極論男・2
『何故、野球部は坊主頭なんだい?』
俺はその問いに答えられなかった。
『カルロス、ごめん。解らん』
『日本人でも解らないのか、不思議だね』
カルロスは親が経営する町工場にアルバイトに来てくれている、ブラジルと日本のハーフだ。
俺はサッカー部の部活のあとに工場を手伝いながら考える。夏休みの小遣い稼ぎ。
中学生の野球部も坊主頭だ。髪の毛は脳を守る為に生えてると聞いた事がある。野球はヘルメットをするが、髪の毛を伸ばしてた方が安全性が高いと思う。
プロ野球でもピッチャーの暴投でバッターの頭に硬球が当たり、踞ってる場面を何度か見た事ある。
何故、野球部の生徒は坊主頭が暗黙の了解のように皆してるんだろう?
親に聞いてみる。返ってきた答えは、『坊主の方が清廉性があるだろ? 帽子を被るから蒸れ対策でもある。カツノリ、1つ賢くなったな』
更に訳が解らない。球児面は不細工が多いイメージだ。サッカー部と違って。なのに清廉性なんているか? それに蒸れるより頭部を守った方が健全だと思うけど……。
何やら工場のテレビの前に従業員3人が集まってる。
『皆、どうしたの?』
『甲子園のマウンドに女子マネージャーが上がっちゃったみたい』
『えっ!? マウンドに女子マネージャーが行くのってダメなんですか?』
『そうだよ、伝統のある神聖な場所だからね。カツノリ君はサッカー部だから知らないか、ハハハ』
更に更に謎が深まる。大相撲の土俵に女性が上がっちゃダメってのは聞いた事あるけど、野球もか。
じゃあ何で野球部は大銀杏を結わないんだろう? 四股も踏まない。
『また、延長ですかね』
『9回裏ツーアウト、ランナーなし。0対0で白熱してるから延長に入るかもね』
『この後に観たい番組があったけど、絶望的ですね』
野球は終わる時間が長引くケースが殆どだ。サッカーは90分で終わる。延長戦、PKになったとしても終わる時間は大体読める。
野球は9回から7回くらいに減らすべきだ。デイゲームならまだしも、ナイターだったら照明の電気代が勿体ない。
俺は仕事を終え、居間でソファーに寝っ転びながらテレビの討論番組を観ていると、ナードな元プロ野球選手の老人は野球の試合時間短縮に触れられると激怒する。「じゃあサッカーの試合を60分にするんですか? テニスの試合のゲームカウントを減らすんですか?」
『いやいや! 野球は終わる時間が読めないし、地上波でやられたらテロだし!』
巨人大鵬玉子焼きの時代じゃないんだよ?
サッカーと違って野球が世界で流行らないのはつまらないからだよ?
アメリカで流行ってるイコール世界で流行ってるとするなら、日本はアメリカの属国だね。
俺は1つの答えに辿り着く。
カルロスも仕事を終え、帰って行こうとした時、俺はカルロスの元へ行き、『カルロス! 解ったよ! 野球部が坊主頭なのは変態だからだよ! 深く考えちゃダメ』
『なるほど、納得!』
こうして、俺は平和な夏休みを過ごすのであった。