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聖王ルシュミの物語  作者: 銀雷
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次元の狭間・2




 ここは、どこだ……?

 暗い、ひたすら暗い場所だ。

 

「…………」


 な、なんだ?

 心に直接、響いてくるような……。


「…………ますか…」


 なんかもやもやするな。


「………聞こえますか? 」


 おお、だんだんはっきりと聞こえてきたぞ。


「わたしの声が聞こえますか? 」


 声が聞こえるとともに前方に光が灯る。

 女だ。

 見上げるほど大きな女が俺の心に直接話しかけているようだ。

 体感では俺の三倍はあるね。

 女は光沢のある紫紺のバスローブのようなものを着ている。

 巻き毛の黒髪は腰まであり、目は琥珀色。

 驚くほど美しい女だ。

 惜しむらくは横を向いていることか。

 女は左を向いており、俺を見ようとはしない。

 手も足も少し広げ、指は五本とも指先まで伸ばしている。

 見えない壁に貼り付けられているかのような姿勢だ。


 おい、こっちを見ろよ、失礼だろ?

 話をする時は相手の目を見ろって教わらなかったのかよ。

 俺は女の顔を全部見たい一心で、理論武装したヤジを飛ばす。


 女は俺の心の叫びには答えず、話を進める。


「最初にことわっておきます。この姿は残留思念のようなもの、わたしに話しかけても応答はできません」


 あ、なんだ、そうなの……。

 がっかり……。

 俺のテンションが駄々下がりに下がる。


「わたしの名前はリューゼンセルバ、短い間ですがよろしくお願いします」


 へえ、リューゼンセルバって言うのか、外国人なのかな?

 あっ、そうだ、さわれるのだろうか……。

 本人の目を気にしないでいいなら、気楽なものだ。

 俺は大胆にもリューゼンセルバさんの胸の膨らみに近づく。

 この空間に床はなく、上下の区別も無いが、上下左右自由に浮遊移動できるようだ。

 彼女はもともとの姿形が大きいから相応に胸もデカイ。

 とはいえ、等身大として考えればCカップくらいかもな。

 勝手なことを批評しつつ、指先を胸につける。

 期待した感触はなく、指先は紫紺のローブを突き抜ける。

 手を握ったり開いたりしても同じだ。

 なんの感触も無い。

 あ、ああ……。


「落ち着かれましたか? 」


 なんだこれ……?

 本当に残留思念のようなものなのか?

 随分、俺の心情にタイムリーに受け答えしているように思えるが……。

 気を取り直した俺はローブの下部を覗き込もうとした。


「いい加減にしなさい、話を進めますよ? 」


 うお、怒られた、リューゼンセルバさん、実はどこかで見ているのか?

 疑念を込めて彼女の全体像をとっくりと見る。

 気のせいか……、瞬きしているような。


「私はリューゼンセルバ、死せる魂に呼びかける者です」


 死せる魂……、俺のことかな?

 そうだ、たしかに俺はあの時、あの瞬間、視界がはみ出るほどのトラックを見た。

 記憶があそこで終わっていることから、あの後、俺は死んだのだろう。

 あーあ、結局おじさんの忠告を無駄にしてしまったな。

 俺は死ぬと解っていて女の子を助ける程、自己犠牲的な人間じゃない。

 俺を必要としてくれる人も何人かはいたわけだしな。

 だがまあ、死んじまったものは仕方が無い。

 母ちゃんのことはおじさんに任せよう。

 香は逞しいから大丈夫な気がするが、レナとかどうなるのだろうな。

 レナの家の前で睨みつけていた人って、ひょっとしてレナの親父さんだったのだろうか。

 レナはまた盛大に泣いているのかもしれないな。

 頑張れ親父さん、レナを頼む。

 

「……久住健宏さん、あなたには王の素質があります」


 あ、やべ、聞き逃した。

 もっかい、もっかいお願いします。


「あなたには私が拡張し、生み出してしまった世界の一部を統治して欲しいのです」


 ……かまわず話、続けるのね。

 でもこのリューゼンセルバさん、凄いことをサラッと言っているよな。

 世界を生み出したって、神さまかなんかなの?

 女の人だから女神? 

 でも残留思念ってことはもう死んでいるんだよね。

 

「王であるあなたには、三つの贈り物が与えられます」


 へー。

 なんだろうね。

 ワクワクするなあ。

 というか、話を強引に進めるなら、もう流れに任せるしかないという……。


「一つは武器。意志を持ち、千変万化に変化する武器です。あなたの良き相談相手になってくれることでしょう」


 喋る剣か、定番だね。

 あ、変化するんだったか、剣とも言い切れないわけね。


「一つは軍勢。あなたを決して裏切らない兵士たちです。あなたの力となってくれるでしょう」


 決して裏切らない絶対服従の兵士。

 ロボット?

 狂信者とか?

 大丈夫なんだろうな、なんか落とし穴とか無いだろうな?


「一つは領土。軍勢に力を与え、敵対勢力の力を削ぎます。あなたを護る盾となることでしょう」


 領土? 統治する場所とはまた違うのか?

 軍勢に力を与えるってことは地形効果みたいなものなのか?

 なんかこう、解るような、解らないような説明なんだよな。

 まあ説明自体が自動みたいだから、仕方がないといえば仕方がないのか?


「死したあなたには転生してもらうことになります」


 転生……、赤ん坊から始めるってこと? 


「と言っても、赤ん坊から始めるわけではありません」


 おお、タイムリー。

 誰もがまず思いつく定番の疑問なのかもね。


「あなたが生きた時間の中で、最も充実した肉体の移し身が与えられます」


 うーん、解りにくいが全盛期の肉体ってことかな?

 老人とかならかゆい所に手が届く、嬉しい特典なのだろうが、俺の場合はどうなんの?

 ……ひょっとして今のままかな、そうなるよな。

 まだ全盛期まで成長していないってことだものな。


 でもこれってもっと幼い、例えば赤ん坊とかが選ばれた場合は、赤ん坊からってことになるのか?

 リューゼンセルバさん自動的だし、赤ん坊なら訳も解らず聞き流して異世界に放り出されるのだろうか……。

 「武器」と「軍勢」あたりが救済措置になるのかもな。

 なんとか守り立てて成長を見守るのだろうか。

 そう考えると赤ん坊を引いた「武器」と「軍勢」は苦労しそうだな。

 なむなむ。


「…………ます」


 あ、また聞き逃した。

 しまった、「武器」と「軍勢」の悲哀とか、今まったく関係ない余計なことに頭を使っちまった。

 なんだ? 俺の全身がぼんやりと輝き始めたぞ。

 輝きがどんどん強くなる。

 これ、もう時間切れ、次行くよって合図じゃないの?


 待って、待ってくれ、俺にはまだやり残したことがある。

 俺は灰色の脳みそを高速回転させて、今やるべきこと取捨選択する。

 ローブの下から覗き込むのは、やめておこう。

 時間が無いのにまた遮られたら致命的だ。


 だから俺は潔く下は切り捨て、リューゼンセルバさんの顔の辺りまで上昇する。

 そしてまわり込んだ。

 横顔だけじゃ物足りない。

 リューゼンセルバさんの正面の顔を見るために。




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