表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

四:狂乱の前宵

 ――ガタン。

 金属同士がぶつかり合うような、無機質な音が室内に響く。それと同時に、勇士が寝ているベッドが動き出した。相変わらず化け物共はベッドを囲んでいる。勇士を射殺すかのような鋭い視線が、無数に勇士を貫く。勇士はその身に余る恐怖にあてられて、声を出すことも身動きを取ることも出来ない。ただ目の前の化け物共に、なすがままにされるだけであった。そのまま勇士が乗ったベッドは、部屋の外へと運び出された。

 廊下に出ると。そこは既に地獄へと豹変していた。壁や床、天井のいたるところに血飛沫がこびりついて、他の部屋の患者の四肢や内臓、果ては頭部などが無造作に転がされている。全方向から怨念の籠った不気味な声が響き、それに共鳴しているかの如く時々死体の目や口、指がぴくぴくと動く。そして壁の隙間から這い出てきた大量の虫が、その死体に卵を産み付けている。勇士のベッドを囲む化物共は、それを見て気色の悪い高笑いを響かせる。そして再び勇士を睨み、全員で獣の様に吠えた。

「キサマモゼッタイニニガシハシナイ! ワレラノクルシミヲアジワウガイイ‼」

「……ぁ……ぅあ……ぃ……いゃ……。」

 目の前に広がる、地獄の底もかくやといった光景に勇士の精神は限界を迎え、糸の切れた人形の様に倒れ込んだ。だがしかし、化物共の凶行はここで終わることはない。化物共はまるでこれからが本番とでも言うように、揃って獰猛な笑みを、醜悪な笑みを、人としての原型を留めていないその顔に浮かべていた。

 勇士のベッドは依然として、金属が擦れ、軋むような、耳障りな音を立てて運ばれている。どこへ連れていかれるのかも分からない。何をされるのか想像もできない。勇士にとって唯一の救いは、そんな事を考えて恐怖することがなかったことだろう。


 ベッドのキャスターの音を響かせ、運ばれる事約十分。勇士の目には、観音開きの扉とその上に燈る赤いランプが映っていた。まだ目を覚ましていない勇士は、何の反応を示すこともない。沈黙を貫く様子を見て化物共は少し不満そうに顔を顰めつつも、扉を乱暴に開け放って勇士を中へ運んだ。その先には四畳ほどの密閉空間が広がっており、周囲には多種多様な医療器具。天井にはあちこちに枝分かれして大量の電球が取り付けられた、無骨なライトが設置されていた。

 その部屋の中央へとベッドが運ばれる。そして化物共は部屋のあちこちに散らばり、両手に医療器具を持って集まってきた。――ガタガタと廊下から台車の音が響く。そこには、先程廊下を通った時に目に入った、他の患者の頭部や四肢、そして大量の虫だった。最早原型を留めていない肉塊もある。それが勇士のいる空間に入った途端、強烈な悪臭を充満させた。それは醜悪で、存在することすら厭われる様なもの。題を付けるのであれば『地獄』とでもなるだろうその光景は、健常者が見れば良くて嘔吐、最悪卒倒しただろう。がしかし、気を失っている勇士は反応しない。そうして勇士の与り知らぬまま、化物共の狂気に飲まれてゆく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ