何気ない日常
目が覚めたときは保健室のベッドの上でした。カレンダーを見ると、文化祭の日でした。そこでは萌愛さんがこちらを覗き込んでいました。
萌愛 「白百合さん、大丈夫ですか?」
智佳 「・・・あれ?私、何してたんだっけ?」
萌愛 「今朝学校の前で倒れてたんですよ!それを春菊さんがここまで運んでくれて・・・」
智佳 「いぶきが・・・」
あとでお礼言わないとね。それよりも本当に何があったのか思い出せそうにありません。もう少し休んだら思い出せるかもしれないので、
智佳 「もうちょっと寝てたら体調回復するかもしれないから、萌愛さんは文化祭を楽しんで」
萌愛 「う、うん。気を付けてくださいね」
そして、私はベッドの中で何があったのかを思い出そうとしています。確か・・・夏休みは何してたんだっけ・・・?体育大会では負けてたのは覚えてるんだけど・・・春の遠足で、いぶきや萌愛さんと同じ班になったのも覚えているので、多分特にイベントもなく過ごしてただけなんだと思いました。ふと、カーテンの向こうに目をやると、一人の少女が立っていました。
智佳 「いぶき?」
いぶき 「もう大丈夫なんだ。何があったんだ?」
智佳 「ゴメン・・・何も思い出せないの・・・」
いぶき 「まぁ、倒れるほどの衝撃があったんだろうだから仕方ないか・・・文化祭は来年もあるんだから今は休みな」
智佳 「うん・・・ありがとね」
普段の言葉遣いや態度とは異なっていぶきの優しい一面が見られました。春以来だったので、なんだか懐かしい気持ちになりました。そして、このまま体調のすぐれないままだといぶきにも、萌愛さんにも迷惑がかかるので今日はゆっくり休むことにしました。二人はちゃんと楽しめたかな?
翌日、いぶきはまたいつものようにクールな様子で、萌愛さんも相変わらず挙動不審です。そのまま、今までと変わらない日常が進んでいきました。
そして時は進み、修学旅行の時期がやってきました。班は遠足の時と同じく、私といぶきと萌愛さんの三人に決まりました。もちろんホテルのメンバーもこの三人です。ちなみに私たちの高校の修学旅行は、三泊四日です。一日目は軽く戦争の話を聞き、二日目は海でシュノーケルなど、三日目に自由探索で、四日目は帰るだけというスケジュールです。
そうして、修学旅行の初日の夜。
3つのベッドが並んでいて、順番は窓際の方からいぶき、私、萌愛さんの順番で寝ることにしました。見ている限りいぶきと萌愛さんの相性があまりよくないように思えたのと、二人の希望というか雰囲気でこの順番に決まりました。物理的な距離はあれですが、お泊りということですので夜のお喋りで二人の気持ち的な距離が縮まったらなぁ、と思っています。寝る準備をすべて終え、お喋りの時間が始まります。
智佳 「そういえば二人とも飛行機どうだった?」
萌愛 「えっと、はじめてだったので、衝撃とか色々と驚きました」
いぶき 「あたしはまぁまぁだったかな」
智佳 「萌愛さんって明らかに気分悪くなってたよね?見ててわかったよ~」
萌愛 「え!?見えてたんですか!」
智佳 「2つ後ろの1つ横だったからね~。でも、いぶきが助けてくれるよね!」
いぶき 「・・・」
萌愛 「確かに春菊さんっていつも白百合さんを守ってますし、騎士みたいですよね」
智佳 「うん!いぶきかっこいい!」
いぶき 「・・・・・・」
そしていぶきは向こう側を向いてしまいました。おそらく照れているのでしょう。
智佳 「私たちも寝よっか」
萌愛 「もう消灯ですしね」
完全に消灯し、私たちも眠りに落ちました。翌朝、モーニングコールが鳴る少し前に目が覚めました。すると、すでにいぶきは起きていて、部屋の片づけを行っていました。
智佳 「いぶき、おはよう。早いね」
いぶき 「おはよう。いつもこんなだから」
智佳 「それじゃあ、なんで遅刻してるの」
いぶき 「・・・・・・」
言ってから気づいたのですが、完全に禁句でした。
いぶき 「あたしってば自由人だから・・・それに、色々と態度も悪いでしょ?」
智佳 「そんなことないと思うけどなぁ」
ピピピピピピピピ
そこで、ホテルのモーニングコールが鳴りました。私はその音の中で
智佳 「いぶきってばもっと素直になればもっと優しく、かっこいいヒーローになれるのにな・・・」
と聞こえないようにボソッとつぶやきました。
萌愛 「あれ・・・?もう朝・・・?」
モーニングコールで萌愛さんも起きてきました。
智佳 「萌愛さん、おはよう」
萌愛 「あ、皆さんおはようございます」
そうして二日目も始まりました。二日目はシュノーケルですが、泳げない人への考慮のために文化体験のコースもあります。そして、いぶきも萌愛さんもそちらのコースを選択していたのです。萌愛さんはなんとなくわかっていましたが、いぶきも海に来ないことは予想外でした。
智佳 「二人とも仲良くやってるのかな?」
そんなこんなを気にしながら、こちらはこちらで初シュノーケルを楽しみました。その夜。二日目も三人で同じ部屋です。
智佳 「そういえば二人とも今日の体験どうだった?」
萌愛 「えっと、わたしの選んだコースは沖縄の郷土料理を作るコースで、案外簡単にできましたよ!」
智佳 「へぇ~萌愛さんって料理得意なんだね~」
萌愛 「はい!家事全般自分でやってるので!」
智佳 「すごいね!きっと立派なお嫁さんになるよ」
萌愛 「そ、そんなことありませんよぉ・・・」
と、ものすごく赤面して手を大きくぶんぶんと振って必死に否定していました。よほど恥ずかしかったのかいぶきに話を振りました。
萌愛 「そういえば春菊さんって料理コースには居ませんでしたが、どのコースを選んだんですか?」
いぶき 「海の時計を作るコース」
智佳 「へぇ~。いぶきって運動できるから絶対海の方だと思ったんだけど、ちょっと意外だったな~」
いぶき 「興味わかなかったから・・・といっても海の時計ってのも消去法だったんだけどね」
萌愛 「そうだったんですね。あ、白百合さんはどうでしたか?」
智佳 「普通の水泳の何倍も体力使ったわ・・・これは明日筋肉痛かもね~。その時はいぶき、サポートよろしく!」
いぶき 「・・・・・・」
などと、二日目もとても楽しく過ごしました。ですが、ふとみんなでこんなに楽しいことをしていて、本当にいいのかと思う瞬間もあります。・・・みんなで?本当にみんななんでしょうか・・・誰か欠けているような・・・だけど・・・クラスのメンバーは春から変わってないし、友達も入れ替わったりもしていないはずです。じゃあ、この気持ちはいったいなんでしょう・・・この気持ちは一度考えると修学旅行中もやもやとする感じがしました。3日目の消灯した後の時間にはいぶきにも悟られてしまいました。
3日目の夜
智佳 「はぁ・・・」
いぶき 「何かあったのか?」
智佳 「私たちだけでこんなに楽しい思いしていいのかなって・・・」
いぶき 「・・・それは日常の裏を見てしまったってことか?」
智佳 「ううん・・・ふと思っただけ・・・」
いぶき 「そう・・・ならいいけど・・・」
そのいいぶりは、本当に日常の裏を見てきたようないいぶりでした。
いぶき 「裏の世界を見るのはあたしだけで十分だから・・・」
智佳 「それって・・・」
その後、いぶきは何も語りませんでした。私もすぐに眠りに落ちました。
翌日、私たちの修学旅行が終わり、イベントごとのない何気ない日々が戻ってきました。




