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消えゆく存在

作者: 倉本 夕

受験シーズン、学生が様々な迷いを抱えるこの時、僕は生まれた。

勉学に励む人々はカリカリとペンを走らせる。数学、国語、英語、それぞれの参考書をめくる綺麗な手。僕のご主人は綺麗な手の持ち主だ。

「あ、間違えた」この言葉が何よりも嬉しい僕はご主人の手に触れる時すごく張り切って字を消す。こんな仕事誰もしたくないと、文房具のみんなは言うが、僕は誇りに思っている。なぜなら命が尽きるまで、主人のために働けるのだから。壊れて捨てられるよりも、折れて捨てられるよりも、最後まで真っ当に仕事に取り組める、それが何よりも嬉しいのだ。僕の一族は、最後まで使われないなんてこともよく聞くが、それでも、命尽きずに主人のそばに居れると思うと無性に嬉しいのだ。僕は消しゴムだ、紙にこすりつけられ字を消すのが仕事。それでも誇りに思えるのは誰かの役に立つという使命感があるからだ。それに手に触れるものというのは、その人の感情をくみ取れる。いら立ちや喜び、様々な感情をだ。


試験日まで残り少ない日数となる今日。

主人は多くのストレスを感じている。綺麗な手は黒くなり、利き腕も疲れ切っているのではと感じることが出来た。それでも主人はペンを走らせる。でも、僕は嬉しいのだ、いつか聞ける「間違えた」を心待ちにして。


試験日の終わりは僕ら文房具、そして主人ら人間に休息を与える機会となる。「よく頑張った」そう言いたいが僕らには口をきくことができない。それでも、手を介して思いを伝えたい。僕らの思いの丈は同じだ、長さは違うくてもだ。すり減った体は主人の頑張りの証。それを称えて僕らは心の中で「おつかれ」を言う、人には届かない僕らの思い。消えゆく僕らの儚い輝き。それでも主人がいる喜びは僕ら文房具にとって、天まで持っていくことの出来る素晴らしいものなのだ。消える時、それは主人がやりきったことに繋がる。この平行していく頑張りの世界、文房具と人の世界はテープのように粘着で、粘土のように切れてもまた引っ付く。そんな関係なのだろう。

消えゆく存在。それは儚いもの。だがそんな儚いものにも輝ける瞬間は多くある。そんなことを胸に刻みたい。

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