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家政婦、或はメイド

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 充嗣は一つ困ったことがあった。

 現実世界ではごくごく平均的なサラリーマンだった充嗣、そんな彼が直面した非常に贅沢な困りごとだ。自宅のソファ、とても柔らかいそのソファに埋もれながら見つめる端末画面。そこには「460,000,000」の文字が並んでいる。

 何を隠そう、充嗣の稼いだ金である。日本円にして四億六千、ドルにして凡そ四百六十万ドル。前回の準備金を差し引いた金額と、今回の強盗で稼いだ金がちまちまと充嗣の懐に転がり込んで来ているのだ。無論、そこには最初から存在している金、つまり充嗣では無く巳継の稼いだ金もある。しかし実際問題、その殆どは前回、前々回の強盗で稼いだ金だった。


「……何に使えば良いのだろうか」


 金の使い道がない、今なら巳継が骨董品を買い集めていた理由が分かる。単純に金を使う理由を欲していたのだ。

 贅沢な悩みだが、何とも溜まっていく一方と言うのも中々クルものがある。

 しかし十分に快適な自宅が有り、乗用車もあり、特にこれといって趣味のない充嗣は大金を持て余していた。そもそも現実世界で平均的な収入しか持たなかった充嗣は金持ちの道楽を知らない、唯一好きなゲームと言えどハード込みで買い漁って幾ら掛かるのか。ゲームソフトを百本大人買いしても今の充嗣にとっては少しも痛くない。一万円の出費と聞くとかなりダメージを受けていた充嗣だが、いまや百万円をポンと使っても痛くも痒くも無い財力を手にしていた。


 こんな事ならロールにでもついて行けば良かったと少し思う、或はミルかマルドゥック辺りに遊び方とでも言うのか、金の使い方を教えて貰えば良かった。レインという選択肢が浮かばなかったのは異性故か、そこは考えない事にする。


「取りあえず外に出てみて、それから考えれば良いか……」




 



 町へと繰り出した充嗣は取り敢えず手始めに高級料理店へと足を運んでみる事にした。充嗣の乏しい想像力の中で金持ち=良い物を食っているという謎方程式が成り立ったからである。テレビやアニメ、漫画やゲームの世界では大体一回の食事で十万とか、そういう食事をポンとしてしまうのが金持ちという奴だ、多分。


 しかし、突然高級料理店で飯を食べようと思っても、そもそもどこならば高級なのかとか、実際にそういう店は完全予約制だったりとか、そういった弊害が存在する。そもそも充嗣は滅多に外食などをしない為、どこにどんな店があるかも知らない。ルームサービスで食事などはマンションで済んでしまうからだ。結局三十分ほど町を歩き回ったが、いまいち「ピン」と来る店が無かった為、高級料理店は断念。

初手から躓いた充嗣は、自分の中で『セレブっぽい事』を思い浮かべる。こんな思考を持っている時点でそもそも庶民的なのだが、この際気にしない事とする。


 次に考え付いたのはエステだった、何かこう、セレブと言うと全身マッサージとかをリゾート地で受けている印象がある。しかし充嗣は正直そう言った肌やら何やらに金を掛ける人種ではなかった。それに今の充嗣は巳継であって、そんなとってつけたような美容など必要ないほどに格好良い。ではいっそのことリゾート地にでも行くかと思考、しかし一人旅をするくらいなら部屋でネットサーフィンでもしていたい、というか絶対そっちの方が良い。


「あれ……もしかして俺、セレブ向いてない?」


 事この時に至って充嗣は、そもそも自分はセレブっぽい生活に向いていない事に気付いた。染みついた庶民根性とでも言うのか、いきなり大金を手に入れても人間そう簡単には変われないらしい。




「そこで俺に電話したと、そういう事か」

「……そういう事だ」


 十分後、充嗣の前には私服姿のミルが居た。いつもスーツ姿なので私服姿は新鮮だ、といってもその装いはあくまでフォーマルであり、いつもと比べればという但し書きが付くけれど。どうやら今日は休日で、家でゆっくりしていたらしい。休暇中に申し訳ないと謝罪すると、「別に構わんよ」と手を振られる。


「しかし、金の使い方で悩むなんて、充嗣は随分と欲がないな」

「いや、欲しい物とかはあるんだけれど、何と言うか、これじゃないって感じがすると言うか」

「んん……?」


 ミルが首を傾げて、よく分からんぞとばかりに充嗣を見る。実際充嗣自身も自分が何を言っているのか良く理解していない。というかミルの前でセレブっぽいとかそんな馬鹿みたいな言葉を使いたくなかったのだ。充嗣の中のなけなしのプライドである、最もミルにとっては至極どうでも良い事だったが。


「俺としては豪邸でも買って、毎日美味いモノを食って、美女を侍らせれば良いと思うのだが」

「何それ凄い」


 まるでどこぞの宮廷である。充嗣としてもそんな小説や漫画のまんまの発想が出て来るとは思っていなかった。聞いてみれば実際、ロールは似た様な事をしているらしい。流石と言うか何と言うか。


「……参考までにミルは何に使っているんだ?」


 まさかロールと似た様な事に使っているのだろうかと思い問えば、「俺か?」と目をぱちくりさせつつ、「老後に備えて貯蓄づくりだ、得た金を資本にしてビジネスをやっている」と手堅い解答。


「正直普通に貯蓄してても十分な額なのだが、無形の遺産という奴も子ども達に残してやりたい」


 何かもう充嗣は手の届かないレベルの話だった。今は兎に角ミルが眩しくて直視できない、同じクルーであっても此処まで差があるものなのか。思わず目を逸らして天を仰いでしまう、充嗣には真似のできない金の使い方だ、少なくとも商才という点に関しては猿真似ですら出来そうにない。


「……いや、何かもうお手伝いさんでも雇えば、それで良い気がして来た」


 ロールの様な豪邸を建てて美女を囲う気力など無く、かと言ってミルの様に商売を始めようにも充嗣に商才など望むべくもない。正直金を使えれば何でも良いやという、本人でも理解出来ない状態に陥っていた。


「うん? メイドを雇うのか」

「あぁ、うん、そっかメイドか、そう言えば何で今までそういう発想にならなかったのだろう」


 一人暮らしをしていた故か、誰かに家事をやって貰うと言う発想がそもそも無かった。確かに今は金が有り余っている、その分楽出来るなら雇うのも一考だろう。あれ、そう考えると凄く名案なのではないだろうか。充嗣の脳内に花が咲く。


「一応仕事が仕事だから、裏の人間になるだろうけどな、家を任せるとなるとBANKERの事も含めて任せられるメイドだ」

「おぉう……そうか、そうなるとマルドゥックに連絡を入れた方が良いのか……?」

「確かマルドゥックはメイドの斡旋もやっていたぞ」

「何それ凄い」


 本日二度目。

 聞けばミルも家政婦、もといメイドを雇っているらしい。結婚もしていて子供も居る、一応そこそこ家には滞在しているらしいが、やはり仕事柄留守にする事が多く、家の管理とか諸々を任せているのだとか。計三人雇っていて、全てマルドゥックから推薦された人員らしい。


ウチも中々広いからな、掃除が大変で……というか、多分雇っていないのは充嗣だけじゃないか? 正直事前準備から家事まで全部自分でやっているのは面倒だろう?」

「……うん、まぁ、その通りです」


 銃器、アーマー、爆発物の搬入、定期的なメンテ、清掃、場合によっては修繕、強盗間際にはこれらの移動、運搬、足りないモノがあれば発注して受け取らないといけないし、手間の掛かる事この上ない。一人暮らしだから家事も勿論やらないといけないし、あれ、何で俺こんなに金持っているのに家政婦雇ってなかったのだろう。


「メイドが居れば管理も任せられる、自由な時間が増えるだろう」


 正直時間は有り余っているが、楽が出来るならばそれに越したことは無い。充嗣は一も無く頷いた。



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