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人事と天命

「残念だけど、残り一ヵ月で仕上げるのは無理ね」


 充嗣は今、強化外骨格の開発を依頼していたカリアナと電話越しに話していた。彼女に研究の進捗とメガバンク襲撃までに間に合うかを問う為である。結果はもうすぐ完成というところではあった、しかし少なく見積もっても二ヵ月、もしくは三ヵ月の猶予が欲しいとの事、残念だが次の依頼までに間に合いそうにない。


「大凡の骨格と重量過多の問題は解決(クリア)したみたいだけど、電力供給の問題が残っているらしいわ、馬鹿みたいに装甲を厚くしたからパワーアシストにかなりの電力が必要らしくて、継戦に必要な電力が普通の骨格より多いのよ、内部電源バッテリーを大型化すれば弱点が増えるし、そのまま使ったら最大稼働時間は一時間未満、とても実戦じゃ使えないレベルね」

「そうか……」


 どうやら、定期的に老神重工へと進捗の確認を行っていたらしい。何でも詳しい資料も幾つか送られているのだとか、必要であれば自分にも送ろうかと言葉を貰ったが、充嗣は首を横に振った。この件に関してはカリアナに一任している。


「……この際、完璧なモノで無くて良いから、代替品を用意出来ないか?」


 充嗣は少しの間思考を巡らせ、カリアナにそう問うた。次の任務は文字通り死闘となるだろう、ただでさえ硬いと自負していた対爆防弾スーツが呆気なくHERによって粉砕されたのだ。それで火力補正など掛かれば、それこそ一瞬の内に死んでもおかしくない。対爆防弾スーツをも超える装甲が必要だ、それも一ヵ月以内に。


「……具体的には?」


 カリアナは渋い声で具体案を求める。一蹴されなかっただけ儲けものだろう、充嗣は自分がどれだけ空想的な言葉を吐き出しているのか理解している。対爆防弾スーツ以上の装甲服の存在だけでも絵空事に近いと言うのに、それを一ヵ月以内に手に入れるなど。しかし、如何にアイアン・アーマーを上回る対爆防弾スーツと言えど、最高難易度デス・ミッションの火力を防ぎきれるとは思えないのだ。


 最悪、通常の弾丸で抜かれてもおかしくない。考え過ぎだろうか、けれど考え過ぎで悪い方向に転がる事は無い。これは戦いなのだ、負ければ死ぬ、死にたくないから充嗣は必死で考える。

 徒労に終わろうと構わない、用意したいちで命が助かるのならば、どんな大金も時間も掛けよう。充嗣は必死で頭を捻り、案を一つ用意する。


「――俺にも具体的に何かある訳じゃないのだけれど、例えば、市販の強化外骨格パワードスーツなら手に入るんだろう? この際対爆防弾スーツの下にソレを組み込んで、上に追加で装甲を加えるというのはどうだろうか、これなら市販のパワードスーツと対爆防弾スーツ、後は追加の装甲だけ注文すれば何とかなる」


 充嗣は穴だらけの知識の中から、何とか実用に耐えそうなモノを考えた。ゼロから作るのではなく、既存のものを合わせれば手間は掛からない。対爆防弾スーツもワンサイズ上のモノを取り寄せれば或は強化外骨格を組み込めるかもしれないと。


「……無理では無いでしょうけど―― そうね、七年前にロッキード・マーティン社が油圧駆動式外骨格【hydraulic powered anthropomorphic exoskeleton】というモノを開発したわ、これは91キロの荷物を背負った状態で時速16kmで走れるそうよ、もし装甲を外側に着けて90キロの重量に収まるなら、まぁ……戦えると言えば、戦えるのかしら」


 自信なさげにカリアナはそう口にする、恐らく運搬目的で使用される強化外骨格パワードスーツであり、重装甲のアシとしては考えられていないのだろう。しかし、七年前というのであれば新型が出来ていてもおかしくない。


「その強化外骨格パワードスーツ、新型は出ていないのか?」

「残念だけれど、それ以降はアメリカ合衆国の特殊作戦軍に品物を卸しているの、市販されているもので入手できるのはコレが限界よ、勿論幾つか改良を受けたモノだから、正確に言えば五年か四年程度前のモノになるでしょうね」

「そうか……なら、それを一つ仕入れて貰いたい、後は外付けの装甲だ」


 四、五年前の強化外骨格パワードスーツ、いや、しかし手に入るのであればそれでも十分だ。充嗣は直ぐに思考を切替え、90kgの範囲で最も理想的な装甲を頭に浮かべた。重量が大幅に増えても問題無いが、出来るならば軽い方が良い。


充嗣パドゥルーガ、装甲に関して何だけど―― 私に一つ心当たりがあるわ」

「心当たり?」


 カリアナの言葉に充嗣は食い付く。現役の商人ディーラーである彼女の心当たりに、充嗣は大いに興味があった。


「えぇ、貴方も聞いた事はあると思うけど、『リキッド・アーマー』って装甲知っていて?」

「聞いた事はあるが……詳しくは知らないな」


 充嗣は聞き慣れない装甲の名称に首を傾げる。リキッドとは液体の事だが、つまり液体装甲という事だろうか。


「リキッドと言っても水の様な『ニュートン流体《Newtonian fluid》』では無いわ、ダイラタンシー(レイノルズ)を利用した非ニュートン流体よ、『せん断増粘流体《Shear Thickening Fluid》』を用いたアーマーなの、この液体を防弾ベストに仕込めば秒速450メートルで飛翔する弾丸も受け止められるわ、元が液体だから衝撃も多少緩和されるし、何よりダイニーマやスペクトラ何かに仕込むだけで防弾性能が向上するから、嵩張らないの」


 ただ耐熱効果は殆ど無いに等しいから、それは元の防弾線維に左右されるけど、超高分子量ポリエチレン繊維は百三十五度で溶解してしまうわ。

 便利ではあるが弱点が無い訳では無い。

 しかしカリアナの言葉を聞き充嗣は一も無く頷いた。そんな便利な装甲があるのならば使うに越した事はないと、耐熱だけで言うのであれば最終層となる対爆スーツが何とかしてくれる。元より充嗣はHER一発を防げればそれで良いと思っていた、現代の戦車だって垂直にHERが直撃すれば装甲を抜かれるのだ、二発受ければ尚更。であれば人間である自分が一発耐えられれば御の字、吹き飛ばされても反撃出来るだけの対爆防弾性があれば十分だ。

 無論、その一発受けても問題無い、というボーダーが既におかしいのだけれど。


「対爆防弾スーツの上にスペクトラを被せて、その中にリキッド・アーマーを仕込もう、もし重量に余裕があるならトラウマプレート、E-SAPI―― セラミックの裏地に防弾不織布、一方向強化ポリエチレンを付けて更に強化するって言うのは?」

「……物凄い重量になるわね――それと外見も」


 元から外見がゴテゴテしている対爆防弾スーツの上に、更に防弾線維を追加し、その上にトラウマプレート、俗に言うセラミックを敷き詰める。前の充嗣の装備が戦車ならば、今度は要塞か。この辺りになると恐らく、充嗣の足では立っている事すら困難な重量となるだろう。このスーツの重さに加え爆薬や弾薬、銃器の重さも加味しなければならない。90kg+充嗣の脚力でどこまで耐えられるか。正直言うと、90kg少し下程度が理想ではある。


「セラミックは重いから、胴体や足とか、局所的に見繕った方が良いと思うわ」

「理想は全身だけど、流石に無理か……取り敢えず、実際作るとなると幾ら掛かる?」

強化外骨格パワードスーツに最新鋭のリキッド・アーマー、スペクトラ――防弾線維にトラウマ・プレートでしょう? 取り敢えず、そこそこの値段になるとは思うけれど、多分余裕で払える額よ、今週中に買い集めてみるから、納品したら振り込んで」

「了解」


 それだけ言うと、「それじゃあ」とカリアナは通話を切ってしまった。彼女は仕事が早い、恐らく今から調達に赴くのだろう。充嗣としてもその行動の速さには頭が下がる思いだ。ツー・ツーと電子音を鳴らす携帯の画面を落とし、充嗣は独り天井を見上げ息を吐き出す。

 商談を一つ終えただけだが、酷く疲労感があった。

 兎に角自分に出来る範囲で手は打った、これで自分の生存率は多少なりとも上がるだろう、対爆防弾スーツにあれこれと付け加え二重三重と補強したのだ、恐らく防御性能だけで言うのであれば過去最高。スキルの上昇値だって数値化出来れば凄まじいものになっている筈だ。

 人事を尽くして天命を待つ、充嗣は自室の椅子に深く腰掛けながらデスクの上に広がった資料に目を落とす。充嗣が伝手を持つ武器商人ウェポンディーラー一覧、その数は膨大であり、それぞれ取り扱っている商品が異なる。その中から充嗣は一人の名前を選び再び電話を掛けた。

天命を待つのは、人事を尽くした後。


「どうも、藤堂です」


 自身は未だ人事を尽くしていない。




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