい土産と厄介事を持って帰ってくるな……まあ、土産の方はありがたくいただくし、厄介ごとの方はジークだけの責任ではないから安心しろ。むしろ、私を始めとした王国全体がファブールになめられていたとも言えるからな」


 次の日、カラードさんと共にウーゼルさんに報告しに言った俺は、少々からかわれたものの、叱責は無かった。

 正直に言うと、襲われた側とはいえ王国の貴族として今代の雷に負けたのは事実なので、多少のお小言くらいは貰うのではないかと思っていたが、ウーゼルさんからするとスタッツの街中で俺が本来の実力を出せなかったのは仕方がなく、むしろその状態でよく無事に帰ってきたという感じらしい。

 さらに言うと、俺が全力を出さなかったおかげで、俺と王国は完全な被害者の立場でファブールを責めることが出来るとのことだ。

 まあ、そうは言ってはいたものの、ウーゼルさんは俺が今代の黒であることを知っているので、同じレベル10とはいえ今代の雷に負けたのは少なからずショックだったらしい。

 ただ、それは俺と今代の雷の相性が悪かっただけと言うこともある。それに、今の俺は今代の黒ではあるが公式的にはただの一男爵なので、負けたからと言って王国の士気は下がらないし、むしろ負けに見えるものの逆に退けたと言い張ることも出来るので、会議ではその線で話を進めるつもりとのことだ。


「それで、フランベルジュ伯爵家を巻き込んで連合軍を作り、ファブールとの戦に備えるというわけか……まあ、いいだろう。実際にその時が来て、その連合軍がちゃんとした軍の形を保っていたなら、戦場に参加することは認めよう。だがまあ、他の貴族との兼ね合いもあるから、一番()()()()()()は無理かもしれないからな」


 と言って笑っていた。

 まあ、伯爵が率いる連合軍を戦場で一番目立つところ……つまり、先陣は無理かもしれないのは俺も分かっている。何せ、相手は一度王国軍に買っているとはいえ、今回は今代の雷が参加するかまだ分かっていない()()()()()()()()()()()し、それなら数で押せば十分に勝ち目があると考える他の上位貴族が名乗りを上げるだろうからだ。


「ええ、それは分かっています。ですので出来れば第二陣、もしくは第三陣になるようにお願いします」


 二番手か三番手の位置に居れば、配送してくる第一陣に紛れて襲い掛かることも出来るだろう。

 伯爵には連合軍を囮にする気かと聞かれ否定したのは、俺が本当の意味での囮にするつもりなのは、ファブールどころか俺のことも侮っている貴族の軍だ。

 そいつらなら、伯爵もカラードさんも文句は言わないだろう。多分、向こうも何かあれば連合軍を捨て駒にしようとするはずだし。


「カラードも、それでいいんだな?」

「はっ! 今回は私の代理としてジークに騎士団の指揮を執らせますので、余程的外れなことを言い出さない限りはジークの好きにやらせようかと思っております」

「えっ⁉」


 なんか、いきなり初耳の情報が出てきた。

 俺の聞いていた話だと、カラードさんは訓練に参加しないが見学には来るとのことだったので、てっきり指示はカラードさんがするものだと思っていた。


「ジーク、これも勉強だ。いずれお前も独自の騎士団を率いることになるかもしれない。その時の予行練習と思って、頑張ることだ」


 確かにそう言ったこともあるだろうが……ヴァレンシュタイン騎士団でそんな練習をしていると、実際にその時が訪れた場合、練度の違いで変な苦労をしそうで怖くはある。

 そう言った理由では断ることは出来ないので、嵌められた感はあるし気が重いがよくよく考えてみると、戦争が始まれば多分俺がヴァレンシュタイン騎士団を率いる場面が多くなるはずなので、その予行練習も含まれていることに今更ながら気が付いた。


 その後はカラードさんとウーゼルさんの昔話に付き合わされ、帰り際にワイバーンの肉(王家用とアナ様の実家用)を渡して城を後にした……が、馬車に乗って屋敷に戻る途中で、スタッツで入手した刀の存在を思い出したので、俺だけ途中で降りてボルスさんの店に向かうことにした。

 カラードさんには一人で出歩くことを心配されたが、王都で俺に勝てる人など何人いるのか? と言った感じで武力的な危険は少ないし、最悪の場合逃げに徹すればいい。

 なお、俺が逃げに徹した場合、王都で俺を捕まえることが出来るのは、俺の知る限りでは三人いる。しかもその三人は俺の知り合いなので、もし捕まえに来るようならそれは俺が問題を起こした時だろう。

 ちなみにその三人は、エンドラさんとガウェイン、そしてサマンサさん(とその配下の魔物たち)である。


 それに、貴族とバレて変なトラブルに巻き込まれないように、念の為いつもの変装をして街中を歩くことにした。

 前に俺の変装した姿はカラードさんに見せたことがあるのだが、目の前で変装したことは無かったので、目の前で髪と目の色を変えると驚いた表情をしながら無言で俺の髪の毛を引っ張って、抜けた毛が元の黒色に変わるのを見てさらに驚いていた。


「お~う、いらっしゃ……ん? ……んん? ……なんだ、男爵様か」


 店に入ると、ボルスさんは挨拶をしながら俺の見て怪訝そうな顔になり、しばらく顔をじろじろと見てからようやく俺だと気が付いた。

 客相手にその態度は無いだろうと思われそうだが、カラードさん相手でもこんな態度だし、俺も何度か来ているうちに慣れたので特に気にすることは無かった。


「変装しているからすぐに気が付かなかったが、どうした? 今日はアルゴノーツの手入れか?」


 ボルスさんは読んでいた新聞を机の上に置いて俺の方へ来ると、用事を聞きながらカラードさんと同じように俺の髪を見ていた。まあ、流石に髪の毛を引っ張るような真似はしなかったが、もし許可を出したら容赦なく引っこ抜きそうなので絶対に言わない。


「いえ、旅先でこんな武器を手に入れまして」


 そう言って俺は刀を取り出して渡すと、


「これは東の方の武器だな。品質は……なかなかの代物だな」


 ボルスさんはすぐに鞘から抜き、刀身を色々な角度で眺め出した。


「それで、これをどうするんだ? 同じものを作ってくれと言われても、俺はかじった程度だからこれ以下のものしか造れないぞ」


 いや、それ以下のものではあるが造れるのか……と少し驚いたものの、そんな本格的に使うつもりはないので、


「造るのではなく、これを短くしてほしいんです。あまりこの系統の武器は使ったことがないし、このままだと俺には少し長くて、いざという時に持て余しそうなので、最低限使える状態にしておきたい。出来れば、片手でも使えるくらいに」


 そう言うとボルスさんは、


「あ~なるほどな。確かにこれは男爵様には長いかもしれないな。そもそも、こいつはこっちで使う一般的な剣とは使い方が違うからな。しかも、これは俺が見た中でもかなり長い。これを片手でとなると……半分近くまで削らないといけないな。ただ、そこまで削るとなると強度が下がるかもしれないが、それでもやるか?」


 と念を押してきた。

 前の世界とこの世界の一般的な刀の長さがどれくらいか知らないが、この刀の長さは全長が一mを越えているので、かなり大胆に削らないといけないだろう。

 しかも片手でとなると、下手をすると半分近い長さになってしまうかもしれない。ただ、


「このままだと飾るしか用途がないかもしれないので、やっちゃってください」


 元々が拾い物なので、別に使えなくなったとしても勿体ないことをした程度でしかない。それなら、使えなくなるかもしれないが、短くしてもらった方がいい。


「それならやってみるが……ただ、柄の方は短くできないから、刃と柄のバランスが少し変になるかもしれないからな。後で文句言うなよ」


 ということになった。一応全長が六十cm程度になるように頼んだが、実際にやってみないとそこまで短くできるかは分からないし、望む長さになったらなったで、柄が三十cmに少し足りないくらいの長さなので、刃と柄が一対一に近いものになる……確かに、イメージする刀と比べると不格好だが、まあ良しとしよう。


「そう言えば、男爵様は」

「いつも通り、ジークでいいです」

「それじゃあジーク、カラードから聞いた話だと、ドラゴンの素材を持っているんだろ?」


 ボルスさんは、さっきから男爵様男爵様と俺を呼んでくるので、いい加減いつも通りの呼び方をしてくれるように言うと、やはりあのいい方は俺をからかっていたからだったらしく、いつものニヤリと笑って呼び捨てに戻った。

 下手をすると貴族に対して不敬であると言われそうな態度だが、そもそもボルスさんはカラードさんですら呼び捨てであり、俺はそのカラードさんの義息子なのだから、呼び捨てでも構わないだろうということのようだ。多分、カラードさんから許可をもらっているだろうし俺も気にならないので、このままで構わない。


「ええ、持ってはいますが……いまいち使い方が分からないんですよね。肉は食えるし、内臓の一部は薬になって、鱗と皮は鎧なんかに使えるというのは知っているんですが、骨がよくわかりません。せいぜい、そのままの形で武器や防具に利用する程度ですかね」


 ボルスさんに聞かれたので丁度いいと思い、ドラゴンの素材が少し持て余し気味になっていると話すと、


「だと思った。知っていたら、いの一番に俺のところに持ってくるはずだしな」


 と笑って答えた。

 確かに、武器にするにしろ防具にするにしろ、専門家に話を聞きに行けばよかったと思っていると、


「確かにジークの言う通りの使い方が出来る。それに、あまり知られていないが、鱗も骨も細かく砕いて煎じて飲めば薬にもなる」


 と、驚くような話を聞くことが出来た。

 確かに鱗も骨もカルシウムが多く含まれていそうだから、サプリメントみたいなものとして使えるのだろう。

 そんな風に感心していると、


「まあ、そんな使い方をするのはもったいないし、貴重な素材を使ったから健康になれるはずとかいう、昔からある言い伝えのようなものだがな」


 などという落ちを付けてきた。

 そんなボルスさんは、俺の反応を見てまた笑っていたので、多少の抗議くらいはするか……と思いながら睨んでいると、


「まあ、それは冗談として……骨も鱗と同じく細かくしたものを鉄なんかと一緒に溶かし、それで武器を作ると上質なものが出来るぞ。混ぜる量にもよるが、骨でも半々くらいの量だと価値は単一素材のものと比べると倍以上、強度と切れ味は倍……まではいかないかもしれないが、増し増しになるのは間違いないな。もっとも、作るのには相当な腕が必要だけどな」


 と言って、ボルスさんはまるで「俺みたいにな!」とでも言うかのように、笑いながら力こぶを作って見せた。

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