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黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第六章
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第七話

 ロッドの上からベラスをどかし、全員が席に着き周囲に誰の気配もないことを確かめてから、


「さっき見つけた紙だけど、今代の雷の名前と思われるものが書かれていた」


 と言って、隠していた髪を皆の前で広げた。

 ディンドランさんたちは、名前程度が分かったからと言ってどうなのかと言った表情をしていたが、紙に書かれていた()()を見て首をかしげていた。

 それもそのはずだ。これに書かれている文字は、恐らくこの世界では限られた者しか読めないものだ。


「これは俺が前に居た世界の文字で、しかも俺が暮らしていた国のものだ。完全に同じ世界だとは限らないが、これで今代の雷が俺と同じ異界人で、俺以上の知識を持っている可能性が出てきた」


 そのことを話すと全員驚いた表情をしたものの、すぐにそれがどうしたのかと言うようなものに変わった。


「ジーク、今代の雷がジークの同郷の可能性が出てきたというのは分かったけれど、ジークがそこまで警戒する理由は何なの?」


 ディンドランさんの質問に、


「俺の神具であるダインスレイヴの二つ目の形態、あれは俺の世界で人を殺す道具と聞かれた時に、多くの人が想像するものの一つを模したものだ」


 と答えた。

 するとディンドランさんたちはすぐに表情が険しいものに変わり、


「つまりジークは、今代の雷がジークのダインスレイヴと同等か、下手をするとそれ以上の神具を使う可能性があると考えているの?」


 緊張しながらそう聞いてきた。


「可能性は十分にあると思う。でもそれ以上に、今代の雷がこの世界のものではない人を殺す知識を持っていた場合、予期しない方法で奇襲を受けて壊滅的な被害を被ることも考えられる」


 例えば火薬を作ることに成功すれば、それを使って爆弾のようなものが出来るし、近代的な拳銃は無理でも、火縄銃のようなものは製作可能だろう。

 もしかすると爆弾に似たものはあるかもしれないが、これまで見たことも聞いたこともないので一般的ではなく、隣に居る奴が堂々と持っていたとしてもすぐに危険性に気が付くことは難しいかもしれない。

 つまり、それらを作り量産することが出来れば、使い方によっては魔法の才能がない者や訓練を受けていない者でも、魔法以上の被害を出すことが出来るかもしれないのだ。


「ジークの居た世界では、そんな危険なことを教えていたの?」


「いや、確かにそう言った専門的な訓練や知識を学ぶところは存在したけれど、そう言った場所で学ぶ機会のない人の方が大半だったと思う。問題は、そう言った知識だけなら、誰でも簡単に知ることが出来る場所や物が、身近に存在していたということだ」


 その気になれば、未就学の子供でもそう言った知識を得ることが出来る環境が、あの世界にはあった。

 かくいう俺も、実物は見たことがないのに拳銃を模したダインスレイヴを使うことが出来るのがその証拠と言えるだろう。


「確かに、それが本当ならジークの言う通り今代の雷には最大の警戒をしないといけないわね……でもその理屈だと、ジークや今代の雷以前の異界人のせいで、そう言った知識が世間に出回っていてもおかしくはないと思うのだけど、ジークはその辺りのことはどう思っているの?」


 ディンドランさんの疑問は、俺を言うことを信用していないというというよりは、純粋な疑問と言った割合が大きいように感じた。


「それについては確実とは言えないけれど、保護した者たちが隠しているか、これまでに来た異界人が秘密にしていたのかもしれない。それに俺が言ったような環境になったのは、俺が生まれる少し前くらいだったはずだから、俺よりも前に来た異界人が同じ世界出身だったとしても、そう言った知識を得る機会がなかったということも考えられる」


 もっとも、他の世界から来ていた異界人がいたとしたらその限りではないし、向こうの世界とこちらの世界の時系列が同じという保証もないので確実とは言えない。


「そうなると、私たちでは確かめる術がないわね……ジーク、バルムンク王国に戻ったら、まずカラード様にそのことを報告して、カラード様から陛下に内々で聞くように進言した方がいいわ」


 ウーゼルさんと親しいカラードさんだから出来る方法だ。そうしないとそう言った知識を利用しようと考える貴族が現れるのは確実なので、回りくどいがそうした方が俺が直接出向くよりは怪しまれないだろう。まあ、俺も今代の雷のことで行かないといけないだろうから、目立ってしまうのは覚悟しておかないといけない。


 俺が頷くとディンドランさん頷き、その後で思い出したように、


「そう言えば、その紙にはなんて書いてあるの?」


 と聞いてきた。


「この紙には、(タチバナ)・アレックス……って書いてある」


 久々に読む日本語ではあるが、流石に忘れるという程昔でもないので読むことは出来る。しかし、それなのに何故言いよどんでしまったかというと、アレックスの後の文字が何度も線を引いて消し潰されていたからである。

 もしかするとアレックスは偽名で、余計な部分を消したのかと思ったが、それならアレックスの前に横線が引かれるだろうし、橘は日本の性なので先に来るのが自然だ。

 ただ、今代の雷の見た目は日本人ではないようにも見えたので、橘の方が個人名でアレックスがミドルネームと言う可能性も考えたが、それなら最後を消すのはおかしい気がする。

 まあ、どちらにしろ特に重要な話ではないので、同郷と仮定して橘アレックスとして考えた方が覚えやすいだろう。


 ディンドランさんたちは、そんな俺の疑問に気が付かなかったようで、どちらが個人名かを聞いた後は名前に関して興味を失ったようだ。ちなみに、俺の名前に関しては俺自身が覚えていないということを皆知っているので、話題にすらならなかった。


「それじゃあ、そろそろばあさんのところに行こうか? おっさんたちも戻ってきたみたいだし、これ以上ここに居ると情報を得ようと絡まれるかもしれないからね」


 と言って部屋を出ると、丁度階段を上ってきていたおっさんとギルド長と鉢合わせてしまった。

 俺たちはこれからばあさんの店に向かうと言うと、ギルド長は俺から話を聞きたがっている様子だったが引き留めることはせずに、代わりにおっさんが別の隠れ家で得た情報はどうするのかと聞いてきたので、そちらは全て渡すと言っておいた。その代わり、俺が担当したところで見つけた武器は貰っていくというと、ギルド長が少し眉をひそめたものの俺が正直に話すことは無いだろうと理解していたのか、何も言わずにそのまま俺たちを見送った。


 そして、ばあさんの店に向かっている途中で、


「ジークさん!」


 同じく店に向かっていたクレアたちと遭遇した。


「まだばあさんに話していないから、もう少し遅くてもよかったんだぞ?」


 少し来るのが早いように感じたのでそう言ってみたが、クレアは楽しみで我慢できなかったと笑っていた。その後ろでは、クーゲルとフレイヤが疲れたような顔をしている。


 来てしまったものは仕方がないので、そのままクレアたちを連れてばあさんの店に行くと、


「まだ準備は終わってないよ。それに、客を連れてくるのなら先に連絡くらいしな!」


 と怒られてしまった。

 ただ、口ぶりからクレアの参加は認めたようなので、俺たちは準備が終わるまで部屋の隅で待つことになった。


「ちょっとジーク、こっちにおいで。嬢ちゃんたちは、もう少し待ってな」


 しばらくして、そろそろ準備が終わる頃だろうと言うところでばあさんが俺を呼んだ。その声につられて、クレアも反射的に立ち上がっていたが、ばあさんはクレアにまだ待っているように言って、俺だけを手招きしていた。しかし、


「そっちのお姉ちゃんも、待っていてもらいたいね」


 クレアと入れ替わるようにディンドランさんが俺の後に続こうとして、ばあさんに止められた。


「そういうわけにはいかないわ。我が主から、男爵を女性と二人っきりにするなと命じられていますから」


 止めるばあさんに対し、ディンドランさんはカラードさんの命令ということを強調し、絶対にひかないという構えを見せたことで、ばあさんは諦めてディンドランさんが付いてくることを認めた。ただ、


「私を女性というには、少し旬が過ぎているように思えるけどね。まあ、そこら辺りは、ジークの好み次第だね」


 などと言い、それに対してディンドランさんは、


「ジークは年の割に枯れているところがありますが、全く興味がないというわけではないみたいですからね。あなたでなくとも、あなたが店の女性をあてがわないとは限りませんから」


 と返していた。

 それを聞いたばあさんは大笑いし、二人の話に聞き耳を立てていた奴らも笑っていたが……そんなのは、俺のいないところでやってほしい。


 そのまま俺とディンドランさんは、ばあさんに近くの個室に連れていかれ、用意されていた席に着くなり、


「ジュリのことだけどね。私や幹部連中で締め上げてみたが、今回の事件に関わっていなかったよ。なんでも、ジュリの男が仕事でへまをしてこの街に居られなくなり、すぐに出て行かないと危ないかもしれないと言われ、一緒に逃げようとしていただけとのことだよ。ただ、だからと言って完全に無罪とするわけにはいかないから、共犯と思われても仕方のない行動をしたジュリには罰として半月の謹慎と一か月の減給処分を言い渡した。それでいいかい?」


「構わない。そちらに任せたのだから、それが妥当な罰だったんだろう」


 まあ、犯人の恋人で行動を共にしようとしていたというだけなら、その辺りが妥当かもしれない。もっとも、本当にそれだけだったとしたらの話だが。

 ばあさんもそれが分かっているからか俺の返答は意外だったらしく、少し驚いたような表情を見せていたが、すぐに呆れたような顔になっていた。


「その様子だと、最初からジークはジュリの罰に関してはどうなろうと興味がなかったみたいだね?」

「まあ、ロウに罰を与えた時点で、けん制という意味では目的は達していたからな。それに、巻き込まれただけという立場になっている女に対し、他国のとはいえ貴族の権力を振りかざして罰を与えたとなれば、俺への風当たりが強くなってしまうからな。下手をすると、バルムンク王国に有利な状況がひっくり返るかもしれない」


 被害にあった貴族が犯人を罰するのは当然ともいえる権利ではあるが、やり過ぎれば世間の反感を買ってしまう。これが自国内であれば、世間を黙らせる方法もあるだろうが、他国では権力の使い過ぎは逆効果になってしまうだろう。

 犯人かもしれない相手でも、処分方法の全権を他人に任せたのならば、例えその結果が納得がいかないものだったとしても、文句を言うのは筋が通らないだろう。そもそもばあさんの指摘通り、女の処分に関してはそこまで興味がなかったので、無罪だろうが死刑だろうが構わなかったのだ。

 しかし、


「ただ、俺の情報を売ろうとしていた奴に関しては、その限りではないからな。俺としても、それなりに重い処分を与えてくれないと、対外的に納得する姿を見せることは出来ないぞ」


「分かっているよ。そっちはあと少しで結果が出るさ。一応今日休んでいた奴らにも話が行くようにしたから、明日明後日には結果が出るだろうね」


 それがどういったものになるのかは分からないが、ばあさんがそう言うのなら疑う必要はないだろう。何せ、


「商売人は、信用第一というからな」

「そうだね。特に、絶対に敵に回したくない相手に対してはね」


 だからだ。俺も、今後もこの街に関わっていくつもりなら、ばあさんは敵に回すべき相手ではないと理解している。

 ただ、ギルド長に関しては……最悪敵に回してしまったとしても、ばあさんと違って代わりになる人物がいるし、それらが居なくなったとしても別のところから来るだけなので、ばあさん程重要ではないというのが現状だ。


 話が終わったようなので、さっきのところに戻ろうかと腰を浮かせかけた時、


「ベラドンナさんだったわね。少し聞きたいことがあるのだけども……ジークがここで世話になっている時に、男女の関係になった人は居るのかしら?」


 おもむろにディンドランさんがそんなことを言い出した。


「いや、私の知る限りでは、ジークとそんな関係になった娘は居ないはずだね。まあ、スタッツに来る前はどうだったかは知らないし、そもそもジークの相手が女だと決まったわけじゃないからね。女関係なら自然と耳に入ってくるだろうが、同性が相手なら知らないということもあり得るよ」


 それに対し、ばあさんは笑いながらそう答えた。


「ジーク、どうなの? そう言った関係があった子はこれまでにいた? それとも、あなたは男の方が好きな人?」


 ばあさんに聞いても分からないのならと、ディンドランさんは直接俺に聞いてきたが、


「そんな相手は居ないし、これまでにもいなかったよ。それと、俺は女の方が好きな男だ」


「そう」


 そう返すと、ディンドランさんは少し安心したような顔をしながらも、どこか残念そうな雰囲気を漂わせながら頷いていた。

 まあ、少し変な言い方になってしまったが、最低限伝えたいことは理解してもらえたのだろう。


「それにしても、あんたはジークの女性遍歴になぜそこまでこだわるんだい? もしかして、ジークを狙っているとか?」


「は? いや、全然、これっぽっちも」


 ばあさんがからかうように言った言葉に対し、ディンドランさんは呆れたような顔をしながら即座に否定した。

 このディンドランさんの返答には、本気で言ったわけではないだろうが、ばあさんはそんな風に返されるとは思っていなかったようで驚いた顔をしていたし、とばっちりで俺の心に大きなダメージを与えていた。


「もし仮に、ジークと肉体関係のあった女性が居たとすれば、その時に出来た子だと言ってくる女性の出現も考えられます。そうなると色々な問題が出てくることは確実なので、早いうちにそういったことに対する対策を話し合う必要がありますので」


 などと、ディンドランさんはばあさんに説明していた。

 まあ確かに、貴族になる前に出来たとはいえ、俺の子供だとしたら男爵家の継承権が発生するし、同時にヴァレンシュタイン子爵家の後継者にもなってしまうのだ。

 ヴァレンシュタイン子爵家の騎士員であるディンドランさんにとっては見過ごせない話だろう……あくまでも、俺にそう言った相手が居た場合の話になるが。


「なるほどね。確かにそれは大問題だ。まあ、安心しな……とは確実に言えないが、スタッツに来てからのジークには女っ気は無かったとは言わないが、少なくともそんな関係になった子は居ないはずだよ。何せ、うちの子の方からなんやかんやと理由を付けてお近づきなろうとしていたのに、それら全てを拒否した男だからね。スタッツでジークに一番近かった女性と言えば、私かモニカじゃないかね」


 ばあさんは、そう言ってディンドランさんに説明したところ、


「その、モニカというのはどんな女性でしょうか? 本当に安全ですか?」


 新たな疑念を抱かせるという結果に終わったのだった。

 まあ、その後すぐにやってきたモニカさんを見て、ディンドランさんは会ったことがあるのを思い出して安心していたみたいだが、俺に近づいてこようとしていた店の女の子たちにはケイトとキャスカにも事情を話して警戒していた。



「まあ、色々あったけど、とりあえずジークの歓迎会を始めようかね。ただまあ、諸々の事情から歓迎会兼送別会になってしまったけれど、特に気にしないように!」


 という、ばあさんの音頭で宴会が開始されることになった。

 ただまあ……俺の歓迎会兼送別会という割には、俺の周りにはディンドランさんたちのせいで誰も近づけない雰囲気が漂っていたが……特に気にした様子の人はいなかった。何故なら、


「こいつは贅沢だな。普段こちらではあまり手に入らない海産物に、店自慢の料理の数々、おまけにドラゴンの肉まで置いてあるとは!」

「今日を逃したら次はいつありつけるか分からないから、食いだめしないといけないね!」

「寄り道しないで帰ってきてよかったな……もしもあの時、あの村で一泊することを選んでいたら、こんなごちそうにはありつけなかった」


 俺が提供したりばあさんが伝手を使って集めた食材を、店自慢の料理人たちが腕を存分に振るった料理が会場のいたるところに並べられていたからだ。

 ちなみに、本来ならここに居るはずのない奴らが三人程いるが、この三人に関しては特別にと言った感じで参加が許可されたのだ。

 一応の理由としては、ギルドの不手際の謝罪という形で、俺と比較的親しいおっさんとチーがやってきたのだが、宴会があると知り半ば強引に参加。フリックは二人や冒険者ギルドとは関係なしに、たまたま依頼から戻ってきてギルドに戻っている最中に俺が来ていると聞いたらしく、わざわざ途中であいさつに来たのを俺が誘ったのだ。まあ、フリックを誘ったのは、その前におっさんたちが来ていたので二人のお目付け役になってくれたらという淡い期待もあってのことだが……あの様子では、あまり期待は出来ないかもしれない。


「あっ! ジーク! 楽しませてもらっているわよ!」


 少し残念な気持ちでフリックを見ていたら、その近くにいたチーと目が合い声をかけられた。

 チーはそのまま俺のところへとやってきたが、ディンドランさんたちに……止められることなく俺に近づき、感謝の気持ちを表しているのか俺の肩を何度かバンバンと叩いてから、またフリックたちの近くへと戻っていった。


 それまで店の女の子たちを近づけさせようとしなかったディンドランさんたちが、何故チーは素通りさせたのか気になり視線を送ると、


「あれは……大丈夫そうね」

「ジークの好みからは外れていそう」

「あれと聖女とそのお付きは、女性として見ていなさそうね。まあ、聖女は年齢も近いみたいだし、何かの拍子に互いの気持ちに変化が現れるかもしれないから、要注意としておけばいいでしょう。ケイト、キャスカ、あれとここの女主人とスラムのシスター以外を警戒するように」


 などという作戦会議をしていた。

 まあ、チーやばあさんにモニカさんは、俺の中では恋愛感情を向ける相手からは外れているし、クレアは何故か知らないが未だに苦手だし、フレイヤは今でこそ最初の頃のような敵対意識を向けてこないのでましになったものの、その時のことがあるのでチーたちと同じように範囲外だ。

 もっとも、範囲外と言う意味では店の女の子たちも俺の中では同じ部類なので、ディンドランさんたちが危惧しているようなことは起こらないと思う。


「ディンドランさん、あまり警戒し過ぎると料理が無くなるよ。羽目を外せとは言わないけれど、もう少し気を抜かないと疲れるだけだよ。明日から王都に戻るまでは、今日みたいな料理にありつける機会は少ないはずだし」


 そう言うと、三人は顔を見合わせて少し話し合い、最終的には交代で料理を楽しむことにしたようだ。ただ、


「かといって、お酒はほどほどにね。俺も王都に戻って、カラードさんたちに怒られるディンドランさんは見たくないからね」


 と、酒に関しての注意は忘れずにやっておいた。

 ディンドランさんは、自分だけが名指しで注意されたことに不満があるようだが、この三人の中で一番の酒好きで、気が付かないうちに飲み過ぎてしまう可能性が一番高いのがディンドランさんなのはヴァレンシュタイン騎士団の関係者ならだれもが知っている共通認識なので、俺だけでなくケイトとキャスカにも注意されてしまっては頷くしかなかった。しかし、


「それなら、あの二人はどうするのかしら?」


 八つ当たりというわけではないが、ディンドランさんはお店の女の子たちにお酒を勧められて飲んでいたロッドとマルクを指さした。


「あの二人は……帰ってから報告だね。ただまあ、まだ飲み過ぎと言うところまで行っていないし、もしかすると情報収集している可能性も僅かにあるから、それを確認するまでは泳がせておくよ」


 というと、ディンドランさんだけでなくケイトとキャスカも意地の悪そうな笑みを浮かべて、新たに酒を注いでもらっている二人を見ていた。

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