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リハビリ


「今回の依頼ミッションは簡単だ、いつも通りの古典的な銀行強盗、大量の金がある地方の中規模銀行を襲う、金の出所を気にする必要は無い、静かに、素早く、だが大胆に、金を盗み出せ」


 四カ月の休暇を消化したBANKERは現在、セーフハウス地下にて次の強盗の計画プランを聞いていた。時刻は深夜、皆がスーツ姿で集まりマルドゥックの投影されたホワイトスクリーンに注目する。今回は前の負傷後のリハビリも兼ねた強盗らしい、余り難易度は高くないとマルドゥックは言う。実際充嗣もこの手の強盗は何度も経験があり、失敗するビジョンは浮かばない。

 しかし、何があるか分からないのが現実リアルだ、万全の体勢で挑むためマルドゥックの計画プランに耳を傾ける。


「報酬は一人一億ってところだな、貸金庫をぶち破って良いのが出れば追加報酬も出す、場所はアメリカ合衆国のアイオア州、ハウンド・ドッグの祖国、御膝下だ、騒乱オープンでやれば直ぐに駆け付けて来るだろう、なるべく静寂ステルスを心掛けろ、無論、撃ち合っても問題ない様にはしておくがな」


 一人頭一億、安くは無いが高くも無い、銀行強盗ジョブの報酬としては並みと言ったところか。それでも現実世界での平均的なサラリーマンが何十年掛けて稼ぐ、或は半生に匹敵する。一度の仕事でそれだけ稼げるのだ、上出来だろう。

 スクリーンに銀行内の見取り図と、それぞれの役割分担が表示される。チトゥィリが銀行内の監視室制圧、警報のロック担当。アジンが金庫室、内扉を破る担当。ロールと充嗣は二人でフロアの制圧、通報防止担当だ。

 銀行は入り口からメインフロア、受付、奥に銀行員用のワークスペース、裏口には監視室と金庫がセットで存在している。小さくは無いが、大きくもなく、屋上から侵入すれば監視室に辿り着くのは難しくないだろう。


「この銀行の金庫はタイムロック式だ、銀行職員が持っている承認カードキー、それと暗証番号、二つのロックを解除してから三分、それで金庫が開く。後は内扉を破って金を頂く、貸金庫とキャビネットも漁れば良いモノが出るかもしれん、情報も金になる、手あたり次第奪っておけ」

 

 金庫のセキュリティとしては通常通り、まずチトゥィリが先行して監視室を制圧。カメラの映像をループ映像に切替、警報装置をロックする。

 その次にアジン、トリ、充嗣の三人でメインフロアを制圧、受付の人間には悪いが手動警報ボタンに近い人間は残らず射殺させて貰う。ビジネスマンって言うのは中々侮れない、中には命は金より軽いという奴も居る。だからこそ万全を期して、馬鹿正直に「押すな!」なんて言わない。叫ぶ前に殺してしまえば押したくても押せないのだ。

 後は充嗣とトリが人質を監視し、歯向かう馬鹿が居るなら容赦なく殺す。アジンは役席から金庫を開ける為の情報を吐き出させ、金庫を開けさせる。チトゥィリは監視室で全体の監視を続行。


「警備は三人、監視室を入れても四人、まぁ制圧は簡単だ、制圧後は銀行の役席からカードを奪え、暗証番号もソイツが知っている筈だ、目の前で何人か殺せば吐くさ」

 

 金を奪ったら逃走用のバンに詰め込んで終了、早ければ十分程度で終わる楽な仕事。マルドゥックが大袈裟に手を広げ「やれるか?」と問うて来る。そんな質問は愚問だ、今まで幾度も修羅の道を逝った精鋭にとっては容易い。充嗣達BANKERは静かに笑い、銃の撃鉄を起こす事で返事とした。


「まぁ、俺もこの依頼ミッションが失敗する―― いや、手古摺るとも思っていない、プロのお前達だ、質問も無いだろう、決行は明日の三時だ、安い仕事だが準備は怠るなよ?」

「無論だマルドゥック――しかし、こんな依頼ミッションを持って来たという事は、やはり……」


 マルドゥックに対してミルが答え、何やら意味ありげに微笑む。それの笑みは確信に満ちていて、今回の依頼に他の意図が隠されていると分かっている顔だった。無論それは充嗣も同じ、いや、BANKERクルー全員が気付いているに違いない。

 見ればロールもにやにやと笑みを浮かべ、レインは静かに、しかし上機嫌に口元を緩めていた。クルー達の表情をカメラ越しに確認したのだろう、「……全く、仕方がない奴らだ、お前達の考えている通りだよ」と観念したようにマルドゥックは吐いた。


「おぉ? マジかマルドゥック、じゃあまさか――」


 ロールが話題に噛み付き、期待を込めて叫んだ。全員の視線がマルドゥックに向き、彼はゆっくりと喉を鳴らして頷いた。


「あぁ、メガバンク―― バンク・オブ・アメリカを襲う」


 その答えに、皆から感嘆の声が上がった。

 バンク・オブ・アメリカ―― アメリカ合衆国ノースカロライナ州、シャーロット市に本社を置く巨大な銀行だ。総資産二兆五千二百億ドル、総従業員約二十五万人、昨年に同米国最大規模の銀行であるゲートメリルをグループ傘下におさめ、名実共にアメリカ最大の民間金融機関となった。


 バンク・オブ・アメリカの本部は高層ビルで、バンク・オブ・アメリカ・タワーと呼ばれている。階層は全58階、シャーロット市の中でも一位二位を争う大きさ。アメリカ最大規模の銀行であり、その信用の高さも桁違いだ。溜め込んでいる金、情報、物品ゴールド、貸金庫の中身、全て奪えばどれ程の金になるか。恐らくこれまで達成してきたどんな依頼ミッションよりも素晴らしい報酬が得られるだろう。

 しかし、報酬に見合うだけの危険がある。恐ろしく強固な金庫室や蟻の様に湧き出る警備、セーフティ、トラップ、ハウンド・ドッグの連中だって死に物狂いで戦うだろう。そして戦利品が多ければ多い程、その運搬にも時間が掛かる。


「病み上がりでいきなり国内最大の銀行襲撃、何てリスクが高過ぎる、無論お前達を信頼していない訳じゃない、しかし一%でも成功する確率を上げられるのなら、そっちをとるのが賢い選択だ、そうだろう?」


 マルドゥックの言葉に、ミルは「そうだな」と肩を竦める。充嗣も流石にメガバンクを襲うとなると、相応の準備期間が欲しい、装備的にも精神的にも通常の依頼ミッションに臨む状態では物足りない。


「まずは目の前の仕事でしょう、この計画プランを成功させて、腕が鈍っていない事を証明出来れば大口の仕事に―― いつもの事よ」

「あぁ、そうだな、目の前の物事を着実に進める、結局人生に於いて、それが最も近道だ」

「ハッ、BANKERにとっちゃ何事も些事だ、不可能を可能に、それが俺達だろうがよォ」


 好戦的な笑みを絶やさないクルー、ミルもロールもレインでさえ、その大きな標的を前に胸を高鳴らせる。例えどれだけの強敵に阻まれようと、何度壊滅しかけても、どれだけ修羅道を行っても、BANKERは止まらない。常身戦場、その身は常に戦場に、それは充嗣にも当て嵌まる言葉。目的は金では無い、無論生きる為に金は要る、けれど充嗣はそれ以上に虜になっていた。


この、BANKERという(仲間)と共に何かを成せる事が。

この上無く嬉しいのだ。


「―― よし、仕事だお前達、BANKER GANGの強さ、見せつけてやれ!」


マルドゥックの言葉に充嗣が笑う、ロールが笑う、ミルが笑う、レインが笑う。全員が腕を掲げ、各々が声を上げる。充嗣の視線がレインと交わった、その瞳で語る事は無い。思う事は一つだけ。



BANKER GANGに敗北は無い。




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― 新着の感想 ―
いつか下手なテロリストより厄介になりそう笑
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