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戦力集結

「トリ、おいッ、大丈夫か?」


 充嗣はトリの直ぐ隣に屈み、呻くトリの肩を叩いた。見ればトリのバイザーの表面に小さな罅が走っている、トリは短く何度も息を吐き出しながら「へッ、大丈夫に、決まってン、だろ」と強がり口にしていた。


「だが、あぁ、クソ、右腕が痛むンだ、こりゃ、やっちまったかもしれねェ」 


 転がった際に強く打ち付けた右腕を抑え、トリは口を開く。充嗣はトリの肩、胸、腰に固定されていた弾薬ボックスのベルトを取り外し、ガトリング装備を床に転がした。ガコン! と弾薬ボックスがトリの体から離れ、床に横たわる。トリはゆっくりと上体を起こし、「ありがとよ」と笑った。


「そんな事は良い、トリ、腕は?」

「あぁ……折ってはいないと思うが痛めたな、結構イテェ、だが銃傷に比べれば温いぜェ、まァ、生きているだけマシって奴だ」


 痛みを呼吸で和らげながら、トリは頷く。充嗣は何度か外を確認した後、トリに「後ろに下がって、鎮痛剤(モルヒネ)を打て」と言った。外には轟々と燃え盛る戦車が一両、周囲には装甲の残骸とガラス片が散らばっているのみ、他に増援が来る様子は無い。しかし何時来てもおかしくない状況ではある、ここでトリの戦線離脱は致命的だった。


鎮痛剤(モルヒネ)を打ったら、少し休んだ方が良い、まだハウンド・ドッグの連中は来ていない、それに多少なら俺一人でも時間を稼げる」

「ヘッ、ドヴァ、心配しすぎだぜ、この程度何とも――」

「トリ」


 無理に強がって、ガトリングに手を伸ばすトリを留め、充嗣は力強い言葉で言う。


「頼む」


 それは懇願でもあり、同時に有無を言わせぬ迫力を持っていた。ここでトリに無理をさせて、後々敵に押し込まれた時に戦えないではBANKERの敗北は必須。彼の力は絶対に必要だ、ここで無理をさせてはいけない。

 そういう打算も勿論あったが、何よりトリの負傷を心配しての事だった。


「……わぁったよ、ドヴァ」


 最終的に折れたのはトリ、充嗣の態度に何か感じたものがあったらしい、肩を竦めて仕方がないとばかりに首を振る。「けど、そんな長くは休まねぇ、俺もすぐ戦うからな!」と啖呵を切り、ガトリングをその場に置いたまま足早に救急箱(ドクターバッグ)のある場所へと向かった。充嗣は「あぁ」と答えながら、その背を見送る。


 受付裏の装備品を漁っているトリを暫し眺め、充嗣も受付の方へと足を進めた。そこには無残にも戦車砲の余波で倒壊した受付台やpcやら資料が散乱している、その中に充嗣が設置した設置型自動攻撃銃(セントリーガン)が転がっていた。

 充嗣は上に被さった資料を払い除け、ソレを回収する。人質が居なくなった今、もう後方に設置する必要性は無くなった。それに、今ではもう案内カウンターは跡形も無くなっている、殆ど残骸と言って良い。


 充嗣は設置型自動攻撃銃(セントリーガン)を抱えてフロアの入口へと向かった、設置する場所はフロアの端。入口から侵入した場合、丁度真横から攻撃を受ける形だ。連中もまさか突入した途端、すぐ横から攻撃を受けるとは思うまい。

 既に粉々になったデスクの残骸を見つけ、それを引っ張って設置型自動攻撃銃(セントリーガン)の土台にする。丁度足が四本とも砕け、ソレの上に設置すれば射線が良く通った。大体は戦車砲によって綺麗に掃除されていたが、若干の高さがあれば安心感がある。


 充嗣は設置型自動攻撃(セントリーガン)の設置を終えると、フロアに放ったままだったpigを回収し入口に戻る。トリは丁度腕部の装甲を取り外し、鎮痛剤(モルヒネ)を打っている最中だった。細長いプラスチックカバーを外し、針を剥き出しにした状態で肩の辺りに突き刺す。鎮痛剤が効き始めれば多少なりとも痛みは和らぐだろう、充嗣は外の市街地を注視しつつ無線を繋いだ。


「マルドゥック、トリと協力して戦車一を撃破、だがトリが右腕を痛めた、今鎮痛剤(モルヒネ)を打っている、少し休ませて、次の襲撃に備える」

《何、負傷したのか? 砲弾か、機銃にやられたか!?》

「いや、飛んできた砲弾が背負っていた弾薬ボックスに掠めた、地面に強く叩き付けられて痛めたらしい、直撃するよりはマシだと思おう」

《そうか……あぁ、分かった、もし厳しそうであればアジンかチトゥイリを回す、連絡は密に頼む》

「了解」


 充嗣は外で未だ燃え続ける敵戦車を見ながら、どうかこのまま順調にいってくれと心の中で願った。もしあの戦車がハウンド・ドッグの切り札、或は奥の手であったのなら、連中とて内心では大いに慌てている筈だ。それで時間が稼げるなら万々歳。

もし、そうでないのなら――


 充嗣の視界の端に、何かが動くのが見えた。外を注意深く観察していた充嗣はソレにいち早く気付き、素早く近くの案内カウンターだった残骸に身を隠して対象に目を凝らす。そして、その存在を認識した瞬間、充嗣は口元を歪めてしまった。


 どうしていつもこう、当たって欲しくない予想ばかり当たるのか。今回の【トライデント】も万が一の保険でしか無かったと言うのに。既に唯一のタンデム弾頭は撃ってしまった、二発目は存在しない。保険は保険であって、保険の保険までは用意していないのだ。



―― 充嗣の目に映るのは列を成す戦車  その数【三】



 ギャリギャリと騒々しい音を立てて行進する戦車の列を見て、充嗣は内心でハウンド・ドッグの連中を罵った。よもや、たった四人の強盗の為に戦車を四両投入して来るとは。その頭上にはバラバラとローター音を鳴り響かせ、このバンク・オブ・アメリカに集結する輸送ヘリ。その数は一、二、三―― 充嗣は六を数えた辺りで目を瞑り、数字を頭の隅に追いやった。恐ろしい数のハウンド・ドッグがやって来た、もうそれで説明がつく。


《ドヴァ、トリ――》


 耳元からマルドゥックの声、それは気のせいでなければ彼らしくも無い、焦燥を含んだ声だった。気持ちは充嗣とて同じだ、これほどの大群、恐らくゲーム時代ですら目にしなかった。戦車などはそもそも登場しない。

 充嗣が呆然と外の光景に目を奪われていると、隣にガトリングを背負い直したトリがやって来た。充嗣が慌てて「もう大丈夫なのか」と問えば、トリはガトリングをぐっと持ち上げ「あの程度、何でもねェ」と口にする。


「しっかし、まァ、こいつは想定外って言うか、想定できねェって言うか」

「あぁ……輸送ヘリ、それと運ばれて来る連中は何とかなるとしても、まさか戦車を何両も持ってくる何て――まるで戦争だ」


 充嗣が苦々しい声でそう言うと、「違いねェ」とトリは肩を竦めた。


「連中、またこっちに撃ってくると思うか?」

「いや、砲撃するつもりなら、もう撃ってるだろうさ、撃って来ないのは形だけでも生け捕りにしたいのか、上層部からの指示を待っているのか、或は……」


 充嗣はそこまで口にして、フロアの壁を軽く叩いた。その壁には無残にも罅が入り、パラパラと表面の塗装が剥がれている。


「これ以上ぶち込んだら、バンク・オブ・アメリカが倒壊すると思っているから、とか」

「ハッ、最期が建物に潰されてペシャンコ、なんてのは笑えねェ、是非とも勘弁して貰いたいモンだぜ」

 

 連中が戦車砲で充嗣達を狙い撃ちにしない理由は分からない、連中からすれば長距離から一方的に嬲り殺せる機会を逃しているのに等しい。だが、しないのならばしないで、それは結構。自身の不利にならない状況を作れるのなら、それに越した事はない。


 充嗣とトリは壁に張り付いたまま、ハウンド・ドッグの隊員がヘリボーンする様子を見ていた。輸送ヘリはバンク・オブ・アメリカ付近の上空でホバリングし、そのまま隊員を降下させている。ラペリングしている最中に鉛弾を撃ち込めば、恐らく簡単に敵の数を減らすことが出来るだろう、空中のハウンド・ドッグ隊員は実に無防備だ。

 しかし味方が居ない状況を作り上げた時、果たして戦車が黙っているか。突入する人員が居なくなれば連中は戦車砲を使うかもしれない。そう考えると引き金を引く事が躊躇われた。遠くに鎮座している三両の戦車は虎視眈々と攻撃する機会を伺っている。

 こう思ってしまう時点で、恐らく連中の狙い通りなのだろう。充嗣は静かにバイザーの下で唇を噛む。降下してくる隊員の数は百人以上、見れば戦車の後に輸送車が続いている。何台来るのかは分からないが、続々と戦力が集結している事は確かだった。


 

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