表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒のジーク 《書籍版発売中》  作者: ケンイチ
第一章
1/109

第一話

前作の『異世界転生の冒険者』の作業が一段落ついたので、新作を投稿します。

面白いと思われた方は応援よろしくお願いします。


本日、複数話投稿予定。

「知っているか? あの爆発事件の犯人にされていた奴、自殺したらしいぞ」

「無責任すぎない? 謝罪くらいしてから死刑になればいいのに」

「年齢的に、死刑は無いだろ。まあ、だからあんなことをやったんだろうけどな」

「最悪だよな。ほんと、自殺したいのなら、一人で勝手にすればいいのに」

「ホントそれ。まじで、それ。こんな奴が世の中に居たんじゃ、怖くておちおち外歩けないわ」

「そう言った意味では、死んでくれてよかったのかもな!」



「何かあの爆発事件、真犯人が居たってよ!」

「まじ!? じゃあ、あの犯人にされていた奴、なんだったの?」

「さあ? 警察が無能だっただけじゃね?」

「うわぁ……それはご愁傷様だな」

「でも、何で真犯人が見つかるのに時間がかかったんだ?」

「そら、親が金持ちだったからにきまってるだろ! いわゆる、上級国民だからだよ!」

「そんなことよりも、ネットで面白い情報が上がっているぞ! なんか、テレビとかで犯人扱いにされてた奴をさんざんディスってたのが、個人情報を顔付きでさらされてるわ」

「まじか! 俺にも見せろよ……うわ! 家族までさらされてるし!」

「まあ、しょうがないんじゃね? あんだけ無実の人間を悪く言ってたんだから、そのしっぺ返しが来たんだよ。それに、こんな奴を育てた親にも問題があるんだし」

「違いねぇな!」






「時間が巻き戻ればいいのに……」


「どこか、誰も俺を知らないところに行きたい……」


「消えてなくなりたい……」

 

 暗闇の中を漂いながら、次第に意識が薄くなっていく中で、突然体の中に何か(・・)を押し込まれ、内部から造り変えられるような感覚を味わった。不思議と痛みは感じなかったが、自分と異物が混ざり合うような、とても不思議で気持ちの悪い感覚だった。

 その気持ち悪さが消えると、目を閉じているにも関わらず、目の前が白一色に染まった。そしてそのまま、俺の体はゆっくりと流されていった。流れは先程までのように乱れたものではなく、まるで俺をどこかへと運ぼうとするかのように、一つの方向へと流れていた。


 そして気が付くと……俺は鬱蒼と茂る森の中に倒れていた。最初はあの橋から身を投げた後で、どこかに流れ着いたのかと思ったが、すぐにそれは間違いだと理解した。

 何せ、俺の頭上をプテラノドンのような生き物が飛んでいたのだ。しかも、四匹も頭上を旋回している。


「俺を食う気か?」


 ここから逃げようと体を起こそうとしたが、上手く四肢に力が入らずに起き上がることができなかった。

 少しでも助かる確率を上げるために辺りよく見てみると、旋回するプテラノドン(仮)は俺からおよそ三十m上空におり、翼長が平均して三mほどと思ったよりも大きくないことがわかった。だが、想像よりも大きくなかったというだけで、普通に考えれば三mの生き物なぞ十分にデカい部類に入るし、そんなのに狙われている俺の今の状況は、どう考えても危険であるというのには違いない。

 幸い俺が倒れている場所は、プテラノドンが降りてこれるようなスペースがない。今はまだ体が動かないが、このまま時間が経てば体は動くようになるだろう。そう考えて、体の力を抜いて息を整えている時だった。不意に近くの茂みから、何かが草木を倒しながら近づいてきた。

 嫌な予感がしながら顔を横に向けてみると、そこには大きな猿がいた。見たことのない種類の猿だが、俺の知る中で近いのはゴリラだった。


(ゴリラなら、よほど機嫌が悪いかこちらから危害を加えようとしない限りは、俺になにかしようとはしないはず……)


 そこまで考えた時に、ゴリラ(仮)が手に持っているものに気がついてしまった。それは、血まみれの猿だ。しかも、血まみれの猿は片腕がなく、その代わりゴリラの口元に血がついていた。ゴリラより小型だが、同族に近い種類でも食い物にする生き物が、まともに動くことができない(エサ)を見逃すはずがない。

 案の定ゴリラは俺をじっくりと見て存在を確かめたあとで、手に持っていた猿を放り捨てて近づいてきた。今のゴリラは手を地面につきながら歩いているので、正確な大きさは分からないが、立ち上がると二mを超えそうだ。

 誰かが颯爽と助けに来てくれることを願ったが、そんな都合のいいことなど起こるはずもなく、ゴリラは俺の脚を掴み、逆さ吊りにした。ゴリラはそのままの状態で俺を観察すると、いきなり地面に叩きつけ始めた。


「ガハッ」

 

「ウホッ!」


 俺が反応したことが面白いのか分からないが、ゴリラは嬉しそうに笑いだした。そして、二度三度と何度も立て続けに地面に向かって俺を振り下ろす。

 地面は柔らかな草が茂っているおかげか、思った以上に衝撃に耐えることができたが、それでも地面に叩きつけられるたびに骨の折れる音が体の中から聞こえてくるし、痛みで意識が飛びそうになるたびに、地面に叩きつけられた時の衝撃で引き戻されるという、悪夢のような繰り返しの時間だった。

 ようやくゴリラが動きを止めた時には、俺の視界が血でほとんど塗りつぶされている状態だった。恐らく、顔だけでなく体全体が血で汚れているだろう。それに血を流しすぎたせいか、だんだんと意識が遠のいていく感じがする。死が、確実に俺に近づいていた。

 だが、そんな状態とは裏腹に心臓は激しく高鳴り始め、左胸から右手に向けて、何か熱いものが流れている。

 ゴリラは、俺が十分に弱っていると判断したのか一旦地面に下ろし、逆さ吊りから今度は頭と左腕を掴んで持ち上げ、首筋に噛み付こうと歯をむきだしにして顔を近づけてきた。

 俺は少しでも抵抗しようと、頭を掴んでいる方のゴリラの腕を右手で掴んだ。ゴリラは俺が抵抗の意思を見せたことに驚いたのか、首元に息がかかるくらいまで近づいていた顔を一旦戻した。その瞬間、俺の右手から、溜まっていた熱が飛び出した。

 その熱は、手のひらから飛び出るようにゴリラの腕を貫きながら伸びていき、ひと振りの剣を形作った。剣は細く、形も刃のついた棒きれのようなもので、辛うじて柄と刃の境がわかるくらいのものだった。そしてその剣は、墨で何度も塗りつぶしたかのような光沢のない黒色をしていて、不気味な雰囲気を醸し出している。

 黒い剣に貫かれたゴリラの腕は、剣が突き刺さったところから切り落ち、切れた時の反動でもう片方の腕にも剣が届いたため、ゴリラはほんの数秒で両方の腕を失うことになったのだった。そして、それまでゴリラに釣り上げられていた俺は、支えを失う形で地面に落とされた。


「グァ……ゴァアアアア!」


 ゴリラは目の前で起こった出来事に思考が追いつかないのか、一瞬の間呆然としていたが、襲ってきた両腕の痛みで正気に戻され、悲鳴を上げながら地面をのたうち回りだした。

 そんなゴリラとは逆に、剣を手にした俺は先程まで感じていた死の気配が遠ざかっていくのを感じた。状況が好転したせいか、何だか体の調子が良くなった気がして、自力で立ち上がることができるようになっていた。


「何が起こったのか分からないが……とりあえず死ね」


 先程までの恨みを晴らすために、俺はのたうち回るゴリラを瀕死の状態になるまで何度も剣を振り下ろし、十分に気が済んだところで、瀕死の状態だったゴリラの心臓に剣を突き立てて息の根を止めた。この剣が何なのか分からないが、ゴリラを切りつけている時にわかったことが一つある。


「この剣で切るたびに、間違いなく体の調子が良くなっていく……なんでだ?」


 理屈は分からないが、ゴリラをこの剣で切るたびに体の痛みが消えていき、さらに体力が戻ってくるのを感じていた。完全に回復したわけではないし傷も消えたわけではない(しかし、さきほど出来た傷がふさがり始めているので、完全に消えるのも時間の問題だと思われる)が、それでも死ぬ寸前まで追い詰められていたとは思えないくらいだ。 


「ハァハァハァ、ごほっ、がはっ……」


 はじめて大型の生き物を殺した反動からか吐き気がしたが、胃の中が空っぽだったせいで、胃の中身を吐き出す代わりに口の中に苦いものが広がった。それと同時に急に体が重くなった感じがして、半ば倒れるように地面に膝をついてしまった。

 しばらくの間うずくまっていたが、急にあのゴリラが一匹だけとは限らないとの考えが頭をよぎり、気だるい体を引きずるようにその場を離れることにした。

 時間が経つにつれて体の倦怠感(ダルさ)は消えていったが、自分の意志で突き立てた剣が肉を貫く感覚はなかなか消えることはなかった。殺さなければ殺されると分かっていたので罪悪感は感じなかったが、それでも初めて人間に似た形の生き物を殺した経験は、そうそう忘れることはできないかもしれない。


「それにしても、今更だがここはどこなんだ?」


 辺りを探りながら、俺は無意識のうちに剣を振っていたことに気がついたが、不思議と重いとは感じなかった。試しに近くにあった木の枝めがけて切りつけてみると、苦もなく枝を切り落とすことができた。俺はこれまで真剣はもちろんのこと、木刀ですらまともに振るったこともなく、唯一の経験は授業で習った剣道くらいだ。

 しかし、本で学んだ知識が間違っていなければ、竹刀と真剣では扱い方がかなり違ったはずだ。


「確か、竹刀は叩きつける感じで、真剣は引いて切るだったかな?」


 他にも、叩き切るや押し切るなどもあったと思うが、はっきりとした違いがわからない。

 一つ言えるのは、この剣は素人の俺が使っても、枝を簡単に切り落とせるくらいの、切れ味を持っているということだ。


「もう少し試してみるか」


 分不相応とも言える武器を手に入れたことで多少の余裕が出来た俺は、ここがどこなのか考えることを一度止め、近くにあるもので試し切り(じっけん)を行うことにした。初めはススキのような背丈の高い草から始まり、笹のような指程の太さの植物、その次は腕の太さくらいある若木といった具合に、対象を徐々に太くしていき、最後は俺の腰より太い木を標的にした。

 腕の太さくらいの若木までは、驚くことに一撃で切り倒せたが、流石に腰より太い木はそうはいかなかった。ただ、一回目で三分の一、二回目で九割方切れ込みを入れることができ、三回目で切り倒すことに成功してしまった。ここまで来ると笑うしかない。しかも、幹の途中で止まっても、何の抵抗もなく抜けるのだ。異常すぎるとしか言いようがない。

 剣術のたち人が大業物の刀を使ったというのなら(疑いはするが)まだ理解できるが、素人の俺がはじめて刃物を振り回してから一時間ほどでの出来事なのだ。試し切り(・・)と言いながら、俺は剣など一度も使ったことがないので斧や鉈を使う感じで振るったが、大した問題ではなかったようだ。むしろ、この剣の異常さが際立った結果となった。

 それに、切り倒した草や木にはある不思議な共通点があった。


「なんで、どれも水分が抜けてるんだ?」


 俺は、さきほど切り倒した若木とその切り株を見比べて頭をひねっていた。このおかしな現象は若木だけでなく、太い木や草も同様に現れていた。ただ、水分の抜け具合にはかなりの差がある。

 草は完全に水分が抜けてカラカラに乾燥しているのに対し、木の方はパッと見ただけではわからない程度の変化なのだ。ただ、同じ木でも差は出ており、若木の方は切り落とした方の切断面が切り株より若干細くなるくらい水分が抜けているが、太い木の方は切り口が乾燥しているくらいだった。 

 そして、それとは別に不思議なことがもうひとつあった。実は切り倒した若木を細工して杖にしようと思い、剣で適当な長さに調節し(この時にも水分が抜けて、だいぶ硬くなった)、邪魔な枝を切り落とそうとした時に、誤って自分の足に剣を当ててしまったのだが、剣を足に当てた時は丁度枝を切った直後だったせいでそれなりの勢いがあったにも関わらず、足は切断されることはなく、わずかに当たったという感触があっただけだった。急いで剣が当たった場所を確かめてみたが、ズボンに数cmの切り傷ができただけで、足には血が流れるどころか傷の一つもできていなかった。


「この剣は、俺を傷つけることはできないようだな。そもそも、この剣は何なんだ?」


 これまで、なぜか疑問に思うことなくこの剣を使っていたが、一度冷静になって考えるとおかしなことばかりである。まず、この剣が俺の手から出てきたことに始まり、ゴリラを切るたびに体力が回復すること、異常なまでの切れ味なのに、俺自身にはその切れ味が発揮されない。それに、切った植物から水分が抜けていることも気になる。仮に切った瞬間から水分が抜けていくような植物が存在したとしても、俺が切ったもの全ての植物が、そういった性質を持っていたとは考えにくい。

 そんなことを考えていると、不意に俺の頭上に何かが忍び寄ってきたのを感じた。頭上の気配は、少なくとも十は超えているようで、ゆっくりとだが、確実に俺を取り囲むように動いている。数の少ない方へと移動すると、先回りするように移動しているので、俺を狙っていることは間違いないようだ。

 木の上に隠れているので、流石にゴリラではないとは思うが、この場所にゴリラよりも小さくて強い生き物がいないとは限らない。


(先手必勝だな……)


 俺は頭上の気配が先回りするのを逆手に取り、有利に運ぶための条件が揃っているところへと、気配たちを誘導した。

 数分ほど歩き、目的の場所へとやってきた俺は、気配が前方に集まり始めたのを感じ、タイミングを間違えないように心がけた。 

 目的とした場所は、試し切りをしている時に発見した場所で、俺の腰より細く、その割に背の高い木が二本隣り合っているのだ。木と木の間には、俺が両手を広げたのと同じくらいの感覚がある。

 俺が木の間を目指しながらゆっくりと歩いていくと、頭上の気配が先程よりも動きがゆっくりとなっているのに気がついた。どうやら、俺が木の間を通るタイミングで、上から襲いかかってくるつもりのようだ。

 

「いい作戦だけど、少し遅いな」


 木の数歩手前まできたとき、俺は剣を横に振り抜いた。今度は先程のように叩きつけるのではなく、腰の回転を意識した一撃だ。

 イメージとしては野球のバットを水平に振る感じだ。剣の使い方としては違うだろうが、それでも試し切りのときよりもマシになったようで、あまり抵抗を感じることなく木を切断することができた。続けて、もう一本の方も同じ要領で切りつけるが、今度は少し浅かったようで、倒れる気配がしなかった。


「ミスった! クソっ!」


 切り倒せなかったことに少し焦りながらも、半ばヤケクソ気味に木を思いっきり蹴ると、メキメキっという音を立てながら傾いていき、先に切り倒した木の上に重なるようにして倒れた。

 木が倒れ重なった瞬間、獣の鳴き声がいくつか聞こえたので、俺の目論見通りダメージを与えることができたようだ。

 しかし、流石にそれだけでは全滅させることはできなかったようで、数匹の()が飛び出てきた。どれもこれも体のどこかに怪我を負っているようでフラフラしてはいたが、それでも数の上では俺の方が不利だし、そもそも猿の筋力は人間を凌ぐと聞いたことがある。最初の攻撃で全てを行動不能にできなかったのは、かなりまずかったかもしれない。でも、この剣の性能をもってすれば、手ぶらで手負いの猿相手なら、両断することは簡単だろう。それに、この剣が起こした不思議な現象も戦いにおいては、かなり便利なものかも知れない。


(全部で、五……いや、六匹。一匹増えたみたいだな。急がないと、他に下敷きになっている猿も、復帰してくるかもしれない)


 剣を構えながら、猿たちに後ろを取られないように注意する。猿たちは俺を囲もうとしながら近づいてくるが、剣を向けるとすぐに距離を取る。

 このままでは木の下敷きになっている猿が這い出てきてしまいそうなので、一度剣を消して、わざと隙を見せることにした。


(かかった!)


 予想通り猿たちは俺が見せた隙に反応し、一斉に飛びかかってきた。その猿たちに対し、俺は剣をもう一度出して、がむしゃらに何度も振るう。飛びかかってくる猿たちに、俺は少しビビってはいたが別に混乱したわけではない。今は一撃必殺を狙うよりも、浅くてもいいので何かしら傷を負わせることが大事だと思っていたので、一番近くに来ている猿を狙ったのだ。まるでゲームセンターにあるワニ叩きのようだが、それよりも難易度は格段に上だろう。

 ゴリラに襲われる前の俺なら、囲まれた段階で猿に取り付かれていただろうが、この剣を手に入れてから……正確にはゴリラを倒してからの俺は、明らかに体の動きが良くなっている。それを踏まえた上での作戦だったので成功するとは思っていたが、ここまで上手く事が運ぶとは思っていなかった。

 それに思っていた通り、この剣で切られると体から水分がなくなるみたいで、切り傷を付けられた猿は、明らかに動きが鈍っていた。

 戦い続けていると、飛びかかってきていた猿が見えなくなったので、剣を振るのを止めて辺りを見渡した。するとそこには、死屍累々といった感じの猿たちがいた。まだ微かに息はしているが、それも時間の問題だろう。


「先に、木の下敷きになっている奴から止めを刺すか」


 一先ず死にかけの猿たちは放っておくことにして、先に俺は重なって倒れている木の方へと向かった。

 ここで焦って反撃を食らうのは馬鹿らしいので、剣で木の枝や葉を切り払いながら、慎重に猿を探していく。枝を半分ほど取り払ったとこで、ようやく猿が見えてきた。思った通り、猿は木に挟まれて動けないだけの状態であり、このままだといずれ抜け出しそうだった。

 

「さてと……死ね」

「ギッ」


 猿の心臓付近に剣を思いっきり突き立てると、猿は短い悲鳴をあげ、呆気ないほど簡単に死んだ。それを五度繰り返すと、木の下敷きになりながらも生き延びていた猿を全滅させることができた。

 今回はゴリラに止めを刺した時ほどの罪悪感はなく、逆に心が満たされるような感覚があり、少し恐ろしくなったが、戦いの後なので興奮しているのだろうと思うことにして、後回しにしていた猿たちに止めを刺すことにした。なお、こいつらは十五匹の群れ(他にも逃げた奴がいた可能性はあるが)だったらしく、木の下敷きになって死んでいる猿が四匹いた。念の為、その猿の心臓部にも剣を突き立てたが、生きていた猿に突き立てたときほどの高揚感はなかった。


「最初のゴリラほどじゃないけど、やっぱり強くなっている気がする」


 ゴリラを倒したあと、しばらくの間体がだるかったが時間とともに回復していき、だるさが消える頃には体の奥から力が湧いてくるような感じがしていた。


「レベルでも上がったのか? まさかな」


 自分でもそんなわけはないと思うが、そうとしか考えられない体験をしているのも事実だった。もしあのだるさが体を酷使したあとで筋肉が成長する超回復という現象と同じものだとしたら、レベルアップという表現ではなかったとしても、この世界には何らかの不可思議な現象があるはずだ。ちなみに、俺はここが自分の知っている世界ではないと、プテラノドンを見た時から確信している。


「もし仮にレベルアップの現象が存在するのだとしたら、あのゴリラは猿十五匹より強い存在なのかもしれないな。あの時は双方ともに予想外の出来事が起こって、結果的に不意を突くことができたけど、そうそうあんなことは起こらないだろうな」


 つまり、あのゴリラと同等以上の生き物に出会った場合、その場でコンテニューなしのゲームオーバーとなる可能性が高いわけだ。もっとも、ここがゲームと同じ世界だとすれば、死んでもどこかで生き返ることができるかもしれないが、一つしかないかもしれない命で実験するのは、実験ではなくただの自殺行為だろう


「猿相手でも少しは強くなった感じがするから、可能な限り自分より弱い奴を倒していく必要があるな」


 まず第一はこの森から出て、出来る限り安全と思える場所に移動しなければならないが、どこにどのような危険があるかわからない以上、森を出る前にできる限り強くならなければならない。

 

「とにかく、この場を離れて川でも探そう。水や獲物目当ての肉食獣に遭遇する可能性も出てくるけど、川に沿って下っていけば、この森を抜けることも可能なはずだ。周りの気配には気を配らないとな……今更だけど、なんで気配とかわかるんだ? レベルアップしたからか? いや、最初のプテラノドンの距離とか大きさも、なぜか理解できたからな……」


 わからないことだらけだが、気配が分かること自体はありがたいので、今はそれ以上考えないことにした。それよりも、猿たちの血の臭いにつられてやってくる肉食獣が怖いので、急ぎながらもなるべく物音を立てないようにその場を離れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ