黄金の山
今日は二話連続更新でござい。
トリの言葉にナイフで地雷を削ぐ作業を止めて振り向く、街道の向こう側から装甲車が三台見えた、そのフロント上部に見える【黒い狗】のエンブレム。前の強盗で充嗣にHERを撃ち込んだ狂人軍隊だ、BANKERも人の事をとやかく言えない集団だがアレで正規の軍隊だと言うのだからタチが悪い。
少しだけ心臓の鼓動が早まる。充嗣は地雷を削ぐ手を早め、拡大した穴に素早く詰め込んだ。
「チトゥイリ、ドヴァが金属扉を吹き飛ばすまで粘るぞ、トリ、上から援護任せた!」
「やってるっつうのォ!」
アジンが無線で声を掛け、トリが叫びながらライトマシンガンを乱射する。その火力は迫りくる装甲車に無数の穴を空け、その数発がタイヤに穴を穿った。一瞬で破裂したタイヤがスリップし、そのまま百八十度回転する。よし! と内心ガッツポーズを決めるも、数秒して唐突にトリの銃撃がストップする。
「悪りィ、弾切れだッ!」
リロード、その言葉を合図にチトゥイリとアジンが射撃を開始する。二人のライフルが火を噴いて、接近する装甲車の外装を強かに叩いた。充嗣は背後から鳴り響く銃声に急かされながら、二つ目の地雷の設置を完了する。雷管を埋め込み輸送車の側面へと退避する。
「設置完了! 爆破するぞッ」
「やれっ、ドヴァ!」
アジンの叫びを聞き、充嗣はスイッチを握る。先程よりも強い爆発が巻き起こり、閃光と腹の底から響く爆音が視界を揺らした。耳鳴りが酷く、衝撃が体を突き抜ける。他の誰よりも早く衝撃から抜け出した充嗣は爆煙を掻き分け、金属扉の前へと飛び出す。
「やった! ぶち抜いたぞッ!」
そして歓声を上げた。
二枚目の扉は確かにロック部分を吹き飛ばされ、内部を円型に晒していた。爆熱で黒ずんだ穴に手を突っ込み、充嗣は無理矢理扉を抉じ開ける。かなり重く筋肉が悲鳴を上げたが、隙間から見えた黄金の山に疲労など吹き飛んだ。
積み重なった金の延べ棒、山の様に鎮座するそれは全て純金。一つ一つが眩い光を放ち、現実で金など見た事が無かった充嗣は一瞬見惚れてしまう。
これ程の量、売り払えば如何ほどの価値があるのか。一人三億と言う報酬も頷ける、日本人の生涯年収は二億、それプラス一億がものの数分で手に転がり込んで来た。
これは― 堪らない。
「アジン、チトゥイリ、運搬頼むッ!」
「任された!」
「ええ!」
この黄金を手にしたいからこそ、今は背を向ける。対爆防弾スーツに身を包んだ充嗣は自ら弾丸飛び交う戦場に飛び出した。最強の防御力を誇る充嗣こそ前線に出るべき、それを理解しているから。
「この距離なら外さんッ!」
装甲車が輸送車より五十メートル程離れた場所で停止し、次々とハウンド・ドッグの隊員が降りて来る。それを見たアジンは距離が詰まるまで待っていたのだろう、横転した護衛車両から半身乗り出し手にグレネードランチャーを持って一気に中央へ躍り出た。そのアイアンサイト越しにハウンド・ドッグを睨みつける。
「吹き飛べェッ!」
『ボンッ! ボンッ!』という連続した破裂音、そして同時に白い尾を引いた榴弾が地面に接触、爆発。纏まっていたハウンド・ドッグの隊員が宙を舞って地面に叩きつけられた、装甲車に着弾した榴弾はフロントガラスを粉々に砕く。辛うじて反撃に転じたハウンド・ドッグの攻撃も、アイアン・アーマーがアジンの身を守った。
アジンの攻撃を援護する様にチトゥイリもライフルを酷使し、弾薬が底を尽きる。チトゥイリはライフルを手放すとサブマシンガンのMP5を背から抜き出し斉射した。
五連の弾倉を全て撃ち尽くし、グレネードランチャーを投げ捨てたアジンが充嗣と行き違う。
「後は任せたぞ、ドヴァッ!」
充嗣は力強く頷き、ハウンド・ドッグの前に立ち塞がる。その圧倒的な装甲と威圧感を前に、ハウンド・ドッグの攻撃が集中し始めた。連中もBANKERのクルーがこれ程のスーツを用意して来るとは夢にも思わなかっただろう。その表情からは若干の焦りが伺える。5.56mmのNATO弾が前面の装甲板を強かに叩くが、充嗣の体はビクともしなかった。アーマー耐久値上昇のスキルが働いているのだろう、充嗣は装甲信者ではないが重装甲兵の気持ちが少しだけ分かった。
「後はお願い、ドヴァ!」
護衛車両の影に隠れていたチトゥイリがアジンに続き運搬の為に駆け出す、その声に「あぁ!」と答えながら、充嗣はソードオフ・ショットガンとグロックを抜いた。仲間に背中を預けられると状況が、妙に充嗣の胸を擽った。だから思わず強盗らしく、まるで巳継の様に叫んでしまう。
「この前の礼だ、アメリカ野郎の狗がッ! 天国に逝く準備は出来たかぁァ!?」
グロックのトリガーに引っ掛け、一回転。そのままソードオフ・ショットガンを近くに居たハウンド・ドッグの隊員目掛けて撃った。『ボォン!』と小規模の爆発が着弾した隊員の胸元で発生し、そのボディアーマー諸共吹き飛ばす。肋骨が露出して肺が裂け、焼け焦げた喉元から血が噴き出した。
「リロイ!」
近くに居た隊員が叫ぶ、どうやら知り合いだったらしい。丁度良いとばかりにグロックを掃射、9mmの弾丸はボディーアーマーの貫通こそ出来ないが、顔面に撃ち込めばその限りでは無い。素早く物陰に隠れるハウンド・ドッグ、しかし先程の隊員だけ一拍行動が遅れ全身に弾丸の洗礼を受けた。頬や眼球に弾丸を受け、そのまま崩れ落ちる。
ソードオフ・ショットガンの銃身が半ばから折れ、二発の弾丸が宙に飛び出す。リロードタイムだ、グロックを掃射しながらショットガンを持つ手で榴弾を二発摘まむ。そのままショットガンを回転させて中央を掴み、弾丸を詰め入れ銃身を跳ね上げた。このゲームに於いて『リロード時間半減』のスキルは必須スキルだ。
装甲車の影に隠れながらライフルで射撃を繰り返すハウンド・ドッグ。しかし弾丸は悉く弾かれる、この対爆防弾スーツの前では並みの弾丸などお遊びに等しい。
「リロード終わったぜッ! パーティタイム再開だぁァ!」
無線機からトリの叫び声、ライトマシンガンが再び獣の如き唸り声を上げて弾丸を吐き出す。ハウンド・ドッグ装甲車目掛けて放たれたそれは無数の穴をアスファルトと装甲に穿った。
「クソがッ、強盗団如きに何やってンだよ!」
やけに野太い声が聞こえた。ソレは装甲車の後部扉を開け放ち、姿を現す。充嗣と同じ対爆防弾スーツに身を包んだ重装甲兵、ライフルやハンドガンの攻撃ではビクともせず、例えグレネードランチャーを撃ち込まれようと止まらぬ歩兵戦車。その手にHE弾の三十連ショットガンを持ち、のっそりと装甲車より降りる。どうやら味方が攻めあぐねているのを見て、ハウンド・ドッグの隊長自ら斬り込む気らしい。
「重装ッ!」
充嗣が叫ぶとトリのライトマシンガンが矛先を変える。のっそりと歩き出した重装甲兵目掛けて弾丸の雨が降り注ぐが、その全てが分厚い装甲を前に弾かれてしまう。「クソッ、硬ぇ!」とトリが悪態を吐く。トリの距離から正確にバイザーを撃ち抜くのは難しいだろう。
「俺がやるッ!」
弾丸を吐き出し終わったグロックを投げ捨て、ソードオフ・ショットガン片手に駆け出す。重装甲兵はトリの射撃を腕で防ぎながら突撃して来る充嗣を見た。
「面白れぇッ、この俺とやるってのかァ!?」
「狗が喋るんじゃねぇッ!」
突っ込む充嗣に対し重装甲兵は三十連ショットガンをぶっ放す。HE弾は充嗣の胸の辺りに着弾し強い衝撃が体を突き抜けた。だが無傷、アーマー値上昇の恩恵故か表面が黒ずむだけでダメージは通らない。その勢いが僅かに減退しただけで、充嗣の突進は止まらなかった。流石に多少なりとも堪えると思っていないのか、重装甲兵から困惑の雰囲気を感じた。
「おぉォオッ!」
二射、三射とHE弾の着弾に耐えながら充嗣はソードオフ・ショットガンを突き出す。そしてバイザー目掛けて引き金を引いた。『ボンッ!』と重装甲兵の頭部が弾け、黒いバイザーが粉砕する。
「ぐおッ!?」
そして一瞬HE弾の猛攻が止み、充嗣は爆煙を切り裂きながら重装甲兵目掛けて突っ込んだ。黒いバイザーを吹き飛ばせば、後頭部を保護しているのは強化プラスチックのみ。ソードオフ・ショットガンを両手で掴むと、勢い良く振り上げて銃床部分で残った強化プラスチックを叩き割る。そうすれば何も保護されていない重装甲兵の目元が露わになった。破片が散らばって、重装甲兵は目を開けられない。
「BANKER(俺達)をコケにしてくれた礼だ」
ソードオフ・ショットガンを回転させ、トリガーに指を掛ける。そして銃口をバイザーの中に突き入れた。
「待ッ―」
ゆっくりと引き絞った引き金がガチンと音を鳴らし、爆音と閃光、血飛沫が舞い上がる。榴弾は顔面を粉砕し脳髄をフルフェイスの中に撒き散らした。その巨体がゆっくりと背後へ倒れ、そのままズンと地に伏せる。充嗣はソードオフ・ショットガンの銃身を折り曲げ、リロード、残るハウンド・ドッグの隊員に銃口を向けた。
残り、六人。