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36、六角蠢動(しゅんどう)

永禄元年(1558年) 七月  京 三好長慶の屋敷 三好長慶


畠山次郎四郎(はたけやまじろうしろう)高政(たかまさ)にございまする。お久しゅうございまする」

「久しぶりであるな。次郎四郎殿、先代政(まさ)(くに)殿亡きあと、会う機会がなかった」


 目の前の男は公家のような凡庸な男だった。それに比べて、壮年の男はこちらをまっすぐに見ている。安見(やすみ)美作(みまさか)(のかみ)だ。当主よりも力のある畠山家重臣だ。


「はい。久しぶりでございまする。今まで重臣を援軍に送り、顔をお見せできなかったこと、お詫び申し上げまする」


 畠山高政が頭を下げる。この十年ばかり、会っていない。名門紀伊畠山家の意地だろう。新参者の三好には頭を下げぬという意地のようなものを感じた。


 それでも畠山軍四万が味方に付いたことは大きい。筒井も震え上がるだろう。


「安見美作守にございまする。このたびは上洛の許可をありがとうございまする」


 安見が顔を上げる。ギロリと睨まれたような気がした。気の強さが伝わってくる。畠山高政が良家の御曹司なら安見は百戦錬磨の武将といった感じだ。畠山家の武将たちも頼りない高政よりも安見美作守の顔色を(うかが)っているという。


「次郎四郎様と共に公方様に拝謁でき、光栄の極みにございまする。このような機会を与えていただき、感謝致しまする」


 安見がこちらをまっすぐに見ながら、滔々(とうとう)と述べている。腹の中が読めん。安見が筒井と内通していれば、大和に出兵すると、畠山の大軍が襲いかかることになる。私と日向(ひゅうがの)(かみ)の大叔父上とで迎え討つ。その間に松永弾正と息子の彦六義久たちが筒井を降伏させる。


 筒井順政は殺さない。生かして、大和の統治に使う。


 三好は大大名だ。もはや畠山ごときに頭を下げることはない。


「公方様は三好筑前守様と対立したことを後悔しておいででした。そうですよね? 次郎四郎様」


「で、あるな。公方様と筑前守殿が組めば、諸国の大名も幕府に従いましょう。筑前守殿の武威に皆、感銘を受けておりまする」


 畠山次郎四郎が頭を下げる。凡庸かと思ったが、年上である私を立てている。この男、見かけほど、ひ弱ではないかもしれない。


「畠山は大和攻めにも兵を出しまする。大和の筒井(つつい)(じゅん)(せい)は当主が幼いことをいいことに家中を仕切っているようにございまする。先代当主の弟たちが順政と対立しておりまする。国人衆も離反しかねません」


 安見が筒井を批判している。次郎四郎の眉がわずかだが、動いた。気に入らない。そんな感じだ。安見は当主を軽んじている。


 畠山も一枚岩ではないのだろう。


「筒井順政は三好の政を認めぬのであれば、大和に兵を出す他ない。三好は本気だ。公方様の天下をお支えする。その邪魔をする者は容赦をせぬ」


 断固とした口調で言うと、二人の顔が引き締まる。見えぬな、この二人の心の内が。罠なのか、本心なのか分からぬ。


「京をゆるりと見物していかれるが良い。その後で我が居城・芥川山城に立ち寄られるかな? 自慢の城じゃ。気に入っていただけると良いが」


「お気遣いありがとうございまする。次郎四郎様と共にお言葉に甘えさせていただきまする」


 安見が大声を出した。畠山次郎四郎は黙っている。出しゃばり男だな、この男は。この二人の対立を(あお)れば、畠山も二つに割れる。その間に大和を弾正に攻略させねば。













永禄元年(1558年) 七月  近江八幡(おうみはちまん)(しも)羽田(はねだ) 後藤(ごとう)(かた)

(とよ)の屋敷 蒲生(がもう)(かた)(ひで)


 後藤家の館というより、城に近い。私は館の中を家臣に案内されて、歩いていた。父が表立って動けないのでその名代だ。


 六角は北白川の戦いで戦った。しかし、その後に逃げ出したことで諸国には弱兵と侮る者もいる。蒲生家は六角の御屋形様を奉じて久しい。父は御屋形様の右腕となっている。それでも家中には御屋形様を弱腰と非難する家臣たちがいる。かく言う私・蒲生(がもう)(とう)太郎(たろう)(かた)(ひで)にも家中の不満分子から声がかかった。声をかけてきたのは後藤賢豊殿の嫡男・壱岐守賢(かた)(よし)殿だ。


「ようこそおいで下さった藤太郎殿。ささ、こちらへ」


 壱岐守殿が笑顔で出迎えた。(ふすま)の向こうには六角家臣たちが並んでいる。高畑源(たかばたげん)十郎(じゅうろう)殿、多賀(たが)豊後(ぶんご)(のかみ)殿、伊達(だて)出羽(でわ)(のかみ)殿、(さわ)清光(きよみつ)殿たちだ。


「北畠は動かぬ。(しょう)三位権(さんみごん)大納言(だいなごん)と言っても、その程度の輩よ。位が高いだけだ」


 北畠権大納言具教……反三好包囲網の盟主に目されている伊勢の大名だ。元々は京の公家だが、伊勢に領地を持っている。北伊勢の長野家と戦っており、有利に戦を進めているという。


 多賀豊後守殿が怒りを滲ませながら言うと、伊達出羽守殿が首を振る。


「北畠は駄目であろうな。どうせ公家よ。武家ではない。やはり細川晴元公をお迎えして、担ぐほかない。元管領にして、細川家のご当主ぞ。三好筑前守に対抗できるのは細川右京(うきょう)大夫(だいぶ)様しかおらぬ」


「細川右京大夫様では新鮮味に欠ける。もっと新しい誰もが納得するような御方を担がねばならん。やはり北畠権大納言様しか、有り得ぬ。粘り強く説得すれば、お受け下さるはずだ」


 細川晴元は次男と一緒に観音寺城に逃げてきている。御屋形様は屋敷を貸して住まわせていた。細川の家臣たちもそこに集まっている。細川晴元を盟主に担いで、反三好か。人が集まらんな。


 やはり北畠様しかおらぬ。あの御方ならば、公家衆にも受けがいい。だが、御屋形様が頑固だ。まだ、三好との和睦を模索しておられる。


「藤太郎殿のお考えを聞きたい。藤太郎殿も北畠権大納言か?」


 後藤壱岐守殿が問うてくる。答えぬわけにはいかぬ。


「御意にござる。権大納言様しかおられぬ。長野との戦いも終わる。三雲殿では頼りない。それがしが使者に行ってもいい。北畠を盟主に引っ張り出す他ない」


「おお、頼もしい。そう来なくてはな」


 壱岐守殿は笑顔だ。そうだ。我らは三好を倒さねばならぬ。和睦など、もっての他よ。和睦すれば細川讃岐守持(ほそかわさぬきのかみもち)(たか)様のように(だま)し討ちで殺されるだけだ。三好は鬼だ。倒さねばならぬ。


「細川右京大夫は気位が高いだけの役立たずよ。出羽守殿、細川の目はない。北畠でどうか?」


「家格で言えば、細川よりも北畠の方が上でござるか。うむむ……若いお二人の決めたこと。それがしは従い申す」


 伊達出羽守殿が逡巡(しゅんじゅん)を見せたが、(はら)は決まったようだ。すぐに答えを出した。


「出羽守殿、ご決断ありがとうございまする。平井や()賀田(かた)といった家老衆への根回しをよろしくお願いします」


「それはお任せ下され。家老衆も御屋形様の弱腰に(いきどお)っておりましてな。こたびの件では容易に協力してくれるはずでございまする」


 出羽守殿の言葉に一同がほっとしたようだ。反三好の盟主が北畠に決まったことで皆の気持ちも一つになった。


「いよいよ王手じゃ。御屋形様が反三好を鮮明にすれば、三好も我らに怯えるであろう。若狭武田、美濃の斎藤、丹後の一色、播磨の赤松……フフフ、味方は多い。特に若狭武田は丹波を餌にしたら、食いついてくるであろう。我らは京に出る。公方様を三好筑前守から救い出すのだっ」


 後藤壱岐守殿が立ち上がって、叫ぶ。六角は変わる。壱岐守殿の手によって新しく生まれ変わる……。


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