聖夜の奇跡
特にイベントも起こらないまま日々が進んでいき、早くも冬休みとなりました。ですが、あのもやもやは日付が経っても解決することはなく、ふと一人で考え込むと時折湧き上がってきてしまいます。
何か大切なことを忘れてしまっているような・・・宿題・・・成績・・・提出物・・・ううん、そんなことじゃない。でもなんなのかはさっぱりです。ところが、思い出す出来事は突然現れたのです。
それはクリスマスイブの日でした。その日は学校のみんながクリスマス会を開いてくれたので、それに参加しているときでした。ちなみに萌愛は参加していましたが、いぶきは参加していませんでした。会の休憩時間、窓の外を眺めていると萌愛が話しかけてきました。
萌愛 「あの・・・白百合さん。こんばんは」
智佳 「あ、萌愛さん。こんばんは~」
プレゼント交換の直前の時間だったこともあるせいか話はプレゼント交換の話題へとなりました。
萌愛 「白百合さんはプレゼントは何を用意したんですか?」
智佳 「あ~。その辺で買った手袋にしておいたよ。今日は予報だと雪も降るしちょうどいいかなって」
萌愛 「そうなんですか。白百合さんって宝石系統が好きだと思ってたのでそっち系かと思ってました」
あれ?私って宝石好きって話したっけ?というかそこまで好きじゃないけど・・・
と不思議に思ったので萌愛に聞いてみると、
萌愛 「あ。その腕の宝石いつも付けているので、てっきり好きなんだと思っていました」
と私の腕を指さして言いました。そこには暗緑色の宝石の飾りが付いていました。そういえば、なんでいつも付けてるんだろう・・・?無意識のうちに付けていたので深くは考えていませんでした。なんで付け始めたのかを考えると・・・
智佳 「ッ!・・・」
萌愛 「白百合さん!」
激痛が頭に走り、膝をついてしまいました。でも、この感覚・・・前にもどこかで・・・?思い出せそうで思い出せないこの感覚・・・そして、前にも激痛に耐えて結末を見つけたような記憶がぼんやりと戻ってきました。ですが、中枢は全く・・・すると、横からあまりにも苦しそうな表情をしていたせいか異様に心配した萌愛さんが声をかけてきました。
萌愛 「き、救急車呼びましょうか?」
智佳 「大丈夫だから。でも、今日はちょっと帰らせてもらうね。皆に言っといて」
と萌愛さんに頼むと私は帰りました。本当に苦しかったのと、一人の方が思い出せそうな気がしたからです。
智佳 「あ、一応急に帰ってごめんねってメール打っとかないと」
とケータイを出したとき、幹事の人にメールを返そうと、受信メールを開きました。私の癖で、メールは新規作成ではなく返信を多用することがあります。今回はそのことが幸いでした。幹事の受信メールを探しているとき、ふと覚えのないメールを見つけました。
智佳 「送り主は雪菜・・・あの後輩の子か。でもなんでメールしてくれたんだろ?」
そのメールが送られたのは半年弱前ですが、記憶が全くなかったのでふと開いてみました。すると・・・
智佳 「精霊・・・」
空色の髪の毛・・・エメラルドグリーンの瞳と羽・・・そしてお揃いの宝石・・・
突然脳裏に様々な特徴が断片的に浮かんできました。ですが、それはすぐに一点で交わりました。
智佳 「津由・・・ッ!」
ああ。なんで大切な友達について忘れていたんだろう。罪悪感を感じていると、身に着けている暗緑色の宝石が発光し、鮮やかなエメラルドグリーン色へと変貌しました。その光は点滅を繰り返しています。腕の向きを変えると点滅の速度が変わっています。これは、私を導こうとしているのでしょうか・・・その点滅のする方向へと進むことを決めました。そのまま進んでいくと学校の近くの山に入っていきました。夜でもあり、山の中でもあったからか光は私の宝石の点滅だけでした。そのころになると点滅も強さを増して十分にライトの代わりに使えていました。
智佳 「津由!いるんでしょ!」
津由に対しては今まで忘れていたことへの謝罪や戻ってきてほしいという願望・・・さまざまな感情が入り混じって思わず叫びながら光の導く方向へと進んでいきました。すると、ある草原に行き当たりました。
智佳 「ここだ・・・津由と最後にいた場所・・・」
私は本能的にあの時と同じように探し始めました。
智佳 「津由!あの時みたいに返事をしてよ!またここに潜んでるんでしょ!言いたいこと、話したいことはたくさんあるんだから!」
しかし、現実は単純ではありませんでした。むなしく私の悲痛な叫びが周囲にこだまするだけでした。
智佳 「津由・・・ごめんね・・・私がもっとしっかりしてたら津由は力を失わなかった・・・津由はもっと暮らすことができてたはずなのに・・・私なんかと出会ったから浄化に支障をきたすようになっちゃって・・・そのうえで私も津由のことを忘れるなんて・・・私たち出会わなかったらよかったんだ・・・ッ!」
涙ぐみながら地面を叩きつけながら叫んでいると、後ろから誰かが私を抱きしめてきました。そのぬくもりは温かく、優しく包み込まれる感覚。それは津由のものだと私は確信しました。そして、津由は私に語りかけてきました。
津由 「そんなことないよ。智佳に出会わなかったら楽しいっていう感情も感じることもなかった。それに命を懸けてまで守りたいほど大切な人に出会うこともなかった。だから、出会わなかったらなんて言わないで。これは私が望んでやったことだから智佳は何も悪くないよ。あと、最後にお願いいいかな?」
智佳 「最後なんて言わないでよ・・・」
津由 「ごめんね・・・その宝石を天にかかげて欲しいな」
『最後』というのを否定してほしかったけど、そうはいかない様子でお願いされたので、津由のために、
智佳 「・・・わかった」
そういうと、言われた通り天に向けて宝石をかかげました。すると、周囲から光の粒が浮遊していき、次々と空へと消えていきました。
智佳 「・・・これは?」
津由 「これはね。この地に残した私の精霊力が光の粒となって精霊界へと帰っていってるものなの。だから今の私の姿もね・・・」
その言葉を聞くと今まで津由の姿を見ると涙をこらえきれないと思っていたのであえて見ないようにしていましたが、思わず振り返りました。そこにはあの頃と変わらない津由の姿・・・ですが、全身は光で映されたような容姿をしており、その光は徐々に消えていっています。
智佳 「津由・・・!」
抱きしめようとしますがその行為も空しく宙をかいただけでした。
津由 「智佳には本当に感謝してもしきれないほど私に色んなことを教えてくれたね」
智佳 「そんなことない!だから・・・戻ってきて・・・ッ!」
津由は頷くことをしませんでした。ですが、笑顔でこう返してきました。
津由 「智佳は強い子だから大丈夫だよ。私のことも思い出してくれたしね。本当に最後の最後までありがとうね」
智佳 「・・・!」
津由 「今回はちゃんと言えたね・・・」
そう言い残すと津由は完全に天へと消え去っていきました。私の持つ宝石も色は完全に抜け、真っ白な色へと変わっていました。
その夜は泣き続けながら夜を過ごしました。




