下弦上月『カゲ切り鎌』
そこでしか存在出来ないから、夜の数は関係無い。傀儡は傀儡らしく主を喜ばすことをしかしない。従順な傀儡は世界を切り取る。これが主との対話方法だから。
私は普通に生きているつもりだった。絵を書くのが趣味ぐらいの。
ただ、見えているモノが少し違った。それを絵にしないと気が済まない。この欲求が始まると寝食を忘れて描き続ける。『水面市』が良く見渡される場所で書くが、見えたモノが違う時はビル侵入することもあった。セキュリティがしっかりしている所は侵入が難しいので、極力その様な事がされていない古びた建物を調べ上げ、リスト化し、地図に落とし込んでいた。その地図を見て、選んだ場所の建物で奇妙な事が起きた。
『水面市』から『青月市』への移動。その原因は『ダークムーン』
何故、私がこの様な目に合うのか分からなかった。ただ、『ダークムーン』は私の絵を見ていたようだ。人を越えた動きで互いを攻撃し合う姿。血で汚れた世界。それを照らす青い光。
私は『ダークムーン』と『青月市』に選ばれた。
『青月市』に来たばかり頃は驚きばかりだった。この世界には私が描きたいモノが沢山ある。長時間立ち続け描くのは辛い。椅子が欲しくなった。
本当にこの世界は素晴らしい。綺麗だ。一日数時間しかない世界を絵で切り取り、永遠に私が記録し続けたい。湧き上がる欲求に従い、絵を描いていた。とある夜、描いている最中に後ろから声を掛けられた。
「綺麗な絵ですね……」
唐突だった為、警戒すること無く振り向いてしまう。『ダークムーン』から忠告されていた事をすっかり忘れていた。無慈悲に顔へ突き刺さるナイフ。青白く光るナイフは頭を貫通していた。怒りの声を出そうとしても口が動かない。更に、右目を刺されたようで視界が半分しかない。
グチャと音がした後、残った視界に迫って来る切先に驚愕。暗闇なった。身体を支えていられなくなり、椅子から転がり落ちる。途切れ途切れになる意識の中で聞く。
「影は貰っていくよ……。……油断しすぎ、アナタは此処に来るべきではなかったと思う。それじゃあ」夜が似合う綺麗な声で言われた。
あああああああ―――
あの女が惨たらしく死ぬ姿を描きたい!!
綺麗に違いない。美しく死なせるといっておきながらノコギリで汚らしく切る。断面が醜くなった肉に月の青い光を当てたら綺麗。間違い無く綺麗だ。
死にたくない。死にたくない。死ねない。死ぬわけにはいかない。何故、死ななければならならい!
意識が途切れる。椅子から転げ落ち、両目から血を流す少女。綺麗なワンピースにフリル。仕立ての良い服が血に染まっていく。その死体に『ダークムーン』の影が覆っていく。その中で青い光二つ。両目から放たれる青い光が、粒子となって身体に降り注ぐ。再生していく肉体。純粋に『ダークムーン』の意思を行う傀儡として復活する。