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Doll House

作者: 清宮ルト
掲載日:2021/11/23

ネット上にあげられたとある動画が世界中で話題になった。

その動画とは......そしてそれが意味するものとは......

ネット上にあげられたとある動画が世界中で話題になった。


それは自らをドクターと名乗る男が女に命令をしていく動画である。


「きみ、右手をあげたまえ」

「かしこまりました」

そう言うと女は右手をあげる。

「きみ、服を脱げ」

「かしこまりました」

女は言われた通りに服を脱ぐ。

そんな風に、動画の女はドクターのどんな命令でも従順な奴隷のように聞いていくのだった。

手品のような芸当までやって見せ、視聴者がなるほど催眠術の一種かと思ったところで動画は衝撃的なラストを迎える

「じゃあきみ、これが最後の命令だ。首をくくれ」

「かしこまりました」

そうして動画の最後は女が首をくくったところで終わっていた。


この動画が世界中で話題になったのは、衝撃的な最後を迎えたからだけではなかった。

その動画を見た者も、動画の中の女と同じようにドクターの言うことをするすると聞いてしまい、最後には首をくくって死んでしまうのだ。

メディアはこの動画を開いた状態で首をくくった不審な自殺をこぞって取り上げた。


動画をサイトから削除しても数日後にはまたアップされ、完全ないたちごっこと化していた。

5ちゃんねるでは「最強ワイ、例の催眠動画効かなかったンゴwww」というスレが立ち、YouTuberの中では動画を観て相方に途中で止めてもらう度胸試し企画や催眠動画の投稿者の弟を騙る動画がもれなく炎上した。


この奇妙な現象に対する各国の対応は混乱を極めていた。


ある国はネットを規制し、ある国は無干渉を貫き、ある国では懸賞金をかけ、ある国では禊の儀式を行った。


それでもまだ、不審な自殺は絶えなかった。


世界中から各国の代表が集まる、大事な会議でのこと。

「これは一種のサイバーテロと考えるべきだろう」

とさる国の大統領は言った。

「なあ、きみ。つまりこの男は誰にでもどんな命令ができる催眠術師ということかね」

共和国の王様が髭を撫でながら隣の家来にこっそり確認する。と、それを聞いた隣の国の王子は叫んだ。

「そんな馬鹿なことがあってたまるか!」

ある国の首脳はたまらず机を叩き、足をドンドン踏み鳴らした。

「早く男を始末すべきだ」

専門家が眼鏡をチャカチャカと忙しく動かしながら意見する。

「彼の声の振動が人類の脳のナンチャカに影響して催眠状態になると思われます。ちょうどスマホの声紋認証機能のように!」

「私は動画を少しだけ見たが、本当にするすると手をあげてしまったよ。途中で家内がストップしてくれたがね。しかしあれは、まるで神のような……」

「縁起でもないこと言わないで!」


こうして会議は夜通し続き、その間に世界中で首をくくった者は数百万人に及んだ。



その一方。

とある小さな国の地下施設。


とある女が隣の白衣の男に話しかけた。

「ドクター、例の動画の視聴数少し落ちてます」

「おお、そうか。そろそろ次を出さねばな」

「しかしドクター、なぜこんなことを?」

そう聞く女は長年ドクターの助手をしている人間であった。


女の机の周りには、栄養ドリンクの空が転がっており、その小瓶の数が数日働き詰めであったことを示していた。


「世界中で大流行している大病を止めるためだよ」


ドクターはパソコンにカタカタと打ち込む手は止めずに続ける。


「AIを搭載した人型ロボットと、人間の区別がつかなくなり、人型ロボットを本物の人間だと思い込む精神疾患--通称“ドールハウス症候群”。


私は現在流通しているロボットの開発者として、責任を持ってロボットに自壊命令を出さなければいけない。」


助手の女は資料をまとめながら、のんびりと、しかし疲れを含んだ声で言う。

「ドクターがロボットを開発したときは、こんなことになるなんて思わなかったですもんね」

「全く、想定外のことばかりだよ」


「しかしねぇ、ドクター。ロボットのことを人間だと思ったって、いいじゃありませんか。私だってこの研究室のミケ、好きですよ」

ドクターの足元で掃除用ロボットである--見た目は完全に三毛猫の--ミケがにゃあ、と鳴いた。


助手の女は作業を止め、ミケの喉をカリカリと掻く。ミケの喉に搭載されたタッチセンサーが反応し、ゴロゴロと気持ちよさそうな音を口から発する。


「自分の理想に最適化されたロボットとばかり触れ合っていたらね、他人とのコミュニケーションが取れなくなるんだ。想定外のアクシデントも起こらない、自分だけの小さなユートピアから抜け出せなくなるんだよ」

「そんなもんですかねぇ」

助手の女は完全にやる気を失ったようだった。

近くにあったアイマスクをかけ、しばしの休息を取ろうとする。


ドクターのカタカタというタイピングの音だけが響く。


女はしばしの仮眠を取ったのち、アイマスクを外すとまた栄養ドリンクを2本ほど飲みながらドクターに尋ねる。


「ドクターにとって、ロボットと人間の違いってなんなんですか?」

助手の女の無邪気な質問にドクターは皮肉のように笑った

「神がいるかいないかじゃないかね」

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