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帰る場所

作者: ショーン

ガヤガヤと喧騒が聞こえる。


私は衣装を身に纏い、次の公演に備えていた。


着付けのチェックのために鏡の前にたつ。


何度みても息が止まりそうになるほど醜い。


頬から顎にかけて肉と骨が剥き出しになった顔。


私はこの顔のためにこれまでの人生は一変した。

もともと平凡だった人生かもしれない。でも―その平凡な人生の家族も友人も大切な人も、普通に過ごすことすらできなくなった。


扉を力一杯叩く音とともにそれに負けない大声が響く。

『おぃ!デビル!始まるぞ!はやく出てこい!』


私は返事をして立ち上がると扉に足を向ける。


私は悪魔としてサーカスの見せ物としての人生を送ることになったのだ。

あの日から。










いつもと同じ朝だった。

太陽はすでに高く登っていた…昼といったほうがいいかもしれない。

携帯を開くとメールが1件はいっていた。

同じクラスのやつからだった。


ガリガリで骨張っているが、背が高い。ついでに頭が悪い。



彼の今年の受験は大丈夫なのかと本気で心配になってしまう。

メールを開けると添付されていた音楽が鳴り響いた。


反射的に飛び上がってしまった。

曲は…

「エリーゼのために」 だ。

近所の図書館でいつも流れている曲なのだが、雰囲気が嫌いで静まっているときに流れると少し怖がってしまう。

気を取り直し、文面を見る。


―カラオケにでも行こうじゃないか―



頭を抱えた。

受験競争に参加するつもりがあるのだろうか。



…仕方ない。いってあげよう。

私も人のことは言えないな…。



了承のメールを送信して、洗面台に向かう。



夏休みに剃るのをサボっていたために髭が濃厚モジャモジャだ。



いつもどおりに剃り終わり、顔を洗い。服に着替える。


…朝ご飯まだだった。



キッチンに向かい何かを作ろうとしたとき、母と親に会った。

おはようと声をかけようとしたとき、絶叫が部屋を揺るがした。


母は父にすがり、父は腰を抜かしていた。


その目は私を見つめている。

ど…どうしたんだよ?


一歩前に踏み出す度に、後ずさる両親。


何に怯え、何に絶叫したのか理解に苦しんだ。



か、かお。



両親がやっとのことで開いた口から微かに響く単語。



顔?


知らず知らず手を伸ばす。何かついてるのだろうか。

グニャ…。


…!!!


左の頬がおかしい。

感触が違う。


衝撃が体をはしり、冷や汗がでる。

全速力で洗面台に向かい顔を鏡に写す。



…!!!!!!!!!!!わぁぁぁぁぁぁぁああぁああ!!!!!!



気が狂いそうだった。いや、狂ったかもしれない。


左の頬が…頬から顎にかけての皮膚がないがない!肉も削げている。骨が見えている。



目眩がした。吐き気が胃から上ってくる。どうして気づかなかったのだろうか。

洗面台には皮膚と血がこびりついている。

私は嘔吐した。吐き出すたびに頬から血が滴る。



しかし、痛くないのだ。

皮膚も肉も削げているのに関わらず、痛みがない。



もう一度左の頬に触れる。

皮膚の感触は指に伝わらずにヌルヌルとした血と肉の感触が伝わってきた。




私は発狂しながら嘔吐した。






どれくらい嘔吐し続けたかはわからない。


両親が恐る恐るそばにより、医者に行こうと声をかけた。


私はそれに同意し、病院へと向かった。



『整形手術しかない…ですね。』

医者からの言葉は それに尽きた。


今は包帯に覆われてはいるがあの醜悪なものを見たあとではさすがに医者も気分が優れないようだ。



しかも不思議なことに、顔の傷は全くふさがらないのだ。


血はすでにとまったが、肉と骨は常にぬめり気を出し続け、乾くことはない。



家に帰り、一人で毛布にくるまった。

夢であるといい。…夢だ。



そう祈り続けるうちに眠りにおちた。



それからが地獄だった。

両親は昔どおりに接しようと努力していたが私に向ける目、手は震えていた。



学校…どうしようか。

包帯に覆われていればバレないだろうか。いや…もしバレたら…。



そう考えると、胃がよじれる思いだった。

毎日夢であるようにと祈り。

朝には絶望を感じる。

学校のことを考え苦悩する。

それを繰り返した。

バイトを探してお金をためて整形手術をしようと思ったがどこも受け入れてはくれなかった。莫大な費用がかかったのだ。


秋に近づく頃になった私は決断した。



両親に相談しようと思ったが止めた。



私は手紙に学校を辞める件と両親にはもう迷惑をかけないことを書いた。涙で紙にシワを作ってしまい読みにくいものになってしまったが何度書き直しても乾いた手紙は書けなかった。



両親の寝室のテーブルに手紙を置き両親の寝顔を目に焼き付けるように見た。

いつも笑顔で接してくれた母。厳しいが本当は優しい父。今までの思い出が溢れ帰ってくる。

ここにいたい。




そう思った。頭をふってその思いを振り払うと、部屋の出口へ足を向ける。




今までありがとう。




と呟いた。

面と向かっては言えない。



これからどうするかは考えてない。

一人で旅に出ようか。死んで楽になろうか。



決断はできなかったが、ここにはいれないと思った。

だから、



17年間の思い出が詰まった家を、ただいまと言えた場所を後にした。



いってきますとは言えなかった。






それから一ヶ月くらいたっただろうか。


私は暗く人通りのないスラム街にいた。

ところどころに貧乏人が地に伏している。


私はその中の一人としてここで生活を送っていた。

皆、腕がなかったり、目が抜け落ちていたりと、事情を抱えた人が集まっている。



しかし、私のような事情を抱えた人は珍しかった。


皆がぎょっと目を見張るのだ。そして、距離を置く。


何人かは物怖じせずに近づいてきてくれるのが救いだった。



夜はいつも空を見上げ、家族を友人を…思い出した。




ある朝。

いつもより活気にあふれたスラム街に戸惑いながら目が覚めた。


サーカスが来ているらしい。


私は皆とサーカスを見に行った。


このサーカスは旅をしながら公演し、時々このスラム街に来て、皆なお金や食べ物を配っているのだ。


私も空腹にあえぐ毎日が続いたため、気を抜いて夢中で飯にくらいついた。



そのせいで包帯が外れ、顔があらわになってしまった。



…!

サーカス団の一員が驚いた顔をし、一目散にテントの中へと逃げ込んだ。



私はそんな光景には慣れていたので残った団員に飯の礼を言うと、寝床に引き返そうとした。





『君!待ってくれないか。』



そう引き留めたのはサーカスのテントから出てきた大柄な男だった。傍らには先ほどの男もいる。




面倒ごとにはもう疲れていた私は踵を返してその場を去ろうとした。



しかし、その大柄な男は私の腕を掴むと強引にテントへと引っ張っていく。



抵抗しようにも相手の力がとても強く、どうにかなるものでもない。



何を思って私を連れていくのだろう。



もう、どうでもいい気になり、なされるがままにテントへと引き込まれた。



テントの中は暖かく、中にはサーカスメンバーが揃っていた。



その中央に立たされ、向かい側に大柄な男が立った。




『なかなかいいだろう。』

と逃げ出した男が皆に言った。


この男は逃げ出した訳では無さそうだった。



『団長、どう思います?』

と続けて大柄な男に語りかけた。


大柄な男はこのサーカスの団長らしい。

やりとりから察すると私は品定めをされているらしい。この顔のことだろうか。

『君…その傷は?』

団長はそう尋ねてきた。



私は何を思ったのかことのあらましをすべて話していた。



話を聞いていた団長は『つらかったね』と私の肩に手をのせた。



ここにはそんな訳ありのやつらが大勢いる。

と付け足した。



『ここで、働かないか?』

団長の一言に私は驚いた。



このサーカス団はホラー系の芸を売りにしており、メイクも衣装もおぞましいものが多いというのだ。

確かに私の周りに集まった人の大半はそんなメイクと衣装を身にまとっていた。



『見せ物になれといっているんじゃないんだ。君のその傷は確かにもとの場所では異質かもしれない。地獄も見ただろう。

だが…ここではその傷は才能だ。ここで働いて、整形手術の費用も稼げる。それに…普段からメイクをしていると言えば、町にでても怖がる人も少ない。

どうだろう。考えてみないか?』


それから少し時は流れ






私はここにいる。



『おい!開演間際だぞ!客も来てる!』

どうやら昔を思い出して呆けていたらしい。

そうだった。開演間際だったんだな。

『お前にも客さんが来てるからな!俺は先に行ってるぞ!』

客?…誰だろうか。私をわざわざ訪ねてくる人はいないはずだ。

控え室の扉をくぐると見覚えのある顔が3つ並んでいた。

思い出される学園の日々。


三人はバイトをそれぞれ始めていて私に協力してくれるといった。すでにけっこうな額を貯めているらしかった。

私が家を出た後学校を辞めた私の家にいき全てを聞いたらしい。



私は胸が熱くなった。

こんな醜い顔でも受け入れてくれるのか。

手をさしのべてくれるのか。



涙が込み上げてきたがなんとかこらえた。

涙ではなく、私のショーで迎えたかったのだ。




『ありがとう。本当にありがとう。積もる話もある。伝えたいことで一杯だ。だけど、まずは私のショーを見てくれないか?』



私の提案に彼らは笑顔で答えてくれた。




ここにはサーカスが、受け入れてくれる人がいる。

帰る場所がある。




だけど、




昔の生活に戻りたい。

両親に会いたい。






だから、精一杯ショーをしよう。






スポットライトが私を照らす。



醜い顔があらわになる。




私は悪魔だ。



観客に礼をする。



テントを歓声が包み込んだ。






いかがでしたでしょうか。

文章、表現ともに至らないところが多々ありますが、少しでも楽しんでいただけたらと思います。精進して参ります。

さて、この物語なのですが、友達の夢がもととなっております。もちろん許可は得ています。


自分の顔の肉を削ぎ落としてしまう夢なんて見たくはありませんが、夢というものは全く考え付かないシナリオやテーマを与えてくれるものです。

今後も普段思い付かないようなものを見せてもらいたいです。

そして、それをもとにした短編ももっと文章、表現ともに皆様に伝わるように書いていきたいと思っています。

また、そのうち連載もしていきたいと思っています。

この短編に目を通して頂いた方々、ありがとうございました。


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