祝杯
言い忘れていましたが、プロットは存在しません。
行き当たりばったりで不定期更新です、結末も全く考えていません。
あと作者は初心者中の初心者で文章はクソザコナメクジなのでご了承下さい。
「我らがBANKER GANGに乾杯ッ!」
早朝、未だ日が昇り切らず雀の鳴き声が聞こえる時間帯。静謐なベッドタウンには人の声一つ聞こえない、立ち並ぶアパートやマンションの中にひっそりと佇む店。パッと見は普通のバーで、closeの看板を表に出した一軒の店。その裏側で充嗣とクルーは乾杯の音頭を上げていた。この店はただのバーでは無く、このBANKER GANGの保有するセーフハウス、所謂隠れ家の一つであった。
店の裏側には積み上げられた札束と、銃器、そしてボディアーマーなどが乱雑していた。そして中央にあるテーブルには無数の酒と食事。ソファに座って静かにグラスを傾ける充嗣は、努めて冷静に見える様に淡々と酒を舐めていた。時折、ガーゼの貼ってある腕を摩りながらクルーの会話に耳を傾ける。今の所一番騒いでいるのはBANKERの中でも一番血の気の多い男、トリこと【ロール・アガンツ】
「今回の報酬は幾らだ? 奪った金は十二億ッ、んでよ、マルドゥックに二割で、えぇと、二億四千万! 残りは九億六千万だ、それを四等分だろぉ? 一人頭ぁ……んと、二億四千万かッ!」
酒を酒瓶ごと掴んで喉に流し込み、奪った金の話を喜々と語る男。刈り上げた坊主に近い頭髪に鍛え上げられた肉体、それでいて余り知性を感じさせない言動。実際彼に求められているのは冷静な判断力だとか作戦立案では無く、優秀な兵士としてのスキルだった。
「正確には十二億と一千七百だがな、それに丸々懐に入る訳ではない、全員の口座から次の作戦に必要な分を差し引く、まぁそれ程多くはない額だが」
冷静にワイングラスを揺らしながら、優雅に足を組んで言い放つ男―― アジンこと【ミル・ハーゲン】 その姿はオールバックに黒のスーツとやり手の仕事人のソレ。
先の戦闘で充嗣に治療を施し戦線復帰させてくれた男である、その立ち振る舞いと言い放つオーラと言い、このクルーの中でも一際目立った存在。このBANKER GANGのリーダーであり現場の最高司令官。それがодинの数字を与えられたミル・ハーゲンであった。充嗣はこの男の事を良く知っている、それは何度もこの男と共に死地を潜り抜け、戦ってきたからだ。無論、現実の世界ではない。
ゲームの世界でだ。
「充嗣、やはり体調が悪いの?」
充嗣が思いつめた顔をしていたからだろう、気が付くと隣にチトゥイリの番号を振られた【レイン・カルロナ】が立っていた。輝くブロンドに青い瞳を持つ美しい女性だ、このBANKERの中で唯一の女性、主に金庫の開錠や電子機器の扱いを専門にしている技巧派。充嗣は画面の向こう側でしか見られなかった美貌に息を呑みながらも、「いや、何でもない」と返す。その声は少しだけ震えていたが、幸いレインには悟られなかった様だった。
ロール、ミル、レイン、この三人は顔が良い。というか充嗣の価値観からすれば、この世界の主要キャラの容姿はどれも整っていた。ロールは野性味溢れた鋭い眼光に少し焼けた肌、短髪の似合う男。ミルは優男のような風体だがその実筋肉もあり、知的でミステリアスな外見、日本人の考える白人イケメンといった男。レインは言わずもがな、ブロンド美女である。
そして、その法則には充嗣にも当てはまる。グラスに注がれた水面を覗き込めば、そこに映る自身の顔。それは見慣れた顔ではなく、とても整った日本人の顔がある。充嗣はこの顔の人物を知っていた、充嗣が好んで使い何度も繰り返し共に戦ったキャラクターだった。
【巳継】
奇しくも同じミツグの名を持つキャラクター、それが愛着を持った原因と言えば否定出来ない。日本出身で、元々日本で実業家として活動していたという経歴を持つ男。年は二十四とBANKERの中では比較的若い。
ゲームの世界、だよな?
充嗣は考える。これほど世界観が同じで、状況が似ていて、登場人物が同じ世界など、そうとしか考えられない。なんとも不思議な話ではあるが、自分はゲームの中の世界へと迷い込んでしまったらしい。なんと奇妙で馬鹿げた話か、それでも目の前で酒を飲み笑う人物は見知った存在で、何より血の通った人間であった。実際、充嗣は先の戦闘で敵対した人間を射殺している。
息をする様に容易く、当たり前の様に引き金を引いていた。その腕に伝わる反動も、火薬の匂いも、自分は何一つ知らないというのに体に馴染む。その感覚はどこまでもリアルだ。そこには人を殺したという感慨は無かった、NPCを殺したような満足感だけが確かに存在したのだ。
「んでよ、充嗣は何に金を使うんだよ?」
ロールに話を振られ、俯いていた顔を上げる。突然話を振られたために一瞬何の話か分からなかったが、ミルの「充嗣の事だ、また骨董品でも買い集めるのだろう?」という言葉に、得た金の使い道であると察せた。
確かにキャラクターとしての巳継には、骨董品集めが趣味という設定があった気がする。設定資料集に埋もれた、あってないような設定だ。それがこの世界では当然の事だと受け入れられていて、充嗣はこの世界がゲームであると確信を深めた。
「俺は、まぁ、次の仕事の時の為に、銃とか、ボディアーマーとか、そういうのに使うさ」
銃や仕事着は仕事の度に一新する、マスクもそうだ。一応足が着かないようにするという理由があるけれど、費用も中々馬鹿にならない。命を懸ける仕事だからこそ道具に妥協は出来ない、もともとゲームでは稼いだ金など銃火器の改造くらいにしか使えなかったのだ。充嗣は勿論、それに倣うつもりだった。
話を聞いていたロールはつまらなそうな顔をして充嗣に絡む。
「充嗣は真面目だなぁ、何ていうかよ、お前欲が無いよな」
「日本人は仕事中毒者が多い、国民性という奴だろう」
酷い謂われ様だと充嗣は思ったが、それが彼らなりの軽口である事を知っている。だから酒を舐めながら「ストイックなだけだ」と拗ねたフリをした。
「ハッハ、んだよ、拗ねるな充嗣ぅ、よっしゃ、んじゃアレだ、オレが奢ってやるからよ、そこらでしっぽり……」
「ロール、この後マルドゥックに引き渡し作業があるのを忘れたのか?」
「男って……」
楽しそうに大口を開けて笑うロール、充嗣を娼館に誘おうとして来たので慌てて断る。呆れた様に肩を落とすも、その実少しだけ笑みを浮かべているミル。軽蔑した様な目で自分達を見るレイン。充嗣はそんな輪の中にいて、知らず知らずの内に充足感を得ていた。
胸の内が温かく、何か感じ入る物がある。
それはとても甘美で、放し難く、充嗣を雁字搦めにして捕える、信頼できる仲間と一つの目標に向かって突き進む、そこには金の為という低俗極まりない理由が存在するけれど、今の充嗣にはとても美しいものに見えた。
結局このバカ騒ぎは、マルドゥックの雇った回収車が到着するまで続けられた。