真実
一瞬の静寂のあと、津由は真剣に私を見つめ、語りました。
津由 「実は、昨日の夜、私は智佳を殺したの」
智佳 「え・・・ッ!」
ズキッ
その瞬間首元に息ができなくなるほどの激痛が走りました。それと同時に昨日の夜の記憶、精霊などの記憶が再生されていきました。
あの時、私は・・・津由にッ・・・!
そのまま、あまりの激痛に倒れこんでしまいました。
津由 「やっぱり刺激が強すぎたか・・・もっと完全に記憶を封印しないとね」
そういうと、津由はエメラルドグリーンの翼を生やし、昨日の夜戦った少女の姿へと変貌しました。そして、呪文を唱えながらこちらに手を向け、精霊力を撃つ準備を整えています。
智佳 「まってッ!また忘れてしまったら、永遠に津由に謝れないッ!」
津由 「智佳は私に殺されたんだよ・・・覚えていても辛いだけじゃない・・・」
智佳 「それよりも、そのことを忘れて平然としている方が悲しいじゃんッ!」
そして私は痛みに耐えつつ津由の前に立つと、
智佳 「操られてたとは言っても私が津由を傷つけてしまったことは事実・・・ごめんなさいッ!」
津由 「智佳・・・やっぱり強い子だ。そして優しい・・・」
そうして津由はほほえみ、言いました。
津由 「智佳がそれだけの精神力を持っていたら記憶を残していても大丈夫だね・・・私が余計なことをしていただけみたい」
智佳 「ううん・・・津由は私のことを思って記憶を消そうとしてくれてたんだよね?」
そして、津由は再び微笑むと
津由 「智佳はやっぱり優しい子だ」
そういうと、津由は私の手を握り
津由 「これからもよろしくね」
智佳 「・・・うん!」
ふと、私は思い出した内容に『一般人に精霊のことがばれたら精霊は消滅してしまうこと』を思い出したので津由に聞きました。
津由 「うん、そんな規定もあるけど、権力で何とかするから大丈夫だよ」
智佳 「権力って・・・?」
それを聞いた瞬間、津由は私の体を突き飛ばしました。
智佳 「津由!?」
そのとき、邪悪な光線が津由に向かって高速で飛んできました!津由はそれを精霊の光で弾き飛ばし、戦闘態勢に入りました。その光の出所に津由は飛んでいくと、エメラルドグリーンの光と黒い光が交錯し合っています。ですが、よくよく観察してみると津由の光が闇にのまれていることがわかります。そして津由は私の隣に着地し、それを悪霊と思われる人が見降ろしていました。
??? 「これが精霊の神に最も近いと言われている神霊族の力?思ってたよりもしょぼいのね」
津由 「くっ・・・言わせておけばッ・・・」
津由も反撃のため翼を大きく羽ばたかせようとした時です。
??? 「甘いッ!」
悪霊はパチンと指を鳴らすと、津由の影が変形し、瞬く間に黒い糸へと変貌し、津由を捕らえてしまいました。
津由 「お前・・・ただの悪霊じゃないなッ・・・」
??? 「そうね、妾もお主と同じ純粋な霊、一般の人の身を借りている霊とは違うのよ!」
そうして、悪霊は手に邪悪なエネルギーをためながら言いました。
??? 「にしてはお主、精霊力が一般の精霊並みにしかないではないか。精霊とはその程度なのか?」
津由は何も答えずにこちらを向き、
津由 「智佳、逃げて。あいつの狙いは私だけだから!」
智佳 「そんなこと、できないよ!友達を置いて逃げるなんてッ!」
津由 「本来はね、悪霊に取りつかれて殺された人はこの世の中からいなかったことにされる運命なんだけど、智佳は生きてるでしょ?なんでかわかる?」
私は首をかしげました。
津由 「それは、智佳には生きてほしいって思ったから!だからッ!」
その時、上空で
??? 「聖なる光よ、闇に染まりし地獄へ落ちよ」
最初とは比べ物にならない闇の光が飛んできました。
津由 「智佳!逃げてッ!」
私の体は津由の言うことと反することを無意識的に行っていました。私は津由をかばうように津由の前に立ち、自ら盾になろうとしたのです。津由に生きてほしいからッ!
??? 「バカめッ!人間ごときがこの力を止めれるものかッ!」
悪霊はそういうと私たちもろとも吹き飛ばすつもりでさらに威力を上げました。
津由 「ダメッ!!逃げてぇぇぇぇぇぇえええええッ!!!」
私の後ろから津由の悲痛な叫びが聞こえますが、こればっかりは譲れません。たとえここで二人ともやられちゃったとしても、何もしないで見捨てるよりは何か行動を起こした方がよいと考えたのです。ですが、強烈な悪意のこもった光線がまじかに迫ってくると目を向けることができずに閉じてしまい、無駄だとは思いながら無意識的に両手を前に突き出したのです。
次の瞬間
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!!!!
??? 「え・・・?」
智佳 「こ・・・これは?」
なんと、私の両手からバリアのようなものが出ているのです!
津由 「・・・そうか、そういうことか」
??? 「バカなッ!こいつは人間じゃなかったのか!?」
悪霊も私も戸惑いを隠せていません。正直自分でも何が何だか全くわかっていませんが、津由は冷静に対処していていました。
津由 「智佳!今だよ!捕まって!!!」
頭の中が真っ白になってる今の私には津由の指示に従うしかありませんでした。私は津由の言う通り津由に捕まると、津由は悪霊と私たちの間に閃光弾のようなものを打ち込み、全力で逃げ出しました。その閃光弾の衝撃で、私は気を失ってしまいました。
それからどのくらいの時間がたったのかもわかりません。
津由 「智佳!起きて!智佳!!!」
智佳 「ん・・・?津由?」
そこは、家の近くにある公園でした。その公園のベンチで私は津由に膝枕をされて寝ていたようです。津由の姿も人間らしい格好に戻っていました。津由も私も無事だという事実にホッとし、知っている場所にいるということにもわかって少々落ち着いてから、今日あった出来事を徐々に思い出していきました。そして、私が一番気になったのは、やはり自分の中に眠る力のことです。
智佳 「津由、私のあの力って一体・・・?」
津由 「そっか、昼の時に全部話し切れてなかったね・・・」
そういうと、津由はいつも以上に真面目に問いかけてきました。
津由 「これからいうことは残念ながら真実なの。でも、このことは確実に智佳を悲しませる・・・それでも聞く?」
智佳 「・・・・・・」
私はすぐに返事をできなかった。自分に確実によくないことだってわかっているのに好んで聞く人なんてまずいないはずです。そして、昨晩の出来事を思い出すと、私って、あの時殺されたんだよね・・・どうして今生きてるんだろう・・・あれはやっぱり夢?それとも私じゃなくエビルを殺しただけ・・・?さまざまなことを整理していこうとしたのですが、繋ぎ点が見つかりません。もう、心を決め、津由に真実を聞く決心がつきました。
智佳 「津由、お願い。すべてを話して・・・真実を背負うのを津由一人にはさせたくないから」
津由 「本気なんだね・・・」
智佳 「うん」
私がそう答えると、津由は全てを話し始めました。
津由 「昼の時、私が智佳を殺したって言ったの、覚えてる?それで智佳は一度死んでしまった・・・だけど、その死というのは人間が無意識的にもっている『魂』と『身体』の繋ぎを断ち切っただけで、その二つさえ繋ぎ止めれば死なないっていうこと。そこで私は自分の精霊力をその繋ぎに使ったの。だから今、智佳は生きてるの」
智佳 「なるほど・・・それで、あの力は?その繋ぎのせいで私は精霊になっちゃったの?」
津由 「大丈夫、智佳は人間だよ。でも生きているというのは、まずこの蘇生行為自体精霊界ではご法度・・・というか通常不可能なの。なぜなら私たち精霊は『魂』だけの存在で、『身体』と繋ぐ必要がないから自分の持つ精霊力を最大限に必要なことに使えるの。だけど、『魂』と『身体』の繋がりというものは通常切っても切れない存在であって、それが切れるときというのは、人間としての死の瞬間だけ。最後の命の灯の時にその繋がりのエネルギーを使い果たすのね。つまり、その繋がりは人間の中枢かつ、莫大な力のため通常の精霊力では繋ぎ止められないから今の智佳は例外的存在ってこと」
智佳 「その力って・・・津由のだよね?」
津由 「ええ。昼の時権力で何とかするとか言ってたよね?他にも悪霊との戦闘時に神霊族とか言われてたの覚えてる?実は私みたいに人の姿をとれる精霊はある程度の力がないと不可能なの。つまり、通常の精霊よりは力を持っているからそういうことが可能なの。それで智佳はおそらくその繋ぎの力を自ら精霊力へと還元し、バリアとして展開して見せた・・・」
そして、津由は表情を曇らせ、
津由 「だけどね、繋ぎの力を精霊力へと還元したってことは、『魂』が『身体』と離れて行ってしまうってこと。一言で言うと、自分で寿命を減らしていっているってこと・・・さっきも言ったけど、繋ぎがなくなってしまったら、それこそ人としての死だ・・・って」
智佳 「そうだったんだ・・・」
津由 「だからね、これ以上その力を使わないで・・・ッ!」
智佳 「・・・うん!約束!」
そうして、私たちは指切り拳万をして、お互い家に帰りました。私の今の体は・・・津由に生かされている・・・その夜、私は津由が戦闘している姿を夢に見ました。