デッド・オア・アライブ
「こン、の」
クソ野郎。
そう口にしようとして、再度頭部が跳ね上がった。Jackが火を噴き、再度充嗣のバイザーを直撃したのだ。黒いソレが砕け散り、破片が周囲に散乱する。思わず目を閉じた充嗣の体に何度も強い衝撃が走った。バルバトスが何度も引き金を絞り、スーツの繋目に弾丸が抉り込む。充嗣は目を開けられない状況に加え、更に脳を揺すられた。断続的に襲い掛かる痛みは唇を噛み違って耐え、両腕で顔面をガード、頭部を揺すって破片を散らす。
「ッ、いってェッ」
充嗣は自身のアーマー値がゴリゴリ削られているのが分かった。的確にスーツの脆い部分を狙って来るバルバトスは狡猾であり、同時に人を殺す上では素晴らしく理に叶っている。充嗣のバイザーが砕けた事で、今は戦闘用ヘルムの下に被っていたヘッドギアが最後の砦だ。最も両目の部分は視界確保の為に空けてあるし、防弾効果など望むべくもない。次、顔面への直撃を許せば自分は死ぬ。
そんなのは、お断りだ。
充嗣はその場から大きく横っ飛びし、同時に腰に備え付けていたホルスターからグロックを抜き出した。そして片腕で顔面を庇いながら安全装置を弾き掃射、ワンマガジンをこの場で使い切る気で撃ち込む。バルバトスの居るであろう前方、そこに向かって一薙ぎ。そして着地と同時に一歩踏み込むと、渾身の力でブレードを引き絞った。
視界を遮っていた腕が無くなり、バルバトスの姿を捉える。彼は腕を顔の前に出し、グロックの掃射を防いでいた。9mm程度ならば避ける必要もないと考えたのだろう。実際、充嗣もあの程度の火力で負傷させられるとは考えていない。
充嗣は引き絞ったブレードを解放、凄まじい勢いで突きを繰り出す。同時にトリガーを絞り、刃が射出させる。ソレはバルバトスの頭部目掛けて飛来、しかし彼は半歩横にズレるだけでブレードの一撃を避けた。ジッ! と僅かに毛先に触れるだけに終わる。
しかし充嗣の狙いはそこではない。
避けられたと認識するや否や、充嗣はトリガーから指を放す。ワイヤーがブレードの巻取りを開始し、充嗣は同時に腕を大きく薙いだ。それはバルバトスの背後にあるブレードにも伝わり、刃は逆再生の様に充嗣の手元目指しながら再度バルバトスを襲う。
「ふッ」
充嗣の腕の動きで気付いたのか、バルバトスは溶断される寸前で横に体を投げた。しかし充嗣の方が僅かに早い。ブレードがスレスレで彼の体を掠り、肩の装甲板を一枚焼き切る。ジュッ! と金属が発熱し、バルバトスの肩部装甲板が大きく抉れた。上体を伏せながら地面を一回転したバルバトスは静かに立ち上がり、自身の肩部を見る。そこには溶断され大きく抉れた装甲があった。
「バイザーの礼だ」
「……なに、礼は不要だよ」
バルバトスが手元の拳銃を一回転させ、加速。充嗣はそれを真正面から迎え討った。
筋力補助のあるバルバトスの全力疾走は充嗣よりも速い、瞬きをする間に彼我の距離は潰され拳とブレードが同時に動き出す。充嗣は小さくブレードを構え、最小限の動きで斜めに刃を振るう。対してバルバトスは拳銃を持たない手を突き出した。その腕ごと斬り飛ばしてやる、そう意気込んでブレードを振るった瞬間、バキン!と耳元で銃声、マズルフラッシュが瞬いた。
発生源はバルバトスのjack、気付いた時には衝撃が手を伝い、ブレードが大きく撓る、そして思わずグリップが手の中から零れ落ちた。
振るわれたブレードの側面目掛けての精密射撃、それも振るっている最中のブレードに。攻撃の手段を失った充嗣に対して、バルバトスは突き出した腕で首を掴む。同時に銃口が顔面に向けられる、その指が引き金に掛かった。
死ぬ――そう思った瞬間、充嗣は顔を勢いよく逸らした。そして再度銃声が鳴り響き、頭部に強い衝撃。戦闘用ヘルムが銃弾を弾き、首が折れ曲がるのではと思う程の衝撃が走った。首の皮一枚だ、そう思った充嗣の頭部がグンッと引き寄せられる。バルバトスが首を掴んだまま引き寄せたのだ。
そして割れたバイザーの中に肘打ち、ゴッ! と目の辺りから鈍い音が鳴り響き、充嗣の頭部が弾ける。痛い、打撃で痛みを感じたのは久しぶりだった。
この野郎。
充嗣が叫ぼうとして、今度は顎に衝撃が走った。銃のグリップで思い切り殴られたのだ、カチリと留め具の外れる音、狙ってやったのかは分からないが、その一撃で戦闘用ヘルムが脱げ落ちる。
続けて側頭部に一撃、正面に一撃、ガードの為に振り上げた腕の隙間から的確に脳を揺らしてくる。そして顔面の防御に意識を割かれていた為、それ以外の攻撃に対して充嗣は想定していなかった。唐突に腕を掴まれ、そのままバルバトスが密着。凄まじい力で投げ飛ばされる、日本で言う一本背負いの様な形だった。それも怪力での投げ技。
充嗣は自分の視界が反転し、同時に凄まじい勢いで宙を舞っていたのが分かった。地面に落下し、トラウマプレートが騒々しい音を掻き鳴らす。臓物が打ち据えられ、落下の瞬間にみっとも無く呻き声を挙げた。ゴロゴロと床を転がり、衝撃で手からグロックが抜け落ちる。
「がっ、あ、くグ」
ポタポタと白いフローリングに赤い血が垂れた、ヘッドギアの防弾線維に染み込んだ鼻血が溢れたのだ。下手をすると折れているかもしれない、顔面が死ぬほど痛い、恐らくそういう痛みを感じさせる殴り方をしたのだ。地面に横たわったまま充嗣は何とか立ち上がろうとする、しかし脳を何度も揺らされた効果は絶大だった。足がカクカクと笑い、視界が定まらない。ここまで強烈な打撃は初めてだった、トリ以上だ。
強い、やはり、途轍もなく。けれど負けたくないと充嗣は心底思う、いや、負けたくないではない、BANKERなら負けない、絶対に。
ケーブル越しにブレードを自分の元へ引き寄せ、フローリングの上を滑って来たソレを力強く掴む。顔を上げると銃口をこちらに向けたバルバトスが見えた。英雄は強く、その存在感は絶大。
だが充嗣は諦めない、最後まで。
「まずは一人だ」
その銃口からマズルフラッシュが瞬き、弾丸が充嗣を――
「オォぉォッ!」
貫く前にトリがバルバトスに突進、弾丸は充嗣の肩部に着弾し、トラウマプレートが弾け飛んだ。トリはガトリング装備を外した様で、今は弾薬ボックスもガトリングも持っていない。アイアン・アーマーと素手、それでバルバトスに挑みかかった。
しかしバルバロスはトリの巨躯から繰り出された突進を受けても、決して重心は揺らがない。フローリングの上を滑りながら彼の巨体を受け止める。
「何だね、今良いところなんだ、邪魔しないでくれるか?」
「ザけんな、俺達はBANKERだ、テメェみたいに独りで戦ってるわけじゃァ――ねェんだよォッ!」
トリが腕を振り上げ、バルバトスの顔面に振り下ろす。それを真正面から受け止め、ならば逆の手と振り上げたトリのもう一方の腕も、バルバトスが掴み取る。Jackがバルバトスの手から零れ落ち、ギチリと二人の筋肉が軋みを上げた。
「面白い、力比べか」
「腕ごと圧し折ってやらァッ!」
ボッ! と二人の背後に衝撃が走る、互いの人外染みた怪力が中央で衝突、腕が小刻みに震え熱気が充嗣にまで伝わって来た。バキンッ! とトリの足元のフローリングに罅が入る。たった数秒の拮抗、元の怪力に加え筋力補助を得ているバルバトスは最早充嗣の力すら凌ぐ。
コイツは、強い。
トリは思う、いや、強い事など今まで何度となく戦ってきた事で分かっていた事だ。自分一人で勝てない事も、トリはBANKERこそ最強だと信じて疑わない。戦車が百両列を成して来ようが、核爆弾を落とされようが、何だろうが、BANKERならばきっと生き残る。
それは自分が最強という意味では無い――BANKERこそが最強なのだ。
だからこそ。
「アジィンッ!!」
「任せろッ!」
電車に乘っていたら、たまたま前に立っていた人のスマホの画面が見えて、好奇心と若干の探求心からほんの少し見てしまいました。
すると開いているページがハーメルンの私の小説「渡る世間」だったので物凄くキョドりました、多分軽く不審者だったと思います。あの人もヤンデレ好きだったのでしょうか………
「貴方もヤンデレ大好きなのですか!? 仲間ですね、お友達になりましょう! へへへ」なんて言える訳もなく、私はその読者様の姿を胸に仕舞いつつ電車を降りました。得てして物書きとはコミュニケーション能力がミジンコ並みなものなんです(個体差があります)
こんなスカポンタンの書いた小説が色々な人に読まれているのだと実感した一日でした、いつもありがとうございます。




