大罪人
PTと呼ばれる場所が存在する。
米国を初めとする国際連合、193カ国から成り立つ連合監督の元運営されるソレは、各国家から排出された凶悪犯罪者を一手に集め更生、又は処分する為の超大規模刑務所である。各国の首相レベル、一握りのVIPのみが知る法を持たない世界の裏側。
周囲十キロを海に囲まれ北極海上に建設されたプラットフォームは脱走及び外部侵入を不可能とする為に連合共同で常に戒厳令が敷かれており、PTを中心に一キロ毎監視塔が設置され異常があれば付近のマザーベースからスクランブルが飛んでくると言う程だ。
この施設に投資される資金も相当な額に上り、十年掛けて建築されたPTの面積は凡そ100㎢、海上プラットフォームとしては世界最大規模を誇り建築から二十年経過した今でもこれを超える施設は未だ建築されていない。元々はアメリカが最初に持ち出した計画だったが、それを国際連合の名で拡充、利用したものだ。
PTとは――全展望監視システムの意。
恐ろしく簡略化して言い表すのであれば、犯罪者の墓場、とでも呼ぼうか。
世界各国から選ばれた「どうしようもない」犯罪者を詰め込み、住まわせる。法も倫理も道徳も糞食らえ、事実PTの内部に現在の世界を縛るルールは存在せず、犯罪行為はそもそも犯罪と認識すらされない。
人を殺すも犯すも盗むも自由、法無き自由はただの破壊であり、それを体現しているのがこのPTである。
しかし、それでは本来のPTが建設された目的である「更生」は果たせない。勝手に殺し合って犯罪者が減るなら結構、そう言う考えも確かに存在するがPTの中には真に己の過ちを悔いている者も少なからず存在している。そもそもPT送りとなる基準は193ヵ国それぞれ異なり、五人以上の殺害、及びそれに準ずる行為と定める国もあれば強姦でPT送りになった犯罪者も居る。
信仰する宗教も違えば罪の捉え方も違う、そもそも「どうしようもない」と思うボーダーが異なるのだからその辺りの統一は建設当初より困難だと言われていた。
故に、このPTでは各国の定める最も重い罪を犯した者を収監し、更にレートを設ける事にした。上からレート【C】、【B】、【A】、と言った風に。
レートは【C】が最も軽く、宗教上で禁忌とされた行為、浮気やら強姦やら窃盗やら、兎に角そう言った宗教国家より送られた犯罪者を収監する場所である。主に仏教やイスラム教など、中には政治犯も含まれている。
一応背信行為を行ったからと言って直ぐにPTに送られる事は無く、此処に収容されている人物は皆複数回の背信行為、またはその行いが特に惨い場合のみ送られる。巨大な収容施設と言っても収容限界はあるのだ。
はっきり言ってこの階層、レート【C】は『建前上』の階層でしかない。国際連合という表の組織が、『更生』を言い訳に好き勝手する為の――各国VIPと言えど『旨味』が無ければ賛同しない、そういう場所なのだ。
無論、この場所を知った以上生きて釈放される事はない。
行きつく先はPTの殺処分場。
死体は纏めて燃やされるだけだ。
【更生】など既に形骸化した言い分でしかない。
レートが上がるごとに階層は深くなり、最大でランク【X】が打ち止めとなる。
ランク【B】、ランク【A】が最も収容人数が多く、先進国で言う凶悪犯罪者とやらがゴロゴロ眠っている。彼らは誰もがテレビで報道され、新聞の一面を飾ったり、世界的に名の知れた犯罪のキャリア達。その犯罪歴は殺人に留まらず、麻薬の密売、武器の密輸、要人暗殺、国家転覆罪、何でもアリだ。
恐らく国際連合が最も重要視しているのはこの階層から下、各国の手を焼かせる悪党どもを『口では言えない方法』で情報を引き出す、或は寝返らせる――更生させるための場所。
流石にブラジル人をフランス、パリの取り調べ室で好き勝手にする訳にはいかない。爪を剥ごうが眼球を潰そうが足を斬り飛ばそうが、全ては此処でのみ『合法』だ。
レート【S】は更にその上の犯罪キャリア――数千人規模の死者を出した世界的テロ組織の設立者、民衆を扇動してゲリラ戦を促し政府を一時的に乗っ取ったアラブの英雄、全世界で計200人を殺害して回った生粋の人間解体愛好者の凄腕医師、都市機能を麻痺させる程の腕を持つサイバーテロリスト。
そう言う、頭のネジが数百はぶっ飛んだ連中を集めた場所。
【S】の人数は少なく、他の収監室と比べて警備も厳重だ。監視室の前には常に見張りの警備員が立ち、計50部屋の収監室には物理ロックと電子ロックの二つが必要になる。その鍵も中央監視室から更に下、保管室と呼ばれる警備の常駐する部屋で厳重に守られていた。
脱獄は勿論、外側から手引きする事も難しい。
そもそも、このPT自体が世界に知られざる裏の施設――脱獄を手引きする者は、このPTに辿り着く事さえ出来まい。
そして最終階層。
レート【X】の階層はPTの最下層、最も広く、そして最も堅牢な場所に建設されていた。収監室に向かうには特定の認可証を持つ担当員が一人、その認可証と本人の網膜パターン。更に十二桁の暗証番号とPT監理官の最終承認が無ければ入る事すら出来ない。
厳重なゲート、レート【X】に通じるルートはPT内に一つしかなく、そこには常に警備員が常駐する検問が存在する。
人間一人の為に作られたとは思えない程に内部は広く、ブロックは全部で五つ。途中は全て真っ白な廊下が続いており、その光景は妙に近未来的でもあった。
そしてそのブロックの一つ、【X-02】と書かれた収監室の前に影が二つ――片や背の低い女性で、もう片方は大柄な男性。
背の低い女性は収監室の様子をじっと眺めながら、隣の男性に問いかけた。
「彼が例の新人ね」
その口調は淡々としていて、感情が全く込められていない。その姿は真っ白な収監室と同じく白を基調とした警備服で、手には対人鎮圧用の弾丸が込められたライフルを持っている。
隣に立つ男も似た様な恰好で、「あぁ」と小さく頷いた。
彼らの視線の先には、部屋の中央に鎮座する台。その上に張り付けられた男に視線は注がれていた。男の体は全身拘束衣によって締め付けられ、その眼には凹凸のある目隠し、そして口元にも同じモノが巻きつけられ、鼻と髪だけが辛うじて見える程度。
広々とした空間に男だけが張り付けられている様はどこか異様で、微動だにしない男の姿に薄ら寒いモノを感じた。部屋の大きさはちょっとしたホール程で、中央から半径で十五メートル程だろうか。
二人はマジックミラー越しに暫くの間男を眺め、ふと大柄な男が口を開いた。
「あの男、自白剤を副作用無視で使用しても決して口を割らなかったらしい――暴行、脅迫、引っ掛け、色仕掛けまで試した様だが、全て徒労に終わった、一ヵ月以上の【取り調べ】でも吐かなかった犯罪者だとか、まぁ、生きているだけで奇跡だったらしいが」
「凄まじいのね……かなりの重傷だったと聞いたけれど、前歴は?」
女が職務を全うする為にも問いかけると、男は首を横に振る。
「上司からの命令だ、名前、年齢、人種、前歴に至るまで全て開示無し、その男はただの犯罪者で、それも犯罪者の中でもとびっきりヤバイ奴、って事しか知らされていない」
男が肩を竦めてそう言うと、女は盛大に顔を顰め「何それ、ふざけているの?」と吐き捨てた。女の気持ちが男には良く分かった、自分も上司からそう言い渡された時は、同じ言葉を吐きそうになったからだ。
しかし、何も情報が無い訳でもない。男は上司から情報――と呼べるものかは分からないが、一つだけ男に関する呼び名を授かっていた。
「一つだけ上司から聞いた情報がある」
「……何?」
男が少しだけ言い辛そうに口を開くと、女の視線が男へ向いた。その瞳にはどんな情報でも価値があると、そう語っている様にも見える。
男は頬を掻きながら、自身の正面に縛られた男を眺め、言った。
「もし呼び方に困ったなら、そう」
「二番目――って呼んでやれば、喜ぶって」
完結まで四カ月近く、お付き合い頂きありがとうございました。
今回の話を以て「銀行強盗はじめました」は一旦、完結とさせて頂きます。
作者個人のイメージとしては、単子本二冊、上下巻的なイメージで書き上げました。
ここから先は「銀行強盗つづけました(仮)」でも出てくれば語られるのではないかなぁと(゜д゜)(。_。)
続編の構想はあるのですが、何分現実の方が厳しくなってきたので、またいつか書けたらなぁと思う次第です。書くとしても、もしかしたらハーメルンの方かもしれません。もともとあちらで主に活動をしていた口なので(´・ω・`)
いつ書けるかも分からない、或は書かない可能性もあるので、続編の予告的なモノだけ置いておきます。
――予告編的な何か
充嗣が死亡したとの情報が流れ、二ヵ月。
BANKERは未だ失意の中に在り、マルドゥックは充嗣生存の手がかり一つ掴めずにいた。
充嗣の行方を探す者達は皆、自身の持ち得る全てを駆使して情報を集めたが、何一つとして生存の証は出てこない。
まさか、彼は本当に死んでしまったのだろうか――
そんな思いが募り出した頃、マルドゥックの元に一本の電話が入る。
それはマルドゥックの私兵隊の一人からであった。
内容は、「二番目の行方を知っている」と語る女性が訪問して来たとの事。
果たして、充嗣の行方を知る女性とは――?
過去の繋がりが、再びBANKERを再起させる。
牙を失ったBANKERが今、仲間の為に立ち上がった。
大体こんな感じで書けたらなぁと思っています。( ´_ゝ`)
それでは皆様、今まで今作をありがとうございました。




