第六話
「そういえば居たな、こんな奴」
「いや、ジークが連れてくるように言ったんでしょ?」
そう言えばそうだったと思いながら俺は咳払いをして、
「ギルド長、こいつを使って情報を引き出してくれ」
「了解しました。バルトロ」
「おう!」
多分、あの二人ならこういったことにも慣れていると思うので、下手に手伝うよりも全て任せた方がいいだろう。
「殴って話すくらいだったら、私でも出来るんだけど……ああいう仕事は、副団長みたいに性格が悪くないと出来ないのよね」
などと、何故かディンドランさんは悔しそうに言っているが、変に相槌でも打ってしまうと何かあった時にランスローさんに睨まれてしまうので、聞かなかったことにしよう。
それからしばらくしておっさんが戻ってきたが、
「くそっ! 全然しゃべらねぇ!」
などとかなりいら立っていた。まあ、あと少しで日が暮れ始めるので無理もない。辺りが暗く成れば、恐らくあの兵士たちは闇に紛れて姿をくらますだろう。
顔を見た俺たちならスタッツの出入り口に張り付いていれば見分けがつく可能性があるが、人数の関係上全ての出入り口に張り付くことは無理だしそもそもの話、あいつらが出入り口から逃げるという確証もない。
「おっさん、どこまでどこまでやった?」
「あ、ああ、指の骨を折るまでだ」
次は足の指か手の指を切り落とそうかと考えているそうだが、やり過ぎて死なせてしまっては意味がないし、かといって今の状況で時間をかけすぎるのはまずいのでどうするかと言ったところらしい。
「それなら俺がやってみるか……おっさん、案内してくれ」
俺ならもしかすると早く情報を引き出せるかもしれないと思い部屋に案内させようとすると、
「私も行くわよ」
ディンドランさんが付いてくると言った。さらに、
「私も行きます!」
「それは駄目だ」
何故かクレアも当然のように後に続こうとしたが、流石にクレアを拷問に関わらせるわけにはいかないので断ると、クーゲルとフレイヤが急いでクレアを回収していった。
クレアがまたわがままを言わないうちに移動して部屋の前に立つと、
「おっさん、ギルド長以外を部屋から出してくれ。それと、なるべくなら部屋に近づかせないようにな」
本当なら俺以外は出て行ってもらいたいが、ディンドランさんは職務上そういうわけにはいかないし、ギルド長とおっさんも俺が勝手なことをしないように見張っておかなければならないだろう。
「分かった。入るぞ」
部屋にはおっさんが先に入り、ギルド長に説明して他の奴らを外に出していた。
「いいぞ。入ってくれ」
おっさんの合図で部屋に入ると、正面に椅子に座った状態で縛られている男がいた。
俺はその男に静かに近づいて、
「よう」
「ぐっ!」
声をかけると同時にナイフを足の甲に突き刺し、痛みで驚く男の頭を両手でつかんで、
「『テラー』」
至近距離から直接強めのテラーを浴びせた。
「あっ! あ! あぁ……」
男は至近距離からのテラーに耐え切れず、口から泡を吹いて意識を飛ばしそうになっていたが、
「まだだぞ」
今度は弱めのテラーを食らわせて、強制的に意識を覚醒させた。
そしてそれをもう一度繰り返そうとしたところで、
「ジーク、それ以上やると情報を引き出す前に廃人になるかもしれないわ」
少し顔色の悪いディンドランさんに止められてしまったのだった。
そこにすかさず、
「おい、さっさとお前らが使っている隠れ家の場所を吐け」
今にも吐き出しそうなおっさんが男の髪を掴んで尋問を再開していた。
その結果すぐに、
「隠れ家は合計四か所。逃げた奴らがどこに隠れているかは不明だが、同時に襲撃して捕縛か仕留めるしかない」
奴らが潜伏している可能性の高い場所の情報を手に入れることが出来た。
「どこも比較的スタッツの外側にある場所だ。すぐに動かないと奴らは日暮れと同時に行動を起こすはずだ!」
おっさんは焦った様子で指示を出すが、ギルド内で信用できる冒険者が少ない上に、向こうは少数とはいえそれなりの実力を持った者たちの集まりで、もし正規の兵士なら連携は冒険者たちよりも上だろう。
そんな状態で作戦を成功させるには、少々どころかかなり分が悪い。まあ、冒険者ギルドだけで事に当たればの話だが。
「おっさん、このスラムの隠れ家は俺が受け持とう。スラムなら俺の顔を知っている奴らが居るし、モニカさんの協力を得ることも可能だ。おっさんたちがやるよりも成功の可能性は高い」
「確かにそうだな。なら、そこは頼んでいいか?」
まあ、可能性が高いどころか、俺だけでも確実に成功するだろう。
「なら、後は三か所だが……」
それでもまだ数は足りない。なので、
「もう一か所は、ディンドランに担当させる。ディンドラン、ケイトとキャスカを連れて、好きなところに向かえ!」
「はっ! 了解いたしました!」
俺たちだけで勝手に決めたが、実際問題おっさんたちには戦力が足りないし、今回の事件の中心は俺だ。さらには他国の貴族でもありし緊急事態でもあるので、おっさん……と言うか、ギルド長は俺の決定に従うしかない。
「それじゃあ、行くぞ」
早速その隠れ家に向かおうとしたが、
「待ちなさい、ジーク。マルクを連れて行きなさい。単独行動は許さないわ」
ディンドランさんに、お目付け役としてマルクを付けるようにと言われてしまった。まあ、ディンドランさんの立場では、俺一人でも楽勝だとしても許すことは出来ないのだろう。
移動速度は落ちるが、それで時間切れになると言うほどでもないので了承し、すぐにマルクに命令を出して連れて出ることになった。
そして、
「ジー……男爵、本当にいます。ここにいるって分かっていたんですね」
捕虜から得た情報通りにスラムの隠れ家へと向かうと、そこに奴の仲間が隠れているのが確認できた。
奴らはかなり警戒しているらしく、外に交代で見張りを立てているものの慣れているという程ではないみたいで、あれでは誰かから隠れていますと言っているようなものだ。
「まあ、やましい奴らが隠れるとすれば人目に付きにくいところか、怪しい奴がいても大して目立たないところだろうからな。それに、ここなら正規ではない入り口の一つや二つ作っても誤魔化すことは可能だろうしな」
もし仮にモニカさんと知り合いでなかったとしても、俺はここを真っ先に選んでいただろう。ただ、おっさんもここが一番怪しいと思っていたはずだから、冒険者ギルドの手柄を奪ったとも言えるが、他の隠れ家にも何かしらの情報が残されている可能性があるので、完全に空振りということにはならない……はずだ。
「それじゃあ、行くぞ! ……と言いたいところだが、まずは俺一人で行ってくる。マルクは少し時間をおいてから来てくれ」
「どれくらいの時間ですか?」
「そうだな……お茶を一杯飲むくらいかな?」
「了解しました」
こういったところはディンドランさんと違い、マルクは柔軟に対処してくれるのでありがたい。まあ、基本的にヴァレンシュタインの男性騎士は放任主義と言った感じのところがあるので楽ではある。
マルクの返事を聞いてから俺は気配と足音を殺して建物の中に入り、早々に陰に潜った。
俺を襲った奴らが隠れ家にしているのは、集合住宅のような建物の二階の隅の部屋だ。ただ、集合住宅と言っても、建物はかなり古くて屋根や壁が壊れているところもあるので、ここに住んでいるのはファブールの兵士たちだけだ。
それに、ここに来る前にモニカさんに話を通しているので、最悪この建物を壊したとしても混乱はすぐに収まるはずだ。
まあ、壊すまでもないとは思うが。
(とりあえず、今代の雷は居ないみたいだな)
やはり情報通り今代の雷はスタッツから出て行ったみたいだ。それだけで作戦は成功したようなものだ。
そのまま影の中を進み、時折顔だけ出して男たちと障害物の位置を確かめて、
「一丁上がり」
シャドウ・ストリングで全員を縛り上げた。
男たちは何が起こったのか理解できていないようだったが、すぐに敵に捕縛されたと気が付いたようで舌を噛み切ろうとしたが……こちらも口に糸を巻き付けて阻止した。ただ、致命傷では無いものの舌から血を流している奴は居たので、回復魔法で治療をしてそう簡単に死ねないことを理解させた。
「男爵、もういいですかい?」
男たちの動きを封じたところでマルクがひょっこりと顔を出し、四人の男を見て口笛を吹いていた。
「それじゃあ、他の奴らが来る前に軽く調べておくか。マルクはこいつらの持ち物を調べてくれ。俺は何か面白そうなものがないか調べてみる」
「了解」
すぐにおっさんたちはここに来るだろうと思い、その前に有益な情報を集めようと、マルクと手分けして調べようとした時、
「うおっ! もう来たのか! 早過ぎじゃないか?」
建物の入り口が乱暴に開かれる音がして、こちらに向かってくる足音が聞こえた。
それに対してマルクは驚いて調べていた男を床に放り投げてしまっていたが、
「ディンドランさんだろう」
俺はすぐに駆け付けてくる人の正体に気が付いたので、警戒して剣を抜こうとしていたマルクに教えてあげた。
「ジーク、やっぱりここが正解だったのね⁉」
ディンドランさんは俺がここに隠れていると分かっていたから選んだのだと確信していたようで、空振りだった担当場所の調査はケイトとキャスカに任せ、こちらに急いできたとのことだった。
説明を終えたディンドランさんは床に転がっている男たちの顔を確認し、「確かにあの場に居た連中ね」と言うと、持ち上げていた男を乱暴にマルクの方へと投げ渡していた……が、当のマルクは男を完全に受け止めることが出来ず、危険だと判断したのかすぐに男を床へと受け流していた。
「ディンドランさん、ギルドの連中が来る前に調べれるだけ調べておこう。今のところギルドは俺たちに協力しているけど、どこまで信用していいか分からないからね」
「そうね。ないとは思うけど、ギルドの上の方が今回の事件に関係していた時、証拠を消す恐れがあるわね」
ディンドランさんもその危険性に気が付いていたようで、ケイトとキャスカを置いてきたのもそれが関係しているそうだ。
それから三人で男たちと部屋の中を調べてみたものの、こいつらはかなり用心深かったらしく、かろうじてファブールの出身ではないかと分かる程度のものしか見つけることが出来なかった。
「これはケイトとキャスカに期待……というところね。まあ、望み薄だろうけど」
ディンドランさんは、担当していたところに置いてきた二人も同じようなものだろうと諦めて撤収の準備を始め、マルクも同様に調査を止めて男たちを普通の縄で縛りなおしているが、俺だけは調査……と言うか、興味が惹かれるものがあったのでそちらを個人的に調べていたのだ。
「ジーク、さっきからその剣ばかり調べているけど、何かあるの?」
「いや、何かあるというわけじゃないけど、この辺りだと珍しい造りだからね」
「片刃で細身の剣だと、すぐに折れそうであまり実践向きには見えないけど、確かに珍しいわね」
そりゃ、ディンドランさんの怪力だと、切れ味よりも頑丈さだろう……と思っても口には出さずに、俺は部屋の片隅に立てかけてあった刀のような剣をいじって遊んでいた。
一応、知識としては刀のことは知っているが、実際に触ったことなどないのでこれが本当に俺の知っている刀と言えるものなのかは分からないものの、切れ味に関しては俺がこの世界で見てきた剣の中でも上位に来ると言ってもいい。
「貰っておくか」
俺の戦い方だともう少し刀身が短い方が合っていると思うが、今回の数少ない戦利品と言うことで記念に貰っていくことにした。
それに前世の戦国時代でも、長い刀を短く研ぎあげて使用したという話があったはずなので、場合によってはボルスさんに相談してもいいかもしれない。
刀をマジックボックスに入れて、他にもよさそうな武器がないか物色していると、
「ジークって、武器の収集が好きよね。たまに手当たり次第に買い集めていたりするし」
ディンドランさんが不思議そうな顔をしながら、武器の物色に加わってきた。しかも、俺が手を伸ばしていたものを横からかっさらい、よさそうだからと自分のものにしようとしている。
「横取りはよくないよ。もしこれがガウェインだったら、股間を蹴り上げてからカラードさんに言いつけているところだよ」
「団長なら多分避けるでしょうから、そこはフェイントをかけてから二発目で決めないと。それに、これはジークの好みに合わないでしょ?」
そう言って俺に見せてきたのは刃が厚くかなりの重量がある剣で、確かに俺なら一応確保はするだろうが、ほとんど使用しないだろうなと言った感じのものだった。
「まあ、確かにそうだけど、それでも一応声をかけてからにしてよね。好みでないだけで、確保はしただろうからさ」
そう文句を言うと、ディンドランさんは「武器は使ってこそのものよ」と言って笑っていた。
「それで話が戻るけど、ジークはそんなに武器を集めてどうするの? ジークにはアルゴノーツがあるし、何よりもダインスレイヴがあるから、武器には困らないでしょ?」
さらに武器を物色しながら、ディンドランさんはそんな疑問をぶつけてくるが、俺としてはそれが問題でもあるのだ。
「アルゴノーツはいい武器過ぎて、使い捨てにできないからね。ダインスレイヴも、俺の手から離れればいつまでも形が残るものじゃないから、投擲には向かないんだよ。それに俺の場合、マジックボックスで武器を大量に運べるし、いつでもすぐに取り出せるから、足りなくなるよりは余るくらいの方がいいんだよ。そして、万が一の場合は売ることも出来るしね」
今は個人では余るくらいの金を持っているが、放浪していたころは金欠で悩んだこともあるのだ。しかも、金を持っているからと言って、その国で額面通りの価値として使えるとは限らないし、田舎では金よりも物々交換の方が交渉が上手くいくことも多々ある。
そう言った事情から、武器の収集は俺の癖のようなものになってしまっているのだ……それだけ聞くと、光物を集めるカラスのようだな。
「ふ~ん……まあ、ちゃんとした理由があって少しほっとしたわ。これがもし、夜な夜な武器を取り出して眺めて悦に浸るのが趣味だとか言い出したら、本気で心配するところだったわね」
俺の話を聞いたディンドランさんは、そんな失礼なことを言っていたが……酒を浴びるほど飲んで二日酔いになるのが趣味だとか言いだしそうなくらいの酒飲みに言われたくはない。
などと考えていたら、
「ジーク」
急にディンドランさんになまえを呼ばれたので、考えていたことがバレてしまったのかと思い心臓が高鳴ったが、
「ここに何かが文字が書かれた紙が入っていたけれど、これは何なのかしら?」
ディンドランさんにバレてしまったというわけではなかったようで、俺は安堵のため息をついたのだった。
「どれ?」
「これよ」
平静を装って、ディンドランさんに読めない文字が書かれているという紙を受け取り、それに目を通したところで、
「ディンドランさん、後で理由は話すから、これは秘密にね」
「分かったわ」
「ジーク! やっぱりここだったか!」
おっさんが息を切らせながら隠れ家へと飛び込んできた。
俺は少し前からおっさんの接近に気が付いていたので、ディンドランさんから受け取った紙をマジックボックスに入れ、その存在を秘密にするように言っておっさんを迎え入れた。
その後、おっさんは俺たちが何か情報を得たのではないかと疑っていたが、紙のことは話さずにこの部屋にあったものを並べ、その中で俺とディンドランさん、そしてマルクが選んだ武器以外を冒険者ギルドに引き渡すことで話をつけたのだった。
そしてその後、置いて行かれたケイトとキャスカと合流した際、マルクだけが武器を選んだことを知られてしまい二人の不満が爆発し、二人をなだめる為に俺とディンドランさんの選んだ武器の中から二本渡すことが決まった。
しかし、
「何で二人は、俺の選んだやつから持っていくかな……まあ、当然と言えば当然なんだけど」
二人共、俺が確保していた武器の中から選んで持って行ったのだった。ただまあ、何となくそうなるだろうとは予測していたけれど。何せ、
「流石にディンドランのような馬鹿力は無いからね」
「そうね。私たちの細腕じゃ、あんな重い武器を振り回すのは無理よね」
ディンドランさんは自分好みの重量のある武器ばかり選んでいたので、基本的に常人用の武器しか扱わない二人は、必然的に俺の選んだものの中から選ぶしかなかったのだ。
なお、そんな俺たちの言葉と態度が気に食わなかったのか、ディンドランさんは不機嫌な状態となり、後からやってきた冒険者たちを怖がらせていた。
「あっ! ようやく戻ってきました! ジークさん、早くお店に行きましょう! お腹が減ってきました!」
隠れ家の調査はおっさんたちに任せ、俺たちは一足早く冒険者ギルドに戻ってきたが……何故かまだ待ってきたクレアに、早くばあさんの店に連れて行けとせがまれた。
「いきなり数が増えたらばあさんたちに迷惑がかかるから、また今度な」
連れて行くのが面倒だったので、そう言ってはぐらかそうとしたのだが……クレアは俺の腕を力強く握り、
「怪我、治してあげましたよね? ジークさんとお姉さんとワンちゃんの」
そんなことを言いながら俺を見つめてきた。
「わ、分かった。俺からばあさんに頼もう。材料はまだあるから、何とかなるはずだ」
「はい! ありがとうございます!」
流石にそれを言われると断ることが出来ないので、俺は腕の痛みに耐えながらクレアと約束した。
そんな様子を、ディンドランさんは頷きながら見ている。まあ、ディンドランさんも同じように腕を掴まれていたから、俺の痛みが分かるのだろう。
「でも、まだ準備が出来ていないだろうから、もう少ししてから店の方に来てくれ。クレアが来るまでにはばあさんに言って、追加を用意してもらっておくから」
その言葉を聞いたクレアは、「楽しみです!」と言ってクーゲルたちのところへスキップで移動していた。
「ディンドランさん、俺たちもばあさんの店に行こうか。その前に、上であれについて話しておきたい……っと! クレア!」
「はい? 何ですか?」
クレアに聞きたいことがあったのを思い出したので呼んでみると、丁度クレアは上機嫌でフレイヤに抱き着いているところだった。
「ちょっと聞きたいことがあってな……今代の雷はアレックスと名乗っていたらしいが、家名みたいなものはなかったのか?」
フレイヤを放して近づいてきたクレアに、俺は今代の雷の名前について聞くと、
「え~っと、確か……珍しい名前で……タチバカ? タチアナ? とか言っていた気がします」
クレアは名前を聞いた時のことを思い出しながらそう言ったが、いまいち自信がないようだ。
「家名があるということは、貴族かそれなりに歴史のある家の出身なのかな?」
俺は続けて、今代の雷が前に居た世界のことを何も知らない体で聞いてみたのだが、
「あっ! それは違うって言ってましたよ。確か、『テンプレ来た! いいか、俺の居たところではほぼ全ての奴が名前を持っていて、逆に持っていないのは、例外中の例外と言えるお方だけだったんだ!』とか、何故か興奮しながら言っていたので、よく覚えています!」
そこに関しては、今代の雷の様子がいきなり変わったので覚えていたとのことらしい。
「そうか。そんな国があるんだな。まあ、バルムンク王国も、割と家名を持っている平民も多い国だから、今代の雷の国は似たようなところだったのかもな」
と言って笑い。俺はディンドランさんたちと帰りの打ち合わせがあるからと言って、ギルド長に用意させた部屋に移動した。
「ジーク、さっきの質問に、何の意味があったの?」
移動中に聞いてきたディンドランさんに俺はもう少し待つように言って、周囲に誰も居ないことを確かめてから部屋の中に入った。すると、
「誰か、助けてくれ……」
「わう」
気を失っていたロッドが目を覚ましていたのだが、その腹の上にベラスが座っているせいで身動きが取れず、入ってきた俺たちに助けを求めてきたのだった。