一
小説家になろう、初投稿作品です。恐らく今後行われる公募用になる一作だと思います!他にも、ノベプラで月間最高TOP10入りの『ガンズ オブ ジャパニーズ』連載中!
「う、うわあーーーっ‼︎」
「た…大変だ‼︎」
「早く、医者、医者を呼べーっ‼︎」
「人が飛び降りた‼︎ガキは目を塞いでおけ‼︎絶対に見るんじゃねえーっ‼︎」
東京・飯田橋。砂塵の舞う道路の真ん中。何かを取り囲むように大きな人だかりができていて、周囲は騒々しい。
「あれ。おっかあ、人が大勢集まってるよ」
「あらほんと…どうしたのかしらね」
そう言って近づいた母親は、人だかりの中央を覗き込んだ。
「…今日はこっちの通りから帰りましょう」
「えー、なんで?こっち、遠いん…」
「いいから‼︎」
「え…」
自らの顔をぐいと覗き込み、なぜか血相を変え瞳を鋭く見据えた母親に娘は狼狽し、声を震わせた。母親は、自らの手を引く娘にできるだけ強くそう言い聞かせると、ぐいとその袖を引っ張った。
人だかりの中央、野次馬の視線の先。
そこには、或る男の死体が一つ、転がっていた。顔面が砕け散り、首と足はあり得ない方向へと無理矢理ひん曲がっている。道の上の砂に、鈍い赤彩がじわりと滲んでいる。
「自害だ…」
「け、警察寮だろう…まさか、そんな…」
「と…とにかく仏さんを隠せ‼︎警察さんが来るまでの間…」
「お…おっかあ…?」
母娘はくるりと行き先を変え、木造の掘立て小屋が立ち並ぶ狭い路地へ駆け込むように入っていった。
「…いいかい。絶対、左側を見てはいけないよ」
大きな白風呂敷が御顔に被せられたのは、それからすぐのことだった。
匂いを嗅ぎつけた蝿が当たりを飛び始め、どこからともなく湧いてきた蛆が死体の顔を喰い始めた頃、警察が路上の砂を撒き散らしながら遠くから馳せてきた。青帽の駐在は人を押し除け、仏の元へと近づいていく。
「なんじゃ、これは…?」
「前田、どうした」
「いや…この、模様を見てくれ」
駆けつけた前田駐在はその死体の襟元から、一枚の汚れた紙きれを引っ張り出した。破れないようにそっと両手で広げた紙片には、朱色で描かれた龍の紋があった。丁寧な線画のせいか妙に迫力があって、前田駐在は思わず顔を顰める。その朱色は、砂に滲み固まった血液の色と対比されて、毒々しいほど明るく見えた。
「こりゃ…あの、赤い龍だな」
「ああ…上に電報を打とう。しかし、警察寮で死人が出るたあ、一体何事だ…」
西暦一九四八年。巻き上がった砂塵の向こうがわに、昼間の月が透けていた。