決戦
智佳 「津由ー!いるんでしょ!返事して!」
私は山の中を叫びながら進んでいました。道を進んでいくと、見覚えのある開けた草原にやってきました。それは昨日の夢に見た場所にそっくりだったのです。そんな中、周囲の木々を見ると折れたり葉が散っていたりと酷い有様でした。
智佳 「やっぱりここって・・・」
普段の津由の戦いっぷりだとここまで荒れることはまずなかったので事の悲惨さがよくわかりました。そして、一か所他の場所と異なり異様に荒れているポイントがありました。私は気になってそこに近づくとその場所に津由が隠れていました。
津由 「智佳!なんで来たのッ!?」
そういうと、津由が潜んでいた茂みに引っ張り込まれました。
智佳 「だって津由が心配だったから。文化祭始まってるよ、一緒に帰ろう?」
そういい、津由を連れ出そうとすると、
津由 「しっ!静かにッ!」
また茂みに引っ張られてしまいました。
津由 「このあたりにまだ奴がいるの」
智佳 「奴って昨日の悪霊?」
津由 「ええ。あの悪霊はおそらくかなり上位の悪霊でしょうね」
そうして津由は続けて言います。
津由 「奴はこのあたりに結界を張っていて、中からは奴を倒さない限り出られないの。確実に私を倒すつもりなんでしょうね」
智佳 「・・・何か方法はないの?」
津由はうつむき、何もしゃべりませんでした。そして私は一つのことを思い出しました。私の体は津由の精霊力によって生かされている。つまり、私の精霊力を津由に戻したら・・・だけど、そんなことをしたら私は死んでしまうし、津由も許すはずがない。
じゃあどうすれば・・・いろいろ思考していくうちに、物事は起源が大切なことが多いので初めの頃を思い出そうとしました。そういえば、私はどうやって精霊に出会ったっけ?そこで、エビルのことを思い出しました。確かエビルは戦う力を持っていなかったはず・・・じゃあ、どうやって力を出してたっけ?始めの頃は私に力を貸してくれているだけでした。津由と戦ったとき、私は最大限の精霊力を使っていました。その時の方法は・・・
智佳 「『コンビネーション・スピリット』・・・」
津由 「え・・・」
智佳 「津由も精霊なんだよね?だから『コンビネーション・スピリット』を使えば・・・」
言いかけているところで津由は声を張り上げて
津由 「それはダメッ!!!前に悪霊に取りつかれたときのことを覚えてないの!?」
智佳 「覚えてるよ・・・すべての意識が塗りつぶされる感覚」
津由 「なのにまた同じことをしようとしてるの!?リスクをわかってないの!?」
智佳 「ここでこのまま隠れてたって、事の進展は起こりやしないッ!何か行動を起こさないと!!!」
津由 「だったら、私が一人で片づける・・・」
その反論はあまり強くありませんでした。
智佳 「それでできてたらもう倒せてるはずじゃんッ!」
津由 「・・・・・・」
そして、私は優しげに語りかけました。
智佳 「あの時のエビルは私の体を乗っ取ろうとしてたの。でも、津由は信用できる。喜んでこの体を貸してあげられる」
津由 「でも、戦いになると智佳の体を傷つけることになるんだよ。それに、負けたら事実上の死に至るよ・・・」
智佳 「大丈夫。津由を信じているから。一緒に学校に帰ろう?」
津由 「まったく・・・智佳は優しいんだから」
津由はほほえみを浮かべました。
智佳 「それじゃあ・・・いくよ・・・」
津由 「うん・・・」
私は津由の手を握り、口づけを交わしました。
二人 『コンビネーション・スピリット』
その瞬間、私の体の中にエメラルドグリーンのオーラが入ってくるのを感じました。ですが、あの時の感覚とはまた違っていました。あの時の苦しみの感情はほとんどなく、優しく包み込まれる感じがしました。次の瞬間、私の体から閃光がほとばしりました。そして、私の服装は精霊姿の津由のようになっていて、羽も生えていました。ですがエビルの時とは違い、意識ははっきりと残っていました。
津由 「智佳、聞こえる?」
頭の中から津由の声が聞こえてきました。
津由 「私の精霊力を最大限に生かすためには私が精霊力の出力を全部管理する代わりに、身体の動作は智佳に任せるね」
智佳 「で、でも私だったらうまく動けるかどうかわからないよ・・・」
津由 「智佳を信じてるから」
智佳 「あ・・・」
信用するということは、お互いに信じあうことから始まります。そうして、それは絆へと変わっていく。その絆は誰にも負けない力へと変わる気がしました。そして幸いなことに、エビルとの出来事によって基本動作は全てわかっていました。変身が完全に完了した後、
??? 「見つけたぞ、精霊ッ!」
前方の茂みから悪霊が姿を現しました。
??? 「何やら姿が変わっているようだが妾には勝てるはずがないッ!」
そういうと、手に黒い光をともし、こちらに飛ばしてきました!
智佳 「夢ではいつも津由はこうしてたっけ?」
などと考えながら手を前に出すと、
津由 「スピリット・プロテクト!」
津由の補助のおかげで、目の前に光の盾が発生しました。
??? 「何っ!力が増強されているだとッ!?」
智佳 「すごい・・・これが津由の力・・・」
津由 「それじゃあ、智佳!一気に決めるよ!」
智佳 「うん!」
二人 『花の力よ!今ここに集えッ!百花繚乱ッ!』
そういうと、私の体から光の花弁が舞い上がりました。その花弁を悪霊に飛ばすと、
??? 「ちっ!こんなところで、負けてたまるかッ!」
悪霊も黒い波動をこちらに飛ばしてきていますが、こちらの光の花弁の方が圧倒的に強いのでした。
津由 「もう私は一人じゃないッ!そう、二人でなら怖くないッ!!!」
智佳 「これが私たちの絆の力だぁぁぁぁああああああああッ!!!!!」
??? 「ちくしょおおおおおおおッ!!!」
そうして、悪霊は断末魔とともに吹き飛んでいきました。
智佳 「・・・これで終わり?」
津由 「ええ!私たち、勝ったんだ!」
智佳 「それじゃあ、帰ろっか!」
そういうと、私たちは山の外へと向かいました。山のふもとに来た時です。
津由 「ん・・・ちょっとまって!」
智佳 「どうしたの?」
津由 「結界が・・・解けていない・・・」
すると、後ろに気配を感じました。
??? 「フフフ・・・妾が精霊をただで帰すとでも?」
智佳 「え!生きてたの!?」
津由 「でも、あなたの精霊力はもうほとんど残っていないはず・・・」
??? 「だから、貴様らもろとも自爆するッ!」
二人 「なんだって!?」
悪霊はそういうと、何やら黒いオーラを暴走させ始めました。すると、何故か津由はコンビネーション・スピリットを解きました。
智佳 「津由、どうしたの?」
津由 「奴の爆発の暴走を止めるすべはないから・・・」
そういうと、津由は何やら私の体に呪文のようなものを唱えると、足元から光が発生し、私を包み込みました。
智佳 「津由!何するつもりなの!?」
津由 「智佳・・・初めの頃は人間と関わるということは悪霊を倒すことに支障しか生まないと思ってた。余計な感情しか生まない友達ごっこだって・・・だけどね、智佳。私は智佳に出会えて変わることができた。楽しむことを捨てていた私にとって、一緒に入れるだけで幸せだった」
智佳 「そんなこと言わないで!これからもずっと一緒にいるよ!」
津由 「・・・きっと、その優しさが私を変える原因になったんだと思う。これからもその優しさを忘れないでみんなに幸せを分けてあげてね」
その直後、目の前に激しい光が爆発しました。最後の津由の横顔は涙が流れているのを確認しました。そして口元は、「ありがとう」と言っているようでした。その後、激しい衝撃のせいか、私の記憶は途絶えてしまいました。