第四話
黒のジークの投稿を始めて、今回で百話目となります。
今後もよろしくお願いします。
「とにかく、すぐにでも今代の雷の反撃に備えないと……」
出来るなら、今代の雷の行方を……と言おうとして逃げた方向へ視線を向けたところ、俺は眩暈で倒れそうになってしまったが、すぐにディンドランさんが支えてくれたおかげで怪我をすることは無かった。
「ジーク、傷は治っても失った血は時間がかかるわ。今代の雷のことは心配だけど、今は体を休めましょう」
ディンドランさんもダメージはかなり酷かったようだが、回復魔法で治る傷だったので今では俺よりも元気になっている。
「それに、ロッドもまだ意識が戻っていないみたいだし……どこか安全なところは……」
今代の雷が相手なら、この街に安全なところなど存在しないが、それでも休めるところがないかと考えているディンドランさんに俺は、
「それなら、冒険者ギルドがいい。あそこなら、建物の造りがかなり頑丈だし、それなりの戦力も揃っている。まあ、敵対者が居なければだけど……多分、ギルド長はまだ中立で居たいはずだ。だから、こちら側に引き込む」
今代の雷を案内していたのは間違いなくスタッツ所属の冒険者だったのでその報告と、所属している者がバルムンク王国の貴族への襲撃に関わったことに対してどう責任を取るのかを問うつもりだ。
「大丈夫なの?」
「もし今回の件をそのままウーゼルさんに報告したら、まず間違いなく国として正式に抗議するだろう。そうなればギルド長はトーワの中央から問い詰められるし、責任を取らされることになる。外部の介入を嫌うギルド長はそれを避ける為に俺に全面協力して、今回の件にスタッツの冒険者ギルドは全く関与していないという証言をしてもらいたいはずだ」
それに俺としても、ギルド長のような肩書を持つ人物に、今代の雷が俺を暗殺しようと襲い掛かってきたと証言してもらいたいのだ。そういった意味でも、冒険者ギルドが避難先としては最適だ。
それに、戦力になりそうなおっさんもいるし、ギルド長子飼いの冒険者も使えそうだし。
そう言うわけで、俺たちは証拠となる兵士の死体を回収して冒険者ギルドへと移動することになったが……今代の雷が暴れたせいで周辺に使える馬車が見つからず、俺はディンドランさんに背負われて移動する羽目になってしまった。
かなり恥ずかしかったが……まあ、そんなことを言っている暇はないし、背負われて移動した方がより緊急事態だと分かりやすそうなので我慢するしかない……と思うことにした。
ちなみに、気を失って動けないロッドはマイクが背負い、まだ走るまで回復していないべラスはクレアに抱きかかえられ、貴重な犯人の生き残りに至っては、ケイトとキャスカに上半身を掴まれて引きずられることになった。
ケイトとキャスカは、時折わざと落としたり物にぶつけたりしていたが、こちらにはクレアが居るので死なない限りは何とかなるので気が付かなかったふりをした。
「おいジーク! いったい何があった⁉」
冒険者ギルドのドアを蹴破る勢いでディンドランさんが開けると、中ではおっさんを含めた数人の冒険者が戦闘態勢で俺たちを待ち構えていた。
そのせいでディンドランさんが俺を背負ったまま剣を抜いたが、
「お前ら、武器を収めろ! まずは何があったか聞き出すんだ!」
おっさんがすぐに周りを止めた。
これだけ冒険者たちが警戒していたということは、俺たちと今代の雷の戦闘の音が聞こえたか、誰かが報告していたからだろう。
「その前に、茶色の短髪で中肉中背の二十歳前後の冒険者は戻ってきているか?」
「は?」
流石にそれだけではおっさんも分からないようなので、出来る限り詳しい容姿を教えると、
「いや、そいつは朝に出て行ったきりで見てないな。お前らは?」
おっさんも俺の言っている奴が分かったらしく、周りの冒険者にも聞いていたが知らないという答えしか出てこなかった。
「あいつがどうかしたのか?」
何が重大な理由があると理解したおっさんが警戒しながら聞いてきたので、
「そいつが今代の雷を手引きして、俺を殺そうとしてきた。まあ正確には、俺の暗殺を企んでいた今代の雷を連れてきた……だけどな」
意味合いがかなり違ってしまうが、貴族の暗殺に関わった以上は些細な違いだ。それに、あいつが今代の雷を俺の前に連れてきて、間違いなく本人だと今代の雷に教えたのだから、暗殺犯の一味であることに違いはない。
「それはマジ……なんだな?」
おっさんは一瞬信じられないと言った感じだったが、ディンドランさんの殺気に気付いて本当だと理解したらしく、他の冒険者たちも絶句していた。
「それで、ジークがギルドに来た理由は……」
「冒険者ギルドの失態について、どう責任を取るのか? ……と言うことで間違いないな?」
重い雰囲気の中、ようやくおっさんが口を開いたと思ったら、その問いかけを上から様子を窺っていたギルド長が遮るように口を挟んできた。
「ああ、そうだ。それで、どう責任を取るつもりだ?」
俺が睨みつけると、ギルド長は階段を下りて俺の前に出てくると、
「この度は我がギルド所属の冒険者がご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした。信じてもらえるかは分かりませんが、この件に関してギルドは……ほとんどの冒険者、およびギルド職員は関わっておりません」
と、すぐに頭を下げて謝罪した。その上で、
「しかし、ヴァレンシュタイン男爵暗殺に所属員が関与したことは明白です。現在、我がギルド内で暗殺に関わっていない者たちが今代の雷と今代の雷を手引きした冒険者の行方を追っています。それと並行して、他に関与している者が居ないか調査しておりますので少々お待ちください」
そんなことを言ってきた。動くのがかなり早いが、上で話を盗み聞きしている最中にこのことを想定して指示を出したのだろう。実際に少し前に、数名の気配が建物から飛び出していったを感じていた。
ここまでは俺の想定通りだが、その後のこと……手引きした者を発見し、もし他に暗殺に関与した者が居た場合の処罰をどうするのか聞くと、
「ヴァレンシュタイン男爵の意向に従います。ただ、程度によっては多少の提案をさせていただきますが、貴族……それも、他国の貴族暗殺未遂となれば、実行犯は当然として犯人一味は末端でも死罪は免れず、場合によってはその咎は家族、親戚にまで及びます。組織の人間だからと言って、我々が男爵を差し置いて罰することは出来ません」
完全に俺に任せるということだった。まあ、それでも罪が軽いかギルド長にとって有益な人物なら、多少の恩赦を求めるつもりではあるようだが……変にかばうつもりがないようなら、これを落としどころにしていいだろう。
「そうか、分かった。その辺りはギルド長を信じて任せよう。その代わり、結果が出るまでこのギルドの一室を借り受けるぞ」
冒険者ギルドにとっては、今代の雷がいつ襲ってくるか分からない状況なので、俺の存在はいつ爆発するか分からない爆弾のようなものだろうが、それを断ることが出来るわけがないのは分かっているので、ギルド長は俺の要求を吞み、ギルド長室の向かいにある部屋へと案内してくれた。
「こちらをお使いください」
「ありがとう。少し休むから、職員や冒険者を近づけさせないでくれ」
部屋に入って早々に、俺は疲れていたのですぐにギルド長とその秘書を追い出し、椅子に座ったのだが……
「クレア、何故いる?」
何故かクレアは、べラスを抱っこしたまま俺たちの最後尾についてきて、そのまま部屋に入って自分で椅子を用意していた。
「え?」
クレアは俺の質問に首をかしげていたが、こちらとしてはクレアは部外者ではあるが俺を含めて危ないところを助けてもらっているのでそれ以上言えずに黙っていると、それ以上何も言われなくなったクレアは、それをこのまま居てもいいということだと受け取ったようで、ぐったりとするべラスを撫でまわしていた。
ちなみにべラスがぐったりとしているのは、クレアに抱きかかえられたまま反抗していたが通用せず、逆に疲れて動けなくなったからのようだ。
(他人がいるところであまり血を増やしたくないが……緊急事態だし、仕方がないか)
「クレア、少し秘密の方法を使うから、いいと言うまで反対を向いていてくれ」
「は~い、分かりました」
俺が頼むと、クレアは何故か嬉しそうな声で返事して、べラスを抱いたまま椅子を反対に向けた。
「ディンドランさん、周囲に俺たちを見張っているような気配は?」
「無いわね」
「なら大丈夫か……これからすることは、例えカラードさんに聞かれたとしても秘密にしておいてね」
「何をするのか知らないけれど、分かったわ」
ディンドランさんは俺にそう返事したものの、近くにいたケイトとキャスカ、それにマルクは少し離れた位置に移動して反対を向いた。
まあ、俺の言っていることは自分たちの主にも秘密にしろということだから、普通なら受け入れられないし、これなら聞かれても答えられないから見ないという意味だろう。そう考えると、ディンドランさんの方がおかしいということになるが……まあ、その辺りのことはあまり考えないようにしておこう。
「ダインスレイヴ……飲み干せ」
俺はマジックボックスから液体の入った小瓶を取り出して蓋を開け、その中身をダインスレイヴで吸収した。するとすぐに、
「ふ~……これで大丈夫だな」
体中に力がみなぎり、先程まであった倦怠感が全てなくなった。これなら今代の雷が襲い掛かってきたとしても、先程のように後れを取ることは無いだろう。
ダインスレイヴを消し、空の小瓶を回収しようとしたところ、俺が掴むよりも早くディンドランさんが小瓶に手を伸ばし、小瓶の中の臭いをかいで……
「ジーク、大丈夫なの?」
と心配そうに聞いてきた。
「何度もやった方法だから大丈夫……なはず? まあ、これまで大きな後遺症が出たことは無いから、安心していいよ」
「いや、少しでも出ている時点で安心はできないけれど……ジークの言うことを信じるしかないわね」
俺の説明に眉をひそめたディンドランさんだったが、自身では確かめる方法がないと思ったのか大人しく引き下がった。
ディンドランさんが納得してくれたのはよかったが……実はこれ、かなり危険な方法ではある。
ディンドランさんは気が付いていないようだが、俺のやったのはあのソウルイーターがしていたことと同じで、やり過ぎればあいつのように化け物になる可能性があるのだ。ただ、ソウルイーターが相手から直接自分の体内に取り込んでいたのとは違い、俺はダインスレイヴを介して取り込んでいるので、手順が多いのと累計で取り込んだ量が少ない分だけ危険性は低いと思われる。
だが、このまま取り込み続けていればいずれはあのような化け物になる可能性があるのだ。その為、緊急時以外はなるべく使わないようにしている。まあ、俺の中で立てているある仮説が正しいものならば、使い方によっては危険どころかかなり強力で使いどころの多いものになりそうだが……わざわざ試す必要はないので、出来る限り使わないというのが正しいだろう。
「ところで、それはいったい何なの? 臭いから大体の見当がつくけど……まさか、人間のものでは無いわよね?」
ディンドランさんが周りを気にしながら聞いてきたので、俺はその小瓶と同じものをマジックボックスから取り出して小声で、
「これは、ドラゴンの血だよ。前に倒した奴のを小瓶に移し替えて取っておいたんだ」
と教えた。
前に遭遇して倒した時、ドラゴンの血にも価値があるのを知っていたので樽で保存していたのを、ふとした好奇心からダインスレイヴで飲んでみたのだが……普通の魔物よりも魔力が濃いせいか体中に力がみなぎるのを感じ、今回のような緊急事態に使う劇薬と言う形で保管しておくことにしたのだ。
ちなみに、実際にドラゴンのような魔物の血は栄養価が高いので薬として使われることも多いのだが……普通は薄めた上で毒素を取り除くか中和して使うの一般的だ。ただそれだと、当然ながら薄めた分だけ原液のような効果は得られないことが分かっているので、これはあくまでも緊急時の俺専用薬なのである。
なお、魔力を持たないか魔力の少ない動物や魔物の血なら、いくら飲んでもソウルイーターのような化け物にはならないと思うが、それとは別に危険な病気になる可能性があるので、下処理は絶対に必要だろう……などとディンドランさんに説明すると、「当たり前よ!」と言って頭を叩かれた。
「ジークさ~ん、もういいですか~」
ディンドランさんに叩かれた頭をさすっていると、クレアが俺の方を向きながらベラスの前足を動かして聞いてきたので、
「いいも何も、勝手にこっちを向いているじゃないか」
と突っ込むと、クレアは慌てて反対を向いて、先程と同じセリフをベラスの前足を動かしながら言ってきた。なお、クレアが反対を向く際にべラスと目が合ったのだが、その目はまるで「早く助けてくれ……」とでも言っているようだった。
改めてクレアや他の皆にも振り向く許可を出すと、
「ん? ジークさん、何か血のような臭いがしますけど、もしかして傷が広がりました?」
などと、クレアが鼻をひくひくさせながらそんなことを聞いてきた。
使った小瓶の中身はすぐに全ての血を吸い取っていたし、説明の為に取り出したもう一本も封をしたままだったので、まさかわずかな血の臭いに気が付くとは思っておらず驚いてしまったが……まあ、クレアだしと思うことにして、造血薬を飲んだと言って誤魔化すと、クレアは傷が広がったんじゃなくてよかったですと言って納得していた。
「それはそうと、そろそろベラスを放してやってくれ。強く締め付けられたせいで、ぐったりとしているぞ」
「え⁉ ……あら? さっきまで元気だったのに……」
さっきからそんな感じだったと心の中で突っ込んでいると、クレアはベラスを床に下ろそうとして……何を思ったのか急にもう一度抱き上げて、背中に顔をうずめて、
「臭い! ジークさん、この子お風呂に入れた方がいいですよ!」
と言ってから、今度こそベラスを解放した。
べラスはようやく解放されたというのに臭いと言われたことがショックだったのか、驚いたような顔をして固まっていたが……クレアが少し動いたのを見て、このままではまた捕まると焦ったらしく、急いで俺の後ろに隠れた。
そんなところに、
「クレア様! 勝手は行動はおやめくださいと、いつも言っているでしょう!」
クーゲルとフレイヤが駆け込んできた。
「クーゲルとフレイヤこそ、ノックもしないで入ってこないでください! 男爵様の前ですよ!」
クレアを心配してきた二人に、クレアは俺を指さして逆に注意していたが、
「クレア様こそ、男爵を指さすのは止めなさい!」
当然のごとく、クーゲルに怒られていた。
「クーゲルが心配して起こるのは分かるが、今回ばかりは許してやってくれ。俺たちはクレアが来なかったら、かなり危ない状態だったからな」
流石に俺たちを助けてくれた相手が起こられるのは気まずいので、二人の間に入ったら、
「そうですよ! 私はジークさんの命の恩人なのです! 聖女らしく、いいことをしていたのですよ!」
クレアが胸を張りながらドヤ顔をしていたので、もう少し言い方を考えればよかったと後悔してしまった。
「は、はぁ……とりあえず、クレア様を叱るのは後にして、いまいち事情が分からないので、説明をお願いできますか?」
クーゲルがそう言うと、ディンドランさんが俺の代わりに説明をしたが、その話を聞いて……クーゲルは頭を抱えていた。
「クレア様がスタッツに来ている状況で今代の雷の襲撃があったということは……世間からすると、クレア様が男爵の情報を渡し、それを元に今代の雷が計画を立てたとされるということですね……ヴァレンシュタイン男爵、誓って申し上げますが、クレア様は男爵が不利になるような情報は一つも渡しておりません」
「確かにそうだろうな。ただ、俺がそれを言ったところで、世間が納得するかと言う話は別だ」
クーゲルの言葉に俺は理解を示したものの、俺がいくら言ったところでそれを全ての者が信じるかどうかは別だ。むしろ、バルムンク王国の貴族の一部や聖国にいい感情を抱いていない者は、積極的にクレアが今代の雷と共犯して俺を襲ったと言いふらすかもしれない。
「一応、クレアはそんなことが出来るような程かし……んっ! 性格ではないと、俺の方から陛下には言っておくが、周囲が信じるかどうかは保証できない」
「理解しています。よろしくお願いします」
とりあえず俺からも擁護するという言葉が聞けたからなのか、クーゲルはホッとした顔をして深々と俺に頭を下げていた。その様子を見ていたフレイヤが、クーゲルと同じように頭を下げたが……当のクレアは、何故二人が頭を下げているのかいまいちわかっていないようだった。
そこに、
「ジーク、今代の雷の情報だ」
おっさんが息を切らせながら部屋に突撃してきた。
おっさんはかなり乱暴にドアを開けたが、その前の足音で全員が接近に気が付いていたので驚くことは無かったが……その代わり、ディンドランさんたちやクーゲルが剣を抜いてドアの方へ向けていたので、突撃してきたおっさんの方が逆に驚いていた。
「それで、今代の雷は今どこにいる?」
「あ、ああ、それなんだが……」
おっさんの顔は驚いたものから困惑したようなものへと表情が変わり、
「すでにスタッツを出て行ったらしい。それも、途中で馬を盗んでわき目も振らずに走り去ったとのことだ」
「は?」
おっさんの報告に、俺どころかディンドランさんたちも困惑し、少しの間言葉を失ってしまった。
「え~っと……それは本当の話か?」
「信じられないかもしれないが、何人ものスタッツの住人が逃走するところと馬を盗むところ、そしてスタッツから出て行くところを目撃している。その後も帰ってきたところを見たという者は居ないし、今もギルドの奴をスタッツの各入り口に配置しているが、今のところ引き返してきたという目撃情報は無い。まあ、出て行ってすぐに戻ってくるというのは考えにくいから、あるとすれば日が暮れてからだろう。念の為、数日は出入り口に見張りを置くつもりだ」
おっさんも今代の雷の行動に疑問があるようだが、確かに一度スタッツの外まで出て行って安全なところで態勢を整えるというのは十分考えられることなので、完全に油断はできないだろう。
ただ、ギルド長の子飼いの冒険者が見張っているというのなら、余程のことがない限りは後手に回る可能性は低いだろう。
「それでジーク、そんな資格はないかもしれないが、冒険者ギルドが得た情報を渡す代わりに、今代の雷の情報を教えてもらいたい」
おっさんとしても、次の今代の雷が襲撃を仕掛けてきた時に全くの情報がないのは不安なのだろう。それに俺としても、せっかく今代の雷が来ないか見張ってくれるというのなら、その情報を素直に貰えるように俺が得た情報と引き換えにした方が得だろう。
「なるほど……つまりは、俺では無理ということか」
「無理かどうかはやってみないと分からないが、あいつは感知能力がかなり高いようだ。おっさんが神具を身にまとって背後を取ったとしても、そのまま通用する可能性は低いと思う」
おっさんの神具の効果は俺が見たところ、身体能力の向上と気配を薄くするもの、後は魔法や物理攻撃の耐性を上げると言ったところだろう。
もしその通りならかなり使い勝手のいい神具ではあるが、感知能力が高く魔法の使用速度が速い今代の雷相手では決定打に欠けていると言わざるを得ない。
「それなら、俺が相対する時は戦闘行為は絶対にしないで、交渉に重きを置くしかないか……ただ、ジークがいる時は任せてもいいか?」
「俺としては、そうしてもらった方がありがたいな。出来るなら、こちらの手の内がバレていないうちにケリをつけたいところだ」
もし次の機会があれば、俺は街中であろうと初っ端からダインスレイヴで今代の雷を戦うつもりだ。
そうなれば当然それなりの被害が出るだろうが、初めから使うと決めて戦っていれば少しは被害を押さえることが出来るだろうし、例えスタッツの住人に被害が出たとしても、非は襲ってきた今代の雷にあるのだ……例え知り合いに被害が出たとしても、そう思うしかない。
「分かった。その時は俺もジークが全力で暴れるのが前提で動く。そうすれば、多少は犠牲者を減らすことが出来るだろう」
おっさんも、俺が襲いに行くというのなら止めただろうが、向こうから来るとすればそれは災害と同じだと思うしかないと覚悟を決めたようだ。そして、
「それで、情報提供のお礼と言うわけではないが、今代の雷の手引きをした奴を発見した。ここに連れてくるか、それともジークが直接乗り込むか?」
おっさんが神妙な面持ちで、俺の欲しかった情報の一つを得たことを報告してきた。
もう少しで、俺がおっさんたちに協力するもう一つの理由が果たされることになりそうだ。
書籍版第一巻の修正に入りました。
個人的な感想ですが、順調に行けば秋ごろに販売かな? と感じています(全くの見当違いでしたらごめんなさい)。
そちらの応援もよろしくお願いします。