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小さな男の子の伝言(6)






「それはな………、…………わからへんねん」


「それは分からないと言ってます」


郁弥さんが通訳を交代してくれる。


「分からない?」


蹴人くんのお父さんは、どういうことだ?と疑問感たっぷりに訊き返した。

それを聞いた蹴人くんも、心底分からないとばかりに、曇らせた面持ちで答えた。



「あんな、ぼくな、いつかは忘れたけど、気がついたときにはここにおってん。ほんで、なんとなくやけど、あの小っちゃな入れ物に、ぼくが入ってるのは分かってん。ここには、お父さんとお母さん以外にもいっぱい人がおってんけど、みんなにはぼくが見えてへんみたいで、なんか、服とかおもちゃとか、いろんなのをそこに並べてた。せやから、ぼく、その服着てみたいなって思ってん。そしたら急に体がおっきくなってた。そのあと、お母さんが部屋に行ったからついて行ったら、鏡に、そこにある服を着てるぼくが映ってたんや。せやから、ぼく、ぼくが願ったことはかなうんやって思ってん」


わたしはさっき同様、一文ずつを大路さんとご主人に伝えた。

蹴人くんは同時通訳のわたしに気を遣ってゆっくりめに話してくれたので、それ自体は難しいことではなかた。

けれど、どれもがはじめて聞く内容ばかりで、それを頭に落とし込む作業には、わずかに時間がかかってしまった。



「そこにある服って、もしかして、お祖母ちゃんが七五三用に買ってくれたセットのことかしら?」


くるりと首を回して小さな入れ物に入ってる蹴人くんの方を見た大路さんに、わたしは簡単に説明した。


「……あの、蹴人くんは、白い長袖のシャツに、紺色のベストを着ています。靴はお出かけのときに履くような革靴で、全体的に幼稚園の制服のような感じです」


「ああ、それならやっぱり、私と主人の母が一緒に買ってくれた七五三用のセレモニーセットね。蹴人を空に送る日に買ってきてくれたの。棺の中に入れてあげてって……。でも、蹴人の棺は小さくて、お花とか手紙とかでいっぱいで、お洋服までは入らなかったのよ。それで、ここに並べてたんだけど……蹴人は、その服を着てるのね」


大路さんは嬉しそうにしていた。

きっと、目には見えない蹴人くんを、一生懸命想像しているのだろう。


蹴人くんも、そんな大路さんの話を見守るように聞いていたけれど、「それでな、」と会話をもとに戻した。


「それで、ぼくの願ったことがかなうって気がついたあと、ぼくが一番はじめに願ったことって、なんやと思う?」


蹴人くんは大路さん、ご主人、そしてわたしと郁弥さんを見まわしながら訊いた。

その質問が誰に向けられたものかは分からなかったので、わたしは大路さんに通訳する傍ら、自分でも質問の答えを考えていた。



蹴人くんの願いごと………


今度はわたしも想像力を働かせるしかなかった。

けれど、これといって自信の持てる答えは出てこない。

そんなわたしを横目に、大路さんとご主人はパパッと、いくつもの答えを出していた。


「そこにある服を着たかったということは、その周りにあるお菓子を食べたい、とか?」

「蹴人がお腹の中にいるときに『一緒に行こうな』と話しかけてた場所に行くこと、じゃないか?」

「あ、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに会いたい、かしら?」


「ぶーっ!全部ハズレや。それにお祖父ちゃんとお祖母ちゃんやったら、そのときここに一緒におったよ?」


「全部ハズレだそうです。それと、お祖父さんとお祖母さんは、そのときここにいらっしゃったようです」


郁弥さんが伝えると、二人は残念そうに顔を見合わせた。

そして他の答えを探そうとするも、当の蹴人くんがそれを引き止めた。


「答え出ぇへんかもしれへんから、もう答え言おっか?」


「答えが出ないかもしれないから、もう答えを言おうか?と……」


今度はわたしが通訳した。

すると大路さんとご主人は二人とも「そうね」「頼むよ」と白旗をあげたのだ。

そしてそれを聞くや否や、蹴人くんはちょっと胸を張り、



「”ぼくが生き返りますように”」



そう言った。











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