友の奮闘
長い、長いよ、戦闘が長いよ……ちょっと日常パートが恋しくなるレベルで長いよ。
「マルドゥック、おいマルドゥック! 頼む、応答してくれ! ドヴァがやられた、急いで回収に来てくれ、マルドゥックッ!」
充嗣を装甲車の裏側に寝かせたトリは一心不乱に無線機に向かって叫んでいた、アジンも敵の足止めに精一杯で、チトゥイリも目前の敵群に呑まれまいとトリガーを無心で引き絞る。
「アジンッ、次で最後の弾倉よ!」
「っ、了解、大事に使ってくれよ……ッ!」
重々しいコッキング音が鳴り響き、アジンはライフルを構えたまま後退し装甲車の裏に身を隠す。一拍遅れてNATO弾の嵐が装甲車の後部扉を叩き、装甲が僅かに凹んだ。状況は明らかに悪かった、全身重装甲の目に見える脅威を排除したハウンド・ドッグは勢い付いている。充嗣のあの大立ち回りは相手に最高の脅威を与えるが、倒されれば同時に最高の安堵を齎す。充嗣の戦闘不能はBANKERの戦力的にも、敵の心象的にも途轍もない痛手だった。
「くそ、何で繋がらねェンだよ、このポンコツがッ!」
幾ら叫んでも応答のない無線機に腹を立てたトリが叫び、耳元の無線機をむしり取ると地面に叩きつける、そして勢い良く踏みつけた。
「アジン、今からでも装甲車でホットゾーンを離脱しようぜッ!? ランディングゾーンまで行けば俺達の勝ちなんだッ!」
「……それは無理だ、装甲車を動かす前にLAWを撃ち込まれる、一網打尽だ」
チトゥイリもアジンも、LAWを担ぐ隊員を優先的に射殺している。対戦車ロケット弾は装甲車に対しても有効だ、装甲の厚みとしては戦車より薄い、もし撃ち込まれればどうなるかなど分かり切っている。寧ろそれを生身で受けて、形を保っている充嗣が異常のだ。だが、感謝する事こそあれ、悪感情を抱く事は決してない。生きていれば十善、どれ程の確立だろうが充嗣が生きている事にアジンは感謝していた。
「くそったれ、神なんぞ信じはしねぇが、今だけは何にでも祈ってやる!」
トリが地面に寝かせたライフルを手に取り、弾倉を確認して嵌め直す。そして地面に横たわって脱力する充嗣を一瞥し、装甲車の裏から飛び出した。
「トリ!? 何をッ」
アジンが止めようと手を伸ばしたが、それを遮る様に幾つもの弾丸が装甲車に着弾した。危険を感じたアジンが手を引っ込めれば、間髪入れず手のあった空間に弾丸が撃ち込まれる。狙撃を敢行していたチトゥイリも身の危険を感じ、素早く装甲車の裏に転がり込んだ。
「トリッ、戻れッ!」
「ドヴァは俺を助けてくれた、命の恩人だッ! ンで、仲間だッ! そんな奴を傷つけられて黙っていられる程、俺ァ人間出来てねェんだよォッ!」
弾丸がアイアン・アーマーの表面を強かに叩き火花を散らす、しかしトリは決して怯まない。構えたライフルを撃ちながら前進し、対するハウンド・ドッグも打って出た。三人の隊員が装甲車より飛び出し、トリを迎撃する。
「ふっ!」
先程の散発的な弾丸の雨ではなく、トリを狙った集中砲火。流石のトリであっても僅かに足が鈍る、如何に堅牢なアーマーであろうと何百もの弾丸を浴びれば一溜りも無い。
「ン、な、この程度ぉォオッ!」
飛来する弾丸を振り払う様に横っ飛び、地面に転がりながらライフルを掃射する。三人の隊員のどこかしらに弾丸が食い込み、僅かな間射撃が止まった。トリは転がった状態から飛び起きると、雄叫びを挙げながら隊員に突っ込んだ。充嗣がBAKERで積極的に前衛を務める様になってからは重火器による支援をメインにしていたトリだが、元はと言えばショットガンや突撃銃を片手に突っ込む様なポジションに居た男だ。
そのタフネスと怪力には目を見張るものがある、少なくとも、そうでなければBANKERの一員など務まらない。肩から隊員に突っ込んだトリは、そのまま一人を吹き飛ばし、両脇に居た隊員の顔面を掴んだ。そしてそのまま片腕で持ち上げ、近くの装甲車に叩きつける。ゴキュッ、と鈍い音が鳴り響き、隊員の首がありえない方向にねじ曲がった。
「このっ、薄汚い兄弟殺しがッ、絶対殺すッ、何が何でも殺すッ、生きて帰れると思うなよ雑兵如きがァッ!」
その憤怒は後方で銃を構えるハウンド・ドッグを直撃した、しかし彼らとて常に死地に身を置く猛者。BANKERに何人殺されたかも分からない、家族を殺された者も、大切な人を殺された者も居る。その憎悪はトリにも負けず劣らず。
「舐めるなよぉ……っ」
一人の隊員が呟き、ライフルを構える。残りの十数人の隊員もライフルを構え、一斉に射撃を開始した。
「トリ!」
アジンが叫び、後方から援護を開始する。チトゥイリも身を乗り出して対物ライフルを構えるが、それよりも速く隊員の弾丸が二人に着弾した。アジンはボディアーマーに、チトゥイリはマスクに弾丸が弾ける。衝撃に体を仰け反らせ、頭部を揺らされたチトゥイリは装甲車の裏に身を隠した。アジンは辛うじて耐えたものの、構えたライフルから吐き出された弾丸は明後日の方向へ。
射撃の嵐に見舞われたトリの行動は早かった、タックルで吹き飛ばした隊員の襟元を引っ掴むと、射線上に押し出したまま駆け出したのだ。隊員はまだ生きていたが、幾つもの弾丸に顔面を、胴体を、腕を足を貫かれて即座に絶命する。
弾丸は隊員の体を貫通できず、体内に残留する。ボディアーマーを貫通しトリへと届き得る弾丸も、アイアン・アーマーの前では無力だ。威力の減退した弾丸など堅牢な鎧の前では意味を成さない。
「っ、おらァッ!」
彼我の距離を一気に詰めたトリは、装甲車の裏側に身を潜めていた隊員達の元へと辿り着く。幾つもの弾丸を浴びながら敵陣深くに斬り込んだトリは、既にズタボロの肉片と成り果てた死骸を近くの隊員目掛けてぶん投げた。圧倒的な怪力で投げつけられた死骸は、大きな質量を持った砲弾として隊員を襲う。細身の隊員は飛来した死骸と盛大にぶつかり、諸共地面を転がってブッシュの向こう側に消えた。
「ッ、シッ!」
ライフルを手放し、ナイフを抜いた隊員がトリを襲う。腕を素早く伸ばし、突きをトリの喉元目掛けて繰り出した。それを拳の裏側で弾き、勢い良く右フックをお見舞いする。目視も難しい速度で放たれたソレは、隊員の頬に直撃した。ゴリッ、と何かを砕く音と共に体が一回転、隊員はそのまま倒れ伏す。
「オラッ、来てやったぞ地獄の猟犬共ッ! 今日がテメェ等の命日だ、咽び泣いて喜んで逝けッ!」
両足を開き、拳を構えたトリに対してハウンド・ドッグの隊員はナイフを抜き放った。五人の隊員がトリを囲み、残りはチトゥイリとアジンの顔すら出させない。被弾覚悟でアジンが半身乗り出し射撃を行うが、隊員一人を射殺するのが精一杯で、一秒後には何発もの弾丸がボディアーマーに突き刺さった。衝撃に顔を歪めながら、アジンは再度身を隠す。弾倉を外して残弾を確認すれば、残弾数は僅かだった。
「ラァッ!」
トリが拳を繰り出し、辛うじて隊員が避ける。そして伸びきった腕を掴み、その関節目掛けてナイフを振り上げるも、ナイフが突き抜ける前に掴んだ筈の腕が躍動する。トリが掴まれた腕を振り回し、隊員を怪力を以て地面に叩きつけた。
「野郎ッ!」
残り四人の隊員が一斉に躍りかかり、トリは一番最初に掛かって来た隊員に素早いストレートをお見舞いする。仰け反り、後頭部から地面に落ちた隊員を尻目に、背後の二人目に裏拳。それは側頭部を捉え大きく隊員の頭部を揺らした、そして振り向き様に回し蹴り。ボッ! と言う音と共に首にめり込んだブーツが隊員を吹き飛ばす。
そこまで動いた所で二本のナイフがトリを襲った。一本目はトリの首元に、それを辛うじて腕の甲で弾き、最後の一本が左肩の隙間に入り込む。薄い防弾線維が僅かな間ナイフをせき止めるも、全体重を乗せた切っ先はソレを突き破りトリの皮膚を刺す。音も無く突き入ったナイフはトリの表情を痛みに歪めさせた。
「んのォッ!」
肩越しに突き刺した隊員の首を抱え込み、そのまま首を起点に前方へと投げ飛ばす。骨が鈍い音を立て、投げ飛ばされた隊員は空中で回転しながら凄まじい音を立てて地面に落下した。恐らく生きてはいないだろう。
トリは突き刺さったナイフを抜く事無く、そのまま左腕を脱力させる。そして右腕で殴り飛ばした隊員が落としたナイフを取ると、荒い息と共に構えた。三人の隊員がゆっくりと立ち上がる、トリの一撃を受けて尚、闘志は衰えていない。指先で器用にナイフを回転させたトリはハンマーグリップでナイフを握り込み、歯をむき出しにして笑う。闘志が衰えないのはお互いさまだと。
「来いよ……ぶっ殺してやる」




