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創作民話

死神の寿命袋(創作民話 2)

作者: keikato

 その昔。

 ある村に怠け者の男がおりました。

 この男、ブラブラ遊んでいるばかりで、働く気がこれっぽっちもありません。食うことにこまると食べ物を盗んできては、その日をやり過ごすといった日々をくり返していました。


 ある雨の日の夜。

 男は腹をすかせていました。しかし、雨にぬれてまで盗みをするのもおっくうです。

 どうしたものかと迷っていますと……。

 トン、トン。

 入り口の戸をたたく音がしました。

 男は面倒くさそうに立ち上がると、「だれだ?」と戸の内から声をかけました。

「旅の者でございます。今夜一晩、泊めてはいただけませぬか?」

 外から弱々しい声が返ってきます。

「よそで頼んでみな」

「どうかお願いでございます。食べるものなら持っておりますので」

 旅人が食べ物を持っているとわかると、男はにわかに気が変わりました。

「食い物を分けてくれるのなら、一晩ぐらい泊めてやってもいいがな」

「ええ、けっこうでございますとも」

「じゃあ、中に入んな」

 男は戸を開けて、その旅人を家の中に入れてやりました。

 旅人はみすぼらしい老人で、首に薄っぺらな袋をさげていました。

「じいさん、食い物を出してみな」

「では、ここに釜を」

 老人は首の袋をはずすと、ふところから小さな茶碗を取り出しました。

 食べ物は袋の中に入っているようです。

――たいしたもんじゃなさそうだな。

 それでもなにも食わないよりましです。言われるままに、さっそく男は釜を取ってきました。

 老人が袋の中に茶碗をつっこみ、ゴソゴソしたあとなにやらすくって出しました。

「おう!」

 男はたいそうおどろきました。

 それがまぎれもない白い米だったからです。

 茶碗で三杯、老人は米をすくって釜に移しました。

「これほどでよろしいでしょうか?」

「いや、もっとだ」

 男は強く首を横にふりました。

 それから数杯の米を釜に移したところで、老人が男の目をうかがい見ました。

「いかがでございましょう?」

「泊めてやるにはこれっぽっちじゃたりんな」

「では……」

 老人はさらに移し続けました。

 たいして大きくもない袋から、なぜか米が次から次と出てきます。

 男はたまらず聞いてみました。

「なんとも不思議な袋だな?」

「これは寿命袋と申しまして、神様からいただいたものですから」

「寿命袋だと?」

「はい。袋を持つ者の残りの寿命が米となって入っている、さようなわけでございます」

「なあ、そいつをゆずってくれぬか?」

「これには今、わたくしの寿命が入っております。ですのでおゆずりすれば、わたくしは寿命がなくなることになります。どうかごかんべんください」

「オマエの寿命なんぞいらん。その寿命袋とやらだけでいいんだ」

「この袋は、中に寿命が入ってるからこそ米が出るのです」

「そうか……」

「では袋はこのままにして、あなた様とわたくしの寿命を取りかえるのはいかがでございましょう」

 寿命を交換すれば、残りの寿命の長いおのれが損をします。ですがその分、この先ずっと楽をして米が手に入ります。

「よかろう」

 男は楽をすることを選びました。

「では、この寿命袋。これからはあなた様のものでございます」

 老人が男の首に袋をかけて言います。

「茶碗一杯出すごとに、一日分の寿命が減ることになります。くれぐれも食べ過ぎませぬよう」

 こうして……。

 男は寿命袋を手に入れたかわりに、老いた旅人と寿命を取りかえてしまいました。


 翌朝。

 男の寝ているうちに旅立ったのか、老人は別れも告げず消えていました。

 さっそくのこと。

 男は袋に茶碗を入れすくってみました。すると、夕べと同じように白い米が出てきます。

――夢じゃねえ。こいつはなんとも奇妙な袋を手に入れたもんだ。

 それからというもの。

 男は畑仕事もせず、盗みもせず、ただブラブラと過ごしていました。腹がへれば袋から米を出して食えばいいのです。

 袋からはとめどもなく米が出てきます。

 多いときには一日十杯ものメシをたいらげました。

 もともと袋の中には、老人の残りの寿命分の米しか入っていません。ゆえに一年が過ぎるころには残りわずかとなっていました。


 ある晩のこと。

 男の家の戸をたたく者がいました。

「だれだ、こんな夜分に?」

「あのときの旅の者でございます」

 それは聞きおぼえのある声で、あの夜の旅人がふたたび訪れたのでした。

「おう、あのときのじいさんだな。今になってなんの用だ?」

 男は戸を開けずに聞きました。

「そろそろ寿命袋がからになるころではと」

「いや、まだたんまり入っておるぞ」

「さようでございますか。ではまたのちほど、おうかがいすることにいたしましょう」

 旅人はそう言い残して立ち去りました。

――からになるだと?

 旅人の残した言葉が気になり、男はあわてて寿命袋の米をすくってみました。

 一杯目は茶碗いっぱい出てきました。

――ふん、おどろかせやがって。

 二杯目をすくってみます。

――えっ?

 茶碗に米がありません。

 それからはどんなにすくっても、一粒たりとも茶碗に入ってきませんでした。

 男はくずれ落ちるように、その場にヘナヘナとへたりこんでしまいました。

 先ほどの一杯は最後の一杯だったのです。ということは、男の寿命は今夜までということになります。


 次の日の朝。

 男は息絶えており、そばには寿命袋がありました。

 死神の寿命袋が……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄い面白かった。 なんで K.Kさんが作家さんになっていないのか不思議。 コメディ.ホラー.童話.どれを読んでも その辺りの本職の作家より格段上だと思います。 本文) …
[良い点] 死神の寿命袋というアイデアを、さりげなくストーリーに絡ませてあり、面白かったです。登場人物がずっこけて終わるのはショートショートの基本ともいえると思いますが、今作もそのとおりですね。 話に…
2018/01/24 07:24 退会済み
管理
[良い点] おかずが欲しいところですが、白飯に塩をかけただけでも十分にご馳走ですね。 むしろ昔話なのだから、米が相応しいでしょう。 寿命を米に換算するというのは面白いです。 今風なら死神の寿命袋に入っ…
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