異世界イオルディア・1 ランシーグ大陸・ジルヴァ王国王都シルヴィール周辺
ばっちりだ。
ばっちりのはず……。
だが、うーん、夢のようでもあった。
夢のように記憶がおぼろげにならないことを祈る。
俺は目を開けた。
そこは、何も無い平原だった。
お日様がポカポカ降り注ぎ、そよ風が俺の頬を撫でる。
360度何も無い、……わけでもなく、うっすら山やホコリ程度に見える木々や壁、……壁? などが見える。
さーて、俺に与えられたものってのはどこにあるんだ?
両手を広げて見た。
なんもねー。
来ているのは下校時の制服だけ。
死んでも服が破けていたりしないのは助かった。
さて、どうしたものか……。
……まあね。
気のせいでは無ければだけど、胸の内から俺に呼びかけてくる声があるんだよね。
リューゼンセルバさんの説明の通りなら、「武器」か「軍勢」だよな。
「軍勢」は複数形なのでおそらくは「武器」の方だろう。
出でよ「武器」よ。
どうだ、……まだか? はやくしろよ。
ふむふむ。
「武器」が言うには形を決めて欲しいんだと。
まあそうだわな。
形が無けりゃどうにもならんよな。
だが、まあその前に。
決めたら形って一回きりなのか?
こういう落とし穴は潰しておかないとな。
「武器」は言う。
いいえ、そんなことはありません。
よぅし、それなら。
傍に美しい女が控えていた。
すでに記憶はおぼろげだが、リューゼンセルバの容姿と理想的体型を持つ女だ。
理想的体型……、まあ母ちゃんの体型なんだけどな。
中学生の頃は母ちゃんのデカパイを見るために、着替えている所をこっそり覗き見したものだ。
まあ、見つかっちまって、すげー恥ずかしい思いをしたこともあったけどな。
その時は開き直ってゴリ押しで一緒にフロに入り、赤ちゃんの真似をしてお乳も吸った。
母ちゃんの母乳がまだ出ていることを初めて知った瞬間だった。
まああとで父ちゃんには、凄く心配されたけどな。
家族で病院行くか、という話になって、必死で止めたのは今でもドキドキする思い出だ。
俺は傍でかしずく女に声をかける。
「お前が武器か? 」
「はい、私はあなた様専用の武器です」
「名前は? 」
「まだありません、付けていただければ幸いです」
「ではお前の名前はリューだ」
安直でゴメン。
「はい、解りました。わたしはリューです」
リューが俺の方を見上げる。
「じゃあ、立ってくれ、それじゃあ話しづらい」
「はい、では失礼します」
あれ? リューゼンセルバさんの顔、こんなんだったかな?
なんか、もうちょっと……、いや、もう覚えてねーわ……。
しかしこれが、俺の理想の女か……。
しみじみ思うよ、俺ってヒドイ奴だよな……。
リューの中に、レナ要素も香要素も全くねー。
すまんお前ら、俺のことは忘れてたくましく生きてくれ。
「主様、なにか? 」
「あ、いや名前で呼んでくれ」
「ではタケヒロ様と……」
「うーん、そうだな、久住と呼んでくれるか、名前で呼ばれると家族のことを思い出す」
「承りました。ではこれからはクズミ様とお呼び致します」
「ああ……、……それから、リューよ、お前に最初の命令を下す」
「はっ、なんなりと」
「動かず、目を瞑れっ」
「は? はぁ、承りました」
素晴らしい、なんという感触だ。
母ちゃんのおっぱいは気恥ずかしさもあって、ろくに触れなかったが、リューになら触り放題、揉み放題だ。
指が沈み込み、見えなくなるほどやわっこいのに、弾力があるんだ。
…………
…………
…………
「クズミ様、その……」
「なんだ、どうしたリュー? 」
「そろそろ、場所を移動しませんか? そろそろ日も暮れてきましたので……」
はっ、そうだった。
影を見ると最初に平原を見た時より大分長くなっている。
たしかに、日が傾いて来ているようだな。
「夜になれば夜行性の生物が徘徊します、早急に対応せねばなりません」
「なにもないように見えるが、どこから来るんだ」
「そうですね、遠くに見える森や地面の下から、後は、闇から生まれる魔物もいます」
「そんなモノもいるのか、それで俺はどうすれば良い? 自慢じゃないが、生死をかけた戦いなんぞしたことがないぞ」
「はい、ですから、王に与えられた三つの力、「軍勢」を出して下さい。絶対安全とは言えないフィールドでも生き延びることが出来るでしょう」
「「領土」は? 「領土」の方はいいのか、それとも何か条件があるのか? 」
「大丈夫です。安心してください。「領土」は既に出ています。「領土」は王を中心に移動しますので特に気にかける必要はありません」
「そういうものか……。切り離すことはできるのか? 」
「……できます。正し、「領土」は王を護る盾でもありますので、「領土」から出ることは自殺行為にも繋がることを心に刻んで置いてください」
「威すねぇ」
「王はこの世界に転生したばかり、まだ弱いのです。そのことを肝に銘じていただけると助かります」
ふと、気になってリューに訊いた。
「俺が死んだらリューはどうなるの? 」
「もちろん死にます。私たちは、いえ「武器」も「軍勢」も「領土」も王が死ねば消滅します。ですから私たちは一蓮托生です」
「リュー、もしかして、少し怒ってる? 」
「……怒ってませんっ」
「……最初期に時間を無駄にして、すまん」
「……いえ」
「で、「軍勢」を出すんだったな? 」
「はい、クズミ様、王が強くなれば私たちも強くなり、私たちが強くなれば王も強化されます。私たちと王は相乗効果で強くなるのです。ですから、常に出しっぱなしで良いでしょう」
「そういうものか、何かデメリットは無いのか? 」
「特にこれといって、……いや、そうですね、目立つ、でしょうね」
「目立つ……」
「はい、敵対者がいるとすれば、格好の的となるでしょう」
「敵対者はやはりいるのか? 」
まあそうだろうとも、何故三つも力を与えられて護られる必要があるのか、と考えれば敵対者くらいはいるのだろうな。
「はい、敵対者に見つかれば苦戦は免れません、それどころか最弱の今なら、そこらの雑兵にだって敗北は必至でしょう」
「威すねー」
「威してませんっ。もう日が翳る、はやく「軍勢」を出して下さい。夜行性の危険生物たちが王を襲う前にっ」
「わかった、わかった、そう急かすな」
俺は身体の内のもやもやしたモノを外に出す。
「出でよ」
俺の側に五体の下僕が現れる。
皮膜の翼を生やした女たちだ。
蝙蝠の羽というよりは、プテラノドンの羽かな?
「……これは戦乙女……」
「おお」
「……系の最初期タイプ、羽娘です」
「なあ、なんかみんな裸みたいに見えるけど」
「はい、どの系統でも最初期の兵士は武器も防具も着衣もありません」
「それ、なんとかなんないの? 敵に嬲り殺しにされるとか嫌だよ? 」
「もちろんです、領土には王城が付随しているのです。王城に行けば武器庫に武器と防具があるはずです」
「そうか、なら……」
「……本来、王城は森林地帯や山岳地帯など、人目に付かない所に出した方が良いのですけどね、でないと目立って仕方が無いですから。一夜にして立派な王城が建っていたら、誰でも不審に思うでしょう? 」
「リュー、……なんか俺に対する扱い、雑になってきてない? 」
「そのようなことありません、気のせいです、さあ、早くしてください。出すのですか? それとも出さないのですか? 」
「出さないという選択肢もあるのか? その場合はどうなるんだ? 」
「その場合は危険な一夜をやり過ごすことになります。兵士たちは囮として役に立ってもらいます」
「「軍勢」の兵士たちはどうなるんだ? 死んでも復活するのか? 」
「死んで復活しているように見えても、それは別の個体です。死んだら復活しません」
「そうか、なら大事にしないとな」
リューは初めて愁眉を開いた。
キツメの顔立ちだなと思っていたが、初っ端からピンチだったので厳しい顔をしていたようだな。
最初期から苦労をかけてすまん。
自分が恥ずかしいよ、これではまるで赤ん坊を引いた「武器」のようじゃないか。
「そう思って頂けるなら彼らも王のために奮起することでしょう」
「そうだ、暗くなってから王城を出せば目立たないんじゃない? 」
「それは、そうですが、その説でいけば、明るくなる前に王城を隠す必要があります」
「一回出したら、回収できないとか? 」
「いえ、そのようなことはありません、ただ単に、徹夜するか早起きしなければならないだけです」
「……そのくらいなら、……リューは眠る必要があるのか? 」
「いえ、寝ることはできますが、眠る必要はありません」
「なら任せた、明け方になる前に起こしてくれ、……待てよ、人里から離れているなら、そんなこと気にしなくてもいいんじゃないか? 」
「ハァーーーッ」
「なんだよ、その盛大な溜息、俺は真剣なんだ。だからお前も真剣に付き合え」
「はあ、最初に周囲を見回したとき、壁はありませんでしたか? 」
「おお、あったな」
「あれは人工物です。すなわち町の城壁です」
「なんだと、だったらそこに逃げ込めば良かったんじゃないのか? 」
「そうですよ、クズミ様は無駄にお過ごしあそばされましたが? 」
久住健宏
HP10056
MP10564
王クズミLv1
「武器」→名前取得「リュー」、自我取得、Lv1+2→Lv3
「軍勢」Lv1
「領土」Lv1
称号:王の資質……HP+10000、MP+10000、各種パラメータ上昇