戦時記録1:最後の攻勢プロローグ
寝る前にしてる妄想が覚えきれなくなったので記録してます
戦時記録1:最後の攻勢
◆プロローグ◆
その世界は戦火の動乱の中にあった。
世界列強諸国による領土争いは、激化の一途辿り、いつしかそれは開拓戦争、世界大戦と呼ばれる様になっていた。
銃声と悲鳴が響き渡り、砲弾が炸裂する轟音が木霊する戦場。
開拓協商連合フルール共和国軍の塹壕内。
「ミズキッ!!ミズキ・フランソール!!」
そう自分の名を呼ぶ声にミズキは意識を取り戻した。金色の少しクセを帯びた髪と白い肌の少女。サファイアの様に青い瞳は淀んでおり、未だ意識が不鮮明である事を示していた。整った顔と青い軍服には土と血液が混じった泥がこびり付き、所々には擦り傷が目立つ。
「寝ている暇はないッ!!囲まれるぞ!ゲール兵がすぐそこまで迫っている!」
ゲール兵。開拓協商連合と敵対関係にある開拓同盟の大ゲール帝国の兵隊の事だ。
その言葉でミズキは、ようやく思い出した。
ここは西方戦線。フルール共和国と大ゲール帝国の中間に存在する戦闘区域であり、開拓歴914年の開戦以来、開拓918年現在まで昼夜を問わず、砲弾が飛び交う激戦地だ。
何せ、ここ西方戦線の兵士死亡率は40%以上と言われているくらいだ。
ミズキは辺りを見回した。
昨日の土砂降りの雨でぬかるんだ塹壕には大量の友軍
兵の死体が転がっており、中には腐敗している死体もあった。また負傷した兵士が壊れた笑みを浮かべ、現実逃避もしていた。
「何をしている!ミズキ!」
「は、はい!」
上官の怒声に彼女は、近くに落ちていた軽機関銃を手に取った。軽機関銃といっても元は重機関銃を軽量化した物だ。ズッシリと重たいそれを塹壕の縁に固定し、機関部に張り付いた泥を軽く払う。既に薬室には弾丸が装填されている為、ミズキは引き金を引いた。
毎分450発の速度のフルオート射撃は、迫り来る黒い軍服を身に纏うゲール兵の胴を撃ち抜いて行く。
瞬く間に弾を撃ち切った機関銃に、ミズキは震える手で新しい24発入り保弾板を差し込み、コッキングレバーを力任せに引っ張った。内部に入り込んだ泥がガリガリと音を立てた。それは黒板を釘で傷付ける音に似ていた。
「撃て!撃て!弾幕を張れっ!!ゲール共に照星を覗かせるな!!」
その時だった。ミズキ達が潜む塹壕にポテトマッシャーの様な形をした物が投げ込まれた。
それはゲール軍が使う7秒信管の手榴弾であった。
ミズキは咄嗟に近くに倒れていた死体を塹壕に転がる手榴弾に押し付け、全体重をかけた。
爆発の強烈な振動で頭が揺れる様な気がした。
ミズキは間一髪で危機を脱したが、それはあくまでも延命にしかならない。
どこからが銃声が鳴り響き、友軍の断末魔が聞こえた。
「気をつけろ!!奴らは新兵器を持っているぞっ!!」
上官の声を聞き、ミズキはフルール軍塹壕内にゲール兵が侵入した事を理解した。
そして、それは絶望的状況だ。
何故なら、次々と塹壕内に突撃してくるゲール兵の手には機関銃を小型にした様な武器が握られている。それは機関銃よりも短く狭い塹壕内での戦闘に特化した形状であり、尚且つそれはフルオート火器だった。
「うわあああああっ!!」
ミズキは大声で叫び、自身を刻々と支配しつつあった恐怖心を叩き潰し、泥まみれの兵銃を突撃して来たゲール兵に突き立てた。
死と混沌が支配する西方戦線で起こったゲール帝国最後の攻勢であった。