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エスケープ・ポイント


 両開きの大きな扉、正面ゲートに通じる出入り口だ、充嗣はその近くに足を進める。後は門まで突っ走れば終わり、ただこの場所から門までは直線距離で凡そ三十メートルあり、しかも見晴らしが良い。三百六十度どこから攻撃されてもおかしくない道。一応門を突き破って逃走車がなるべく近くまで接近して来る手筈だが、乗り込むまでに狙撃される危険性だってある。


 充嗣は静かに息を吐き出すと、pigのコッキングレバーを引き次弾を薬室に送り込んだ。ソードオフ・ショットガンはホルスターに、充嗣は精密射撃を心掛ける。

 そして数秒後、途轍もない轟音と共にギャリギャリと金属同士が擦れる音が周囲に鳴り響いた。

 逃走車が門を突き破ったんだ、充嗣は唾を呑み込んだ。


《お前達、逃走車が突っ込んだ! 行け、行けッ!》

「ドヴァ!」

「おうッ!」


 アジンが叫び、充嗣は木製扉を思い切り蹴飛ばす。同時にトリが機関銃ライトマシンガンで後方から迫る警備に弾丸の雨をお見舞いした。充嗣が外に向かって飛び出す、僅かに太陽が顔を出し明るんで来た空は、くっきりと充嗣の姿を白日の下に晒した。


 瞬間、充嗣の横に等間隔で並ぶ石像が弾け飛ぶ。石礫が充嗣のアーマーを叩き、煉瓦の地面に弾痕が現れた。思わず足を止めそうになるが、辛うじて堪える。


狙撃手スナイパー!」


 やっぱり居やがった、充嗣は内心で悪態を吐いた。何処にいるかも分からない、ゲームではレーザーポインターで位置を割り出す事が出来たが、現実でそんな間抜けな事をする奴は居ない。

 正面には金属の門を突破した車両が一台、通常のバンに防弾加工を施した簡易装甲車。それが充嗣達に背を向けてエンジンを吹かしていた。すぐ横にはベコリと凹み、黒ずんだ金属門が転がっている。


「行ってくれ、アジン!」


 充嗣が叫ぶのと、狙撃が行われたのはほぼ同時。バツン! と充嗣のアーマーが火花を散らし、胸元に強烈な衝撃が走った。流石に大口径は強烈だ、一歩後退しそうになる足を辛うじて留める。底上げされたアーマー値が充嗣の受ける衝撃を緩和していた。


 充嗣は撃たれながらも冷静に飛び散る火花を見つめていた、これによって大体ではあるが敵の潜んでいる場所が分かる。場所は正面からやや左、森に囲まれた別荘地の森林地帯。


「っ、弾は貴重なんだけどなッ!」


 精密射撃を心掛けようと言う前言を撤回、充嗣は囮役に徹する事にする。手に持ったpigを構え、狙撃手スナイパーの潜んでいると思われる方角にやたらめったら撃ちまくる。マズルフラッシュが充嗣の姿を浮かび上がらせ、銃声が周囲に響き渡った。二十、三十と弾丸が凄まじい勢いで消費されていく。ダブルドラムマガジンとは言え、この消費速度では弾切れを起こすだろう。


 充嗣が銃を乱射し、その脇をアジンが凄まじい速度で駆けていく。狙撃されない様に姿勢を低く、しかし速度は緩めず。アジンのすぐ横にライフル弾が着弾し、煉瓦を砕くが彼はものともしない。


「また狙撃ッ、何人いるの!?」


 銃を乱射する充嗣の頭部、胸部に連続して弾丸が叩き込まれる。どうやら複数の狙撃手スナイパーが居るらしい。バイザーに僅かな凹みが入り、充嗣は舌打ちを零した。流石に連続した狙撃は痛い、これは青痣になっているだろう。


「チトゥイリ、先に行け!」


 充嗣は隣で同じく銃を乱射するチトゥイリに叫ぶ、彼女のアーマーはアジンの様に薄いベストタイプでは無いが、トリのアイアン・アーマーと比べると比較的防御力の低いボディアーマーだ。


「でも、それだとドヴァが――」

「7.62程度でこのアーマーを抜けるかよ、いいから早く!」


 少し乱暴な口調で充嗣はチトゥイリを急かす、見ればアジンは既に逃走車両に到達し絵画を詰め込んでいた。背後からはトリが機関銃ライトマシンガンを乱射し、後続の警備ガードを足止めしている、そろそろ潮時だ。


「分かった、直ぐに来て!」

「あぁ、トリと一緒に向かう!」


 チトゥイリが逃走車に向けて駆け出し、狙撃手スナイパーが一斉に射撃を開始する。肩、バイザー、腹部にそれぞれ着弾し、強い衝撃に一歩後退する。流石に衝撃を殺しきれない、黒いバイザーが白く濁ってきた。


「トリ! 荷物ブツは積み終わった、逃げるぞ!」

「おうよ!」


 充嗣がそう叫ぶと、トリは手にした機関銃ライトマシンガンを投げ捨て、ベルトから手榴弾を抜き放ち投擲、そのまま逃走車目掛けて駆け出した。充嗣もポーチから地雷マインを二つ取り出すと地面に放り投げ、足で踏んで固める。そのままpigを投げ捨てると、トリと合流し逃走車に向かって走る。

背後で爆発が巻き起こり、トリの投げた手榴弾がロビーの扉を吹き飛ばした。


「BOMB! ハッハッ! やってやったぜぇ!」


 トリが叫び、逃走車両に一足早く飛び乗る。続いて充嗣もバンに転がり込み、アジンが強く内装を叩いた。瞬間車が唸りを上げて加速する。トリがUZIを取り出し、おまけとばかりに乱射する。充嗣がチトゥイリと場所を入れ替わり、二人が追跡を阻止する弾幕担当となった。





「ふぅ、何とかなったなァ、ったく私兵隊の連中しつこ過ぎだろう」

「民間軍事会社(PMC)と比較して厄介なのは分かっていたからな、しかし久々のステスルで少々気疲れした、報酬が報酬だから納得は出来るが……」

「おぉ! そうだ、八億八億!」


 追手は無く、充嗣達は朝日が段々と周囲を照らす中山道を走り続けていた。時刻は既に作戦終了からニ十分ほど経過している、弾幕を張っていたレインとロールはマガジンを使い果たし、酷使されたM4とUZIはバンの床に転がっている。

 ミルが肩を解す様に腕を回すと、ロールが思い出したように絵画に詰め寄った。


「この絵画が八億か……へへっ、そんだけあれば色々買えるなァ」

「またその話か、ロール、お前は少し欲を持ち過ぎだ」

「モチベーションだよモチベーション、そういうミルだって結構買ってんだろ」


 マスクを外した二人がお互いに何を買うやら買わないやらと話はじめ、充嗣もマスクを脱ぎ捨てながら考える。今回でまた莫大な報酬を手に入れてしまった、一体何に使うべきだろうと。


「……そういえば、レインは稼いだ金を何に使っているんだ?」


 充嗣はふと思い立ち、会話に参加していないレインに話を振った。マスクを脱ぎ捨て、額の汗をハンカチで拭っていたレインが充嗣に目を向ける。そういうものを用意している辺りレインも女性だな、なんて思った。BANKERとして活動する彼女は、良くも悪くも勇ましすぎる。


「そうね、宝石とか服とか家具とか……色々よ」


 少し考えて、レインはそう答える。宝石とや服を買い集めている、成程確かに女性らしい買い物だ。

「ふぅん、なるほどね」と頷きながらも充嗣は金の使い道を考えた、レインの様に家具に拘るのも良いかもしれないと、座り心地の良いソファやベッドならば買っても損は無い。


「……そう言えば、ロールとミルから聞いたのだけれど、メイドを雇ったの?」

「え? あぁ、うん、そうだな、雇ったよ」


 レインの質問に充嗣は少々面食らう、あの二人はどうやらレインにも流していたらしい。けれど家政婦やら執事やらを雇うのは普通の事だとミルから聞いている、どことなく恥ずかしい気持ちを抑えながら何でも無いように頷いた。


「そう、やっぱり日本人?」

「いや、同郷の人も考えたけれど、今回雇ったのはベラルーシの出身」


 充嗣は日本人だからと言って贔屓する様な事はしない、能力を第一に考え最も優秀な人間を選んだつもりだった。実際ヴィクトリアは優秀だし、非常に満足している。


「ベラルーシ、ね」

「………何か思うところでも?」


 目を伏せて何か思案顔になるレインに充嗣は問いかける、けれど彼女は首を横に振って「何でも」と答えた。それ以上追及する事は出来ず、充嗣は首を傾げる。ベラルーシに何か思い入れでもあるのだろうかと考え、充嗣は少しばかり目を瞑った。

 流石に少し疲れた。

 目を瞑ると、心地よい疲労感の中で眠りそうになった。このまま一睡しても良いかもしれない、そんな事を思う。けれど充嗣が眠りに呑まれる前に、耳元の無線機が強く震えた。


《畜生! ガンシップだッ!》


 

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