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療養の日

 

 結果として、今回の依頼は成功した。

 回収に来たヘリは元々契約に無かったアシではあったが、マルドゥックが異変を感じてドイツにて私有しているモノを至急飛ばしたらしい。内部にはマルドゥックの私兵プライベートが五人程乗り込んでおり、充嗣達の近くに着陸するや否や周囲の警戒と目標物ブツの収容、BANKERの回収を行った。


 あの簡易装甲車、バンはハウンド・ドッグの輸送車兼装甲車に追突され鉄屑ジャンクになっていたが、辛うじて絵画は無事だった。ミルが奥の方へと丁寧に保管していたのが幸いしていたらしい、あと一㎝装甲車が突っ込んでいたら危なかったとか。全くミル様様である。絵画は仲介業者バイヤーを通して無事売却、多額の金が振り込まれた。


 報酬は一人頭八億、しかしマルドゥックから特別報酬として一人頭五千万の追加報酬を受け取った。何でも情報の不足による戦闘発生、それに対する賠償だとか。要するにハウンド・ドッグが潜伏しているの分からなくてごめんね、という事らしい。全員その金を受け取りながら苦笑いを浮かべた、確かに大変だったし死ぬかと思ったが、それでマルドゥックを責める気はない。


 彼がミッション前に死ぬほど情報収集を繰り返し、あらゆる不測に備えているのを知っているからだ。今回だって三十分足らずで救助用の兵隊とヘリを用意してくれたのだ、確かに情報は不足していたのかもしれないが、それ以上に感謝が勝る。

 何よりあの戦闘を耐えきれたのは「マルドゥックなら必ず助けに来る」という根本的な信頼があったから。それが無ければ、とっくにBANKERは全滅していたに違いない。


「屋敷内の私兵隊を凡そ五十、そして追撃にアパッチ、銃架付の装甲車、ハウンド・ドッグを百、ですか」


 今充嗣の目の前には、何とも言えない表情をしたヴィクトリアが佇んでいた。場所は充嗣の自宅、その身の何倍もの大きさを誇る豪華なベッドで充嗣は看病されていた。最初こそ負傷したと言う知らせを受けて、慌てて充嗣の元にやって来たヴィクトリア。甲斐甲斐しく世話を焼き、彼を自宅まで丁寧に運び込むと何から何まで尽くしてくれた。ヴィクトリアを雇って本当に良かったと心底思う。


 今回の戦闘の充嗣は重傷を負い、本当なら入院が必要な程であった。しかし流石に裏の人間、それもBANKERを入院させるとなると中々手間である。不可能ではないが、金も時間も掛かる。なので充嗣はこれを機に必要な医療器材を自宅に購入し、マルドゥックに頼んで医者を一人派遣して貰った。今回はこちらの落ち度だと画面越しに謝罪を口にしたマルドゥックは、医療費用を全て負担し確かな腕を持っている医者を派遣してくれた。医者は年老いた老練の外科医だった。


 診断結果は全治一ヵ月、爆傷は中々に酷いものだったが、それ以上に充嗣の頑丈さ、自然治癒能力の高さが勝った。元々、回復道具チートアイテムで直ぐに完全回復してしまう様な肉体の持ち主だ、無論この事はゲーム時代を知る充嗣しか知らない事だが。

 診察した医者曰く「普通なら死んでいてもおかしくはないのですが、本当に弾頭が直撃したので?」と首を傾げていた。どうにも爆発の余波に巻き込まれて、という状況が妥当らしい。恐らくアーマー値上昇スキルの恩恵だろう、右腕もちょっとした手術とリハビリを行えば問題無いとお墨付きを貰えた。傷跡はかなり残るとの事だが、別に気にする事ではない。既に巳継の体には弾痕と切り傷の痕が幾つも残っているのだ。

 のBANKERであっても怪我する事があると実感している所に、充嗣は今回戦った相手をヴィクトリアに向けて口にした。既に医者は帰宅し、部屋には充嗣とヴィクトリアしか居ない。


「あの……BANKER(銀行家)の方々は毎回、そんな数の敵性戦闘員と戦っているのですか……?」

「いや、流石に今回は多かったな、いつもは百丁度とか、その位だと思う」


 充嗣がそう答えると、どことなく安堵した様子のヴィクトリア。しかしすぐさま首を横に振り、「いえ、百人でも四人で相手するのは異常おかしいですよね」と我に返った。確かに現実的に考えるとそうだ、全く我ながら仕事環境がぶっ飛んでいる。


 しかし今回も確かに多かったが、民間軍事会社(PMC)の最新鋭潜水艦から機密情を盗んだ時などは凡そ千近い隊員とやりあった、あの時と比べれば雲泥の差だ。今回は短期戦という事で余り弾薬を持ち込まなかったのが苦戦した原因だったが、弾薬さえあれば一時間でも戦い続ける事が出来るのがBANKER GANGだ。現に充嗣達は凡そ七百人の隊員を殺害し、依頼ミッションを完遂していた。


「まぁ、普通の方法では八億なんて法外な金額、稼ぐ事が出来ないって事だ」

「……私は、一億あればもう十二分ですよ」


 ふむふむ、成程と頷きながら充嗣は答える。


「奇遇だな、俺もだ」







「んでよ、そこで俺がバッ! とフックを繰り出した訳よ、ンで相手の頬に上手い具合に突き刺さってな! ありゃあスカッとしたぜ、相手が倒れるのが分かる一撃だった、目で捉えられない、最高のパンチって奴だ!」

「そりゃまた、随分と派手な試合だな」


 充嗣が療養生活になってから一週間後、ロールが自宅に見舞いに訪れていた。肩の傷はそれ程深かった訳でも無く、筋肉も丁度良い壁となり二週間もすれば完治するとの事で、どうにも彼は時間を持て余しているらしい。怪我人同士時間を潰し合おうという提案に充嗣は肯定の返事を返し、今この状況がある。

 

 ロールが今熱く語っているのは、地下闘技場での話だった。ソレはマルドゥックも一枚噛んでいるビジネスで、主な客層は世界の名だたる富豪達。ロールも時たまゲストマッチという形で出場しているらしい。戦歴は二十三戦、二十三勝、無敗。正にBANKERクルーの強さを象徴する様な戦歴だ。

 巨大な地下空間を丸ごと賭博場として運営し、地下闘技場はその中でもぶっちぎりの人気を誇る遊戯ゲーム。施設は充嗣が知っているだけでも実に十カ所以上の国に点在している、中には国営に携わる人間も訪れる正に裏カジノだ。


「というか、傷は大丈夫なのか? 完治は二週間だって話だろうに、まだ一週間しか経っていないだろう?」

「ばっか、お前、こんな時に寝てられるかよ、俺は充嗣ほど重傷でもねェし、動かねぇと体が鈍っちまう、BANKERは体が資本だからな、だろう?」

「だったら尚更、体を大事にした方が良いと思うぞ」


 刺された肩をバンバン叩き、豪快に笑うロールに充嗣は溜息を吐き出す。彼のこのアクティブなところは見習うべきか、それとも反面教師にすべきところなのか、非常に迷う部分である。

 そんなこんなで雑談に興じていると、控えめに扉がノックされ「失礼します」と声が聞こえた。扉に視線を向ければ入室してきたのはヴィクトリア、手には何枚かの書類が握られている。どうやら頼んでいたものが届いたらしい。


「巳継様、武器商人ウェポンディーラーの李袁様より、ご希望の商品一覧が届きました」

「あぁ、ありがとう」

「ん、何だよ充嗣、武器の新調でもするのか?」


 資料を受け取った充嗣は礼を言いながらパラパラと手元のそれを捲る。それを見ていたロールが横合いから問いかけ、資料を覗き込んだ。通常、仕事で使用する武器や装備は固定なのでまとめて発注、購入する。別個に発注というのが珍しいのだろう。


「今回のミッションで色々思うところがあって、近接武器を頼んだ」

「近接ぅ?」


 充嗣の答えが意外だったのか、ロールは面白い声を上げる。


「弾薬が切れたら殴るしかない、武器を奪っても撃ち切れば終わりだ、だから仮に手持ちの銃器が全部駄目になっても戦い続けられるだけの武器が欲しいと思った、弾を消費しない武器と言ったら、近接コンバットしかないだろう」


 元々ゲームの世界でも近接武器は存在していたのだ、プライマリとセカンダリ、それに各種装備を一種、そこに付け加えて持っていけるのが近接武装。種類は様々でナイフやナックル、スタンガンやバッドなど、中には銃剣なんてモノもあった。敵が近いならば銃床で殴れば良い、割と最近まで本気でそう思っていた充嗣は今回の戦闘で改めて近距離戦闘の重要性を思い知らされた。弾薬が無くては戦えない、では済まないのだ、この世界では。


 例え銃器が使い物にならなくなったとしても、充嗣は依頼ミッションを完遂しなければならない。それがBANKERの名が裏世界で絶大な力を持つ所以ゆえんであり、プロである充嗣が持つべき矜持でもある。


「……いや、まぁ、確かに今回はヤバかったがよ、そんなの弾薬(AMMO)を大量に持ち込めば良い話じゃねェのか?」

「今回みたいに静寂ステルスから騒乱オープン、なんて依頼ミッションだったら持ち込める弾薬にも限りがあるし、どれだけ弾薬があっても撃てば無くなる、だからまぁ、最後の保険みたいなものかな、別にあって損はしないだろう?」

「いや、そりゃぁ、そうだが……」

 

 近接武器だって持ち込めば重量が増える、だから別に充嗣は「俺が持っているんだから、お前も持て」とクルーに強制するつもりはなかった。実際ロールの拳はそれだけで脅威だ、普通に殴るだけでも十分通用するだろう。


「……決めた、コレを注文しよう」


 充嗣は並んだ商品の中から、最も嵩張る事がなく、壊れにくいモノを選択した。商品の詳細が書かれた書類を指さしながら充嗣はヴィクトリアに話しかける。


「畏まりました、ではそのように」


 恭しく礼をし、充嗣から受け取った書類を抱えてヴィクトリアは退室する。その様子をロールは鼻を鳴らしながら見つめ、彼女の退室を見届けてから充嗣に問いかけた。



ヤンデレ成分増やさなきゃ(使命感)

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